SPECIAL OTHERS 15周年アニバーサリーイヤーのフィナーレ
新作『Anniversary』発表 & 全国ツアー開催へ
SPECIAL OTHERS
取材/文:古城久美子
INTERVIEW
SPECIAL OTHERS(以下、スペアザ)が約2年ぶりとなるアルバム『Anniversary』を6月8日にリリース。昨年メジャーデビュー15周年を迎え、アニバーサリーイヤーを締めくくる同作は、デビュー曲をリテイクした『THE IDOL』をはじめ、13分を超えるセッション曲『Session 317』を収録するなど、15年の歩みと今をつなぐ1作になった。
──今作はコロナ禍に制作されたと思うのですが、どのように過ごしていましたか?
宮原:逆転の発想というんですかね。バンドがうまく進行しているときって、意外と退屈な時間ってないのですが、その暇を逆手にとって楽器や機材を買いまくったことで、詳しくなったのは収穫でした。
芹澤:仕事にせよプライベートにせよ、いろんな人と関わる生活がベースにある中、強制的に自分と向き合う状況になって、自分のCPUって、結構なパーセンテージが必要ないことに占められていたとわかったし、自分の中で取捨選択ができたというか。
宮原:自分に問いかけたよね。勝手に禅問答みたいになっていって、高い服いらないとかなったし、自分がどれだけ音楽が好きかって気づくという。
柳下:前作の『WAVE』を2020年5月に出した前後に、最初の緊急事態宣言でずっと家にいたことで、ミュージシャンとしてもいちリスナーとしても一旦全てがリセットされたんですよね。今までと違うフレッシュな気持ちで機材や楽器に触ることができたと思います。
──今までも新しい楽器や機材を取り入れたりしていたと思うのですが、どういうところが違いましたか?
柳下:自作キット買ってギターとかアンプを作ったりして、楽器の成り立ちまで調べたことで、違った角度から見えることってあったな。
宮原:僕はドラムだからライヴで絶対使わないのに、ウーリッツァー(エレクトリックピアノ)というすごく高価な楽器を買ったりしたのはダイナミックな変化でした。
──ライヴなどの目的がないまま、純粋に音楽を楽しんだ?
柳下:そうですね。着地点がないのに。
芹澤:商売道具じゃない楽器を買うっていう(笑)。
宮原:ライヴという目標を失って、ただの音楽ファンになりました!
又吉:僕は機材も買いたいときに買っているし、やりたいことは常にやっているから、そんなに劇的に変わったことをしたつもりはないんですけどね。動けなかったときも、いつでもライヴに臨めるようにしていたし。
宮原:まとめると、この4人の中で唯一何も変わらなかったってこと?
又吉:基本的には変わらなかったね。
芹澤:それはそれでいいよね。
宮原:いいよ。メンタル太いよ。
柳下:ただ、バンドにとってはコロナ禍の状況は結果的にいい方向に向かったということですね。電源タップとか「どっちを使うと音がよくなるんだろうか」ってところまでみんなで比較したり、時間をかけたことが糧になって、今作につながっていると思うんです。
宮原:どんなに回り道をしても、絶対に得るものがあるというメッセージを感じることができました!
SPECIAL OTHERS流イギリスロック
──実際の楽曲制作、レコーディングはいかがでしたか?
宮原:やっぱり機材で遊びまくっていますよね。セルフレコーディングをする時間があったので、ドラムの録音とか勉強したことをエンジニアさんと話して、トライした曲があったり、自分たちもスキルが上がった状態で進んだと思うんです。
──例えば、どの曲ですか?
宮原:『Yagi & Ryota 2』と『Session 317』はグリン・ジョンズのテクニックを使ってドラムを録りました。グリン・ジョンズってレッド・ツェッペリンとかビートルズの音を録っている人なんですけど、マイクをキック1本とトップ2本の計3本で録るんです。我々は4本で録ったんですけど。
柳下:通常はもっと細かくマイクを立てるんですが、だいぶ少ない本数で録るっていう。そうすると空間が感じられるんですよ。
宮原:それで生々しさが出るんだよね。こういうことにトライしたのは、もうひとつ理由があって、ロックに憧れてのことなんです。ロバート・グラスパーとか聴き飽きて、オアシスとかレッド・ツェッペリンとか聴いていたんで。
柳下:複雑な音楽からの反動もあったね。
宮原:イギリスのロックでよく使われているVOXというアンプがあるんですけど、それをフルテンで出したときの衝撃を生かしてできた曲が『Anniversary』と『Timelapse』。スペアザ流イギリスロックですね。ジャーンみたいなギターとか、惜しげも無く入れたよね。
芹澤:この時期はフェスとか行けなかったから、イギリスのバンドが大勢の前で演奏してるのを想像すると憧れたなあ。
──実際、マネスキンというバンドが世界的に話題になったり、ポップミュージックにもロックアレンジが目立ってきていたりして。
芹澤:確かに。Beabadoobeeとか出てきたのはインディーロックバンドの象徴みたいでよかったな。開放感ある風通しのいいオルタナティブなバンドって、自分にとってもそうだけど、みんな気持ちいいんだろうなって。
──さすが、アンテナがお高い。
宮原:偶然です(笑)。
芹澤:いや、必然なんじゃない?
──マーケティングで音楽をやっているわけではないですもんね。
宮原:俺ら、自分がやりたいっていうだけで人に媚びているわけではないよね。
芹澤:マーケティングみたいな市場調査したものをやってると、絶対ワンテンポ遅いし、自分の感性と向き合ったほうがいいんだよ。
柳下:そもそもミュージシャンとかアーティストは、発信する側だから、表現という意味では、当然のことで。周りに影響されないようにいきたいと思っているよね。
──『Spark joy』『Happy』のような、明るいエネルギーのある曲ですとか、『NEW WORLD』なんかも、今っぽい感覚と重なるいいタイトルですよね。
宮原:そうですね。『Happy』なんかは、3曲くらい暗い曲が続いて、その反動で明るい曲やりたいってなった結果なんですけど、『NEW WORLD』は今っぽいいろんなメッセージを発信できるなと思っていました。ただ、WORLDという言葉がついたのは、沖縄でYogee New Wavesとカラオケに行ったときに、Yogeeのスタッフがネタでアンダーワールドの『Born Slippy』を歌っていて、久しぶりに「アンダーワールドかっこいい!」と思って聴いていたからなんです。俺らの昔のセッションとか聴いていたら、今ならアンダーワールドっぽくもっていけるのかなって。
──思いきりスペアザの曲になっているので、まさかアンダーワールドのワールドだったとは。でも、近年、ダフト・パンクのリファレンスが多いのでアンダーワールドはおもしろいですね。
芹澤:確かに。アンダーワールドって言ってるの俺らくらいかもしれない!
15年を経た、バンドの境地とは?
──この15年の変化・進化を感じた曲はありますか?
又吉:デビュー曲を『THE IDOL』としてリテイクしたのはよかったなと思います。15年たってリテイクやったことで、デビュー曲ならではの勢いと、録音の仕方も違ったなと改めて思い出して、いろんなことを今と比べることができたのもよかったなと。
──違う疾走感ですよね。
又吉:そうですね。その辺で、やっぱり年齢を重ねてきた感じもわかる。気持ち的な余裕もあるだろうし、当時絞り切れてなかったアレンジもできたと思います。
芹澤:CDのテンポが遅いなって思っていたんですよね。今、ライヴだと早くなっているから。
宮原:ライヴと音源の乖離があったから、もう一回録りたいとなって。
──以前なかったシンセの音も入っていたり、今のモードもわかるなと。
芹澤:確かに。あのころシンセ持ってなかったし。
柳下:いいシンセ使ったもんね。
又吉:使っている機材も違うし、当時は(音の)出力もでかかった。
宮原:若い時に作った曲って、今はできないような曲だなとも思ったよね。
──それぞれのよさでもありますね。アルバムとしては、今の時代を感じるサウンド、テーマ、気分もありつつ、15年というバンドの力が、1曲13分超えの最後のセッション曲『Session 317』でわかるなと。
宮原:それができるバンドって、あまりいないかなって思うんです。いい悪いという話ではないですが、日本の音楽ってカチッとした音楽が多いから、セッションを作品に残す珍しさもあるし。長めの曲でテンポを急に変えたりすると、ちょっとついてこられなかったりして隙間が生まれるじゃないですか。そういう隙間もそのまま残して、セッションのリアルな感じを伝えたくて。
柳下:今、ピッチを修正したりとか、なんでもできちゃう時代だけど、ねじ曲がったもの、いびつなものが入っているほうが作品として人間味を感じるし、信用できるんじゃないかなと。
宮原:セルフレコーディングにはまったときも思ったんですけど、完璧なものよりも、何かちょっと変なことがあるほうがおもしろい。それって昔の人も気づいていたみたいで。パルテノン神殿って柱が実は傾いていたりするんですよ。日光の陽明門も柱がひとつ逆になっているんですけど、それは「完璧にしたら、そこから崩壊がはじまる」って考えに基づいているらしく。
柳下:不足の美っていう。
芹澤:今ってミスしないことに囚われすぎていて、SNSなんかもがんじがらめ、正しいものしか許されないのは息苦しいよね。
柳下:叩く文化もあるから、悪循環。
芹澤:ミスとか関係なく、音楽って楽しいか楽しくないか、かっこいいかかっこ悪いかだから、もっと人間らしいほうがいいって思いが音に出たのかも。
又吉:僕らは、いろいろやってきた中で、ありのままを見せるということですよね。ライヴでアレンジできることを前提に、なるべく音を重ねる作業はしないっていうのを大事にしてきたので。デビューから15年やってきた、その集大成として、より人間味が出たアルバムになったと思います。
芹澤:俺ら流、パルテノン神殿!
“Anniversary”ツアー、福岡公演は10月22日(土)、DRUM LOGOS
──バンドの15年の進化と今が詰まったスペアザ印のアルバムだと思います。
芹澤:音楽だけの生活を15年味わえるというのも、すごく希少なことだから、それをできるひとたちってそんなにいないと思うし、そういう中でできる作品って自分ららしくなるんだなって思いました。
宮原:この2年で、違う成長もしたしね。
芹澤:すごい前を向いて走った13年と足元を見つめた2年と。バランスがよかったのかも。それがなかったら、自分の姿形がわからないままに次の作品を作らねばならなかったから、等身大の自分たちが見えてなかったかもしれない。等身大の自分たちが見えたことで、音のよさにこだわったりして、それが自分たちのアイデンティティになったと思うんです。
宮原:15年も音楽を専門でやってきて、まだまだ伸びしろしか感じないというか、音楽って本当に難しいものだなって思います。技術もそうだし、なにからなにまで足りないって思うし。何年かかったら思った自分になれるのかなって。
柳下:もう、一生かけてやるようなことだよね。
芹澤:ジョンスコ(ジョン・スコフィールド)ですらそう思ってそうだからさ。
柳下:俺らからしたらすごい人だけど。
芹澤:「あれはうまくいかなかった」とかって、いまだに反省してるからね。
宮原:そうなんだ(笑)。もう、本当に一生なんだね!
柳下:でも、それがあるから次の作品が生まれるんだよ!
──8月11日(木・祝)日比谷野外音楽堂を皮切りに、全国ツアー「SPECIAL OTHERS “Anniversary” Release Tour 2022」が決定しました。福岡公演は10月22日(土)、DRUM LOGOSです。
宮原:今回はアルバム『Anniversary』のツアーです。福岡公演はライヴ前日にとんこつラーメン、当日朝は三日月屋のクロワッサンサンドを食べて備えることが大事だと思っています。
芹澤:鈴懸の苺大福がほぼほぼ通年食べられるようになったことは、福岡にライヴに行くモチベーションになっています。
柳下:いちごの供給が安定したのかな?
又吉:基本的に食べ物がおいしいから、福岡のライヴはいつも楽しみなんですが……ゴマサバのためにがんばります!
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PROFILE
SPECIAL OTHERS
写真左から芹澤“REMI”優真(Key)、柳下“DAYO”武史(Gt)、又吉“SEGUN”優也(Ba)、宮原“TOYIN”良太(Dr)。1995年、横浜・岸根高校の同級生で結成し、2006年メジャーデビュー。2013年に日本武道館での単独ライヴも成功させたほか、「FUJI ROCK FESTIVAL’ 16」FIELD OF HEAVENのヘッドライナーをつとめるなど、全国各地のフェスに出演。2020年5月、7thアルバム『WAVE』を発表。2021年、メジャーデビュー15周年イヤーに突入し、6月に第1弾配信シングル『THE IDOL』、11月5日には第2弾配信シングル『Spark joy』をリリース。