かけがえない軌跡への感謝を込めて
デビュー20周年に示すブランニューソング
かりゆし58
取材/文:山崎聡美
INTERVIEW

2026年2月22日、デビュー20周年を迎えたかりゆし58。『愛を編む』『youth』という愛にあふれた新曲の発表をもってアニバーサリーイヤーの幕を開け、3月には20年の軌跡において光り輝く名曲群を縁あるアーティストがカヴァーしたトリビュート盤をリリース。さらに同作参加アーティストとの対バン形式によるZeppツアーを敢行し、20年の感謝をオーディエンスに直接届ける。バンドの紆余曲折をしなやかに受け止めながら、人の生きる切実さを歌に託してきた奇跡のロードについて、前川真悟(Ba,Vo)、新屋行裕(Gt)に聞いた。
前川真悟:20年という軌跡を、今、まさに振り返っているところですね。インタビューとかを通して、いろいろなことを思い出させてもらったり、それが転がって“あ、あんなこともあったね”ってなったり。20年というのが少しずつ実感されている、腑に落ちてきている感じです。自分たちとしては、ぞっとするぐらい、あっという間。20年が短くない時間であることは重々解っているんですよ。なのにこの“あっという間”感(笑)。一日一日、やりたいことをやって、やれたなという手応えを得ていかないと、(20年という歳月ですらも)ぬるっと終わるもんなんだな、と。ちょっと怖くなって、今からの一日一日をどれだけ明確にするかっていうことをやっていかないといけないなと、身の引き締まる感じはありますね。(新屋)行裕が、20周年についての最初のインタビューを4人で受けた時に「反省しか残ってないんです」って言い始めて(笑)。
新屋行裕:あの時、なんでもっとやらなかったんだろう、みたいなことがけっこうありましたねぇ。
前川:スタートが、他に類を見ないぐらい下手っぴなバンドだったので。実際(楽器の)経験が全くないメンバーもいて、にもかかわらず、音楽のジャンルに目移りする俺みたいなヤツもいて(笑)。得意なものに集中すればいいのに、あれもこれもやってみたい!って、まるで過去の自分たちから逃げるように走りつづけるペースの時期もありました。それが逆に、バンドとしては“空っぽ”であるように感じたこともあって。あれもやった、これもやった、で、結局自分たちの芯はどこなんだっけ?と。ロックフェスに出るんだけどロックバンドと名乗るのは躊躇うし、レゲエイベントにも出るけどレゲエミュージシャンではないし。どこか孤立しているような…自分たちが座標軸のどのへんにいるのかずっとわからんかったよね。
新屋:うん。
前川:泳げないくせに水に入っているような苦しさ、というか。4人ともが、音楽に向いてないと思いながら音楽をやっている感じでしたね。あと、人前も向いてない(笑)。
新屋:でも不思議なのは、そういう隙があるからか、いろんな人に優しくしてもらって。けっこう……甘えさせてもらったというのは大きかったと思います。
前川:そう、だから人懐っこい野良犬ですね(笑)。
周年ののっけから後悔と反省しきりというのが、なんとも彼ららしい。だが、サウンドやビート感を多様に変化させられたのは、彼らが常に自らのバンドスタイルに対し懐疑的かつ挑戦的であったから、バンドに懸ける意欲が旺盛であったからとも言える。その猪突猛進ぶりが好ましく逞しく、ブレのない歌心、強いメッセージ性とも相まって多くのリスナーを獲得してきたのもまた事実だ。そして、中村洋貴(Per)の一時離脱という最も大きな試練を乗り越え、当時から今に至る心境を前川はこう語る。
前川:洋貴が局所性ジストニアと診断されたときに、実際の原因は不明だけどストレスに起因していることも多いらしいというのを聞いて。「俺たちがやっている音楽は、自分自身を苦しめる音楽なのか?」って考えるようになって。独りよがりというか…(バンドとしての)勝手な理想像をつくり上げて、勝手に自問自答しているだけで、いつになっても解放されないんじゃないか、それを洋貴が示してくれてるんじゃないかみたいな考え方をした時期もありました。でも、洋貴が復帰してからは、パーカッショニストとしての洋貴がいないと成り立たないビートを、サポートドラムとともにどう創っていくか、それをどうかりゆし58のサウンドにしていくかっていうところでの挑戦になって。それは洋貴と一緒に生きていくための方法を考えることだから、過去の自分たちから逃げるとか届かない理想を追うよりは根元も行先もはっきりした感じがして、かなり建設的な苦しみになりました。で、仕舞にはコロナが来て母ちゃんが歌う準備を始めて(笑)。自分たちがバンドで得てきた経験値は、母ちゃんのために使うものなんだなと思いました(笑)。誰かのために音楽はある、だから(自分のために)新しい音楽を創れないとしても、いい。そんなふうに変わってきてますね。
20年の軌跡、その個性的な楽曲群を再発見できるアイテムもリリースされる。沖縄の青い風とレゲエの血潮、エヴァーグリーンなメロディー、歌力、リスペクトに満ちた、正真正銘のトリビュート盤『かりゆし58 20th TRIBUTE ALBUM -Solo-solo HA!touch-』である。
新屋:すごい不思議な感じなんですよ。ずっと自分たちでやってきた曲なのに、別のバンドの曲みたいに聴こえて。たとえば1曲目の『オワリはじまり』だってMONGOL800の新曲に聴こえたり。遠くから見てるっていうか……すごい新鮮です。ホント、いいところいっぱいあるんだなって感じました(笑)。元々自分が希望して、Anlyさんに歌ってもらった『流星』なんかは、女性の声でスローバラードで歌ったらどうなるんだろうって思ってたのが、ドンピシャで。感動しましたし、「合うんだ!すごいな!」という嬉しい驚きもありましたね。だからこのトリビュート盤を聴いてかりゆし58の曲を知って、自分たちのオリジナルを聴きに来てくれて、その演奏を気に入ってくれたり心が動いたり、そういうサイクルが生まれてくれたら、かなり自信にもなるのかな、と思います。
前川:このトリビュート盤について、直樹(Gt.宮平直樹)がすごく的を射たことを言っていたんです。「作品が自分たちの子どもだとしたら、俺たちは一生懸命、子育てをするように演奏をする、歌う。育児だからどこか気を張ってる部分もある。でも孫になると猫可愛がりで、ただただ可愛い。今回、孫が帰ってきた感じ」だ、と。まさにそうなんですよ。ウチの子どもたち(楽曲)がいい伴侶(参加アーティスト)を得たことの安心感もあって、なんなら過去最高のかりゆし58の作品じゃないかと思いますね、俺たち演奏してないけど(笑)。自分たちの曲を信じる力をもらった気がします。
いずれ劣らぬ名演ぞろいの本作だが、中でも異彩を放つのがG-FREAK FACTORYによる『オリーブ』だ。これまでもこれからも絶え間ない、平和への希求に満ちた大きなうねりは、2026年現在、痛烈なアジテーションを伴って胸に響いてくる。
前川:俺も、感じました。この曲が生まれた背景は、自分でも思い出すのが難しいぐらい、思いつきじみたものだったと思うんですが……。バンド結成する以前、トラック運転手をしていた頃に原形ができたんですよ。初めて日本語の歌を創ろうとしていた時期で、自分が何を歌うのかを漠然と考えていて、たぶんブルーハーツの『青空』とかが頭をよぎっていて。平和を歌おうとした、自分なりの切り口だったんだと思います。こんなに迷いなく、真っ直ぐに、世界のことを憂いたり信じたりできてるのって、ちょっとすごい歌詞だなって今になって思ったりもしたんですけど、それを人生を懸けてバンドをやっている茂木(洋晃)さん、G-FREAK FACTORYが歌うと、なんかもう祈り、闘うように祈っている、これこそロックバンドが人に与える感情の根幹にあるものだなって感じて。すごい曲になって還ってきたな、と。
それは無論、かりゆし58が紡いできた楽曲の力であり、そんな思いの連鎖と増幅はトリビュート盤の随所に感じられる。そしてそれは、新曲『愛を編む』『youth』へともつづいてゆくのだ。
前川:『愛を編む』はシンプルに……奥さんが好き、という歌ですね(笑)。妻への愛を歌おうと決めていたわけじゃないんですけど、ちゃんと実感できるものを形(音楽)にしていく、しばらくそういう制作スタイルにしようと思ってるんです。どこから生まれて誰に届くのかが、明確にある曲、というか。最近できるのは、そういう曲ばかりで。紛れもなく自分の心にある感情とか思いを描くことが、噓なくやれる方法だから。AIの書く歌詞と人間の描く歌詞の違いは、たぶんそこにある切実さだと思うんです。アルゴリズムで抽出された歌詞、心が動いてないものは、取って付けたような一節になって、そんな一節が命取りになるような時代が来る気がしてて。心が震えるものを描きたい、そう思っていたときに、ガガガSPのやまもっちゃん(Gt.山本聡)に創ってもらった曲が上がってきて、「シンゴ、これに息子への思いを綴った歌詞をつけて」と。それで描いたのが『youth』。で、息子への思いを綴っているうちに、妻への愛もどんどん感じてきて(笑)。連鎖反応で、こんな作品になりました。サウンド的にも、かりゆし58の新しいサウンドとしてのとっかかりがやっと摑めた気がしてるんです。洋貴のパーカッションと、(柳原)和也のドラム、どっちも不可欠なビート、リズムをどうやったら創れるかという目下の課題を、今回アフリカンビートのようなものを取り入れたことでクリアして、二人の居場所をつくることができた。かりゆし58っぽい土着感もあるし、沖縄の匂いの強いメロディーも綺麗に乗る。大きな転機になる作品だと思います。
かりゆし58としての新たな代表曲となるであろう2曲、そして慈しみ育んできた名曲群を携え、まずはZepp Fukuokaほか全国3か所での対バンツアーへ。
20年という節目は、過去を振り返るためじゃなく、未来を創るためにある。
その第一歩を見届けたい。
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LIVE INFORMATION
かりゆし58 20th TRIBUTE ALBUM -Solo-solo HA!touch- TOUR
- 2026年3月27日(金)
- Zepp Fukuoka
- 対バン
- 04 Limited Sazabys
PROFILE
かりゆし58
2005年4月沖縄で結成の4人組バンド。2006年2月ミニアルバム『恋人よ』でデビュー。ロックをベースにジャンルに囚われず変化しつつづけるサウンドと、優しくかざらない言葉で紡ぐ歌詞が、聴く人々の人生に寄り添い響き合い、世代を超え愛され続けている。母への感謝の気持ちをストレートに歌った『アンマー』が多くの共感を呼び、日本有線大賞新人賞を受賞。2026年2月にデビュー20周年を迎え、バンドとして初のトリビュートアルバムリリースやZepp対バンツアーを皮切りに、周年を祝う様々な企画と共にこれまでの感謝を伝える節目の20年目がスタート。沖縄で生まれ育った彼らならではの唯一無二の『島唄』を全国に向け歌い届ける。