ちゃんと悩んだからこそ、
その手に取り戻せた“音楽が好き”という自分の本質。
家入レオが語る“これまで、と、これから”。
家入レオ
取材/文:なかしまさおり
INTERVIEW
初めて彼女と会ったのは2012年2月。上京わずか1年弱で、シングル『サブリナ』を引っさげメジャーデビュー。右も左もわからぬ東京で、それでも、大好きな歌を武器に“闘う”と決めた、17歳。あれから10年──。その強い瞳の輝きを、いっそう眩しく湛えた家入レオは、さまざまな出逢いと経験、作品制作を経て今年、“デビュー10周年”という場所へと辿り着いた。そんな彼女の最新ベスト・アルバム『10th Anniversary Best』に聴こえる“これまで、と、これから”──。約3年振りとなるインタビューで、その胸の内を語ってもらった。
──デビュー10周年、おめでとうございます。
ありがとうございます。
──初めてお会いしたのが17歳で、そのレオさんがもう27歳だなんて…本当に、時が経つのは早いなと思います。これまでも作品ごとのインタビューでは、その都度、ご自身の心境の変化などを伺ってきましたが、改めてこの10年、振り返ってみて感じることは何かありましたか?
振り返ってみた時に、どうしてもこの数年のコロナ禍を切り離して考えられないなと思っていて。自分がデビューした時には、10年後に、世の中がこんな状況になるなんて思ってもいなかったですし、おそらくコロナがなかったら、今よりも、もっとライトに(10周年について)考えていたのかなとは思います。ただ、実際には、こんなふうに世の中の動きが止まってしまって、全世界の人が同じタイミングで、“自分にとって何が一番大事なんだろう?”ということを考えることにもなった。それは、私にとっても同じことで。“何ひとつ、当たり前のことなんてないんだ”ということが(コロナ禍を通じてより)わかってから振り返った10年間は本当に、骨に沁み渡るような感情がありました。
「クォーター・ライフ・クライシス(※)」という、一般的には20代後半から30代前半にかけて訪れるとされる“幸福の低迷期”を指す言葉があるんですけど、私の場合、デビューが早かったせいか、20代前半ぐらいからすでに始まっていて。とくに同世代の友人たちが結婚したり、出産したりしていく中で、“私が選んだ道って、本当にこれで良かったんだっけ?”とか、“これから私は何をしていけばいいんだろう?”、“本当は何をやりたいんだろう?”と思い悩むことも多かったんです。自分が作るメロディとか、言葉とかにもどんどん自信が持てなくなって、スタッフさんたちが“この曲いいよ”って言ってくれても、自分の中では腑に落ちない…みたいな感じが続いて悪循環に(苦笑)。
でも、そんな時にコロナ禍になって、より“自分”と“自分の未来”に向き合うことになって。そこでちゃんと悩めたからこそ、“私は音楽が好きなんだ”という気持ちをもう一度、取り戻すことができたのかなと思います。
結局、人ってないものねだりなんですよね。当たり前なんてないって、ずっと思ってたはずなのに、どこかで奢っていた自分がいて、そんな自分のあまのじゃく加減に打ちのめされたというか。正直、それまでは“ステージがなくても歌える、場所なんか選ばなくても、私が歌えばそこがステージになるし、音楽が好きっていう気持ちさえあれば大丈夫”…ってシンプルにそう思っていたんですけど、いざ歌える場所がなくなって、こうやって取材していただく機会とかもグンと減って…改めて求めていただくことのありがたさに気がついたんです。
とくにファンの方からいただくお手紙やメッセージで、こんなにも離れて会えていないのに、音楽を届けられていないのに、求めてくれてる人たちがいるんだって、ハッとして。“いや、だったら、デビュー10周年を目前に控えて、このままじゃ、ダメでしょう!!”って自分で自分に、すごく思って。…いちばんダサい気づき方ですよね(笑)。でも、やっぱり私は歌いたいし、これがないとダメなんだなって改めて思いました。この数年、私はすごく悩んだし、泣いたけど、全部、10年後の自分の栄養になる時間だったなって思うし、その間、支えてくれた友人、家族、スタッフ、ほんとに皆さんには感謝しかないです。
──そんな想いの詰まった最新ベスト・アルバム『10th Anniversary Best』は13thシングル『ずっと、ふたりで』以降に発表されたドラマや映画、アニメなどのタイアップ曲のほか、冒頭とラストに新曲2曲を収めた全14曲入りのアルバムとなっています。とくに“10th Anniversary盤”や“初回限定盤A”など、レオさんのデビューからの10年の軌跡が、より強く感じられる内容のものもあって、オリジナル曲と聞き比べたり、当時流れてた情景を思い浮かべたりして、思わず、自分自身の10年にも重ねて聴いてみたりしました。
ありがとうございます!そんなふうに“家入レオの10年を振り返りながら、自分の人生を振り返りました”と言ってもらえることが、私は本当に嬉しくて。それこそが、まさに“聴いてくれている人たちと一緒に歩んできた”ということなんだなと改めて感じますし、それこそが私は、音楽のあるべき姿なんじゃないかなとも思っています。
もちろん、自分が“こういう想いをこめて、歌ってるんです”ということをインタビューなどでお話しさせていただけるのは、ありがたいんですけど、それと同時に、ちゃんと自分の手から離れた時に、聴いてくださってる人たちの“人生の背景”になっていること、大切なものになっていることが、何よりも嬉しいことなので。
──新曲2曲のうちスケール感あふれる『Borderless』は、レオさんの原点でもある<音楽塾ヴォイス>の恩師・西尾芳彦さんの楽曲となっていますね。
この10年、正直、直感でやってきた部分がすごく大きいので、例えば作った曲に対して“これ、どうやって作ったの?”と訊かれても、それを明確に説明できる言葉が私には見つからないんです。でも、本当はそんな時に、それをもっと言語化したり、説明することができたらと思って。原点に立ち返ってしっかり学び直すためには、“私に音楽を1から教えてくれた”音楽塾ヴォイスしかないと思い、西尾先生にお願いしました。ヴォイスで音楽を学びながら、西尾先生と楽曲でも再びご一緒させていただけることになって、音楽理論だけでなく、音楽に向き合う姿勢や在り方など、改めて多くのことを勉強させていただきました。
──歌詞を手がけた江刺さんもヴォイス出身の方だとお聞きしました。
はい。デビュー前に、いろんな感情とか、情景を共有した方だったので、10年経った今、こうやって作品でご一緒できたのは嬉しかったです。西尾先生もそうですけど、こんなふうに10年という節目の年にもう1回、私をいろんな出会いにつなげてくださった方々と曲を作れたことは、本当に大きな意味がありましたし、いろんな気づきをいただけたので、よかったなと思いました。
──ラストの『花束』は、作詞は岡嶋かな多さんとの共作ですね。2月20日に開催された「10th Anniversary Live at 東京ガーデンシアター」でファンの方に想いを伝えるために作られた楽曲だとか。
そうです。その10周年のスペシャルなライヴで約2年半ぶりに、対面で(ファンの方々と)会えるということが決まった時に、いろんな言葉を尽くして、会えなかった日々のことを言うより、顔と顔、目と目を見ながら曲で伝えた方が、より私の想いを伝えられるんじゃないかなと思って、2月20日のことを想像しながら、すごく幸せな気持ちの中で書きました。
10年という道のりの中で“ありがとう”にたどり着くまでには、きっとケンカもあっただろうし、いろんな出来事があったと思うんですよね。でも、そんな中でお互いが居心地良く過ごすためには、どういう在り方を選択していけばいいんだろうねって。そのチューニングの作業って、お互い大切だから言えるんじゃないのかなと。大人になればなるほど、話し合うのも面倒くさくなって、“もういいや”というふうに何も言わなくなってしまうことがあると思うんです。でも、一緒にいたいからこそ、そこを怖がらずに伝え合わなくちゃいけないんじゃないかなって。そういう大切な人との関係性を、ファンの皆さん一人ひとりに重ねて書きました。
──実際にステージで歌われてみて、どうでしたか?
それはもう、すごい景色が広がってました!お客さんの顔を見ながら歌うステージは約2年半ぶりで、正直、どういう精神状態になってもおかしくないなとは思っていたんですけど、実際は、緊張も何もなかったし、その板の上でお客さんと対面した時に…うん、やっぱり、ここなんだよなぁって。真っさらな自分の本質がもう一度出てきた感じがして、嬉しかったです。
もちろん個人差もあるとは思うんですけど、私は年々、“自分のために頑張る”というのが難しくなってきていて。例えば人生、山あり谷ありで、その(谷の)底の方にいる時は、自分のことって結構、簡単にあきらめきれちゃうものなんですよね。でも、そこで一生懸命、私を支えようとしてくれる人たちがいるから、もう一回頑張らなきゃなと思ったり。周りでも、子どもがいるからとか、家族がいるから頑張れる、という人もたくさんいて。他にも友だちのためだったり、誰かのために、もう1回、夢を追いかけようと思った時の馬力ってすごいなと。
──そんな幸せな気持ちをより多くの人たちと共有できる全国ツアー“家入レオ 8th Live Tour 2022”が10月からスタートします。
秋のツアーについては、いろいろ構想は練っているんですけど、いかんせん目の前の制作とライヴを終えてからじゃないと落ち着かなくて…。
ただ、周年でもありますし、あの曲もこの曲も、やります!そして私のライヴに足を運んでくれたことがある方も、まだ私のライヴを見たことがない方も、来てくださる皆さんがとにかく楽しめる空間をお届けしたいと思ってます!
──目の前のライヴというのは、6月11日のビルボードライブ大阪公演、6月12日のビルボードライブ東京公演のことですね。以前のレオさんだったら「もう次の次の次、ぐらいのことまで計画してますよ」っておっしゃることが多かったんですけど(笑)、コロナ禍を経て、その辺りへの向き合い方も変わってこられたということなんでしょうか?
ある意味では、そうかもしれないですね。もちろん、根本的な部分は変わらなくて、未来のことは考えるけど、そこへの執着を手放したら、すごく楽になったんですよね。やっぱり、“自分が頑張ってどうにかできること=人間ができる領域”と、もう“宇宙の流れに任せるしかないこと=運命がそうなってるとしか言いようがないもの”が、あると思うんです。ちゃんと今、目の前にある自分ができることに全力を尽くすことでしか、本当の意味で運命は動かせないと思うので。今は、“こうなったらいいなぁ”という設計図ぐらいにとどめておいて、そこにヤキモキしたりとかは、なくなりました(笑)
──では、秋のツアーの詳細も楽しみにしつつ、10月29日福岡市民会館での公演を楽しみに待っているファンの皆さんに、メッセージをお願いします。
デビューして10周年のツアーです。この10年、みなさんが人生に紐付けて聴いてくださった曲たちも、もちろんお届けしたいと思っていますし、家入レオの“いままで”と“これから”──その両方を感じてもらえるようなツアーにしたいなと思っています。どちらも大切に、ここからまた、オールを漕ぎ出すつもりでいますので、みなさん体調管理に気をつけて遊びに来ていただけたらなと思います。お待ちしています!
──ありがとうございました。
※ 「クォーター・ライフ・クライシス」:
2000年代以降に英・グリニッジ大学のオリバー・ロビンソン教授の研究などを通じて広まった言葉。就職や結婚、出産といった重大イベントを迎え、自分の人生に対して「このままでいいのか?」と悩み、漠然とした不安や焦燥感に苛まれる時期のことを指す。人生の4分の1が過ぎた20代後半から30代前半に訪れるとされている。
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LIVE INFORMATION
家入レオ Billboard Live
〜10th Anniversary〜
- 2022年6月11日(土)
- ビルボードライブ大阪
- (1日2回公演)
- 2022年6月12日(日)
- ビルボードライブ東京
- (1日2回公演)
- 【出演】
- 家入レオ(Vo)
- 宗本康兵(Pf)
- 村中俊之(Cello)
- 若森さちこ(Per)
PROFILE
家入レオ
1994年12月13日生まれ、福岡県出身。13歳で音楽塾ヴォイスの門を叩き、2012年2月15日にシングル『サブリナ』でメジャー・デビュー。以来、数多くのドラマ主題歌やCMソングなどを担当。老若男女問わず幅広い層のファンから支持を得続けている。今年2月20日には、デビュー10周年を記念したスペシャル・ライヴ『10th Anniversary Live at 東京ガーデンシアター』を開催。7月6日には、その模様を収めたLIVE Blu-ray / DVDが発売されるが、U-NEXTでの生配信や、その後のアーカイヴ配信とは異なる編集で映像化&未発表のバックステージ映像も収録されているとのことなので、そちらの方も是非チェックを!