4人の個が溶けあい、潮流となる。
3rd EP『胎動』という核心。
TiDE
取材/文:前田亜礼
INTERVIEW

大学時代に出会った4人が2023年に始動したTiDE(読み:タイド)。揺らぎと余韻を含んだ深みのあるヴォーカル、構造美のあるギターのコードワーク、フレーズが小気味いい精緻なベースライン、グルーヴを牽引するパワードラム。彼らは、互いに主張を保ちながら、有機的に絡み合い、ファンク、ロック、J-POP etc…ジャンルを横断し型にハマらないグルーヴを内在化させ、圧倒的な魅力を放つ。1st EP『meiz』、2nd EP『a border』のリリースから早くも、伊豆での制作合宿を経て完成した最新作、3rd EP『胎動』が到着。迷い、境目を越え、自ら定義し始めたTiDEという音楽の現在地を、ヴォーカル・ギターの井上大悟が語ってくれた。
──井上さんは佐賀生まれ、福岡育ちなんですね。大学から上京されたそうですが、バンドを結成するに至った経緯を教えてください。
井上:結成は2023年です。メンバーは大学時代に出会った4人で、僕と小宮(Ba)は同じ大学の音楽サークル、小島(Dr)としょにー(Gt)は別大学の軽音サークル出身だったんです。ドラムとギターの2人から声をかけてもらったのがきっかけで、食事しながら互いにどんな音楽が好きかとか話したりして、バンドを始めたという流れです。
──メンバー全員20代半ばということですが、好きなアーティストや影響を受けたアーティストは千差万別、それぞれに結構異なっていますよね。例えば、井上さんはKeith Jarrett、haruka nakamura、カーペンターズ、田島貴男など、しょにーさんはDaft Punk、Jamiroquai、Suchmosなど、小宮さんはyussef dayes、中村佳穂、pino palladinoなど、小島さんは東京事変、椎名林檎、サザンオールスターズなど、これらは一部だけですが、重なり合う部分もあれば、かなりのギャップが面白くもあり、ブレンドされてバンドの魅力を形成されているんですよね。音楽性の違いで戸惑いはなかったですか?
井上:最初はありました。僕と小宮くんは大学時代バンドを組んでたので、お互いの好きなものは共有できてたんですね。それは同様に、多分しょにーくんと小島くんにも言えたと思うんです。だから、最初は曲作りの方向性として2対2になることが多くて結構しんどかったです。それこそ、どういう音楽好きなのってところから始まって、「でも、やっぱ全然違うね」みたいになって「じゃあどうする?何やる?」みたいなところからちょっとずつ…この2年半ですり合わせていって、この3rd EPでTiDEの方向性かなというところをひとしきり共有できたかなっていう感覚はあります。ここまでは、すごく模索した期間ではありましたね。でも、だからみんな今はある程度言い合えるようになったし、お陰で振り幅のある曲が完成できたのかな、と。サブスク世代なので、みんないろんな音楽を聴いてきてるし、最近のアーティストにもいっぱい影響を受けてるので、そこで薄っぺらくならないようには意識しています。
──なるほど、互いに理解し合えた上で制作できるようになったからこそ、楽曲それぞれの深度が増してきたように感じます。デビューのきっかけは何だったんですか?
井上:最初に作った楽曲をDTMソフト上でセルフ・レコーディングして、MVも知人に撮影してもらってYouTubeに公開してたんです。その音源がレーベル担当者の目に留まって。でも音源だけでは判断しきれない部分があるから、ライヴがよければ声をかけようって話になったみたいで。当時は月1回やるかどうかのライヴ頻度だったんですけど、そのときに音源とはまた別の熱量を感じてもらえて、その場でオファーをいただきました。
──デビュー前の時点で、バンドの評価としてはどんな声が上がっていましたか?
井上:僕の声について「心地いい」とか「バリトンボイス」とか言及されることもありますが、それ以上に「各パートが立っているバンド」という評価が多いんです。ギターのフレーズだったり、ベースラインの精度の高さ、ドラムの手数の多さや推進力といった部分で、それぞれをフィーチャーしたアレンジを気に入ってもらえてる点が、TiDEの強みだと思います。
──メンバーそれぞれの役割だったりキャラクターはどんな感じなんですか?
井上:作詞の起点は僕としょにーくんが担っていますが、メンバー全員が作曲できて、編曲もみんなで行なっています。しょにーくんは、作曲能力が高くて、コードワークや楽曲の構成力においてTiDEの思想的中核を担っているといった感じですね。小宮くんはアレンジと音響面の知識が豊富で、初期はミックスやマスタリングも担当してくれていました。音楽理論と実践のバランスが取れたプレイヤーです。小島くんは演奏能力に長けていて、それに加え、SNS運用やマーケティング面でリーダーシップを発揮してくれていて、バンドを前進させる推進役です。
キャラ的には、ドラムの小島くんがいちばんムードメイカーなんですよ。僕たち、曲調からライヴのMCのスタンスをどうすべきか迷っている部分もあって、小島くんもライヴではほとんどしゃべらないので、もったいないかなって。徐々に色を出せていけたらいいのかなと思ってます(笑)。
──そして、井上さんもまた作詞作曲やヴォーカルというTiDEの世界観を表出する上で欠かせないバンドリーダー的存在かと思います。韻の踏み方、リアルな感情を普遍的なものへと昇華させるような言葉選びが秀逸ですが、歌詞の制作はどう行なっているんですか?
井上:僕の場合は、人文書や哲学書から影響を受けることが多いんです。例えば、『Airo』は哲学者エマニュエル・レヴィナスの著作から着想を得ました。既存の言葉を引用しつつ、身近な感覚から広げていくタイプかなと思います。一方で、しょにーくんの作詞は、宇宙や精神世界といったスケールの大きなテーマを扱う傾向があるので、それぞれの歌詞の機微も感じ取ってもらえたら嬉しいです。
──そういったバンドの歌詞やサウンドが織りなす立体的な世界観は、どこか自然界とか宇宙に通ずる感覚もあって、「TiDE」というバンド名に込められているなとも感じます。
井上:バンド名は、しょにーくんの案なんです。みんなで静岡・下田の海に行った時に、 “潮の満ち引き=tide”という言葉が出てきて、「音楽の起源は波や自然のリズムにあるのではないか」というフィーリングから、全員一致で決まりました。
──これまでのリリース作品についてお伺いします。2024年10月リリースの1st EP『meiz』(迷い)から、2nd EPは『a border』(境目)、そして3rd EP のタイトルは『胎動』。バンドの音楽性が明確になっていく過程がこの3作品で感じ取れますが、どんな変遷をたどって“現在地”に着地したのでしょうか?
井上:1st EP『meiz』はバンドとして模索しながら作った5曲。現時点では、幼年期の終わりという捉え方で、2nd EPの時点でもまだ自分たちの輪郭ははっきりしていなかったんです。ただ、外部から「TiDEはこういうバンドだ」と評価される中で、僕のヴォーカルやしょにーくんのコードワークが軸として浮かび上がってきて、4曲揃った段階でようやく認識を共有できたのが、この3rd EP。今作は“繋がり”がテーマで、「他者」「ウタと人間」「肉体と精神」「内と外」の繋がりを、全く違う表情をした4曲で構成しています。
タイトルから着想を得て、ジャケットアートのコンセプトもエコー写真をモチーフにしたもので、日本原産の山百合の花を影として使ってるんです。細部の数字や文字にも意味を持たせているので、チェックしてみてください。
──今回の制作は伊豆で合宿して行なったとのことですが、初合宿はいかがでしたか?
井上:合宿で制作したのは『Airo』と『祝祭』の2曲です。自然に囲まれた環境で、屋外でギターを弾きながらとか、リラックスして制作しました。特に『祝祭』は、岡本太郎の著作に影響を受けて「誰もが身体的に参加できる音楽」という視点で、生命感や躍動感、環境から直接影響を受けて出来上がった楽曲です。試みとして、例えば『祝祭』ではパーカッション、『やさぐれ』ではラップパートを取り入れたりしていますが、『祝祭』は異国的なテイストに寄りすぎないよう意識しつつ、「現代の日本人が違和感なく踊れる音楽」に仕上がったかなと思います。
──合宿中に出てきた課題はありましたか?
井上:『Airo』では、ベースとドラムのグルーヴの解釈がぎりぎりまで一致せず、レコーディング前日まで模索していましたね。そこはリズム隊を信頼しているので委ねつつ、最終的にこれならいいねという折衷案が見つかって、結果として楽曲の芯が強くなったと思います。
──レコーディング・MIX エンジニアには Ovall、Michael Kaneko といった origami PRODUCTIONSのアーティストや Original Love、TENDER などを手掛ける yasu2000 を迎えて制作されたそうですが、親和性の高いクリエイター陣だと思いました。相性的にはどうでしたか?
井上:アレンジまではすべてメンバー内で完結させて、レコーディング以降を外部エンジニアに依頼しています。『Airo』、『祝祭』はyasu2000さん、『やさぐれ』『Day Trip』は佐々木優さんにミックスを担当していただいて。同じ演奏でも、ほんとエンジニアによって音像が大きく変わると実感できましたし、特に『やさぐれ』のボイスエフェクトなんかは変化が生まれて、佐々木さんの提案が大きかったです。
──方向性が定まり、2025年後半の自主企画イベントから来年は全国展開でライヴ活動が続いていきますが、ここから描くTiDEの2026年は?
井上:2026年の冬にミニ・アルバムのリリースを予定していて、3rd EPで芽生えたものを、時間をかけて成長させた作品になると思います。そして、ライヴバンドとしても、音源だけで完結しない、身体が自然に動く熱量のあるライヴを重視して活動していきます。特にドラムとベースが生み出す低域は会場で体感してほしい部分ですし、初見のオーディエンスの心を一気に掴むステージ構成や演出を考えて、楽しんでもらいたいです。次作以降、海外展開を見据えたプロモーションを予定していたり、台湾や韓国のバンドとの交流もあるので、アジア圏でのライヴも少しずつ広げていきたいです。
──福岡では3月に「TENJIN ONTAQ 2026」への出演が決定しています。間近でTiDEのステージを楽しめる機会、音楽ファンに向けてメッセージをいただけますか?
井上:僕は中学まで福岡にいたんですけど、大学入学前に福岡に帰ってきてたんですよ。そのときに気分転換で野外音楽フェスの「CIRCLE」にも行ってたんです。初の夏フェスで、初の1人フェスだったんですけど(笑)、大好きなYogee New Waves、ペトロールズ、cero…とにかく楽しかったですね。フェスの手ぬぐいも持ってます。いつか出演できたら最高なので、今のうちから手を挙げておきたいですし、その前に僕たちがどんなライヴを演るか、見に来ていただけたら嬉しいです!
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LIVE INFORMATION
PROFILE
TiDE
2023年東京にて結成された、井上大悟(Vo,Gt)、しょにー(Gt)、小宮紹滉 (Ba)、小島祥平(Dr)からなる4人組バンド。日本語で“潮汐(潮の満ち引き)”を意味するバンド名のTiDE は「音楽の起源は海にあり、その海を駆動する潮汐にある」という思想から命名。ファンクやソウル、ロックなどの音楽性を軸に、メンバーの多様な音楽的背景を融合させながら、特定のジャンルに囚われない流動的なJ-Popを展開している。2025年5月、2nd EP『a border』をリリース。さらに「りんご音楽祭」主催オーディション「RINGOOO A GO-GO」に選出され「りんご音楽祭 2025」へ出演を果たした。
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