表現への欲求から 協奏の希求へ
“where?”の問いかけが開いた新たな扉
リーガルリリー
取材/文:SATOMI YAMASAKI
INTERVIEW
リーガルリリーというバンドは、誰かのポケットの中で最後に握りしめられるお守りのようなバンドだ。すがるということではなく、自身の足でこの世界に踏みとどまるために、その力をふりしぼるために、必要とされる歌だと、彼女たちの最初の代表曲(にして現在まで続く名曲)『リッケンバッカー』を初めてライヴで聴いたとき、そう感じた。その信頼は今も揺るがない。そんなリーガルリリーが新たにリリースしたのは5曲入りのミニ・アルバム。小品だがいずれも珠玉。新たな扉を押し開き、リーガルリリーとオーディエンスとのコンツェルトが、生まれようとしている。
ヴォーカルとギター、そしてソングライティングを担うたかはしほのかに訊いた。
──先日(7月2日)、初の野音単独公演を終えられたばかりですが、お疲れではないですか?
たかはし:あ、はい、けっこう、回復しました。
──回復ということはつまり、やり切って、完全燃焼したような?
たかはし:なんか、満足感でフワフワしてしまって(笑)。現実に戻ろう、普段の生活にちゃんと戻そう、と。終わった後は、そういう感じでしたね。ほぼ1日かかって、戻れました。
──いいなぁ。どんなに素晴らしいライヴだったのかと、想像力を掻き立てられます。
たかはし:ふふ。とっても楽しかったです。
──野音は、ほのかさんにとって思い入れのある場所だとか。
たかはし:はい。高校生のときに「閃光ライオット」っていうイベントを観に行って、バンドをやりたい、と最初に志した場所です。
──その思いも、昇華された?
たかはし:しっかり、昇華されました。でも内容は、あんまり覚えてないです(笑)。
──(笑)覚えてないときほどいいライヴ!って、よく聞きますから。
その野音でも披露された新作『where?』についてなんですが、まず、ライヴでの反応とか発売後の反響によって、何かあらためて感じたこと、気づいたことはありますか。
たかはし:あの……自分が思いを込めた部分というものが、お客さんにライヴを通して伝わるんだっていうことを初めて、野音で感じて。今作で、シンガロングというか、曲の中でお客さんと一緒に歌う場所を創ってみたんですが、そういう初めての試みも、ライヴでお客さんがいることで完全な形にすることができて。……ちょっとした遊び心を入れて、伝えたいものを、伝えたいという気持ちをもって音楽を通すことで、こんなに伝わるんだってことを、体感しました。
──そうなんですね……えーと、伝わることの実感がこれまでほのかさんになかったことに少し驚いています。というのも、わたしはリーガルリリーのライヴを観て、ステージ上で表現することの歓びと苦しみを拮抗させながら、それでもその思いもろとも音にのせてる姿に圧倒された側なので。たとえば『リッケンバッカー』を鳴らした瞬間に、観客がグッと心を鷲掴みにされて昂っている、そのエモーショナルな空気を目の当たりにしているので、自分の思いが伝わっている実感は、ほのかさんにもあるのだろうと勝手に思っていました。
たかはし:自分の中では、今まで意識的に伝えようとする気持ちでステージに挑んではいなかったんですよ。わたしはずっと、自分の歌を、自分を表現するっていう欲望、夢を叶える場所としてステージに立ってたんですけど……それがここ数年のライヴで、意識が変わっていって。ライヴを観に来てくれる人と一緒に、同じ呼吸をしたい、というか……わたしたちがその呼吸の秩序をつくるというか。わたしたちがスタジオ練習とか会話をする中で、「こういう呼吸の仕方がいいね」みたいな話から、お客さんにもその波に乗ってもらいながらひとつの空間をつくったらなんか素敵だなって思って。そういう場所をつくること……居場所、みんなが集まる場所をわたしたちがつくるっていう気持ちが生まれて。それから、意識がすごく変わりました。
──その意識の変化は、大きな変革ですよね。
たかはし:うん、大きいですね。
──その意識は、今回の作品にも向けられていた?
たかはし:そうですね。特に、『管制塔の退屈』という曲は、そういう気持ちで挑んだ曲でした。この曲、最初にシンガロング(のフレーズ)から創ったんですよ。
──あ、《ららら》の部分ですか?
たかはし:そうです、《らーらーらー ♪ 》のとこ。そのコーラスから創り始めて、肉付けしていったので、まさにそういう曲ですね。
──どうりで……《ららら》の威力が、凄まじいなとは思ってました。
たかはし:あはははは(笑)。
──ではその意識を念頭に置きつつ、他の曲についても追わせてください。
1曲目の『若者たち』は、たった9行の、リフレインもない歌詞にすべてが凝縮されていて、逆に曲のスケール感は空を臨むように大きく広がって包容力がある。今作収録の5曲はいずれも求心力が強くて、聴くひとそれぞれに強く引かれるところがあるように感じるんですが、わたしはこの曲に何かすごく引っ張られます。
たかはし:『若者たち』は、自分の思う“一番上にある言葉”だけを9行にしたので……ふだん、2番(2ヴァース)とかを創るときは、たとえば《光》を1番(1ヴァース)で歌ったら《闇》を2番で歌うみたいな感じで、隣り合っているものを描いたりしているんですけれど、この曲はもう、一番上にある言葉だけを、ストレートに曲に落とし込もう、そういう曲にしようって決めて。“すべて、1番”という曲になって、それが1曲目になりました。このアルバム自体のコンセプトというか、向かう先というのが、今、リリースから2か月くらい経って、より自分の中でのイメージみたいなものがまとまってきていて。すごくふわふわしてて、とっても抽象的なミニ・アルバムだなぁと思ったんですよ。で、わたしの中での若さっていうものは、“どこにも行けない気持ち”なんだなぁと。……自分の目的を明確にして進もうっていう気持ちじゃなくて、どこに行きたいのか、何をしたいのか、なんにもわからないんだけど、エネルギーだけが余っていて、そのエネルギーをどうすればいいんだろうって創った曲たちであるから……ただエネルギーだけがそこにあって、でもそのエネルギーが大きければ大きいほど、不安っていうものも大きくなってくるわけだから……そのエネルギーの、爆発?不安の爆発、抽象的なふわふわしたものの爆発、みたいな……なんか、そういうものを、この5曲にすごく感じて。だからきっと、『若者たち』から始まったんだなぁという気が、今はします。
──なるほど……今作に対する“爆発”という表現はすごく的確だなぁと思います。『若者たち』でいえば、凝縮されたほのかさんの最上位の言葉たちの行間ににじむ思いや、余白にあふれるエネルギーも、バンドのアンサンブルが強烈に発していたりするので。
たかはし:あぁ~、嬉しい、ありがとうございます。
──2曲目の『ハイキ』は、そんなアルバム全体のコンセプトに加えて、書き下ろしでドラマ主題歌も担っています。そのテーマ性の消化も含めて、どう構築していったんでしょうか。
たかはし:そうですね……他の人のつくる秩序に、新しく飛び込むことっていうのは、やっぱり最初は防衛、自分(の表現)を守らなきゃいけないので、素直に自分に落とし込むことには恐怖心みたいなものもあると思うんですけれど……その(与えられた)秩序とわたしの秩序とが、どう手を繋げるかっていう、隙間みたいなものを見つめるっていうことが、わたしはすごく面白くって。仲良くなりたい、友達になりたいなーみたいな人に、最初ちょっと緊張して挑んでいくような……いろいろ準備して、ファッションを考えて、化粧もしてみたいな、なんかそういう感覚にすごく似ていて。すごくワクワクした気持ちで挑むことができました。
──ある種、開拓のような。それによって未知の自分を発見することもあったり。
たかはし:はい、ほんとうにそういう感じでしたね。(ドラマの内容に沿って)年下(の相手)との恋愛の曲なんですけれど……その年下とか年上とかいう自分から見た固定概念によって、人への向き合い方には裏表が存在するんだなと思って。裏表っていうか、そんな固定概念で自分が変化するんだなってことに気づいたんですよ。年齢の違いだけでこんなに恋愛観が変わるんだっていうのを、すごい認識しました(笑)。そういう“無意識の発見”もありました。
──確かに、実体験があったとしても、無意識であるものを見つけるのは難しいですね。あとわたしは、最初のBメロとラストでの同じフレーズ《廃棄処分寸前だった君が好きなやつを / 廃棄処分寸前だった私が拾った》の、聴こえ方が全く違うところ、時間経過の表現にも感嘆しました。それはリーガルリリーの楽曲群の特長、素晴らしさのひとつでもあるんですけど、曲のはじまりとおわりで同じ場所を臨んでいるとしても、そこには経た時間が確実にあって見える景色が違う、自分が先の時間に居ることが聴いて解る。それを端的に感じることのできる楽曲ではないかと。
たかはし:わぁっ……嬉しいです!歌詞とか音楽とかへの向き合い方で、一番目指したいのが、そういうところなので。わたしはすごく、時間を忘れるっていう感覚が好きで。音楽って、時間と一緒に進むものだと思うんです。音楽の中で同じ時間を共にするっていう、そういう流れの創り方に興味があって……たとえば同じフレーズの歌詞を少し離したところに置くことによって、同じように頭の中でいろんな冒険を一緒にして、で、また同じ場所に帰ってきたときに、何か新しい世界が見えた、みたいな。ふだん生活してる場所さえも変わって見えるとか、そういう冒険を、一緒に、時間を忘れてしたいっていう気持ちがあって。そのために言葉を使っていきたいし……その言葉と言葉の間にあるいろんな場所に展開される情景を、メロディーとかコード感とかリズムとか、そういう音楽の全部を使って表現して、同じ言葉に帰っても違う聴こえ方になる……そういう曲にしたいと思って、ほぼ全曲挑んでいます。
──冒険を経たあとに見る景色、そうですね、全然違いますね。そういう楽曲をバンドで演奏するうえで、メンバー間で共有している感覚とかアプローチとかってあります?
たかはし:あ~……まず、音楽とかバンドの活動のなかで、わたしはライヴが一番好きで、観ることも好きなんですけど、ライヴって乗り物に乗ってる感覚がすごくあって。わたしが一番好きな乗り物はジェットコースターなんですけれど、それは絶対的な安心感があるからこそ楽しめる恐怖心みたいな、そういうものが好きだからで。ライヴって、まさにそんな感じがあって。なので、絶対に乗せてるひとを落とさないように、っていう意識ではいます、わたしもメンバーも。そういうグルーヴを保ち続けるっていうことはバンドで共有してます。
──グルーヴを保ち続けるのは相当むずかしいことではないかと思います。ちょっとしたズレで破綻してしまうこともあるんじゃないか、とか。
たかはし:わたし、ズレっていうものを、正当化する世界が好きで(笑)。何かひとつ、秩序を乱すようなもの、それによって周りが変化していくことが好きなので、そういうズレみたいなものをすごく楽しんでいるなぁとは思います。ライヴは、特に。そのズレを楽しめるように、スタジオでの練習とか、メンバーとの会話とかもしています。
──伺っていると、決め事を作って上手に演奏するための練習ではなくて、即興性が高いというか、ライヴでどんなプレイにも応えられるような柔軟なバンド感を大事にしてるのかなと。
たかはし:どんなものにも適応したい!っていうのはあります。わたし自身が、適応っていうものにコンプレックスを抱いて生きていたので、適応したいっていう気持ちが人一倍強くて。それはライヴに対しては、よりあります。だからけっこう、その(ステージという)場での適応の仕方をお客さんに披露するような瞬間はすごく好きです(笑)。
──あと、ほのかさんのギタープレイで今回すごく印象に残っているのが、『管制塔の退屈』のアウトロでかき鳴らされるギターで。泣いているような、世界を振り切っているような、あの表現はギタリストとしてのアイディア?それとも曲によって自然と引き出されたもの?
たかはし:ああやってギターをめちゃくちゃかき鳴らす以外に、爆発みたいな感情を鳴らす方法がわたしにはまだない。今のところ、あの方法を使ったって感じです。
──それは、ギターをかき鳴らす以外の方法が今後見つかれば、ギターでなくともかまわないということ?
たかはし:そうなんです、そういうのを日々、探してます。
──ギターロックが代名詞であるように勝手に思い込んでいましたが、別のやり方を求めていきたい気持ちも大きいんですね。
たかはし:そうですね……そっちにはすごい興味があります。楽器といういろんな場所にこの感情を照らしてみたい、置いてみたいですね。それでその楽器特有の叫びを、たくさん聴いてみたいです。わたしの叫びをその楽器に置いて、そうするとその楽器が叫んでくれる、それをいろんな楽器で試してみたい……あと、歌とかでも。ですけど、今のところまだギターだけっていう感じです(笑)。
──ギター以外の楽器でのほのかさんの叫び、聴いてみたいです。今、すごく楽しみになりました。
たかはし:私も楽しみです(笑)。
──楽しみといえば、まず、本作をもっての全国ツアーが今秋、開催されます。
たかはし:わたし、けっこう体力あるんですけど、ライヴは使う体力が違うみたいで。刃、刃物?剣みたいなものを日々磨いて、脱力して、斬る、みたいな。脱力するために、力を入れるみたいな感じというか。ツアーってそういう力も磨かれていくものなので、楽しみです。そこに向かうまでの体力、力をグッッッと入れるための体力をつけて、がんばります(笑)。
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LIVE INFORMATION
PROFILE
リーガルリリー
たかはしほのか(Vo,Gt)、ゆきやま(Dr)、海(Ba)から成るスリーピース・バンド。東京都出身。 2014年、当時高校生だったたかはしほのかとゆきやまがライヴハウスで出会い、リーガルリリー結成。2018年に海が正式加入し現体制へ。FM主催イベントへの出演や海外ツアーへの参加で注目され、2016年には初の全国流通盤として1stミニ・アルバム『the Post』を発表。精力的なリリース&ライヴ活動をつづけるなかで、SXSW出演やアジア圏進出なども果たし、2020年には1stフル・アルバム『bedtime story』を発表。今に至るまで、繊細さと凄烈さの同衾するプリミティヴなバンド表現とライヴパフォーマンスによって、同世代だけでなく多くのロック・オーディエンスの心身を昂らせつづけている。今年2023年7月に初の日比谷野外大音楽堂での単独公演を成功させ、9月30日仙台公演を皮切りに“リーガルリリー TOUR 2023『where?』”を全国7か所にて開催する。