『Uniolla』[DISC REVIEW]
Uniolla
COLUMN
深沼元昭、新バンド始動!
生命力を喚起する、風通しよく豊潤な1stアルバム。
PLAGUES(プレイグス)の深沼元昭といえば、ソングライティングとアレンジの巧みさにおいて群を抜いていた。聴くそばから人の心をさらってしまうようなキャッチーさの一方で、時代に刃を突きつける鋭さを併せ持つ。さまざまな意趣を綴じて構築された楽曲は、いずれも高いポピュラリティを以って未だ色あせない。PLAGUES以降も、ソロプロジェクトであるMellowheadを主体としながら、近藤智洋(ex.PEALOUT)と組んだGHEEEであったり、佐野元春&ザ・コヨーテバンドであったり、LOVE PSYCHEDELICO他多くのバンドのツアーやレコーディングのサポートであったりと、様々な場でギタリスト・ソングライター・プロデューサー・アレンジャーとして日本のロック、ポップスサウンドの屋台骨を支える重要なミュージシャンのひとりとなっている。
その深沼元昭が、新たなバンドを始動した。単発のコラボレーションでも、ユニットでもプロジェクトでもなく、バンドである。ヴォーカルにKUMI(LOVE PSYCHEDELICO)を迎え、深沼が相棒と呼んで厚い信頼を置くベーシスト・林幸治(TRICERATOPS)と、かつて深沼がプロデュースを手がけたUSガレージ直系バンド、Jake stone garageのドラマー・岩中秀明がリズムを担う。手練れの4ピースのニューバンドは《Uniolla(ユニオラ)》、その名はまた、記念すべきこの1stアルバムにも冠された。
本作の詞曲は全て深沼が手がけ、レコーディングはLOVE PSYCHEDELICOのプライベートスタジオ〈Golden Grapefruit Recording Studio〉にて、RECエンジニアをNAOKI(LOVE PSYCHEDELICO)が務めて一発録音されたという。ルーツミュージックから連なる深遠な情緒と、USやUKのインディー、ガレージロックに通ずるハンドメイドの感触。曇天を蹴り上げるように軽やかな英語詞のフレージングと、詩情に満ちて的を射抜く日本語詞の強い響き。ギミックなしのバンドアンサンブルは実に風通しよく、メロディの豊潤さを讃えている。
オープニングの『A perfect day』でまず心奪われるのがその軽やかさだ。快いリズムとマンドリンの奏でにレニー・カストロによるパーカッションの躍動が加わり、KUMIのニュートラルな歌がのって、風を滑るように情景が移り変わっていく。続く『無重力』は、プレイヤーそれぞれの息遣いや運指の音まで聴こえてきそうなほど臨場感に満ち、くっきりとしたバンドの姿が立ち上がる。さらに、印象的なギターのリフをモチーフに、グルーヴをバンドマジックとして増幅させていくのは、3曲目『絶対』。煌めくようにこぼれるアコースティックピアノやグロッケン、タンバリンの音色まで、魔法に満ちている。この曲のほか全11曲中6曲には渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)が参加。彼のしなやかなプレイによるピアノやオルガン、メロトロン等鍵盤楽器の彩りも、各楽曲の情景を際立たせている。
そして、本作が孕むテーマを象徴的に描いているのが、この世界の無常を受け止め、それぞれの軌跡を肯定し、未来へと心を奮い立たせ生命力を喚起するラストの2曲『果てには』『あしたの風』である。わたしたちは、絶対も永遠もあるはずのないことを十分に知っている大人ではあるけれど、絶対や永遠を信じ強く希った瞬間の尊さを忘れられない。どころか、そんな瞬間をいくつも、何度もつないで日々を生きてきたし、これからもたぶんそうやって生きていく。その青さや儚さや熱さだけが、どんなに不自由な状況にあっても今を輝かせることも、本作はまた力強く肯定してくれるのだ。(山崎聡美)
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