バンドへの憧憬と
バンドの原風景
共鳴する音と人
LET IT BEA <06.27>
文:山崎聡美
撮影:勝村祐紀
LIVE REPORT

「LET IT BEA」
サニーデイ・サービス / MONO NO AWARE
2026年6月27日(土)FUKUOKA BEAT STATION
BEAがオーガナイズするイベント《LET IT BEA》の第3弾が、梅雨のど真ん中、曇天を蹴り上げ雨雲を蹴散らすラインナップで開催された。昨年10月のHedigan’s×YOGEE NEW WAVESに続いてのツーマン企画、しかも今回は対極的な2Days。まずはDay1、互いにプリミティヴなバンドのエナジーと歌言葉で心震わす、MONO NO AWARE×サニーデイ・サービスの模様をお伝えしたい。

先攻のMONO NO AWAREは、タイムリーに『マンマミーヤ!』で幕開け。推進力の高いビートとエキセントリックなギター、独特の韻律を宿す求心力のある歌が成す、飄々としてなおポップなバンド感が、見る見るうちにフロアの熱気を高めていく。間奏明けの第一声、玉置周啓(Vo.& Gt.)の「レット・イット・ビ~~~!」というタイトルコールに歓声が上がり、直後に続いた《2段熟カレー♪》のフレーズとの落差に思わず笑ってしまう。グルーヴィーなアウトロから息つく間もなく急進的なギターリフでなだれこんだ『井戸育ち』の清冽さが胸をすく。デビュー盤収録の人気楽曲であり、ライヴへのアグレッシヴな姿勢を象徴するようなエモーショナルな2曲に続けて、さらに手綱を締めて放たれたのは最新シングル『のびしろ』。冒頭のアジテイトなコーラスから情緒あふれる大サビまで緩急自在の展開で会場を烈しく揺さぶる。

「サニーデイ・サービスとまたやれるのが、しかも福岡でやれるのが嬉しくて、ちょっと飛ばしすぎてしまいました(笑)!一回、呼吸を整える時間をいただきます……MONO NO AWAREと申します、どうぞよろしくお願いします!」
フロアを沸かせるMCに(わかる!わかるよ!飛ばしちゃうよね!やっぱり飛ばしてたんだね!)と心中でブンブン頷いていると、その思い入れの強さを玉置がますます吐露。
「福岡は半年ぶりで、前回のワンマンの時に『よかったらまた福岡でやりませんか』と奇跡的に声をかけてくれる人(本イベント制作担当)がいて。しかもサニーデイ・サービスと、って、ええ⁉今度東京と大阪でやるんですけどそんな何回も対バンしていい人たちなんですか?!(そんなはずないだろ!!)って感じでした、本当に。俺としてはこの1〜2年ずっと、ライヴはサニーデイが一番、もうヤバいなと思っているので……一緒にできて光栄です」

憧憬と迸る情熱をのせて披露したのは『かむかもしかもにどもかも!』。切れ味鋭いアンサンブルに反復される早口言葉で圧倒的なゲシュタルト崩壊!一瞬にしてダンスフロアと化した会場は壮観。はちきれんばかりとなったところへ爽快なロックンロール『ゾッコン』を軽快に投下。竹田綾子(Ba.)と柳澤豊(Dr.)の心を掻き立てるような獰猛なビート、加藤成順(Gt.)の狂気じみたリフが身体中を駆け巡り、続けてその疾走感が起こす風を受けすっくと立ち向かうような『風の向きが変わって』のメロウさが胸に染み入る。



「話すこと、最初のMCで全部言っちゃったなぁ。絞り出そうとすると嘘ついちゃうから、次の曲に近いワードを拾って曲の入口になる時間にしよう」と、ライヴ前に受けたという大学生によるインタビューを引き合いに出しながら「若さってものにグッとくるってことは相対的に俺も年取ったってことかと思いつつ、でも、年相応の若さとか楽しさとかあると思うんで……うん、楽しくやろう!」──収拾をつけようとしてオーディエンスの心をますます掻き乱す迷MCを受けたのは『夢の中で』。繰り返される転調の中でその混沌さや摑みどころのなさを表現するアンサンブルの揺れ、蠢きが美しい。さらに、ノスタルジィを呼び起こすようなフォーキーなメロディーでありながらその実のリアリティー、生活を柄としたオルタナティヴな展開、《ふるさとは帰る場所ではない》というコーラスラインの妙も冴えた『東京』、ネイキッドなサウンド感で普遍的なメロディーを讃えた『言葉がなかったら』と、見事に“もののあはれ”を体現してみせた。


「この後はサニーデイ・サービスがヤバいと思うので、僕もお酒飲みながら楽しく観たいと思います。今年は楽しさ優先で生きようと思ってます。今日は本当にありがとうございました!」

ラストは、白眉のグルーヴを生んだ『同釜』。プログレのような歪んだベースのリフを中心に据えたサイケデリックな展開、ラップ調の歌を含めバンド全体が音そのものとして無限大の、無形の何かを創ろうとする意志を激しく躍動させていた、いや、爆発させていた。和洋折衷の広いフィールドを行ったり来たりはみ出したり、曲がりくねった道を突っ切ったり、真っ直ぐに延びる道を蛇行したり。私たちが最後に目撃したのは、MONO NO AWAREというバンドの不可避の変化、彼らが手にした可能性と自由の圧巻の破壊力だった。

そして、玉置の「一番ヤバいライヴ」というこの上ない称賛を受けて登場したサニーデイ・サービス。ジャラン…と、ごく静かに鳴らして歌い出した1曲目は『baby blue』。ほぼ30年前のセルフタイトル作、その冒頭を飾った楽曲が、なぜ生まれたてのような、滴るほどのみずみずしさを放つのだろうか。…というのは序の口で、いや、というより愚問だった。だってサニーデイはこの日の1時間という持ち時間を、ひたすらに躍動し続け、キラキラと、時にギラギラと、輝き続けていたのだから。どんな一音も疎かにせず、丁寧に、時には豪胆に鳴らして、紡いで、その先に煌めいて響く音楽のみずみずしさと澱みのなさ、歌の圧倒的な求心力、バンドそのものの歓喜を、私たちは会場一体となって味わった。ミスター・ライヴ・フォトグラファー=勝村氏の写真を見てもらえればわかるとおり、溢れかえっているんだ、閉じ込められないんだ彼らのエネルギーは。



「こんばんは、サニーデイ・サービスです!福岡のみんな来てくれてありがとーーー!オン・ベース、田中貴!55歳になりました!“田中”って普段呼んでるけど僕より年上なんでホントは“田中さん”って呼ばなきゃいけないね」(曽我部恵一)
「2か月も、オッサンなんで」(田中貴)
「誕生日だから昨日一緒にゴハン食べに行ったんだ、ラーメン!おいしかった~。で、田中さん、冷し中華は好きですか?」(曽我部)
「冷し中華、好きですよ」(田中)
「『冷し中華』という曲をやります!」(曽我部)
恐らく1分にも満たない、インターバルにもならない電光石火のMCから、夏の情景をモチーフとした新旧の名曲を、さらに1997年リリースの名盤からタイトルチューンを静かに、だが確かなダイナミクスを孕ませて奏でる。多くのリスナーにとっての青春の伴走曲は色褪せぬどころかより親密さを増している。

「『愛と笑いの夜』という曲でした…オン・ドラムス、大工原幹雄!今日は早い時間からありがとうございます。MONO NO AWAREはね、さっき玉置くんも言ってたけど、最近いろんなところで一緒にやる機会があって、そろそろ師弟関係ができてくるんじゃないかと……あ、こっちが“弟”のほうね。いや~、すごいですよ、カッコイイ。いつも見惚れているんです」(曽我部)

“師”への称賛返しに続けて「久しぶりの曲を」と、アルペジオで導いたのは『月光荘』。美しいフレーズが重なり合うアンサンブル、そこに立ち上がっていく情景は、それこそ見惚れてしまうくらいエモーショナル。息をのむようにしてバンドを見つめるオーディエンス、波が押し寄せるように湧いた拍手。すべてが美しくて泣けてくる。そして、この夜のクライマックスは、ここから何度も、本当に何度も訪れた。
軽やかなドライヴ感を湛えた導入からどんどん加速して猛進する田中と大工原のビート、曽我部の凄烈なギターとの坩堝の中で、ミニマルなモチーフを普遍の願いへと昇華させた『コンビニのコーヒー』。凄まじい疾走感と狂気性を併走させてあっという間に頂点までを駆け上った『春の風』。身体の真っ芯を貫かんばかりの真っ直ぐな音、揺るぎない歌の、豊潤さと寛容さ、同時にとてつもない強度をもって全オーディエンスの最高沸点を幾度も超えた『風船讃歌』。暗転と強烈なフィードバックからのグランジィな、切迫感に満ちたアンサンブルで、混沌を極めて切り裂き、破壊と構築を繰り返し、客席へ飛び込んでなおプレイを止めることなく、ほとんどインダストリアルにまで及ぶようなアヴァンギャルドかつ壮絶な情動を描き切った『セツナ』。


「いつもはここで終わるんだ。でも今日は、あと10分ある!」(曽我部)
『セツナ』を浴びて放心のオーディエンスの身体にただただ沁み込む、詩情に満ちた『One Day』。

「そっちはどうだい?うまくやってるかい?こっちはこうさ、どうにもならんよ。今んとこはまあ、そんな感じなんだ」(曽我部)
まさに青春、まさに狂騒、いまだに続いている胸の高鳴りをドンピシャで掬い上げ、天上にまで響かせるようなオーディエンスとのコーラス・セッションをもって締めた『青春狂走曲』。

1曲演奏する中で必ず一度はステージ上に屈強なトライアングルができたり、曲が進むほどにテンポが上がって音がデカくなって時には割れたり、それでも曲は破綻するどころかどんどん研ぎ澄まされてとんでもなくパンキッシュな最終形になったり、ステージ上で邪魔になったギタースタンドなんかを躊躇なくポイしちゃったり、中央で見合わせる3人の顔が破裂しそうなぐらいの笑みを湛えていたり──30年越しのバンドが凡そしなさそうなことを、サニーデイ・サービスは当たり前のようにやる。徹底的にやる。そこにあるのは、原初的なバンドの歓び、それだけで、だから私たちは彼らと共に過ごす時間を、最上の歓喜であると身体中で感じるし、生きていくことそのものの尊さに重ねてしまう。鳴りやまないアンコールに応えて披露してくれた『胸いっぱい』の昂揚の中、終演後のBGM『LET IT BE』が流れる中でもハンドクラップは止まなかった。あれは、どうしてももう1曲聴きたいという欲じゃなくて、MONO NO AWAREも含め今日ここで共に生きたという実感をどうしても届けたかったオーディエンスの鼓動だったんだと思う。LIVEとLIFEが地続きの二組だからこそ叶った、掛け値なしに素晴らしい一夜だった。




【SET LIST】
<MONO NO AWARE>
M1.マンマミーヤ!
M2.井戸育ち
M3.のびしろ
M4.かむかもしかもにどもかも!
M5.ゾッコン
M6.風の向きが変わって
M7.夢の中で
M8.東京
M9.言葉がなかったら
M10.同釜
<サニーデイ・サービス>
M1.baby blue
M2.青空であること
M3.冷し中華
M4.あじさい
M5.愛と笑いの夜
M6.月光荘
M7.コンビニのコーヒー
M8.春の風
M9.風船讃歌
M10.セツナ
M11.One Day
M12.青春狂走曲
EN.胸いっぱい
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