『式日散花』[DISC REVIEW]
ドレスコーズ
COLUMN
散る花に寄せて
めくるめく歓びの季節のあとの式日に捧ぐ
元来「式日」とくれば「賛歌」。よろこばしい祝福の日である。が、そんなものはもはや過日。ニンゲンは呪いのような日日を繰り返し花を散らす。生々しい響きを冠し、そんな世界で生きる“ぼくら”の真理に迫る全10曲(本編9曲+ボートラ1曲)。通算9枚目のオリジナルアルバムとなる。ジャケットおよびアートワークのイラストは、前作『戀愛大全』と同様に漫画家・不吉霊二が本作のために描いたもの。
本作において志磨遼平がその生身を捧ぐのは、いずれも強度のあるポップ・チューンである一方、弾倉にこめられているのは閃光のようなパンク・アティテュード。時に、底の抜けた悲しみが暴力に転化されるように、『ラブ、アゲイン』にはじまる前半は非常にエモーショナルでアジテイトな音やフレーズにあふれる。めくるめく季節の追憶に溺れるような『少年セゾン』には、前作からつづく物語の眩しさも。マヌーシュ風味の『メルシー・メルシー』をはさんだ後半では、背徳的な甘美さをまとわせつつも空疎な視線が胸を衝く。奏でられるのはついえていくもののあわれ、刹那の悦び、痛みの中の癒やし。的を射ないというか、敢えて的を外すような調子っぱずれさでボロボロとくずれこぼれていく心のかけらを思わせる。
『戀愛大全』の最後の曲は、モノローグに近い、ピアノだけを伴ったバラッド──過ぎ去っていく歓びの季節への憂いであり、しずかな愛の終局だった。本作のラスト『式日』では、すべての命に終わりがあるように、新たな出会いを《死のはじまり》ととらえ、バンドのアンサンブルのダイナミズムに充ちたエンディングでその終焉を聴き手に委ねる。最後の式日、あなたはどんなふうに花を散らすだろうか。
なお、映画監督・山戸結希が手がけた、まさに“劇的な”という形容の能うミュージックビデオ三部作『最低なともだち』『少年セゾン』『襲撃』がBlu-ray収録され、購入特典として本作に付属されている。
リリースツアーは10月に敢行、九州は10/13(金)に福岡・BEAT STATIONにて。本作のコアがどうステージに発露されるのか、興味は尽きない。(山崎聡美)
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