『丈夫な私たち』[DISC REVIEW]

ハンバート ハンバート

『丈夫な私たち』[DISC REVIEW]

《私たちはしぶとく歌う》
ハンバートの覚悟と魂の在り処

ちょうど1年前にリリースした企画カヴァー盤『FOLK 3』をはさんではいるが、オリジナルとしては2020年リリースの『愛のひみつ』以来、11枚目のフルアルバムとなる。全12曲で構成される本作『丈夫な私たち』は、ひとが個体として根本的に抱える、生きることの難しさやさみしさを受け容れるところからはじまる歌であるという点で非常にハンバートらしく、同時に、多彩なアレンジによる豊かなサウンドメイクはこれまで以上の聴きどころだ。

先ず、世界で最も寛容なアイリッシュのパンクとフォークに則って、《生きものも生きていないものも/連れて帰ってくる》《ただいまって戸を開けると/また別の顔がいる》と、ヒューマニズムに寄りすぎずユーモアを織り交ぜて母なる大地を謳う、懐深く逞しい『うちのお母さん』から、快いロックンロールのリズムと瞬発力、バンド感の効いた『もうくよくよしない』へとつなぐ。なんとも軽快なオープニングだ。一転、続く『ふたつの星』では茫漠たる宇宙のように穩静なバンドサウンドを背景に、寄る辺ない心のひとつひとつに呼びかけるように歌う。春の嵐みたいな激しさとやさしさとさみしさを孕んだ風を起こす『君の味方』や『朝なんて来なければいい』では、真骨頂とフォークの真髄もさらりと掬い取り、聴かせてしまう。

後半では、旋律の転回とサウンドアレンジの巧みさに昂揚が満ちる『黄金のふたり』、ユーモラスな心情の描写に真理が満ちる『私のマサラ』、佐藤良成のリードヴォーカルによるみずみずしい疾走感に満ちたギターロックが新鮮な『岬』と、今現在のハンバートの妙味をたっぷりと堪能。そして、クライマックスにはいずれも壮大なスケール感と圧倒的な歌の力にあふれる3曲が並んだ。ハンバートの歌はいつもそうなのだけど、その眼差しが自身の感情ではなく他者への祈りに向かうとき一気に熱を帯びる。それが顕著な『旅立ちの季節』。インタールードから大サビに向かって極まるフィドルと歌のハーモニーが渦をつくり磁場を生む『返事を書こう』。透明感と力強さを併せ持った佐野遊穂のヴォーカルが、まるでオーロラのような神秘性をもって広がっていく『夢の中の空』。

本作は《この時代にあらためて感じたさまざまな愛の形》がモチーフになっているという。描かれる「ぼく」と「君」は、たとえば、恋人だったり夫婦だったり親子だったり同志だったり、あるいは此岸と彼岸とに離れてしまったふたりだったり、“うちのお母さん”が連れて帰ってくる生きていないもの同士だったり。1曲1曲に立ち上がる情景、ひとつひとつの物語は鮮やかであるが、そこに生きるひとりひとりの姿は聴く者それぞれに委ねられる。即ち、そこに自身が写る。社会や時代といった全体を俯瞰した描写ではなく、どんな哀しみや困難や不条理を前にしても軽やかに、寛容に、それぞれの場所であがきながら生きる人びとに伴走するふたりの歌が、世界中の「ぼく」と「君」に届くことを願ってやまない。

“ツアー2022「私たちはしぶとく歌う」”は9月24日愛知公演よりスタート。福岡公演は11月11日電気ビルみらいホールにて。こちらも是非共に(山崎聡美)。

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LIVE INFORMATION

私たちはしぶとく歌う

2022年11月11日(金)
福岡 電気ビルみらいホール

PROFILE

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