色褪せない、眩しい季節を喚起する 
澱みない音楽の歓喜にあふれたはじまりの一夜。

Homecomings

文:山崎聡美
写真:勝村祐紀

色褪せない、眩しい季節を喚起する <br>澱みない音楽の歓喜にあふれたはじまりの一夜。

Homecomings TOUR 2022『Somewhere In Your Kitchen Table』
2022年2月22日(火)福岡INSA


家や故郷が、誰にとっても居心地のいいものとは限らない。けれど、自分の“帰りたい場所”を指して“家”あるいは“故郷”と呼ぶのならば、数多の寡黙な音楽ファンにとってHomecomingsは、文字通り“我が家”となりうる存在だと思う。聴けば、もつれた糸がほどけるような安堵感と、乾いた大地に雨が染み透るような静かな充足感に満たされる。この夜、お腹に飲み込んだ言葉や心の深くに沈めた感情、日常の、平熱の暮らしのなかにこそ生まれる迸りや昂りを喚起する彼らの演奏に触れ、Homecomingsというバンドの存在をあらためて尊く感じた次第である。


「ずっとやりたいなと思ってきたことが、やっと今日からはじまります」


待ちに待った、3年半ぶりの全国ツアー初日の福岡公演。このライヴを万端見届けるため、分かち合うために、いろんな都合をつけて集ったオーディエンスの眼差しがまっすぐステージに注がれるなか、緊張と歓びをまとい登場した4人が定位置につく。こそばゆさを包んだ「Homecomingsです。今日は存分に楽しんでってください」と呼びかけた畳野彩加(Vo,Gt)の声に、聴き馴染んだイントロが続く。軽快なリズムに導かれて一気に景色が動き出す。それは、日の光に誘われ、春風に乗って自転車を漕ぎ出すような、スムースで、とても快いオープニングだった。


「福岡に来たのは3年ぶりぐらい?福岡はおいしいごはんがたくさんあるので、毎回すごい楽しみにしてて。今日、無事に来れて、ほんとうにうれしいです」

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昨年5月にリリースされたメジャーデビューアルバム『Moving Days』と、前作『WHALE LIVING』の収録曲を中核として、過去作からの嬉しい驚きを感じさせるピックアップもあり、現在のHomecomingsを伝えるに過不足のないセットリスト。最近作の新曲はもちろんのこと、初期作品群でも、疾走感やみずみずしさはそのままに、福田穂那美(Ba,Cho)と石田成美(Dr,Cho)による大きなうねりと抜群のドライブ感、躍動感を獲得したアンサンブルは、これまでよりさらに寛く、豊潤な演奏をもって、眩しい季節の輝きを鮮やかに描き出す。新旧の楽曲をつなぐバトンとなっていた『Songbirds』では、教会の鐘の響きを思わせる福富優樹(Gt)のギターが、音楽に託す祈りそのもののようなやさしいリフレインを放つ。音符を慈しむような畳野の透き通った伸びやかなヴォーカルと、福田&石田の清々しく優美なコーラスワークとのハーモニーが、波紋のように広がって会場を満たしていく。同時に、澱みなく純粋な音楽的歓喜が胸に満ちていっぱいになる。


中盤では、シャムキャッツとのカップリングツアーで初来福したときの思い出話にはじまる、福岡の食ネタと街ネタ満載のMCも。〈天麩羅処ひらお〉を4人で満喫した話から、福岡のシンボル施設のひとつであるアクロス福岡を「〈そじ坊〉があって〈杵屋〉があって〈ひらお〉がある。シムシティみたいな夢の街」だと、福富が嬉々と語る。そして、前回ライヴの際の苦いエピソードも暴露して微妙な空気を醸し出すのも福富である。弟ポジションの憎めないキャラクターっぷりとその姿をおだやかに見守るメンバーたちの絶妙な表情に、会場中から爆笑ではなく失笑が広がるシーンも、ホムカミライヴにおける見物(みもの)のひとつだ。


印象深かったのは、忘れ得ぬ町の情景を綴った2曲。「みんなの住んでる町、僕らの住んでる町。それぞれの町にそこに住んでる人にしかわからない良さがあって、なんでもない景色がすごい宝物になる」という福富の言葉に次いで奏でられた、『Blanket Town Blues』『Smoke』だ。まるで、彼らの音楽の精髄を丁寧に取り出したような、実に滋味豊かで美しい音像だった。畳野が零すアコースティックギターのやわらかな音色と、福富が愛おしげに奏でるアルペジオ、揺蕩うような大きなグルーヴに立つ澄み切った歌の凛々しさを、わたしはこの先も忘れられないだろう。


英米フォークやネオアコ、オルタナティヴ等の多様な音楽を糧とし、連なる先人への憧憬と畏敬の念をもってバンドに昇華してきた彼らの多層的なサウンドは、ライヴが終盤へと進むに連れ、遠く離れた町や過ぎ去った時間、失ったものへの惜別、変わらぬ願いや未来という希望へのイマジネーションを、さらに幾重にも孕んでいったように思う。そして、オーディエンスの一人一人が胸に留める景色と重なり響き合って、繰り返される人間の営みのなかで決して色褪せることのない普遍的な情景──眩しい季節の、はじまりや歓びだけでなく、終わりの寂しさや安らぎ、続いていくことの切なさや怖さ…さまざまな感情が綯い交ぜになった、名付けようのない心の揺らぎ──を屹立させる。その美しさとかけがえのなさこそが、“ここではないどこか”ではなく、“ここ”で生きている実感(あるいはここで生きていくという覚悟)を求める者の拠り所であり、冒頭で述べたとおり、やはり帰るべき場所たる所以なのだ。ラストに据えられた曲の必然に、あふれたのは歓びだけではなかった。


ツアーはHomecomingsが生まれた町・京都や、思い出の地・苫小牧などを経て、4月2日の東京公演まで約1か月続いていく。それぞれの場所でバンドが何を感じ何を発するのか。各地のオーディエンスにぜひとも見届けてほしいところである。



<NEXT LIVE>
Homecomings TOUR 2022『Somewhere In Your Kitchen Table』
3月19日(土)名古屋 CLUB QUATTRO
3月20日(日)大阪 十三 GABU
3月24日(木)仙台 enn2nd
3月27日(日)札幌 BESSIE HALL
4月2日(土)東京 LIQUIDROOM


Smoke
3月26日(土)苫小牧 ELLCUBE(Homecomings / NOT WONK)


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