ファンとともに、創っていく私の音楽──16周年、新章の幕開け

森 恵

取材/文:前田亜礼

ファンとともに、創っていく私の音楽──16周年、新章の幕開け

7月にデビュー16周年を迎える実力派シンガーソングライター、森 恵。多彩なトーンバリエーションと芯のあるヴォーカル、卓越したギター・テクニックやループステーションなどを駆使する弾き語りパフォーマンスで、国内外でファンを獲得し続けている。新作ミニ・アルバム『SAKURA MELODY』は、桜をテーマに多様な楽曲アプローチと深化した表現力が、彼女の成長と円熟味を証明する特別な作品に仕上がっている。これまでの音楽活動から得た気づき、ここからまたファンとともに歩みを進めていく感謝と意思表明を、無二のサウンドに昇華させた想いを語ってくれた。


──7月7日でデビュー16周年、音楽活動を振り返って、今どのような思いがありますか?


:16年って、長いですよね。0歳だった子が高校生になって部活も勉強も頑張っている、くらいの成長の時間を音楽活動に費やしてこれたんだな、という不思議な感覚です。「16周年おめでとう」と言ってくれる人が周りにいることが、本当に幸せなことだと感じるし、コロナ禍などを経て、今まで訪れた街に音楽を通してまた帰ってこられるというのは、決して当たり前ではないことだと強く思います。音楽は自分で発信しているようで、みんなと一緒につくっているものなんだ、と。そこから、人の感情の起伏や温度感をより敏感に察知できるようになりたい、という新しいスイッチが入りました。自分では「頑張って続けている」と思っているけれど、実際は「続けさせてもらっているんだ」という嬉しさで今、私は音楽ができています。


──その思いの深さを軸にして、生まれたミニ・アルバム『SAKURA MELODY』。なぜ「桜」をテーマに選んだのか、その理由から聞かせてください。


:もともと「季節に特化した作品を作りたい」という考えがずっと頭の中にあったんです。それとともに、昨年、15周年を迎えてツアーを回った時に、ファンのみんなと「新しくスタートさせる」という意味での作品を作りたいなって。そのスタートという意味で、春の季節がぴったりだと感じたのと、その中で新しい自分も発見できて、それをお見せできたら、という思いで春限定の作品を作ろうと決めました。


──桜は「別れと出会い」の季節に咲く花であることから、誰にとっても何かしらの心象風景や大切な思い出を秘めた花なのかもしれません。森さんにとっての桜の印象とは?


:私にとって、桜は歌をスタートすると決めた卒業のシーズンと重なるんです。卒業ではあるけれど、新しく自分がスタートする起点でもあったので、春になると「あの時から歌を始めて何年になるんだろう」と、自分の節目を振り返る、そんな季節なんですね。特別、春に大きな出来事があったわけではありませんが、春になると空を見上げたり、桜の花を求めている自分がいるなと感じます。


──『SAKURA MELODY』の収録曲についてお伺いします。5曲を通して聴くと、多彩な楽器のアンサンブルとともに歌唱表現の変化も感じられて、まさに“桜満開”の作品ですね!その振り幅の広さ、楽曲ごとに異なる世界観の描き方に新鮮な驚きをもって惹き込まれていきました。まず、リード曲の『SAKURA MELODY』は、グルーヴ感あふれる大人のAORといった感じですね。

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:桜の曲といえば、爽やかで華やかなイメージがあると思いますが、それとは逆に、すごく切ないけれど重すぎない曲を作りたくて意外性を狙いました。そして、いつもレコーディングやライヴを一緒につくり上げてくれるミュージシャンたちの「大人のカッコよさ」を全面に出したかったんです。そのサウンド感があるからこそ、歌声も自然と楽曲の持つ世界観に合わせることができました。16周年を迎えて、様々な経験をさせてもらった中で歌えるようになった「大人感」や「カッコよさ」を楽しんでもらえる作品になっていると思います。アレンジは私が行っていますが、息の合うミュージシャンの方々とのレコーディングだったので、スムーズに進んですごく楽しかったです。


──続く『Silent My Wish』は、ノイズ音とコーラスをミックスした洒脱なイントロから、ホーン隊が厚みを出すサビのゴージャスな展開へと、シティポップ感を存分に楽しませてくれる作品ですね。


:『SAKURA MELODY』とは真逆で、華やかなものを作りたくて、コーラスワークから作品ができていきました。声によって、桜の花びらが舞い散る感じを表現したくて、コーラスをたくさん重ねています。この曲調のアレンジは私が初めて手掛けたもので、最初は物足りなさを感じたんですね。それで、ピアノの大坂孝之助さんとアイデアを出し合って完成させました。とくにフルートがすごく効いているんです。華やかながら一本軸が通っている感じが楽器によって表現できていて、ここが私の好きなポイントです。ベースラインにもこだわっていて、デジタルでやれば簡単なチョーキングをあえて人力でやってもらったり、クリックに合っていない部分がグルーヴ感を生み出している面白さもぜひ感じてみてください。


──今回リメイク曲が2曲収録されています。『鮮やかな旅路 2026 New Colors』から、アレンジされた理由や聴きどころを教えていただけますか?


:この曲は10年前に、アニメ『FAIRY TAIL』のために書き下ろしたもので、キャラクターたちの旅立ちがテーマだったんです。そこから10年経って、自分自身も成長した中で、その成長を表現するためにという思いと、ファンの方がライヴでも求めてくださる曲だったので、10年という節目と桜のシーズンにぴったりだと思い、リアレンジを決めました。
コロナ禍など苦しい経験も経て、それを聴いてくれる方々もそれぞれに経験があるはずだから、「あの頃を乗り越えて、みんな頑張っているから今があるよね」って、一つの着地点でもありスタートでもあるような一曲にしたかったんですね。
自分の成長はなかなか自分では分からないものなので、今回は大坂さんにアレンジをお願いして、それを私が歌うことで成長を表現できるのではと考えたんです。大坂さんには「10年の変化を感じられるものにしたい」「コードも変えて、でもキーとテンポは同じで」と伝えて。出来上がったアレンジを聴いた時は「めっちゃいいじゃん!」と感動しました。変化はあるのに違和感が全くなくて、そのバランスがさすがだと思いました。


──『桜がさね2026 New Colors』はどんな思いからのリアレンジですか?


:この曲は、宅録でアレンジを詰めていきました。一番変化させようと思ったのは、まず自分の声質が変わったと感じたからなんです。年齢とともに声質や歌い方の癖も変わってきたので、今の声質に合ったアレンジとして、鈴の音や高音域の楽器を足したいと思いました。金物やキーボードで跳ねるような高音を入れることで、自分の声のウィスパーな部分がいきるような、声の質感をいかせるアレンジを軸にしました。
歌詞についても「次の春も ずっとここで」というフレーズを歌う中で、嬉しい旅立ちもあれば、亡くなってしまった人との別れだったり、様々な経験を経て、この約束の言葉がより深く胸に響くようになったんです。何気ない「また明日ね」という当たり前の約束が、いかに大切で、叶わないこともあるということを実感して、その重みを再認識した一曲です。


──ラストの『サクラ缶コーヒー』は、アコギ1本のシンプルな構成に、森さんのふわっと心地いいヴォーカルが混ざり合って、春の切ない空気感がじんわり伝わってくる名曲ですね。癒されます。


:このアルバムを作るにあたって、「色々な私」を入れたいという思いがありました。その中で、色々なチャレンジをするからこそ、安心できるポジションにこの曲を置きたいという考えがあって、ギター1本でやろうと最初に決めたんです。
春は暖かいイメージがあるけれど、お花見っていつも寒いな、と思うんですよ。桜は綺麗に咲いているけど、実はすごく寒くて厚着してお花見に行く、という矛盾感が春だなって感じたんです。だから、ちょっとほっこりするような、温もりだけが寄せ集められているような作品にしようと思いました。コード進行もメジャー・マイナーがはっきりとしたものではなく、ルート音を使って音が移動しているような曖昧さにして。華やかさはないけれど、悲しすぎないラインを作れたかなと思っています。


──これらの楽曲と今の森さんの円熟味を感じられる全国ツアーが進行中です。福岡ではライヴハウスと教会という二カ所での2Daysが決まっていますが、会場の違いによる表現の変化はありますか?


:場所によっての表現は、全然違います。例えば、教会は、歌声が響くイメージがありますよね。自分の声がどう響くんだろう、という楽しみがあります。そして、同じ会場でも来てくださるお客さんが違うと音の響きが変わるんです。季節によっても、Tシャツ一枚の季節なのか、コートやセーターを着込んでいる季節なのかによっても音が変わります。その音の響きを聞きながらギターを弾き、ギターがこう響くなら声はこう歌った方が合いそうだ、というようにどんどん変化させていくんです。今回はライヴハウスと教会という全く違う構造の場所で、できた歴史も違うので、自分の声がどう変化するのか、私自身もすごく楽しみにしています。


【福岡公演】コメント

──ソロ・アコースティック・ツアーの「気軽に来て下さい。でも油断すると泣きます。」という秀逸なサブ・タイトルが、今回のライヴの雰囲気を物語っていそうですね。


:今年のツアーでは、MCで「今日どこから来たの?」とか「次の曲、どういうふうに歌うのが今日は良さそう?」というように、お客さんと対話しながら、会場ごとにステージをつくっていこうと思ってます。それが一人でやる弾き語りライヴの楽しさだと感じているんですね。最近YouTubeライヴで試している「切なさ何パーセントで歌おうかな」といったことを、会場でやるのも楽しいかもしれません。その場所でしか生まれないものをより色濃くして、ステージをつくっていきたいです。そして、ライヴが終わった時、次もまた会おうね、と思ってもらえるような最高のひとときにしたいです。


──15周年の節目を超えた今、ここからまた始める活動や創作について思い描く展望を聞かせてください。


:16年間という長い時間を活動してこられたのは、本当に色々な人と出会わせてもらい、その人たちがアドバイスやメッセージをくれたおかげだと日々感じています。感謝の気持ちを形にするのは言葉だけでは足りないことが多いので、それを作品として一つでも多く残していきたい、というのが今年の大きな目標です。7月にはミニ・アルバムのリリースを予定していて、弾き語りのようなギター・アレンジを中心とした作品にしたいと考えています。福岡でのライヴの時には、その新曲も聴いていただけるのではないかと思っています。
今作の『SAKURA MELODY』はアレンジにこだわっていますが、ライヴではギター1本でいろんなことを表現するつもりです。パーカッシブな部分や、たくさんのコーラスを一人でどう表現するのか。ギターは2、3本持っていく予定です。ボディの大きいドレッドノートタイプのものと、小ぶりなダブルオー(OO)タイプのもの。ボディの大きいギターは体に振動がすごく伝わってきて、それが声を作る部分にも影響してくるので、その変化もあわせて楽しみにしていただければ嬉しいです。
機材についても、デジタルを活用してアナログの良さをより綺麗に際立たせる、ということに面白さを感じています。例えば、教会のようなアナログな空間にデジタルを持ち込むことで、アナログの良さを残しつつ調和させる、というさじ加減が大事かな、と。ステージがより楽しくなる要素を詰め込んで、みなさんに会いに行きます!


──最後に、福岡について一言、何か印象深い思い出などはありますか?


:福岡は「住むならこういうところがいいな」といつも思っている街です。美味しいものがたくさんあって、おしゃれな人も多くて、都会的な雰囲気と自然のバランスがちょうど良いですよね。中心地に行けば何でも揃っているのに、緑が多い場所もたくさんあって、その居心地の良さが好きです。ツアーなどで福岡に来ると、警固公園にふらっと立ち寄って人間観察をよくします。昔、そこで歌っていたこともあって、私にとっては落ち着く場所なんです。「一風堂でラーメンを食べて、警固公園でゆっくりする」というのが、私の福岡での定番コースになっています(笑)。

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RELEASE

SAKURA MELODY

Mini Album

2026年4月8日発売
MULTI FORMAT STUDIO JAPAN

1.SAKURA MELODY
2.Silent My Wish
3.鮮やかな旅路 2026 New Colors
4.桜がさね 2026New Colors
5.サクラ缶コーヒー

PRESENT

森恵

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LIVE INFORMATION

森 恵 SOLO ACOUSTIC TOUR ʼ26
―気軽に来てください。でも油断すると泣きます。―

2026年7月25日(土)
福岡 日本福音ルーテル博多教会
2026年7月26日(日)
福岡 ROOMS

PROFILE

森 恵

15歳から歌とギターを始め、2007年にハワイでストリートパフォーマンスを決行し話題となる。2010年7月7日シングル『キミ』でcutting edge(avex)からメジャー・デビュー。2013年、世界のギターブランド2社(Fender USA、GUILD GUITARS)から弾き語りパフォーマンスを認められ、日本人女性初のエンドースメント契約。その後、作品リリースや国内外で大型イベント出演を重ね、2020年にデビュー10周年を迎える。コロナ禍では無観客配信ライヴで活動を継続し、2021年にはYouTube登録者10万人を突破(現在14.6万人)。2022年、ギター弦ブランドのフランス・サバレス社(日本代理店 S.I.E)とエンドースメント契約。2024年6月、6年振りとなるフル・アルバム『WORDCLOCK』をリリース。2026年、ミニ・アルバム『SAKURA MELODY』を発表、全国ライヴツアーを開催中。