コロナ禍を経て、あらためて強くした“想い”──
今、目の前にあることに集中して、最高のパフォーマンスを。

山崎育三郎

取材/文:なかしまさおり

コロナ禍を経て、あらためて強くした“想い”──<br>今、目の前にあることに集中して、最高のパフォーマンスを。

デビュー以来、『レ・ミゼラブル』をはじめ『エリザベート』『モーツァルト!』『プリシラ』など、名だたるミュージカル作品に次々と出演。その気品あふれる艶やかな歌声と確かな演技力で、多くのファンを魅了し続けている山崎育三郎。今やその活動域は、舞台のみならず、ドラマや映画、歌番組からYouTubeまで、さまざまなフィールドへと広がっている。そんな彼が今年行う新たな“挑戦”とは一体?新型コロナウイルスに翻弄された2020年を経て、辿り着いた“今”にかける“想い”をたっぷりと語ってもらった。


──「BEA VOICE」としては実に3年ぶりの取材となりますが、その間もずっとドラマや歌番組などで、お姿を拝見していたせいか、そんなに間が空いたような気がしません。6月は月9ドラマ『イチケイのカラス』が最終回を迎える一方で、NHK大河ドラマ『青天を衝け』では育三郎さん扮する伊藤博文がいよいよが登場し…本当にお忙しそうです。


   ▷NHK大河ドラマ『青天を衝け』
    https://www.nhk.or.jp/seiten/


ありがたいことに、いろいろなところからお声を掛けていただいて。実は今も(大河ドラマとは別の)いろんな撮影があったりして、結構目まぐるしい日々ではあるんですけれども、こうやってお仕事ができる、お客さまの前に立てるってこと自体が“当たり前ではないんだな”と思うので、とにかく目の前のことを一生懸命にやろうと思ってやっています。


──とくに昨年はエンターテインメント業界そのものが大きな打撃を受けましたから。そういう意味でも“当たり前ではない”と。


ですね。去年、年明けに全国ツアーをやらせてもらったんですけど、ちょうどそれが終わった頃から、少しずつ新型コロナウイルス(の感染者数)が増えてきて。『エリザベート』はとくに初日直前になって中止が決定したので残念でした。ただ…なんというか、その中止の発表の前の最後の通し稽古、オーケストラ合わせがあった時に、僕がトート(※2020年東京公演のトートは、古川雄大とのダブルキャストが予定されていた)、花總(まり)さんがエリザベート(愛希れいかとのダブルキャスト)で3時間、やらせてもらったんですね。それがすごく良くて。演出家の小池(修一郎)先生も「もう20年近くやってるけど、今までで一番いい通し稽古だったと言えるぐらい感動的だった」と言ってくださって。自分としては、その時に「ああ、もし、これで(トートは)最後だと言われたとしても、ちゃんと自分の中で受け入れられる、次の未来につなげていけるような通しができた!」と思えていたので、それが救いになりました。だから、その後はもう今、目の前にあることをやっていくしかないという感覚で過ごしていました。


   ▷帝国劇場 ミュージカル『エリザベート』
    https://www.tohostage.com/elisabeth/

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──例えば舞台や現場がない間、俳優同士、ミュージカル界の皆さん同士、何か声を掛け合うみたいなことはありましたか?


特に連絡を取り合ったり、みんなで励まし合ったりということをしたわけではないんですけど、最初のSTAY HOMEの期間中に、YouTubeで(『レ・ミゼラブル』の劇中歌)『民衆の歌』をミュージカル俳優たちと歌うという企画を上山竜治が発起人として立ち上げ、僕も一緒に仲間たちに声を掛けていきました。それがすごく大きな反響となって広がっていったのは一つの力になりました。(※「Shows at Homeプロジェクト」=ミュージカル俳優総勢36名がリレー形式で『民衆の歌』を歌う動画を公開した。)


──私も拝見しました!皆さんの想いがパソコン越しではありましたが、すごく伝わってきて、あぁ、やっぱり歌の力ってすごいんだなぁと改めて思いました。


ありがとうございます。あの曲は実際の作品の中でも、民衆が(過酷な状況の中から)立ち上がっていく時に歌われるんですけど、歌詞の内容も含めて、状況がちょっと近いようなところもありましたし、こんな時だからこそ、自分たちにできることはないか、そんなみんなの想いが一つになったのではないかなと思っています。ミュージカル俳優の持つ“声の力”…本当に生声で、みんな全身を使って声を出してくるエネルギーみたいなものが画面上から伝わったのであれば嬉しいですね。


──そういう意味では、NHK連続テレビ小説『エール』で演じられた佐藤久志が甲子園で『栄冠は君に輝く』を歌唱するシーンにも、通じるものを感じました。もともとドラマ自体が、コロナ以前からテーマとして持っていた“エール”の部分、コロナ以降さまざまな状況の中で、演者、制作者、視聴者が互いに贈り合ってきた“エール”の部分。その二つが見事に“歌”として昇華されているような気がして、とにかく感動的でした。(※『栄冠は君に輝く』昭和24年リリース。久志のモデルとなった伊藤久男が歌唱。作曲は古関裕而。)


うん、わかります、わかります。僕自身、野球少年でずっと野球をやっていたし、弟も強豪校の元高校球児。甲子園は個人的にも夢の場所だったので、あのシーンはずっと楽しみにしていました。当時、撮影再開した時は、マスクして、フェイスシールドして、カメラを回すときだけ外して。一回撮ったら、またみんな着けて、話もしちゃダメという感じで、それ以前とは環境が大きく変わってしまった。加えて、作品自体も後半は戦争のシーンが入ったり、“プリンス”と呼ばれてキラキラしていた久志がどん底に落ちて、どんどん人間的な部分が描かれていって。見てくださっている皆さんの中でもいろんな想いがあったと思うんですね。そんな中、「君にしか歌えない歌があるんだ」と言われて、無観客の球場で、ひとりマウンドに立ってアカペラであの歌を歌う。もともとの歌詞を書かれた方の人生や想い、コロナで大会が中止になってしまった高校球児たちの想い、それこそ舞台、コンサート、いろんな場が奪われてしまった自分の状況も含めて、本当にいろんな想いがこみ上げてきて…今でも忘れられない瞬間になっています。

▲『栄冠は君に輝く』(シングル『君に伝えたいこと』カップリング)

──そんな2020年を経て今年、また新たなステージに“挑戦”されています。ポップスとオーケストラの共演が人気のコンサートシリーズ“billboard classics”に登場!ということで、タイトルも『山崎育三郎 Premium Symphonic Concert Tour 2021 −SFIDA−』。まさしく“挑戦”と付けられています。(※SFIDA(スフィーダ)=イタリア語で“挑戦”の意味。


はい。フルオーケストラとの共演には、ずっと憧れがありました。もちろん、ミュージカルもオーケストラと一緒にやってはいるんですけど、人数が(フルオーケストラに比べたら)3分の1ぐらいかな?音というか、圧というか、響きがとてもドラマチックで全然違うんですよね。しかも、そこで“ひとりで歌う”というシチュエーションもなかなかない。機会があれば挑戦してみたいなとはずっと思ってました。しかも僕、玉置浩二さんが大好きで。billboard classicsのコンサートも見に行かせていただいたりして、いつもすごく素敵だなと思っていたので、嬉しいですね。幸い…というか、このコロナ禍においては、こうしたクラシック・スタイルが一番、安心してやれるというのもわかってきましたし、タイミング的にも今の時代にとても合っているんじゃないかということでやることにしました。

▷山崎育三郎 Premium Symphonic Concert Tour 2021 -SFIDA-
http://billboard-cc.com/classics/yamazaki-sfida/


──確かに。これまでと同じライヴ・スタイルを成立させることは、まだまだ難しいですからね。


ただ、バラード…というか、今回ドラマチックに歌う楽曲が多い中でも、合間合間には、お客さまが手拍子をしながら、楽しみながら聴くことのできる楽曲も入れているので、そこは楽しみにしていてほしいです。


──今回は2部制になっているんですよね?


はい。今まで、ディナーショーなどではミュージカルの楽曲をメインに、自分のツアーのときにはオリジナル曲をメインに…という感じで分けてきたんですけど、今回はそこを全部取っ払って。1部はこれまで出演したミュージカル作品を辿っていくような構成に、2部ではミュージカル以外のジャンルで出会ってきた楽曲やオリジナルの楽曲などをメインに構成しています。しかも、バックにはクラシック界の一流の方々60名が控えてらっしゃいますし、いつもとは違った空気の中で楽しんでいただけるものになっているのではないかと思います。


──初日公演の映像を拝見しましたが、ご自身がいつも“原点”とおっしゃっている『アラジン』をはじめ、縁の深いディズニー関連の楽曲のほか、さだまさしさんの『いのちの理由』、さきほどお話のあった『栄冠は君に輝く』や『エリザベート』からはトートのソロ曲まで披露されていて、豪華なオーケストラ・アレンジに本当に心が震えました。やはり、これは本物のライヴ空間で聴くべきだなと改めて思いました。


ありがとうございます。福岡公演では新曲『誰が為』もフルオーケストラ・バージョンで聴いていただけると思います。これもリリースする時のアレンジとは全く違いますので、楽しみにしていてください。


──『誰が為』は作詞が御徒町凧さん、作曲が宗本康兵さん、“コロナ禍の中、部活などを頑張っているすべての学生たちへのエールソング”ということで、『栄冠は君に輝く』との背景的なつながりも感じられる楽曲になっていますね。


はい。弟のつてで去年高校3年生だった子たちに話を聞く機会があったんですね。そこには御徒町さん、康兵さんにも参加してもらって。甲子園球児だけじゃなく、吹奏楽部や他の部活の子たちだってそう、コロナ禍で自分の夢が叶わなかった学生たちの想いを乗せて、次の世代に託すような…それこそ『栄冠は君に輝く』の令和バージョンみたいな楽曲を作りたいなということで、彼らのいろんな想いを聞きながら、みんなでインスピレーションを膨らませていきました。


▷新曲『誰が為』は8月11日リリース。
カップリングにはお笑い芸人・3時のヒロインとコラボレーションした『僕のヒロインになってくれませんか? feat.3時のヒロイン』を収録。コメディ・タッチのウキウキ・ソングに思わず笑みがこぼれちゃう?!


──では、最後に今回のツアーや今後の活動に対する展望をお願いします。


『モーツァルト!』のときもそうだったんですけど、今でも急に“明日から中止”と言われる可能性はあるわけで、それこそ感染者が出たら、その時点で終了という恐怖心は常にあります。でも、それでもやっぱり…たとえこの公演が最後だと言われたとしても、自分としてはやりきった、本当にいいステージだったと思えるような公演を日々目指して、1日1日、1回1回を常に“この瞬間しかないんだ!”と思いながら、ひとつずつ積み重ねていけたらなと思っています。コロナ禍を経験しているからこそ、本当に今、ステージに立ったときのこの景色、お客さまの前に出れるということの大切さを強く感じているので。“この先”というよりは今、目の前にあることに集中して、最高のパフォーマンスをして、いいコンサートにする。それだけが目標です!

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LIVE INFORMATION

billboard classics 山崎育三郎 Premium Symphonic Concert Tour 2021 -SFIDA-

2021年7月8日(木)
福岡サンパレスホテル&ホール

PROFILE

山崎育三郎

1986年1月18日生まれ、東京都出身。1998年、12歳でミュージカル『フラワー』の主演・初舞台を踏んだ後、アメリカへの留学経験などを経て、2007年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウス役に抜擢。以来、本文出の作品のほか『ロミオ&ジュリエット』『ミス・サイゴン』『レディ・ベス』など多数の作品に出演。ミュージカル界を牽引する“プリンス”として多くのファンを魅了し続けている。現在放送中のNHK大河ドラマ『青天を衝け』では伊藤博文役として出演。今年11月20日(土)〜12月5日(日)には尾上松也、城田優との演劇プロジェクト“IMY(アイマイ)”による「あいまい劇場 其の壱『あくと』」を開催予定。