“俺はずっと、明日について歌うんだろう”
源流の震えを胸に未来へ向かう新作リリース
渡會将士
取材/文:山崎聡美
INTERVIEW
自身のバンド・FoZZtoneの活動休止後、ソロ・アーティストとして精力的に音楽キャリアを積み重ねている渡會将士。THE YELLOW MONKEYのEMMAこと菊地英昭のプロジェクト・brainchild’sのヴォーカリストという看板も背負う彼の魅力は、言うまでもなくそのソウルフルな、そしてファンクネスを据えた歌にある。言葉の連ね方、情景の引き寄せ方が独特であることも、彼の歌が他と一線を画す理由だろう。渡會らしさに満ちながら挑戦的な表現の発見も興味深い、ソロ4枚目、約3年ぶりとなるフルアルバム『MorroW SoundS』について訊いた。
──ニューアルバム『MorroW SoundS』はソロとして4枚目のフルアルバムです。FoZZtoneの頃から言葉、メロディー、リズムと音楽に至るすべてに確固たる意志、表現性をお持ちだった印象はあるのですが、今作を聴いてあらためてそのことを再確認した思いです。
渡會:ありがとうございます。ここまでのアルバム3枚とかは、軽く迷走はしてるんですけどね(笑)。いろんなジャンルに手を出してみたりとか、FoZZtone時代は歌詞の内容がいかに濃いかみたいな部分に重きを置いていたんですけど、いったんそこから離れようと思って、もっと気楽に、普段使いできる洋服みたいな感じの歌詞を書こうとしていたときもあったり。今回は(音楽キャリア)20周年ということもあって、これまで創ってきたものを再確認しつつ、原点に戻る、というようなところもあったかもしれないです。
──“MorroW SoundS”はソロ作を最初に出されたときの主宰レーベル名でもありますが、原点回帰的な意味も含めたタイトルということでしょうか。
渡會:そうですね。あとはFoZZtoneとしてリリースした最初のミニアルバム(『boat 4』[2004年])の1曲目が『MorroW』っていうタイトルで、“M”始まりの“W”終わりで“Masashi Watarai”のイニシャルと一緒だからということもあって。“Morrow(=翌日、明日)”っていう単語自体、大事に使っていきたいなぁとは思ってて、漠然とソロを始めたときのレーベル名に冠したんですよね。今回20周年のタイミングだからあらためてコレ使おうという感じでタイトルにしました。
──アルバムを制作するにあたって最初から決めていたんですか?
渡會:最初から決めてましたね。“明日”とか“翌日”とかってニュアンスの歌詞を、わりと書きがちなもので(笑)。そういうのが自分の根底にあるんだなということも20年やってくる中でわかってきた。夜についてというよりは、夜が明けたあと、翌日に向けてみたいなことを歌いたいんだろうなっていうのがずっとあって。きっと、意識的に“MorroW SoundS”を目指して曲作りをしなくても、もう勝手に俺は明日について歌うんだろうなあ、みたいな感じで、タイトル先行で始めました。
──なるほど。今作の多くの楽曲が夜明け、明日という未来に向かうのは、意図的でありご自身の本質的なところでもあるという。
渡會:“M”と“W”はひっくり返すと“W”と“M”になるのが、朝と夜っぽいなとか、図形的にも。循環しているというか。循環しているものについて歌っていくと、自然と朝と夜を繰り返すことになると思うので、裏テーマとまでは言わないですけど、“循環”というのは意識しながら創ってましたね。
──今作を聴いていて、たとえば『雨に還れ』(M9)の《歌になって生まれ変わっておいで》のような表現だけでなく、作品の底辺に還流的なものがあるのは感じます。音の構築、サウンドのイメージはどのように形にしていったんでしょう。
渡會:今まで生演奏であることにこだわっていたところがあって、なるべくバンドメンバーを呼んで皆で「せーの!」で録音する(一発録り)みたいなことをしてたんですが、今回はなるべく人数を減らそうと思って。曲によってはまるっと全部自分で演奏するとか。そうすることで、自分自身の濃度みたいなものが薄まらないようにしようっていう意図はあって。バンドの演奏が絶対に必要という曲以外は、自分の核がもやっとしないように、なるべく一人で煮詰めていくということは意識していました。
──ある種、ごまかしようがないところに自分を追い込んでいくような。
渡會:そうですね(笑)。打ち込みの曲もあるんですけど、『Daybreaker』なんかは自分でベース弾いたりもしています。昔は、自分の担当楽器じゃないものに関しては、下手な自分が弾くより尊敬しているプレイヤーに頼んだほうが圧倒的に早いしカッコいいに決まってるしってところで考えていたんですけど、20年もやってきて、自分で打ち込みとかも散々やって、“あ、俺ベースもちょっと巧くなったかも”という発見もあって(笑)。大変なレコーディングではあったんですけど、同時に自分のテクニック的な部分とかを再確認できたところはよかったですね。ずっと一緒にやっているエンジニアさんにアコギ褒められたりして、自尊心も認識できました(笑)。
──自分を肯定できるのは作品の強さにもなりますしね。力みがないというか、とてもニュートラルな音であることも印象的です。
渡會:一人でやると、クリックにきっちり合わせることが重要になってくるんですけど、でも実際にレコーディングするときには自分一人じゃなくてエンジニアさんが居て、二人での作業になることも多いんですよね。そのときに、どこまでタイトに、シビアにやるか?ってことを話したんですけど、そこは“人間のグルーヴ”でいいんじゃないか、と。だからリラックスしてやれました。『アンカー』なんかはクリックも全然使ってないんです。
──人間のグルーヴ、いいですね。生身が息づいている感じ。ほかに、渡會さんが思う今作のトピックはありますか?
渡會:再現性を考えたら難しいから、コーラスはあまり入れないようにしようと思いつつ……これはやっぱり美学なんだな、と諦めて(笑)。入れたいコーラスをガンガン入れました。過度にならないくらいの華やかさは足せたかな。すき間がある音楽にできたかな、と思います。
──もともと、ゴスペルだったりソウルだったりの影響が強いというか、お好きでしたよね。
渡會:めちゃくちゃ好きです。和音の組み立て方も、もろにゴスペル寄りの考え方でやってます。やりすぎると重厚になりすぎてしまうんですけどね。コーラスにヴィブラートをかけるか、かけないかとかだけでもすごく変わってしまうから。今回も、派手になりすぎないように、後ろにソウルフルな女性シンガーいっぱいいるなみたいな感じにならないように、気を付けました(笑)。
──歌そのものが内在する芯の強さも、ソウル的だなと感じるところでした。
渡會:ゴスペルやジャズ、R&Bが好きな理由も、黒人霊歌というところからきているような気はします。虐げられていた中で創っている、歌っている曲のパワーって、半端ないから。ニューオリンズにしばらく滞在していたことがあるんですけど、そのときに本場のジャズを聴いて。アフリカンに近い方々が多くいらっしゃるから、ジャズとはいいつつ、根っこはアフリカン・ミュージックなんですよ。管楽器も入って馬鹿デカい音で鳴らしながら街中を練り歩いたりしてるんですけど、急に演奏が止まって大太鼓のビートだけで全員がシンガロングしたり。めちゃくちゃカッコいいんです。奴隷としてアメリカに連れてこられた民族の母語で歌われているので意味はわからないけど、音で振動している空気に周りにいるだけで共振しちゃって、胸とかビリビリビリッてなるんですよ。生きるために必要な音楽として鳴らしている、そのパワーにめちゃくちゃ感動して……すごい、根源的な部分で音楽鳴らしてるなって気がして。あれはいまだに残ってますね。
──そういうプリミティヴな感覚を、今作を創るうえでも大事にしていたという意識はあります?
渡會:そうですね、そうなんですけど、でも同時に、別の角度から刺激を受けたものもあって。この間、とある高校に学生が主体的に選んだ講師として招かれて、高校生たちと話をしてきたんです。彼らが何を聴いているかっていうと、YouTubeのボカロPばっかりなんですよ。で、「顔出ししてる人たちが歌えないような酷いことも歌ってくれてるから、めちゃくちゃストレス解消になる」ってその子たちが言うのを聞いて面白い!と思っちゃって(笑)。イギリスの労働者階級の人たちがパンクを聴いていたのとすごく近い気がして、日本の現代の高校生にとってのパンクはボカロPなのかと衝撃でしたね。ボカロPも必要性があって生まれてきているってことなんだなぁと。それが今作の制作中だったので、かなり刺激になりました。
──確かに、すごく興味深いですね。今作でも、たとえば『写真はイメージです』のように時代を映す楽曲が多い一方で、『Offshore』(M5)には《海岸を見失う勇気がなくちゃ/新しい海には辿り着けない》というアンドレ・ジッド(※)の言葉が引用されています。こういった普遍的なものをやはり渡會さんは信じていて、今作でそれを取り込もうという思いもあったのでしょうか。
渡會:普遍性を信じている部分もありつつ、普遍性が今まさに揺らいでいる瞬間かもなという気もして、アンドレ・ジッドの言葉を使ったんです。彼があの言葉を言ったときはスマホなんてもちろんないし、人と人が繋がるのが難しかった時代で、だからこそ出会った人との繋がりは深くなるという時代でもあったと思うんですけど、今はスマホさえあれば見知らぬ人の気持ちも流れてくるしGPSで常に自分の居場所もわかる。自分の感覚だけを頼りに海に漕ぎ出そうというアンドレ・ジッドの言葉を聞いても、タイパとかコスパとかを気にしている人々が果たしてそんな無意味なことをするだろうか?という気もして。スマホですぐに答えが出るのが当然のZ世代に通じるのかと思いつつ、でも、彼らがあの言葉に反応する部分もきっとあるだろうとも思うし。何でもわかるとはいってもそれは体験ではないので。自分も含めて頭でっかちになりがちな人だったり、リスクヘッジし続けなきゃいけない人だったりもいるでしょうから、まぁある意味実験というか、反応するのかしないのか、歌にしてぶん投げてみた、という感じですね。
※アンドレ・ジッド:フランス近代文学を代表する作家。青年時代の著作『地の糧』(1897年)のオマージュ曲をヨルシカが発表したことをきっかけに2023年4月に文庫版が復刊、若い世代にも注目されている。
──ぶん投げて、何が起こるのか、それもまた興味深い(笑)。ライヴで確かめたいし、確かめてほしいですね。
渡會:今回の福岡公演は3ピースなのですが、ベースとドラムが死ぬほど巧いんです(笑)。そこもぜひご期待いただきたいですね。そして、20周年なので、新作だけじゃなく20年分の何かは出したいな、と思っています。楽しみにお待ちください!
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LIVE INFORMATION
渡會将士 翌日tour 2024
- 2024年9月29日(日)
- 福岡 LIVE HOUSE OP's
- Trio編成
- サポートメンバー
- 中村昌史[Bass]
- 若⼭雅弘[Drums]
- 出演者
- リリーフィッシュ/and more...
PROFILE
渡會将士
(わたらいまさし)
1981年4月6日生まれ。埼玉県出身。アコースティックギターとルーパーを駆使し、パフォーマンスするシンガーソングライター。FoZZtone(フォズトーン)として2007年メジャー・デビュー。2015年バンド活動を休止後、ベイビーレイズJAPANへの楽曲提供(10thシングル『Pretty Little Baby』)や単身渡米、菊地英昭氏(THE YELLOW MONKEY)直々のオファーによるbrainchild'sへの参加を経て、2016年9月ソロミュージシャンとして初となる1stフルアルバム『マスターオブライフ』をリリース。以降、現在までに最新作『MorroW SoundS』を含むフルアルバム4作、ミニアルバム3作のほかシングル、DVD作品等をコンスタントにリリース。リリースツアーをはじめライヴも精力的に敢行し、2019年には47都道府県を廻る弾き語りツアー「渡會将士 JAPAN? TOUR」を開催。今春ソロとしては初となる「ARABAKI ROCK FEST.24」出演も果たした。アーティストとしての表現力、ミュージシャンとしての地力、ソングライターとしての創造力を以て、独自の音楽道を切り拓き続けている。