『Luminescent Creatures』[DISC REVIEW]
青葉市子
COLUMN
![『Luminescent Creatures』[DISC REVIEW]](https://beavoiceweb.com/wp-content/uploads/2024/08/IchikoAoba_AP2024_s.jpg)
微細な、けれど確かな発光生物の輝きに
青葉市子が見いだすもの
前作『アダンの風』から約4年ぶり、8作目となるオリジナルアルバム『Luminescent Creatures』が、2月末日、待望のリリースとなった。いまや世界中に熱心なリスナーをもつ青葉市子の、デビュー15年を超えてなお創造的なマスターピース、そして地平線のように世界を結ぶ作品の誕生だ。
共同制作者に梅林太郎、録音&ミックスに葛西敏彦、マスタリングにオノ セイゲン、アートディレクションに小林光大という前作から引き続いての布陣。水谷浩章率いるストリングス隊、角銅真実(パーカッション)、多久潤一朗(フルート)、朝川朋之(ハープ)という幽玄な音楽家との共演で幕を開ける、全11曲。そこには、本作のモチーフである“発光生物(Luminescent Creatures)”たちの交わす囁き、深海によく似た圧倒的な未知が広がっていた。
波照間島の伝承歌(民謡)を土地の記憶や精気もろとも歌い継ぐ『24° 3′ 27.0″ N, 123° 47′ 7.5″ E』、先住の生き物たちから託された真理が満ちる『mazamun』……果てない未知を探るように聴き進んでいくうち、世界はさらに渾然として深まりはじめる。上質で精緻なサウンドデザインが徹底されているにもかかわらず、青葉の音楽は自然と一体化する。というより、自然の音に限りなく近いように感じられてしまう。風の音、波の音、鳥の声、葉擦れ、枝のしなり、星のさざめき、木漏れ日の瞬き、深海魚の呼吸。それは数多の生物のひとつとしての境目ない感覚が彼女の音楽世界に開かれている証かもしれない。研がれた彼女の言の葉にも音にも、装飾的な用途は一切なくて、ただ彼女の内側の揺れ、細かな襞(ひだ)を震わすものだけが、時に荘厳に、時に静謐に、丁寧な手仕事のような尊さを以て紡がれていく。発光生物の微細な、けれど確かな輝きに見いだした、太古から現在へと地続きの生命力。本作はまさにそこから吹き上げる喚起の風であり、青葉が私たちに託す祈りでもあるのだろう。(山崎聡美)
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PROFILE
青葉市子
音楽家。自主レーベル “hermine” 代表。2010年のデビュー以来、8枚のオリジナル・アルバムをリリース。“架空の映画のためのサウンドトラック”『アダンの風』は、アメリカ最大の音楽コミュニティサイト Rate Your Music にて2020年の年間アルバム・チャート第1位に選出されるなど、世界中で高い評価を得る。2021年から本格的に海外公演を開始し、数々の海外フェスにも出演。2024年10月、新作アルバム『Luminescent Creatures』のリリースに先駆け、World Premiere 公演を開催。2025年1月にはデビュー15周年を迎え、東京・京都で記念公演を行う。2/28(金)には約4年ぶりとなる新作『Luminescent Creatures』をリリース。現在は、2/24(月)香港公演を皮切りに、キャリア最大規模となるワールド・ツアー <Luminescent Creatures World Tour> を開催中。アジア、ヨーロッパ、北米、南米で計41公演(本日時点)を予定。今後、北欧、オセアニアでの公演も予定されている。さらに、来年3月には数々の伝説的なコンサートが行われてきた英国ロイヤル・アルバート・ホールでの単独公演も決定!FM京都 “FLAG RADIO” で奇数月水曜日のDJを務めるほか、文芸誌「群像」での連載執筆、TVナレーション、CM・映画音楽制作、芸術祭でのパフォーマンスなど、多方面で活動している。