『いま』[DISC REVIEW]
原田郁子
COLUMN
15年ぶりのソロ・アルバムは
言の葉、音の波、谷川俊太郎との対話。
『銀河』という曲が生まれた後、
ほんとうにつくりたくなるまでは、
もう新曲をつくらなくていい。
そうして15年、生の表現にすべてを賭けてきた彼女。
コロナ期間中は、もどかしさを抱えながら
出口を求めるような気持ちで自宅での宅録を始めた。
ピアノの弾むメロディーとリフレイン、口ずさむまぁるい声、
スキャット、オノマトペ、合唱、心臓の音、呼吸、朗読……
やがて、ライヴで感じてきた到達点とは違う扉から
彼女の音楽はそっと生まれてきた。
まるで子どもの頃に戻るかのような感動をつれて。
映画や舞台、ムック本のコンテンツ曲など
多様なソロ・ワークスとして誕生した全8曲。
なかでもアルバムの核となる、谷川俊太郎との共作『いまここ』は、
2年をかけて完成させた11分半の大作だ。
0歳から91歳までの声をフューチャリングし、
エンディングパートではrei harakamiがかつて創った音楽がサンプリングされている。
人間が生みだす「創造」とはなんと素朴で尊いものなんだろう。
音楽とは、望めば、宇宙にも日常にも光にも暗闇にもなって、
たとえ、ぽっかりなくなったように見えても、
「いま」、「ここ」でつながれることを気づかせてくれる。
(前田亜礼)
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