解体してなお充ちるバンド感と、
禁忌に触れてなお協奏を生むメタファー。
新章が映し出すGRAPEVINEの矜持。
GRAPEVINE
取材/文:SATOMI YAMASAKI
INTERVIEW
GRAPEVINEが待望のニューアルバムをリリースする。サウンドの解体とグルーヴの構築を並行させ、関西弁の平談俗話にメロディーとポエトリーを拮抗させて描き切った『雀の子』で、新章の幕開けを告げたのは7月。前作『新しい果実』から2年強のタームを埋めて余りある革新的(かつ狂気的)なプロローグは、来たるアルバムへの期待を否応無く掻き立てた。四半世紀以上ものあいだ、アグレッシヴに唯一の道を切り拓いてきた無二のバンドが、いま、この世相とどう交わりどんな対峙を見せるのか。個人的には、共同幻想やロックバンドの現代的ステータスを打ち砕き、禁忌に触れてなお協奏へ昇華できるメタファーに満ちた大傑作であると静かに噛み締めている。長くバンドをサポートする高野勲をプロデューサーとしても迎えた18作目のアルバム『Almost there』について、田中和将・西川剛弘・亀井亨に訊いた。
──アルバムのお話の前に、先日クアトロ(東京・渋谷)でサニーデイ・サービスとのツーマンライヴを終えられたばかりでいらっしゃるので、そのご感想を聞かせていただいてもいいですか?親交はもちろんあったと思いますが、ツーマンは意外になかったような。あと、今年の春のサニーデイのツアー公演がとっても素晴らしかったんです。みずみずしくてエモーショナルで。バンド同士での刺激があらためてあったのではないか、と。
田中和将(以下、田中):いやもう、渋谷クアトロもほんとうに素晴らしくて、感激しましたね。サニーデイのライヴって、作品聴く以上にロックじゃないですか。パンクバンドみたいな熱さがあのキャリアでまだまだあって、曽我部さんの太陽のようなキャラクターも含めて、非常に尊敬すべき人、バンドだなあと思いましたね。
──そこに対して、GRAPEVINEはどんな感じで臨まれたんですか。
田中:僕らもバッチリ、決めたりましたよ(笑)。サニーデイが相手やからどうということじゃなくて、僕らは僕らでばっちりと。
──GRAPEVINEはGRAPEVINEらしく、という。
田中:まぁそうですね(笑)。新曲を2曲ほどやったんで、なかなか緊張感もありました。
──そうでしたか。
亀井亨(以下、亀井):新曲2曲から始めたんですよ、ライヴを。
──それはまた挑発的な。
亀井:お客さん、ポカーンとしてました。
──1曲目は、『雀の子』ですか?
亀井:いや、まだ発表してない『Ub(You bet on it)』を。
田中:まだ誰も聴いたことのない、ライヴでやるのも初めての曲を。
──それは…昂りますね、いろんな意味で。
田中:「なんじゃこりゃ?!」って感じでしたけどね。
──それが“ポカーン”という表情に(笑)。
田中:でも熱かったですね。1曲目終わったあとの歓声も、うわぁーっと上がりましたし。
亀井:いい反応やったね。
田中:次いで『雀の子』をやったんですけど、それはイントロ鳴った瞬間に、ワーッという感じで。声出しがOKになったからっていうのもあるんでしょうが、すごく熱かった。
──すごく率直な反応が。でもそれもわかるというか、無理もないというか。2曲ともめちゃめちゃカッコいいですもんね。では、そのパイロット2曲を含む新しいアルバム『Almost there』について聞かせてください。まず、単刀直入ですみませんが、このタイトルの示すところを確認させてもらってもいいですか。どうしても気になるというか、全曲聴いてたどり着く意味合いが、どうしても破滅的なところで。破壊と構築を繰り返した結果、とうとうここまで来てしまったぞ、というような。
田中:なるほど。まぁ実際、このアルバムでやってたことっていうのは、解体と構築みたいなものではあって。あと、かなり変態的なというか、攻めた曲も入ってるんで、そういう意味では“破滅”という表現は合ってるかもしれない。僕がつけた意味合いとしては、『Ub(You bet on it)』に<あと一息>という歌詞があって、そこから引っ張ってきました。我々ももうこんなキャリアになってきて……でも到達なんて、到底しないんですよね、いつまでやっても。なので、あともう一息だ、あともうちょいだって言ってずっとやっていきたいなという気持ちを、こめてみました。あと、まぁもう少しでデビュー30周年ですしね、そういうのも含めて。
──そういう実感も伴ったタイトルだったんですね。たしかに、20周年を迎えたあたりからじりじりと、でも確実に、より高く、より遠くへとどんどん挑んでいらっしゃる感覚は強いです、作品にしても、ライヴにしても。ではそんなアグレッシヴさと不穏さを冒頭から感じさせる『Ub(You bet on it)』について、あらためて。個人的には時代性というか、イントロからこの世相の空気とリンクする楽曲だなと感じていますが、意図的なところはあります?
田中:時代性はあんまり、正直考えてないんですよね。ただ、いろんなものを吸収してますし、いろんなとこからインスピレーションがあって引っ張ってきてますし……あと、今回、プロデューサーを高野勲氏にお任せしまして。
──そうでした、それも大きな要素ですよね。
田中:そうですね。今までもずっと、ほぼメンバーのように5人でやってきたわけで、みんなでワイワイやるのはやり方として変わらないんですけど、あらためてプロデュースをお願いしますって旗振り役をやってもらうと、今まではバンドのひとりとしてアイデアを出してくれてたところが、(バンドを)引っ張る形で「こうしてみない?ああしてみない?」って、我々がつくったデモテープをもとに事前にネタ収集していろんな提案やイメージを持って向かってきてくれた。それも刺激になりましたし。だから僕ら自体がそんなに時代性を考えてないとしても、いろんな時代のもの、最新のものも古いものも参考にしつつやる、っていうところは相変わらずといえば相変わらずですけどね。
──旗振り役を高野さんが担うことで、レコーディングでの違いもありました?
田中:ずっと長く一緒にやってきてるから、僕らが「うーん」ってなる瞬間とか、回り道をするところをよく知ってらっしゃるわけですよね。だから、なるべくそうならないようにっていうのを意識してくれてましたね。
──なるほど…その環境において、『Ub(You bet on it)』は、1曲目に収録されていますが、楽曲の制作順序としても早い段階でできた曲ですか?
亀井:いちばん最初に手をつけた曲かな。この曲からプリプロ始めて、で、その時けっこう感触が良くって……この先もいい感じでやっていけそうだなって思った記憶があります。楽しく、スムーズにやっていけそうだな、と。
──終盤、ブラスで大きく展開しますよね。あれはデモの段階からあったものですか。
田中:や、あれはプリプロをやってて、ああいう終わり方はどうだ?みたいな感じでアレンジしていったものです。
──それは高野さんからの提案で?
田中:そうですね。ブラスっぽいのを入れ出したのは勲さんのアイデアで、で、それを残して他がフェイドアウトしていくみたいなアイデアは誰かしらから出てきて、ああいう形に。
──あのエンディングって、楽曲自体の印象もかなり変えますし、アルバム全体のイメージにも大きく作用するぐらいのものだと思うんですけど、そういう意図もあったんでしょうか。
田中:うまくいったな、とは思いますけど……。
西川弘剛(以下、西川):たまたまですよ(笑)。たまたまうまくいっただけで、あんまり1曲目でああいうことはしないですよね。そういう偶然みたいなことがたくさん起こるレコーディングが、いちばん面白いですね。意図したものをそのままではなくて、なんでかわからないけどこういうものが出てきましたみたいなハプニングが起こったほうがレコーディング作業としては楽しいんですよ。だからアイデアに関してもそんなに深く考える前にいろいろ試してしまえっていう感じです。ダメだったらやめればいいし。そのへんに時間をたくさん使わせてもらいましたね、夏休みの宿題みたいに。
──あ~、夏休みの宿題には自由工作みたいにあれこれ試す時間と可能性がありますものね。
西川:いろいろやってみて、最終的に自分が全く意図していなかったとしても、(楽曲として)仕上がりがカッコ良ければそれがいい。
──今作の楽曲で、『Ub(You bet on it)』以外にもデモから大きく変わった曲ってあります?
西川:今回は、大なり小なりどの曲も変わってるとは思いますが、全然違うような曲になったヤツもありますね。
亀井:『雀の子』とかも、あのイントロの、ちょっと変わったフレーズもプリプロしながらつくったフレーズで。アレが入ることによってすごいぶっ飛んだ感が出たんで、あれは楽しかったですね。
──そうなんですね……先ほど解体という表現もありましたし、実際に所謂ロックバンド的なものには収まらない楽曲の広がりがあるので、曲によってはその制作過程がこれまでよりデジタルだったりロジカルだったりするのかなとちょっと思っていたんですが、なんというか、やっぱりバンドなんだなというか、ものすごく良い意味、嬉しいという意味で、GRAPEVINEというバンド感の中でつくりあげられたものなんだな、と。
田中:そうですね……他のバンドのやり方がどうなのかわかんないんですけど、ウチの場合はプリプロで突拍子もないアレンジを試しつつ、録音する時はベーシックは一発で録るっていう、やっぱりバンドはバンドなんですよね。たとえば僕は、デモテープなんかはもう全然バンドでやるっていうことを意識してないようなトラックをつくっていったりするんです。でも、そこはやっぱり、バンドでやればバンドになるっていう、なんやろな……信頼といいますか、自信、矜持といいますか、そういうものがあるので。好きなことをやって大丈夫だろうっていうふうには思ってますね。だからプリプロの段階では、あんなこともやってみよう、こんなこともやってみようってわちゃわちゃやってるのがすごい楽しいし、どうしようもない方向に行ったりするのも、刺激的です。
──リスナーにとっても、今作のいずれの楽曲もそんな刺激にあふれていると思います。ちょっとこれまでのGRAPEVINEにはなかったタイプの楽曲としては、4曲目の『Ready to get started?』も挙げられると思うんですが。普通のバンドになら普通にありそうなストレート感が、GRAPEVINEの手にかかって面白いことになっているような(笑)。
田中:おっしゃる通り(笑)。
──ということは、敢えてやったんですか。
田中:いや、実はこの曲、デモからいちばん変わったんですよ。
亀井:デモは、テンポももうちょっとゆったりとしてて、全然違ったんですよ。それを、曲調から敢えて変えようということになりまして……がんばって、全然違う曲にしました。
──が、がんばって?
田中:ミディアムバラードみたいな感じやったんですけど、暗礁に乗り上げて。これはこの方向では完成させられないぞ、と(笑)。で、一気に方向転換して。結果的に、青い感じが出たんで、それで突っ走るのがいいかなと思いまして。
亀井:うん。逆にあんまりやってない感じになったんで、結果としてよかったですね。
田中:まぁ、疾走感あるように見せかけて、歌詞には<ラーメンライス>ですしね。そういう意味ではちょうどいいバランスなんじゃないですか(笑)。
──まっすぐ進んでると見えて実は蛇行してるような。カッコいい!と違和感が同時に生まれるという不思議な昂揚が自分の中で起きてます(笑)。で、次の曲もまた突っ込みどころ満載のミ・アモーレ、いや、『実はもう熟れ』です。
田中:(笑)80年代感満載です。これはもうディスコ、というか四つ打ちでやるしかないという曲ではあったんで、もちろんそっちの方向でやってたんですけど……最初は、プリプロでやったら、なんかわりと、僕たちっぽくなりすぎて。ゆったりしたテンポの、これまでにもあったような感じになって。これじゃあ地味やなって、僕が勲さんにもうちょっと改造したいんですけどって言って、じゃあもっと派手にしようかってテンポも上げて。
──そこもまた、やるなら徹底的に、という。
田中:そうですね。だから勲さんもすごく張り切って、めちゃくちゃシンセ重ねてますね。あんなにシンセ重ねたの初めてじゃないかっていうくらい、いっぱい音が入ってる。
──そういう遊び心の爆発のような振り切った曲の他方に、『それは永遠』のようなまた際立ってグッド・メロディーの楽曲もやはりあるのがGRAPEVINEで。こういった曲についても何かしらの変容はありましたか?
亀井:これはそんなに、デモそのままというか、あんまり変えなくていいんじゃないかなって、わりと素直な感じでやりましたね。GRAPEVINEの(楽曲の)中ではスタンダート的な立ち位置の曲にしてます。
田中:これは僕もそう思いましたし、勲氏もその方向でしたね。わりと満場一致な感じで。
──全体のバランスみたいなところの考え方も、その判断には入ってますか。
亀井:そうですね、バリエーション的なことは考えたりしますね。全体が見えてきて、曲が揃ってくると、こういう感じのがあったらいいなとか。
──亀井さん作曲で、同じく美メロを核とした10曲目の『Ophelia』は、逆にアレンジがかなり施されているように感じます。その違いというか探っていく方向性の違いは、今回自然と見いだしていけるものだったんでしょうか。
亀井:まぁ、やりながらですかね。あんまり決め打ちで始めたりはしてないです。
田中:なんかね、どの曲も勲さんが、参考資料にって言いながらまず朝、その日にやる曲について「こんなふうにしてみたらどう?」みたいなのを、2、3曲用意してくれてるんですよ。それを聴きながら、方向性を探る。それに完璧に寄せようっていうんじゃなく、そのイメージをそれぞれに汲み取っていくみたいな感じで。だからその段階ではみんなそれぞれ捉え方が違うと思うんですが、そこからプリプロを始めていって、何回も演奏しながら擦り合わせていきますね。『Ophelia』に関して言えば、同じくグッド・メロディーではあるんですけど、ダークな、マイナーメロディーなので、シューゲイザー的なダークな轟音へ進みつつ、あとアイデアとしてはAメロのあの感じ、あれはやってて偶然生まれたものですね。
──え!シューゲイザーmeetsフォークみたいなあの感じ、偶然なんですね。
西川:曲の構造的に、すごく明暗がはっきりとしてるじゃないですか。ニルヴァーナとかもそうなんですけど、そういう構造だから、まぁ単に静かなAメロよりは、ちょっと現代的な、ミニマルな要素が入るともっと明暗がつくかなと、そういう発想です。最初をアコギだけでフォーキーにやっても明暗はつくんですけど、それはたぶん何度もやったことがあるし、いろんな人がやってる手法だから、そうじゃないのを何か思いつかないとなぁというのを一日中考えた上での偶然のものですね。
──なるほど……この曲に限らず“そうじゃないもの”っていうのは、制作中は基本的にいつも探してるんですか。
西川:そうですね。そういうのが見つかれば、一気にアレンジが進むこともあるんですよ。ぱっと一瞬で思いつくこともあれば、それがなかなか見つからない場合もある。その場合は、ゆっくり一つ一つ構築していくのでけっこう時間がかかるんです。まあ、『Ophelia』がうまくいってるかどうかはわからないですけど(笑)。
田中:かなり異質ではありますからね。サビの轟音に向かっていくとは思わない、というかあのAメロで始まって、あのサビ行かないでしょう(笑)。
──これ、ライヴでやることは考えておられましたか。
西川:考えて、ないですねぇ。
田中:プリプロやってる時は大体、ライヴで再現することは考えてないと思いますね……あ、『Ready to get started?』は、それこそ容易にライヴが想像できるんで、アレンジも音も非常にライヴっぽいです。が、他の曲ではほとんどライヴのことは想定せずにつくってることが多いですね。
──ただ『Goodbye, Annie』なんかは、ライヴの想定如何にかかわらず、否が応でもエキサイティングな情景が浮かびます。曲も歌詞もGRAPEVINEのオルタナティヴ感がてんこ盛りで。真骨頂というか無敵感があるというか…。
田中:ん~と、勲氏の言葉を借りるなら「ちょっとたまにはお祭りみたいなのやろう」っていうところですかね(笑)。もう常に、最後までドカドカしてて……で、すごく歪(ゆが)んでいる。
西川:当初から相当アレンジ変わってますし、たぶん僕の記憶だと相当演奏させられましたね。で、ようやくたどり着いた形です。かなり派手な曲ですし、フィジカル的に辛かった、何回も演奏するのが(笑)。どんどんどんどんフレッシュさを失っていくんですよ。
田中:ふはははは。そう、勢い必要だからね、ああいうのは。
西川:そう。で、やればやるほど収まりのいいところに行ってしまう、それだと面白くなくなるんですよ。歪なものが無くなる。それがすごく大変でしたね。
田中:あんまり頭使ってやり過ぎると、捻くれポップみたいになってしまうから。祭りとしての勢いが大事やから、バランス難しかったね。
西川:ちょっとわかってないぐらいの時の演奏のほうが、面白かったりするんですよね。
田中:これは、初回盤のオマケのスタジオライヴDVDに収録されているんで、ぜひ生演奏のほうも観てください。
──それは絶対観たいヤツですね……。ちなみに、田中さんはそのお祭り感に乗っかって一連の言葉を全部編み出していったということでよろしいでしょうか。
田中:そうですね。昨今のコロナ禍明けのインバウンドに期待している日本を尻目に聴いていただければ…(失笑)。
──(笑)。もうホント、想像力をフルに使って聴けますからね。
田中:あくまでも<Annie Thorne>ですから。
──国連とかに、いらっしゃる気がします。
田中:そうそう、そうです。
──あー、この豊かで個性的な楽曲たちだからこそ、やっぱりどれもライヴで聴きたいですね。
田中:まあ難しいとは思いますが、僕ら毎回そうなんでね。ハードル高い曲もありますけど、やりますよ、しっかり。
亀井:最近のライヴはずっと、いい感じに楽しくできているので。この流れで楽しく、新しい曲も育てて、大変ですけど、楽しく演奏できるようになれればいいなと思いますね。
──ありがとうございます!10月、心から期待しています。
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LIVE INFORMATION
PROFILE
GRAPEVINE
1997年ミニアルバム『覚醒』でデビュー。メンバーは田中和将(Vo,Gt)、西川弘剛(Gt)、亀井亨(Dr)、サポートメンバーとしてレコーディング・ライヴともに金戸覚(Ba)、高野勲(Key)を迎え、コンスタントな活動を継続している。1998年リリースの1stアルバム『退屈の花』から最新作『Almost there』に至るまでオリジナルアルバムは18作を数える。その他リリースアイテム数多。2023年は多様なバンドと相見えるイベントに出演しつつ9月には“SUMMER SHOW”と銘打った東京、静岡、大阪でのツアーを敢行、そして『Almost there』リリースツアーを10月6日札幌公演よりスタートする。