ヒップホップの間口を広げ深淵を覗く傑作を携え来福間近!
ラッパーとしての矜持を貫く“I am”そして“I Mean”
WILYWNKA
取材/文:山崎聡美
INTERVIEW
もはや新鋭とは括れないキャリアとセールスを積み上げ、着実に動員規模を拡大。変態紳士クラブの一員として日本武道館まで駆け上がり、今やヒップホップシーンを盛り立てる尖鋭となりつつあるWILYWNKA。この5月には2年ぶり、4作目となるソロ・アルバム『90’s Baby』をリリースし、今夏は全国5箇所のZeppを会場としたライヴツアーに臨んでいる。そんな威勢のいい状況においても本人は至って礼儀正しく、何よりチャーミング、そしてタフガイ。人間の陰陽を喰らい尽くしラッパーとしての矜持をもって進む道程を、ぜひその耳と目で確かめてほしいと思うアーティストである。
──新作アルバム『90’s Baby』、非常に感じるところの多い傑作でした。リリースから2ヶ月以上が経ちますが、反響も大きかったのでは?
WILYWNKA(以下、W):どうだろう…あんまり細かくSNSとかをチェックしているわけではないので。自分の手応え的には、今までアルバム3枚とEP2枚をリリースさせてもらって、今作で4枚目のアルバムになるんですが…一番いい作品ができたなぁって、自画自賛してます(笑)。
──制作やリリースから時間を置いて気づいたこと、あらためて感じることはあります?
W:アルバムを作る上で大きかったのが『Excuse Me』って曲なんですが、この曲ができたときにアルバム全体の輪郭がくっきりしたんです。完成形が見えたというか。今って、他人の考えが以前よりもっと見える、SNSの普及とかで簡単に見られる世の中になってますけど、それによって、ただでさえ日本人は周りの人のことを気にしちゃう優しい人種だから、余計にはっきりと物を言うのは怖いことだってなってるように感じていて。そんな中で『Excuse Me』は、自分の好みであったり、自分の考えはこうだっていうのをはっきり言えて。そこでまた自分自身のことを知れましたし、そこはよかったなと思うところです。
ただ、最近のヒップホップってビーフ*だったりそういう感じのものもすごく多くて。僕は別にビーフがしたいわけじゃないんですけど、ビーフと紐付けられたような反響もあって。みんなヒトの揉め事好きやなと、そういう気づきはありましたね(笑)。でも、はっきり何かを言えばそれに対抗する意見が出てくるのは常なので、全然、僕はポジティヴです。僕はこうだと言っても、そうじゃないと言う人は絶対存在するというのはわかってるし、それでも自分の言いたいことを言って好きなことをやれてるっていうのはすごく貴重なことですし。今まだ20代後半で、まだまだ尖って音楽やっていきたいと思ってる自分にとっては、すごく健全な状態だと思います。
*ビーフ(beef):ヒップホップ文化のひとつ。楽曲を通して行われる、アーティスト同士の対立や口論の応酬。
──まず自身のあり方を示したことによって、アルバムの全体像が見えて、かつある種の覚悟というか肝も据わったような。
W:そうですね。だからあの曲ができたあとは、トントントンと曲ができていって。
──それらのトラックも、すごく洗練されたもので。ポピュラリティは高く重心は低い。
W:プロデューサーたちの腕前が一級品だというのはもちろんのことなんですけど、今作16曲中のうち11曲を担ってくれたTaka PerryさんとDJ UPPERCUTさんが、親身になって曲作りに関わってくれて、僕も彼らもお互いの意見やアイデアをしっかり出し合いながら制作できたことが大きかったと思います。トラックの仕上がりでいうと、Taka Perryさんはすごくポップで、わかりやすいトラックを作ってくださって、アルバムの横の幅を広げてくれた。僕が多少毒のある言葉を使ってもトラックがポップだから聴きやすいんですよね。DJ UPPERCUTさんは、長く音楽をやってこられていて、すごく知識の豊かな方でもあって。僕のやることや言おうとしていることに、トラックによって意味を持たせてくれた、意味を感じさせてくれた人で。なので、DJ UPPERCUTさんの曲は、僕の出したかった渋味だったり、ヒップホップの深さ、縦軸の部分を作ってくれた。二人が中心となってやってくれたことで今回のアルバムの完成度が上がったと思ってます。
──横の間口の広さと、ヒップホップの深淵と。WILYWNKAさんの身上や信条も含めて“現在”という地点に圧縮されたラップも、大きな磁場を生んでいるように感じました。
W:まだ27(歳)のクソガキなんですけど、とりあえずここまで27年生きてきた自分が感じたこと、今の自分を出したいだけっていうところはあるんで、あんまり難しくは考えてないんですけどね。アルバムを出すたびに自分の環境も変わったり、感じていることも変わったりしていくんで、その時の自分の“今”をとりあえずリリースしているというか。こだわり続けると考え方もどんどん変わっていくんで、なかなかアルバムという作品は出せなくなってくるので、とりあえず一旦ここでセーブして出します、と。だから、今の僕の最善は尽くせたなっていうのはあります。
──今を表現するために、自身の道程やルーツを見つめることも多い?
W:はい。それがなかったら言葉は出てこないです。そういうのも含めてヒップホップって器の大きい音楽だと思ってて。過去にどうしようもないボンクラだったとしても、ヒップホップって音楽は受け皿が広いからそういう奴等も拾ってくれる、すごい優しい音楽だと思ってるんです。…聴く人によっては、入れ墨入ってるし服装もこんなやし音楽もいかついってなるみたいなんですけど、実は優しい音楽なんですよ(笑)。僕も、その広い受け皿に拾ってもらったひとりなんで…弱者に優しいっていったらなんかちょっと政治的ですけど、やっぱり懐の大きい音楽やと思います。自分も、学もないところからやってきて、音楽しか長く続けられていませんけど、でも“好き”って気持ちに対してヒップホップは応えてくれて、今もこうやって福岡に来て話聞いてもらったりしてるわけなんで。自分も、ヒップホップ聴いてくれるキッズたち、特に十代とか二十歳前後の多感な世代が多いと思うんですけど、そういう人たちにすごいポジティヴなパワーを与えられる人間であれたらいいなあと思って、やってます。…(笑)めっちゃイイこと言ってますけど、でもそもそもは自分のためです。大前提として自分のためにやってるんで、みんなのためとか言う気は全然ないんですけど、ライヴして、人が来てくれて、レスポンスしてくれているのを見るだけで、尖ってみたり突っぱねてみたりして気難しくやってる部分もあるけどそうやって受け止めてくれるって思ったら、自分が一番勇気もらってるのも本当で。だから、勇気もらうためにやってます!勇気もらうために勇気渡してみてますね(笑)。
──循環(笑)。実際、1曲目の『I am』でも、先達であるRYUZOさんとの共演でまさにその循環のようなことが起こっていて、何か言語化できないようなエネルギーが渦巻いているようでした。
W:そうですね。『I am』っていうタイトルで、しかも1曲目で、そこにRYUZOさんをフィーチャリングするっていうのは、それこそヒップホップにどっぷりハマった中学生の自分が見たらびっくりしますよね、“えっ!オレ、RYUZOとやるん?!”って(笑)。そういう嬉しさと、4枚目にしてやっとRYUZOさんにお願いできるようになれたっていう嬉しさがあって。もう自分としては嬉しくてやってるだけなんですけど、そこにRYUZOさんがリリックを乗せてくれて、RYUZOさんの言葉であのヴァースを歌うからこそ意味があるっていう部分もたくさんありました。だからやっぱり、自分のアルバムの1曲目で“featuring RYUZO”…最高でしょ!っていう(笑)。どうだ!って、自分のこと喜ばしてますよね。RYUZOさんにも、「7年ぶりやで!」と言われつつ、ブース入ったら中学生の頃に聴いてたRYUZOさんとなんも変わらず久々感も全くなく、しっかりかましていただいて。光栄でした、本当に。
──他の曲もいずれも完成度の高いものですが、今作は構成そのものが非常に興味深いです。10曲までがアルバムのテーマである“90’s Baby”を背負ったアジテイトで共鳴につながる楽曲で、『Living In This World』(Tr.11)を境に『I Mean』からグッと内省的になっていく。
W:そうですね。アルバムは常に、15~16曲ぐらいで、その中で自分の喜怒哀楽やったり振れ幅っていうのを見せたいと思って作ってるんですけど、今回はみんなでワチャワチャしてる感じ、主張の強い感じから、気づいたら、最後のほうに綺麗に、ひとりでいるときの僕のような曲が並びましたね。みんないろんな喜怒哀楽の中で波打って生きてると思うんで、そういういろんな感情やテンションのときに横に居られるような作品になったんではないかな、と。そういうとこも含めて楽しんでもらえると嬉しいです。
──その“ひとりでいるときの僕”のような曲を作る過程で、何か大きな喪失感のようなものを埋めようとする感覚があったのでしょうか。
W:ある、と思います。やっぱり、さっきも言った通りヒップホップの受け皿が広いので。僕はけっこう元気なタイプの人間ではあると思うんですけどそれでも落ち込むことはありますし、病んじゃうときもありますし。その中で音楽やってて、ネガティヴな感情に襲われてるときに言葉にして出すとすっきりはしますから。でも、ネガティヴなところから入った曲でも、最後はポジティヴに戻るっていうのは心がけていて。ネガティヴなまま終わると、ネガティヴな状況な人が聴くとネガティヴな感情に嵌ってしまうから。そんなふうに嵌らせたくはないから、最終的には元気だそうと思ってもらえるような終わりにはしたいと思ってます。そうやって書くことで、自分もネガティヴなマインドから抜け出していくというか。リリックっていうのは、自分の鏡的な存在であると思うんで、そういう意味ではすごい精神的に成長させられる部分はめっちゃあります。
──誰しもが持つネガティヴな感情や、他者を引っ張る負のエネルギーに敏感だからこそ、自身の音楽には陽のエネルギーを持たせたいという。
W:そうですね。僕自身もめっちゃ引っ張られますから。まぁでも、怒りとか憤りをそのままぶつけて書いてしまうこともあります(笑)。今回のアルバムでいうと『What!?』とかはまさにそれ。
──確かに『What!?』はハードで圧倒的な迫力があって、ラッパーとしての本領を感じさせます。広いフィールドで闘うようになっている今でも、そういった歯に衣着せないというか、アンダーグラウンドやマイノリティの感覚をその手から離さないところも【WILYWNKA】としての在り方なのかなと。
W:離さないですね。それはやっぱりラッパーであるから。いや、ロックでもレゲエでも他のジャンルでもできることだと思いますけど、自分はラップでずっとそうやってきたんで、これからもそうでありたい。もちろん自分も全部に突っかかるわけじゃないし、世間に対して世直ししようぜなんて1㎜も思ってないんですけど、どうしても見て見ぬふりはできない違和感や居心地の悪さっていうのはあるし、そういうときの言葉はしっかり言っていきたいとは思ってます。
──そういった矜持や今作での気迫を体感できるツアーが楽しみ、というかもう期待しかないのですが(笑)。
W:ツアーは、前回もそうやったんですけど、ライヴをやるたびに気づくことばっかりで。そのたびにトライ&エラーを繰り返して、成長していくんで、自分もその過程を楽しんでいきたいと思います。ツアーって、何よりチームワークが大事で。舞台監督、マネージャー、照明さんや音響さん、DJやVJ、いろんな人の力が一緒になってできるもので。そこにお客さんが入ってきて、みんなで100%を180%にまでしていくのを目指してやっていく感覚なんです。ひとりでやってることじゃないんで、すごい一体感も生まれますし、その中で気づけることがありますし。僕も期待しています(笑)。
──最後に、アルバムラストの『RICHMAN feat. VIGORMAN』について聞かせてください。“ほんとうのしあわせ”を問うことをテーマに据えたこの曲を終わりに持ってきたのは、何か意識的なものがあったのでしょうか。
W:ん~~…今考えた後付けにはなりますが…ヒップホップって、たとえば“いい車乗ってるぜ”“可愛い女の子連れてるぜ”“ゴールドチェーン持ってるぜ”っていうようなすごい下世話な文化もあって。それを否定してるわけじゃないんです、やっぱり形のあるものは夢を感じますし、目に見える物を掴むというのは昂るものがありますし。それはヒップホップの話だけじゃなく、SNSで垣間見る華やかな生活に憧れる人は多いでしょ。人間なので、より上に行きたいっていう気持ちはありますよね。ただ、そういう思いで他人の人生を覗いて自分の人生と比べるのが、すごい悲しいことやなと思うんです。別にお金ないときも幸せでしたから。お金は幸せを感じるための選択肢を増やす道具やから、それがなかったら幸せを感じられないっていうのが寂しいし、人と比べて自分はそうじゃないって思うのが不幸せだし。僕が幸せの定義をするのはおかしいと思いますけど、こういう幸せの感じ方もあるよっていうのをあの曲で言いたくて。で、フィーチャリングしてるVIGORMANとは、十代の頃から10年以上の付き合いで、盟友で親友なんですが、彼はすごいポジティヴで太陽みたいな部分がある人間で、彼がいるだけで僕は救われた気分になる。そういう存在がいるから僕は“RICHMAN”になれるわけで。人それぞれに幸せの形はあるし、そう思う人が増えたら、ちょっと幸せな世界になるんちゃう?ちょっとぐらい平和になるんちゃうか?って思うし。うん、あの曲を最後にしてよかったですね。
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LIVE INFORMATION
PROFILE
WILYWNKA
1997年生まれ、大阪府出身。2018年9月、1stアルバム『SACULA』をリリース。東名阪と福岡で開催されたリリースツアーが即完売となるほどの反響を呼んだ。翌2019年には、60箇所以上のクラブ/ライヴハウスへの出演を敢行し、9月、2ndアルバム『PAUSE』を発表。同年末のツアー会場はすべて満員御礼となる。2020年12月に配信リリースされた、BACHLOGICプロデュースによるEP『EAZY EAZY』でも高評価を獲得、またソロと並行して活動していた「変態紳士クラブ」の楽曲『YOKAZE』が大ヒット、日本武道館公演開催という大躍進を遂げる。2022年6月、3rdアルバム『COUNTER』をリリースし、初のZeppツアーで大盛況を収めた。2024年5月8日リリースの4thアルバム『90’s Baby』を引っ提げ、現在全国5箇所でのZeppツアーを敢行中。本ツアーには、同作参加のアーティストが各地でゲスト出演し、Zepp Fukuokaには盟友・VIGORMANが登場予定。