曲を書きたいっていう熱が冷めない。
むしろ今、さらに面白くなっちゃってる。

取材/文:前田亜礼

曲を書きたいっていう熱が冷めない。<br> むしろ今、さらに面白くなっちゃってる。

デビュー20周年を迎えたオルタナティヴ・バンド、髭。記念すべきアニバーサリー・アルバム『XX(ダブルエックス)』は、時を経てなお瑞々しく熟成された「髭」という何ものにも代え難い音楽を再認識できる作品になっている。須藤寿(Vo,Gt)が語る今の髭とは?そして、XX=「究極」でいて「未知数」のバンド・アンサンブル、20年間に生まれた名曲群を来たるツアーで感じたい!

──20周年、おめでとうございます!須藤さんが改めて今感じる「髭」というバンド体について聞かせていただけますか。

須藤寿(以下、須藤):そうですね、自分の加齢と全く比例してると思うんですけど、20代って自分の攻撃的な部分やいたずらな部分もある。それはまだ認められてないという自己顕示欲なのかもしれない。じゃあ今は認められてる、というわけではないんですけど、人生と同じで、なんかそうじゃないんだなって思う道徳みたいなところがあって。そこから今の音楽につながってるっていうのはあります。だから、すごく自然に、この音楽をやりながら歳をとらせてもらってるなって感じはしますね。

──個人的には、歌詞の韻の踏み方やミディアム・テンポのスイートなサウンドも、ファンにとって、すっかり髭を象徴するチャームポイントになっているのではと思います。

須藤:2003年とか2005年ぐらいの初期の段階で、僕らのことをスイートって捉える人はあんまりいなかったと思うんですよ。サイケデリックとかナンセンスとかっていう捉え方はされたと思うんですけど。楽曲によっては1、2曲あったとは思うんですけど、多分、この7、8年ぐらいからだと思うんですよね。それって自分の丸みみたいなものに比例してる気がして。昨日、ちょうど友達のお店で飲んでたんですけど、僕のことを知ってるお客さんがいて、ずっと楽しくおしゃべりする中で、こんなに優しい喋り方する人だと思わなかったって言われて。やっぱパブリックイメージというか、初期の頃の印象があったんでしょうね。だから、そういう丸みみたいなもの、自分で円熟味って言っちゃうのも何なんですけど、そういったものが音楽にフィードバックされてるのかなという気はします。

──バンド活動の継続って難しいと思いますが、髭の活動でいえば、メンバーの交替やソロワークなどでバランスをとったりされたのかなとも感じます。継続の秘訣は何だと思いますか?

須藤:いや、これは本当に不思議なところで。バンドって自分が客観的に人のバンドを見ていても続かないものなんだなと思っていたので。10代、20代だと続いても6、7年とかで解散していったり、中には長く続くバンドもいるわけですけど、そういう風なものなのかなと思いながらも、自分の場合に限ってはそうだった(20年続いた)としか言えないですね。

あと、別れ下手なんです。この間も7月に、脱退したメンバーをみんな呼んで、9人で20周年のライヴをやったり。ま、女性とかでもそうなんですけど、別れても喋れるタイプなんですよ。人と別れるその瞬間瞬間的には、しょうがないということはあると思うんですけど、音楽がどうなのかはちょっと置いといて、僕の場合は、髭の場合でもGATALI(須藤寿 GATALI ACOUSTICSET)の場合でも、メンバーチェンジがその時々で起こったとしても解散に至らないし。メンバーとも20周年だからといって、改まって話したりはしないんですよね。

──では、大きな危機というものはそこまでなく?

須藤:20年の間に何回かはありました。ちょっとよくわかんなくなっちゃったな、みたいな。で、そういう時は、たくさんメンバーが入ったりとか、アイゴンさんに入っていただいたりして。その時は自分のモチベーションがわかんなくなってしまって、バンドが崩壊しそうだったんで、プロデューサーだったアイゴンさんに、制作の時しか会ってなかったんですけど、ライヴの現場にもちょっと来ていただけませんかってところから始まったりして。うん、そういう新陳代謝がある中で、割と楽曲に関してもメンバーに書いてもらったり、ジャケットのイメージとかも振っちゃったり、そういう時期はありました。

──そうした新陳代謝的な変化も時に入れながら活動を続けられて、20周年を冠するアルバム『XX』が生まれました。セルフ・プロデュースということで、『パンデミック』という楽曲もありますが、コロナ禍の混沌とした状況の中で制作に向き合った心境を聞かせてください。

須藤:みんな重く受け止めがちだけど、僕はなんか至って普通に過ごしていました。アルバムに対してもコンセプトというより、ファンと一緒に、もちろんバンドと一緒に、「いい20周年にしたいな」という気持ちで。収録曲の9曲以上、たくさん曲は作りました。うまくまとまらないものは急いで入れる必要もないし、その次のアルバムでもいいわけだしっていう意味で、今回、曲順はギターの斉藤にお願いしたんです、彼の方がさらに愛情を持ってやってくれそうな気がして。

──オープニングの『Birthday』から20周年を祝福するように盛り上がり、中盤の踊れる展開、そしてメロウでロマンチックなエンディングまで、まさに髭らしさが伝わる魅力と愛情たっぷりの作品ですね!

須藤:今回のアルバムは、全体的にコーラスワークがすごく豊潤な感じになったんですけど、今の自分のやり方が無意識ながらフィードバックされたなという思いですね。20年経ってみて、まだまだ途中だと思うんですけど、この20年目に大事にしたかったことが、バンドのアンサンブルなんですよ。何年かしたら、全然違うこと言ってる可能性もあるんですけど。調和を極めてみたいっていう中で、コーラス・アンサンブルはちょっと過剰なぐらい。1曲目の『Birthday』とかは、祝祭的な感じで、もうなんか我を忘れるようにやってました(笑)。

──中盤の聴きどころである『彼、どんな顔して鎮座しておられるんでしょうね』、『This is諸行無常』ですが、この並びで、髭らしい遊びも交えながら少し宗教観?というのも感じられるような気がしますが?

須藤:僕、無宗教で、全くそういうのがわかってなくて、単純に、『彼、どんな顔して鎮座しておられるんでしょうね』はドラゴンボールの孫悟空が死んだ時に、閻魔大王に会った時のイメージを思い浮かべて、自分だったらどうかなって感じで作りました。

──そうなんですね(笑)!

須藤:『諸行無常』もそんな感じです。でも、自分46になったんですけど、20代の頃よりはなんかクロージングのことも少し見えてくるのか、まぁそんなに深くは考えてないですけど、死っていう感覚は昔よりも自然に出てくるというか、普段生活してて思うことはあるような気がしますね、昔より全然。

──そういう意味では、日常感を感じる歌詞もじんわりきました。エアプランツとかアイスクリームとか。コテイスイさんが20周年を迎えた今について『髭のバンド感が研ぎ澄まされたゆえの、ギラギラからキラキラへの変化』というふうにコメントされていたのも印象的でしたが、そういった変化は感じますか?

須藤:10代の時は扇情的なパンキッシュな音楽をたくさん聴いてきて、すごく刺激を受けてたんですよね。結果的に自分の詞はすごく攻撃的なものだったと思うんです。どんな風に人をケムに巻いてやろうか、攻撃してやろうか、Aってワードと全く結びつかないBってワードを完全にナンセンスにぶつけてみて、それで面白い世界観を生み出すみたいな、パズルみたいな歌詞の書き方をしてたんですよ。すごく時間もかかってました。今は鼻歌みたいなものを歌った時に瞬間的に歌詞を書いちゃうようにしてるんです、瞬間冷却みたいな。エアプランツは本当にうちにもたくさんあるし、冷蔵庫の中にアイスが入ってるから歌詞に出てきたり、素直に無意識に歌詞を埋めようとするから、思ってることしか出てこない。なので、フレッシュな歌詞になるし、自分の核に触れてるんじゃないかと思って。デモで曲を作った段階で、メロディが思い浮かんだら、その日のうちに書いちゃってます。

──曲作りに関しても同じような変化が?

須藤:お酒とか飲んだりして、結構いい気分になって適当に弾いたりすると、その感じは二度と再現できなくて、よかったりすることが多いんですよ。改まってしっかりしたスタジオに入って、しっかりしたアンプで音を出したりすると、なんかかしこまっちゃって。音はいいんだけど、フィーリングがなんか、みたいな。『パンデミック』なんかは、斉藤の家にある12弦ギターをメインにしていたり。だけど、デモ作業の時点では基本的にはメンバーと一緒にやるようにしてるんですよ。そこは人の意見を冷静に聞きながら、まとめていくスタイルです。

──藤田勇(MO’SOME TONEBENDER)さんをドラムに起用されていますが、どんなところが魅力ですか?

須藤:ちょっと抽象的で説明にならないのかもしれないんですけど、イメージで言うと、スクエアじゃなくて、ギッコンバッタンしてる…って言ったらちょっと語弊はあるんですけど、台形みたいないびつな形で、こう、ローリングしてる感じがして、僕はそこがすごく好きなんですよね。で、叩いてもらうと、なんかもう1発目でいいって感じなんです。

演奏自体は2020年からお願いしてて、すぐコロナ禍になっちゃったんで、ライヴはやんないまま制作はしてたんですね。ベースの宮川くんが「勇さん、いいよ」っていうところから、俺が渋谷のバーかなんかで会って。彼が住んでるところの地下にスタジオがあるっていうんで、「新曲があるんで今度持ってっていいですか。ちょっと叩いてください」って言って。で、やってもらったらすごくよかったんで、今回もお願いしました。

──20周年に対する須藤さんのコメントは「ここまで来たら、次の30周年目指してみますかー!」でした。マイペースでフラットな須藤さんらしいコメントですが、ここから先、見たい景色は?

須藤:自分の場合ちょっとおかしいのかもしれないですけど、曲を書きたいって思う熱が冷めないんですよ。20周年アルバムが終わったところなんですけど、個人的にはもう「次の曲やろうよ」って感じはしてるんです。でも、みんなは「いやいやいや、ツアー終わってないでしょ」っていうところもあるだろうから、抑えてて。創作意欲が冷めないというか、むしろ今はさらに面白くなっちゃってる。

GATALIも2011、2年ぐらいから活動して、あのバンドはあのバンドで、もうしっかりバンドになってて。この間もGATALIウィークで「離島東京」ってイベントがあって、ライヴに向けてすごく楽しかったし、またすぐ動こうって言って別れたんで動いていくことになると思うんですけど。そういうGATALIをやることで、髭に戻った時に髭のよさを知ったり、髭をやってGATALIにいくと、「おお、GATALIはGATALIで、やっぱすごくいい、全然違う個性でいいな」と思ったりするんで、そんなふうにして居場所をつくっていく作業をしたいかなって。

──バランスのとれたモードの中、髭待望のアニバーサリー・ツアーが始まりますね。福岡は11月25日のウィークエンドで盛り上がること必至かと思いますが、やはり20年間でハズせない楽曲をセレクトして届ける感じですか。

須藤:そうですね、もちろんニュー・アルバムの楽曲を演るのは1つのコンセプトなんですけど、同じぐらいメインコンセプトとして、この20周年、応援してもらったみんなに対する「この曲聴きたいよね」っていう曲は全部プレイしたいなって思ってるんですけどね。すごいセットリストになっちゃうと思うんですけど。これからリハーサルが始まって取捨選択をしていくなかで、なるべく打ち漏らしのないよう、みんなに喜んでもらえるようなツアーにします。

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LIVE INFORMATION

髭 20th Anniversary 「XX」 ツアー

2023年11月25日(土)
福岡 LIVE HOUSE CB

PROFILE

須藤寿(Vo,Gt)、斉藤祐樹(Gt)、宮川トモユキ(Ba)、佐藤"コテイスイ"康一(Dr,Per)の4人によるロックバンド。2003年ミニ・アルバム『LOVE LOVE LOVE』でデビュー。2004年にFUJI ROCK FESTIVALに初出演を果たし、2005年『Thank you, Beatles!』でメジャー・シーンへ躍り出る。以来、サイケデリックかつロマンチックな髭ワールドで、シーンを魅了し続けている。2023年7月19日に20周年記念アルバム『XX』をリリース。