『DOKI DOKI』[DISC REVIEW]

サニーデイ・サービス

『DOKI DOKI』[DISC REVIEW]

輝かしくて難しい日日を生き抜く
若者たちとかつて若者だった者たちへ

先日、新作『Tough Layer』のリリースツアーで来福したSCOOBIE DOのリーダー&ギター・マツキタイジロウ氏と話した際、配信リリースされたばかりだったこの『DOKI DOKI』に「とても刺激を受けている」ことを聞いた。曰く「サニーデイのまま、変わらないまま、だけどすごく新しい」と。長くひとつのバンドを継続させている彼にとっても、それは望む音楽の在り方なのだろう。

サニーデイ・サービスとして通算14枚目のオリジナル・アルバム『DOKI DOKI』。

赤い風船と青い海のコントラストを背景に、揺るぎない強度をもつ《歌》が陽の光のように射し込む。希望を手離さないように、悲しみに溺れないように。願い、祈ることそのままの『風船讃歌』をパイロットとした全10曲。フォーク・ロック・ミュージックの源泉から湧き出すように豊潤で、澱みなく、突き抜けるほどにポップ。軽快だが軽薄さは微塵もなくて、暗雲を蹴り上げ靄(もや)を蹴散らし、視界を一気に広げてくれる。同時に聴くそばから、自分がこれまで辿った情景が、色褪せることなく即ちノスタルジーとしてではなく、今につながり支える物語として鮮やかに立ち上がる。真剣に人間生活を営むほどにあふれでる可笑しみとか、憧憬ににじむ哀愁とか、どうしようもなくこぼれてしまう総てのトラジコメディーが、本当に次から次へと。

ネオアコからギターポップにわたる煌めきと清々しいコーラスワーク、疾走感に託された『ノー・ペンギン』の憂鬱と喪失、それを引き受けてなお生き抜くためのエモーショナルなギターサウンドを鳴らす、王道パワーポップも真っ青の『Goo』、《ルチャ・リブレ》《ヒュルリルララ》の語感にすら醸成された憧憬が匂い立つ『メキシコの花嫁』。《365日ずっと雨が降るおかしな星》の哀しくも愛すべき情景にソウルと滋味が満ち満ちる『ロンリー・プラネット・フォーエバー』や、苦くて輝かしい日日の一瞬一瞬ーー《Everyday is a New Day》ーーが愛おしくてたまらなくなる『サイダー・ウォー』。ロック・ミュージックの歴史と愛と未来を一緒くたに背負ってなお軽やかな『海辺のレストラン』に、ロックンロールへのラブレターの極め付き『こわれそう』。そしてラストは、青春の現代詩であると同時に、ロックやパンクの原風景を宿す歌詞(リリック)として昇華された『家を出ることの難しさ』。

《神様の震える手 雪の白さには注意して/皆既月食のいじらしさ 家を出ることの難しさ》ーー寄せて返す波のようなメロディが、若者たちとかつて若者だった者たちの、生きることの困難を掬って土に還す。本作を彩ってきた寛容なグルーヴと真っ直ぐなビートは昂りを増し、見果てぬ夢への道なき道に確かな轍を刻んでいく。この曲をもって本作を聴き終えたとき、あなたはきっと、ほんの少しだとしてもきっと、元気になっているはずだ。元気になったら、あふれてくるだろう予感とともに、リリースツアー“サニーデイ・サービス TOUR 2023”へ。福岡公演は2023年3月19日(日)、BEAT STATIONにて開催。ぜひ、ともに。(山崎聡美)

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LIVE INFORMATION

先行あり

サニーデイ・サービス TOUR 2023

2023年3月19日(日)
福岡 BEAT STATION

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