『And look back』[DISC REVIEW]
Ryu Matsuyama
COLUMN
ボーダレスに描き出す多層の情景、多彩かつ深遠なサウンドスケープ
多様な客演にも注目。
イタリアで生まれ育ったRyu(Pf,Vo)を中心としたピアノトリオ(バンド名はRyuの本名である)から、2ndフルアルバム『Borderland』以来約1年半ぶりとなる新作EPが届いた。そのサウンドスケープは過去作にも増して多彩かつ深遠で、歌の訴求力にも満ちた佳作である。
『Debris(デブリ)』と冠されたオープニング、海原を漂い水中を浮遊するあらゆる事・物のカケラを思わせるアンビエントなインストは、終盤、大地を踏みしめるような力強いドラムのビートを迎え、クワイアと管楽器による清冽にして雄大な、生命力と躍動感を湛えた『From the Ground』へとつながっていく。同曲と5曲目の『Under the Sea』には関口シンゴが編曲プロデューサーとして参加。前作でプロデューサーとして迎えたmabanuaとOvallで活動を共にする関口のピンポイントでの起用は、前作からの方向性を踏襲しながらもより明確なヴィジョンを見据えているからだろう。続く3曲目『Snail』は、Daichi Yamamoto(坂東祐大が手がけた、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』のED主題歌・劇伴に抜擢されたことでも話題)との共作で、彼の静謐さを湛えたラップとRyuの流麗さが心地よくシンクロ。イタリア、ジャマイカ、日本、相互のアイデンティティは単一でなく交わって多層的な心情を描き出している。共作客演ではタイの人気SSW、マックス・ジェンマナをも迎え、その艶やかなヴォーカルが彩る5曲目『Under the Sea』は冴えてファンキーなネオソウルで、こちらも十二分の聴きごたえ。そして、ラストのチルアウトトラック『Fragments』(※CDのみ収録)は安息の一曲。“Debris”が同じ“断片”の意を持ちながらも崩壊の果ての塵屑を示唆しているのに対し、この“Fragments”は再生のための大切な1ピースである。
多様な音楽を昇華したサウンド構築力、透明感あふれるフォーキーな歌心、メンバー各人の卓越して精緻なテクニックに基づいたアンサンブルの表現力。いずれも抜きん出ている。自己と対峙し、潜む闇も希求する光も自身として捉えたディープな世界観を構築しながらも、高いポピュラリティの抜けどころをもった今作は、良質な音楽リスナーの耳も心も捕らえることになるだろう。(山崎聡美)
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PROFILE
Ryu Matsuyama
ピアノスリーピースバンド。 イタリア生まれイタリア育ちのRyu(Vo,Pf)が 2012年に “Ryu Matsuyama”としてバンド活動をスタート。 2014年、結成当初からのメンバーであるTsuru(Ba)に Jackson(Dr)を加え現メンバーとなる。 2018年メジャー・デビュー。アルバム『Between Night and Day』をリリース。2020年4月mabanuaをプロデューサーに迎え アルバム『Borderland』を完成。