“LOVE”と“STORY”をコンパイルし
HY、25周年のロングロードへ

HY

取材/文:山崎聡美

“LOVE”と“STORY”をコンパイルし<br>HY、25周年のロングロードへ

結成25周年を記念して、ベストアルバム『LOVE STORY ~HY BEST~』をリリース。次いで、アニバーサリーツアーの開催を発表したHY。名曲として多くのファンから愛されてきた『366日』のドラマ化によって新たなリスナーも獲得しているなか、25年にわたって紡ぎ続けてきた“LOVE”と“STORY”をコンパイルしたベスト盤は、ただ1曲には収まらないバンドの魅力と軌跡をくっきりと映し出す。

HY – 「366日 (Official Duet ver.)」Live Music Video

来福したヴォーカル&ギターの新里は、取材前夜、自身のソロツアー福岡公演を終えたばかり。開口一番、充実したステージでの歓びを語ってくれた。「25周年やベスト盤は通過点」と言い切りつつも、「これまでの感謝をしっかり伝えたいという気持ちで臨んでいる」というアニバーサリーイヤーの区切りに、HYというバンドの過去と現在を聞いた。


──昨夜はソロ公演、おつかれさまでした。楽しめましたか。


新里英之(以下、新里):そうですね、すごく楽しかったです。今回、肩の力を抜いていくというのが、自分が成長するために立てたコンセプトで。ステージ上での自分の言葉って必ず誰かに影響を与えると思ってるから、大事に、嚙まずに、しっかりやらないといけない!という気持ちを固めてステージに上がるんですが、そのせいで以前はすぐにガチガチに硬くなってたんですよ。だけど今は“大丈夫、ヒーデは噛んでもいい。言葉が空回りしてもいい。一生懸命に何かを伝えようとしている姿がいい”というような言葉をファンの方からもらって、だいぶ楽になりました。それでいいな、もうそれしか俺できないわ、って。空回りしても、昔だったら冷汗が出てたけど、それも自分だから、最後まで大事な言葉を伝えよう、言い切ろうという余裕が生まれてきて、それがこの3回目のソロツアーでいい形になってる気がします。1本1本のライヴで自分が成長していっていることを感じるんです。一昨日名古屋でめちゃめちゃいいライヴができて、いいライヴができた翌日ってすごく難しいんですよね。でも昨日の福岡で、(名古屋での)いいコンディションを維持しながら、さらに思いつきでアレンジを加えて次のステージに行けた自分がいたんですよ。そんな感じで、なかなか実人生のなかでガッツポーズが出ることってないと思うんですけど、このツアーでは“おっしゃあー!”となる瞬間が続いてますね。やりがいと歓びと達成感が、ありすぎるほどにあります。


──今、ひとりの歌い手として得られているその歓びは、HYというバンドの25年に及ぶ活動の賜物のひとつでもあると思うのですが、その実感もありますか。


新里:ありますね。やっぱり25年というのはすごい長い時間で、あっという間とはもう言えないですし。1st、2ndと全国のたくさんの人に聴いてもらって、3rdではプレッシャーに駆られてちょっとメンバー内の空気感が落ち込んでいったり。ツアー終わってもすぐにアルバム制作しなきゃいけない、でも曲が作れない。当然、事務所やレコード会社からも催促されるばかりで。その状況に心が追いつけなくなっていって、メンバー間でのコミュニケーションがなくなっていって、すれ違いが始まったこともあったり。それでも、“ここで立ち止まっちゃいけない”とか“これを乗り越えなきゃ”とかいう歌詞を、メンバーみんな書いてくるんですよね。言葉は交わさずとも、その歌詞と音楽で会話するような感じで、乗り越えてきたと思います。ただ、高校を卒業して、行けるとこまで行ってみようか、ってところからHYをスタートして。音楽が大好きで、でもそれ以前にメンバーと居るのがやっぱり最高だったんですよ。みんなが自分を信頼してくれて、僕もみんなを信頼してて。自分の心を出し切れる場所なんです。そんな場所で笑い合って音楽をやれて、それで25年やってこられたというのは、もう最高でしかないです。


──歓びも苦しみも25年分あって、現在の“最高”に至る。


新里:苦しさは、僕のバネですね、もう。それをポジティヴ(なエネルギー)に変えてくのが僕なんで(笑)。でも、身体にくるときはある、自分でも気づかないうちに。162本の全国ツアー(2010~2011年)を敢行中…あの時は途中から毎日マラソン走ってるような感覚で。これが自分たちの土台になるって確信はあったけど、身体にはガタがきてるっていう状態でしたね。あの時は、10周年でアリーナツアーをやろうという事務所とのすれ違いがあって。自分たちはストリートライヴから始まったバンドで、感謝を伝えるならもっと(距離感の)近いところで伝えたいと思って、だったらアリーナツアーに匹敵する動員になるくらいの本数をライヴハウスでやればいいじゃないか、って。で、162本(笑)。いや~、無謀だった(笑)。でもメンバーみんなで乗り越えたからね。それをやったから、木の根っこみたいに、俺たちもバンドの根を力強く張れたのは間違いないです。


──木の根っこ。偶然ですが、今回のベスト盤を聴いていて、私が思い至ったのも木の根っこでした。道路や公園の周りに植えられているような街路樹でも、生長して、人間の想像以上に根を張ってアスファルトに亀裂を入れたりしますが、バンドを25年続けるというのはその根のように、見えないところでアスファルトを下から突き破るほどの力強さを持っているということだなぁと。


新里:めっちゃいいですね、それ。想像するだけで、泣きそうになりますね。


──そのベスト盤『LOVE STORY ~HY BEST~』ですが、ファンリクエスト楽曲を中心とした2018年リリースのベスト盤と重複するのは12曲と半分以下で、単純に人気曲を集めたものとは異なるだけでなく、2枚組全29曲の中で2つの面からHYらしさを示した作品となっています。あらためて過去の曲を選んでいくなかで何か思うところはありましたか。


新里:前のベストとのかぶり、そうなんだ。そこは気にしてなかったですね。基本的には、25年間やってきたHYの音楽、その世界観を、この1枚を聴けば分かる、みたいな。誰かに対する愛をコンセプトにした〈LOVE STORY盤〉と、沖縄を愛する心、家族を思う気持ちをコンセプトにした〈ANOTHER STORY盤〉とで、2枚組にして。以前から、三線が入った曲だけを入れたアルバムを作ってみたいなと思ってたんですよ。それが今回叶いました。〈ANOTHER STORY盤〉はまさに自分たちの根っこですね。沖縄という土地の匂いとか、沖縄への思いが素直に音に出てる。


──HYは、結成当初の尖鋭的な音楽性を発展させながら、同時に沖縄という土地に根差す文化や伝統にも回帰していって、結果的にとても豊かな楽曲群を持つに至ったと解釈しています。その変容にきっかけや動機はあったのでしょうか。


新里:変わっていきましたね、年(齢を重ねる)とともに。若い時は、わざわざ沖縄を掲げることが、僕は嫌でした。沖縄に住んでて、自然にその空気感が入るのはいいんだけど、沖縄っていうものを丸出しにして売り出していきたくないというか、そういう曲は創りたくないというのは、若い時はありました。だからハードな曲をやったり。でも、『Street Story』(2nd)からは自然と三線が入ってきて。沖縄感を出したくて三線を入れたわけじゃなく、ごく当たり前のようにこの曲には三線だよねってなった。で、いーずー(仲宗根泉)が『時をこえ』という曲を生み出した瞬間から、一気に沖縄に目を向けるようになりました。いーずーは沖縄の歴史、現実についての曲を書いてみたいってずっと思ってたけど、それがいつになるかは分からないって、彼女は曲が“降りてくる”人だから。いーずーの中で沖縄の戦争を受け入れることができて初めて曲が生まれて、僕たちも沖縄戦を見つめるようになって、沖縄で実際に起こったことの酷さを想像するようになった。そこからですね、次の世代に繋げるために、沖縄と向き合って歌を紡ぐっていう覚悟をもったのは。だから自分が曲を創るときは、すべてを音楽に仮託しているし、歌詞に悲しみが乗り移っていくような感じで。熱量の高い言葉の裏には同じだけの悲しみがあると思ってますね。


──その覚悟は、現在のHYの歌に対する真摯さからも窺えますし、当時から今に至る活動にも通ずるところのように思います。それから、今回のベスト盤においては、『366日』のデュエットver.をはじめとする初CD化楽曲に加え、再レコーディングされた楽曲も聴きどころで。たとえば『HeyBo』なんかは、熟成され、なおみずみずしい現在のバンド感を象徴していてとても快いです。


新里:うん、カッコいいですよね。HYを代表するミクスチャーのひとつ。これを創った当時、プロデューサーさんから“お前たち、何歳(いくつ)だよ!”って言われました、“古臭いな!”って(笑)。だけど、今41歳になってレコーディングしてみると、ようやく曲に追いついたというか、(楽曲とバンドが)同じ年代になれたんじゃないかなと。だから人臭さとかをプレイに入れながら、かつフレッシュなHYを聴いてもらおうというその狭間で、一発録りに近い形で、よりグルーヴを大事にして録っていきましたね。やっぱり、昔の曲ってすごく思い入れが強くて。そこにはストーリーがたくさんあって。転ぶのもかまわず、いろんなところに飛び込んでいってるから、そういう感覚で創り上げてる音楽だからこそ、やっぱりパワーを持ってる。そういった部分もこのベストアルバムに残しておきたいなと思って。


──あと、とても印象的なのが、のびやかで澄明感に満ちた子どもたちのコーラスが入った新曲の『LOVE』です。


新里:沖縄で「ハイ祭~子どもの居場所フェス」っていうイベントがあって。沖縄はすごく貧困世帯が多い県で、DVを受けたり不登校になったりする子どもたちも多くいて。そういった子どもたちを支援する活動の一環として始まったイベントなんですけど、テーマソング制作のオファーをもらって。自分も両親の離婚で寂しい思いをした経験があるので、即答しました、創りたい!と。同じ思いを抱えた子どもたちを光と温かさで包んであげたいなっていうところから創り上げていった曲です。実際に子どもたちからもらったワードを僕が歌詞として紡いで、コーラスにも参加してもらったんです。


──そうでしたか。……あの澄明感は、なるほど、希望、光そのものなのだなと、今腑に落ちました。
それらをもって、9月からはまた全国ツアーへ向かわれます。


新里:そうですね。このツアーではベストアルバムの曲を中心にやっていくつもりなんですけど、曲たちを準備するだけじゃなくて、そのステージに向けて必要なものを一つ一つ作り上げていく姿勢、その過程で得られたり学んだりすることが一番大きいと思うんですよ。それをどんどんこなしていって、9月22日(日)の初日(沖縄県・那覇文化芸術劇場 なはーと)、そしてそこから続いていくツアーに臨もうと。どの会場でのライヴも、各地で来てくれる方にとっては初日みたいな感覚だと思うし、同じことはしたくないと僕は思ってるので、そこでどういったステージを生み出せるのか、1本1本フレッシュな内容で臨んでいって、ライヴごとに自分も成長させていきたいですね。そこからまた新しい景色が見えてくるような気がします。

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RELEASE

LOVE STORY 〜HY BEST〜

Best Album

2024年6月12日発売
Polydor/ユニバーサルミュージック

CD
[LOVE STORY盤]
1.366日 (Official Duet ver.)
2.君と未来を
3.AM11:00
4.あなた
5.HeyBo
6.Song for…
7.モノクロ
8.I JUST DO IT FOR YOU
9.NAO
10.告白
11.あなたを想う風
12.あの日のまま
13.三月の陽炎
14.Heart

[ANOTHER STORY盤]
1.ワラッタラッタ
2.LOVE
3.Street Story
4.そこにあるべきではないもの
5.時をこえ
6.風
7.カチャーシーエヴリデイ
8.南風
9.帰る場所
10.Island
11.大好きだもの
12.North Forest
13.てぃんさぐぬ花~チムにすみてぃ~
14.HAISAI
15.優しい世界

PRESENT

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LIVE INFORMATION

新里英之(HY)
Hide's Music Story Chapter2 with ART

2024年7月14日(日)
沖縄・LIVEHOUSE MOD'S

HY 25th Anniversary BEST!! Kary TOUR 2024-2025

2024年9月22日(日・祝)
沖縄・那覇⽂化芸術劇場なはーと ⼤劇場
2024年12月14日(土)
熊本・熊本城ホール メインホール
2024年12月15日(日)
福岡・福岡サンパレスホテル&ホール

PROFILE

HY

新里英之(Vo,Gt)、名嘉俊(Dr)、許田信介(Ba)、仲宗根泉(Key,Vo)。2000年、沖縄県うるま市東屋慶名(Higashi Yakena)にて結成。ストリートライヴにはじまり、2001年に1stアルバム『Departure』を発表。一躍、全国区へ。2003年リリースの2ndアルバム『Street Story』でミリオンセールス達成。以降、現在までにオリジナルアルバム15作をリリース。5thアルバム『HeartY』収録の『366日』をモチーフにしたTVドラマ『366日』が2024年4月期作品(フジ系月曜夜9時)として放映され、大きな反響を呼んだ。全国47都道府県ツアーや海外ツアー、主催フェスの敢行など勢力的なライヴへの評価も高い。2013年には自主レーベル「ASSE!! Records」を設立。現在も“More Local,More Global”をテーマに地元・沖縄の地に根差した活動を展開している。