「ただいま!」の笑顔が弾けた凱旋ライヴ。
多彩な音色の共演と“Kirakira”の希望を歌って。

藤原さくら

文:前田亜礼 写真:福島啓和

「ただいま!」の笑顔が弾けた凱旋ライヴ。<br>多彩な音色の共演と“Kirakira”の希望を歌って。

Sakura Fujiwara Live 2021 SUPERMARKET
2021年4月18日(日)Zepp Fukuoka

 一度聴いたら忘れられない温もりを帯びたスモーキー・ヴォイスとシンガーソング・ライターとしての才能、天真爛漫な魅力も含め、デビューから6年、自身の音楽を表現し続けてきた藤原さくら。昨年10月にリリースした3rdアルバム『SUPERMARKET』では、オルタナティブ・ロックやエレクトロニカ、ヒップホップなどの要素を取り入れ、これまでにない音楽性を昇華。冨田恵一(冨田ラボ)や澤部渡(スカート)、VaVaなど、新たなアレンジャーとのコラボレーションにより実験的な冒険を詰め込んだ、“進化する藤原さくら”を見せている。

 今回は、その『SUPERMARKET』を記念したワンマン・ライヴ。東京公演に続いて、地元・福岡でのライヴということで、チケットはソールド・アウト、間隔を置いて設置された客席は幅広い世代のファンによって埋め尽くされた。

 ライヴを観る上で楽しみにしていた1つが、多彩なバンド編成だ。今回は、2019年、野外フェスに出演した際のバンド・メンバー、別所和洋をバンマスに、Yasei CollectiveとGENTLE FOREST JAZZ BANDからのメンバーで構成。ハイブリッドなインスト・バンドとビッグバンドのバックグラウンドを持つ彼らが、いつもと違ったフィールドで藤原さくらと作り上げるステージは一体どんな輝きを見せるのか、期待が膨らむ。

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 「歓声ではなく、大きな拍手をステージに」との会場アナウンスがあった後、定時を迎えると、黄緑の衣装に身を包んだ藤原がメンバーと共にステージに現れた。中央にはピアノ、ウーリッツァーが置かれ、気心の知れたメンバーと醸し出す雰囲気は温かだ。

 「おかえり」の拍手に包まれると、オープニング曲は、ステイホームの日々について綴った『生活』。キーボードの静かなイントロから、ベース、ギター、ドラムが重なり、やがてホーン隊が合流するアップ・テンポな楽曲を、藤原は客席を見つめながら、ヒップホップ調で軽やかに歌い上げる。レイド・バック感がたまらない『Waver』、ロック・リバイバル的な懐かしさを感じる『Ami』と変化に富むアルバム曲が続くと、タンバリンに合わせ、客席から手拍子が巻き起こった。

 「みなさん、ただいま!楽しみにしていました。今日は楽しんでいってください」の言葉とともに、『Sunny day』、『「かわいい」』とアップ・テンポな名曲たちを続けて披露。グルーヴをまとめ上げるリズム隊にのせて、ホーン、間奏のピアノ・ソロやフルートの音色など、弾ける演奏にヴォーカルが明るく響くと、リズムに合わせて体を揺らす人が増え、会場のテンションも上がっていく。

 「福岡のみなさん、ただいま。1年半ぶりのワンマン・ライヴ、久しぶりに帰ってきたら、会場の周りもめちゃくちゃ変わってました。まだここがホークスタウンだった頃は、実家からこの辺の海まで自転車で来てたりしてたんですよ。いろいろありましたが、ここでこうやってライヴができる日が叶って嬉しいです」。地元ネタも飛び出し、オーディエンスとも心がほどけると、ここからは『marionette』をはじめ、低音のヴォーカルが際立つ、しっとりとした楽曲を展開。クラリネットやギター・ソロが印象的なジプシー・ジャズ『spell on me』まで、あどけなさが抜けた、安定した歌唱力で“魅せる”ステージを繰り広げた。

 中盤はメンバー紹介から。バンマスを務める元Yasei Collective / GENTLE FOREST JAZZ BANDの別所和洋(Pf,Org)、Yasei Collectiveから中西道彦(Ba)、斎藤拓郎(Gt)、松下マサナオ(Dr)に加え、GENTLE FOREST JAZZ BANDからはサックス、クラリネット、フルートなどを担う大内満春(Sax, Cl,Fl)、シンセやフリューゲルホルンなども担当する佐瀬悠輔(Tp,Acc)を迎えた総勢6名。前半を経て、すでに多彩な楽器の数々を操るマルチ・プレイヤーたちが、藤原の魅力をより輝かせていることの素晴らしさを存分に感じさせる。

 好きなラーメン店の話題でひとしきり盛り上がったところで、後半はアコースティック・ギター一本で歌う『楽園』から、藤原の奏でるピアノに合わせ、息の合ったセッションへと突入。重なり合う7人7色の音色グラデーションが会場中をフルに満たした後は、そのままのテンションで、ファンク・チューン『Super good』へ。タンバリンを手にした藤原は、ステージを左へ右へ、やっと会えたファンとの距離感を縮めるようにパフォーマンスを繰り広げた。

 別所によるピアノの速弾きを筆頭とする超絶プレイに圧倒された『BPM』から、後半はスロー・ダウンし、また違う藤原の音世界へと誘われていく。ピアノ・トラックと英詞が溶け合う切ない『Right and light』、ダイナミックな世界観で心震わせる『The Moon』と続くバラードで惹きつけ、エンディングはアコースティックの世界へ。心地よいテンポを刻む『赤』から狂おしさが伝わる『Cigarette butts』と、タイプの異なる楽曲ながら見事に歌い上げた。

 「ありがとうございました!故郷の福岡に錦を飾れるようにがんばりますので、これからも応援よろしくお願いします。また会いましょう」。藤原らしい気取りのないメッセージを届けると、ラストは『ゆめのなか』。10代の頃に書いた楽曲だという。

まっすぐに生きてたいな 笑いたいな いつか見た夢の中の二人みたいに

サビの歌詞が、これまで歩いて、つくってきた道のりを想像させる。過去のインタビューでは、地元ライヴにはいつも家族や友人、学校の先生など親しい人を招待していると話していたが、今日もきっと、愛すべき人たちが彼女の晴れ舞台を見守っていることだろう。

 止まない拍手は、すぐにアンコールの手拍子へと変わり、メンバーが再登場。マイクを手にし、藤原はこう話し始めた。「今は前と同じような生活でなく、リモートだったり、これまでと違って、なかなか前に進めなかったり苦しい状態だったりしますが、捉え方次第で元気になれる、少しでもそういう楽しみを届けられたらいいなと思って作りました」。そんな願いを込めて、本ライヴに向けて作ったという新曲『Kirakira』を披露。コーラスやハンドクラップのサンプリングをベースに、ピアノ、フリューゲルホルンによる軽快なメロディ、まるで春の陽光のような歌声が響くと、藤原の思いに応えるかのように拍手が鳴り響いた。最後はホーン隊の温かな音色が際立つ『Twilight』。ふくよかな空気感に包まれ、みんな笑顔でステージを後にした。

 それにしても、これだけ多様な表情を持つ楽曲を物ともせず歌い上げる様は、圧巻だった。今作で新たな音楽的試みを咀嚼し吸収した分、多面性が増し、その輝きに驚かされたステージだった。「『SUPERMARKET』はたくさんの楽器が入っていることも魅力で、今回のライヴもメンバーみんなの力があって実現できました」と感謝を述べる場面もあったが、このツアーのために、バンド・メンバーとは3日間のリハーサルが行われたという。メンバーもまた初披露の楽器を含め、個の表現とバンドとしての一体感を分かち合う、この上なく素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。

 いつもと違う日常が繰り返される中、この日のライヴは、ざわついた気持ちを鎮め、多幸感に浸らせてくれた最高の心の充電になったにちがいない。まさに“Kirakira”な時間と感動をプレゼントしてくれた藤原さくらと、公演の実現に携わったすべての人へ「ありがとう」を伝えたい。

【SET LIST】
M1. 生活
M2. Waver
M3. Ami
M4. Sunny day
M5.「かわいい」
M6. marionette
M7. コンクール
M8. Monster
M9. spell on me
M10. 楽園
M11. セッション
M12. Super good
M13. BPM
M14. Right and light
M15. The Moon
M16. 赤
M17. Cigarette butts
M18. ゆめのなか


En1. Kirakira
En2. Twilight

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PROFILE

藤原さくら