23枚目のアルバムなんだけど、
シン・クレイジーケンバンドの『世界』観。

クレイジーケンバンド

取材/文:荒木英喜

23枚目のアルバムなんだけど、<BR>シン・クレイジーケンバンドの『世界』観。

9月6日、通算23枚目のアルバムとなる『世界』がリリースされた。今作は、ドラマー・白川玄大が今年4月からレギュラー参加となったクレイジーケンバンドの初アルバムでもある。新たなドラマーを得たクレイジーケンバンドの横山剣は、自身を“シン・クレイジーケンバンド”と呼ぶ。23枚目にして、“シン・クレイジーケンバンド”の第一歩となる今作にはどんな世界が広がっているのか。また、10月から行われるライヴはどんなものになるのか。横山剣が語った。


──アルバム『世界』がリリースされましたが、かなりの手応えがあるのではないですか?


横山:そうですね。リスナーの反応も良いですし、僕自身も出来上がった時にスカッとしました。バンドだから生演奏は当たり前なんですけど、CKBの場合、レコーディングならではのことをやろうという気持ちがこれまで強かったんですが、もうそろそろライヴバンドとしての強みというか、元に戻るというか原点回帰ですね。そうする上でドラマーの力量は非常に大きく影響します。親子ほど年の離れた白川玄大君が入ったことが大きかったですね。


──白川さんのドラムはこれまでとはまた違う凄さがありますね。ループしているような正確性など。

横山:そうそう、特に『SHHH!』ではループかと思うような正確性があります。でも、よく聴くと揺らぎがちゃんとあるんです。あのアース・ウインド&ファイアーでさえ、ハイレゾで聴くと“こんなに揺れているのか!”という発見があるんです。そうした揺れによって、打ち込みとは違うヒューマンな感じが出ます。ファジーなものがないと本当のグルーヴ感がでないんです。それは薄々わかっていたんですが、打ち込みやループを使うレコーディングをやめられなくて、“早く生に戻んなきゃ”って焦りはありましたけど、やっとできました。

クレイジーケンバンド / SHHH!(LYRIC VIDEO)

──白川さんがレギュラー参加することで、どんな影響がありましたか?

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横山:影響はものすごくあって、僕も含めて各メンバーの潜在的なポテンシャルが数%上がりましたし、僕も興奮度が高まってキーが上がっちゃいました。もう(アルバムが)出ちゃったので、ライヴでそのままのキーが出るか困っています(笑)。でも、彼が後ろで叩いていれば大丈夫だと思いますし、しっかり練習します。


──1枚聴き終えて、剣さんが表現している“シン・クレイジーケンバンド”という言葉にも納得しました。


横山:ドラムが玄大君に変わっただけなんですけど、まったく別のバンドを新たに結成したくらいの気分で、23枚目のアルバムなんだけど、1stアルバムのような。だけどブランド名としての“クレイジーケンバンド”は残しつつ。まあ、クルマのフルモデルチェンジのようなものですね。ポルシェやメルセデスのようにエンブレムは変わらないけど、仕様がガラッと変わったような。


──『Do it!世界は愛を求めている』など、どこかで聞いたタイトルが入っているのは剣さん流の洒落っ気ですね。


横山:バート・バカラックですね。今回は同名異曲をあえて多めにしています。『マンダリン・パレス』は平山みきさんの曲ですし、『夜は千の目を持つ』はジョン・コルトレーンですね。

クレイジーケンバンド / マンダリン・パレス(MUSIC VIDEO)

──『Sweet Vibration – CKB tune -』はセルフカヴァーですね。


横山:CK’Sの頃にやっていた曲です。本当はZAZOUってバンドの時に作った曲で、僕と当時のマネージャーは“これ、サイコー!”って言ってましたが、メンバーから色よい返事をもらえずで。そのマネージャーとその頃ロンドンに行って、ブラン・ニュー・ヘヴィーズやジャミロクワイがまだ有名になる前にそういうシーンがあって、“コレだ!”と思って、ホーン・セクションをイメージして作りました。でも、ZAZOUにはホーン・セクションがいないし人数も足りないし、メンバーはあまり好きじゃなさそうだったので、引っ込めました。その恨みが今回……(笑)。


──CKBのメンバーが躍動している感じが伝わってきました。


横山:CKBのみんなはやる気満々でした。CK’Sでもだんだんそんなモードじゃなくなって、あまりやらなくなったんですけど、何周かしてやっぱりこういう曲をやろうと。ちょっと古臭いんですけど、今はまた、80年代後半〜90年代の楽曲にシビれるなと。レアグルーヴもそうですけど、そんな聴き方のセンスが90年代にはあったと思います。若い世代の人たちにもそう感じてくれたらうれしいですね。


──『残り香』はParkさんの作曲ですね。


横山:Park君が持ってきたバックトラックの中のひとつに、“これはAyeshaに歌ってほしい”というのがあって、Park君にメロディまでお願いしました。この曲は歌詞もAyeshaに書いてもらいました。


──CKBの曲をここまで外注したのは最近では珍しいですよね。


横山:そうですね。したくても、なかなかそこまで冒険できなかったんです。Park君には全幅の信頼を寄せていますし、白川君とは(gurasanparkで)一緒に活動もしているので、話が早いし相性がばっちり。それにAyeshaのヴォーカルが乗るとさらにいいんです。同じトラックに僕のメロディも乗せてみたんですけど、“これはないな”って(笑)。Ayeshaが歌うならPark君のメロディの方が絶対にいいと思ったので。それで言うと、前作『樹影』の『強羅』って曲もAyeshaが歌うパートはPark君が作ってるんですよ。


──アルバムタイトルが『世界』ですが、これは満を持して付けたんですか?


横山:シン・クレイジーケンバンドの世界という気持ちで今回は取り組んだので、その“世界”を取りました。あとは、ライヴのツアータイトルをいつか「ワールドツアー」にしたいという思いもあって、それで『世界』に。ツアー自体は全然ドメスティックなんですけど(笑)。こんな風に思いを込めると、実現したりするので、いつかそうなったらうれしいですね。

クレイジーケンバンド/ニューアルバム『世界』ティザー

──ツアーの話が出たところで、今年も福生からツアーがスタートし、次に福岡公演です。


横山:福岡は2公演目で、かなりプレッシャーです。プレッシャーと思いながら、それが勢いやバネになるというか。プレッシャーはないよりある方がいい。緊張するのはだめですけど、緊張感はあった方がいいですね。それがないとすごい失敗をすることがあるので。ツアー初日の見直しをして反省して、よりいいものにしたいです。完成に向かう一番熱い発展途上を見てもらえると思います。


──デビュー25周年ということでの演出などはあるんですか?


横山:それに気づいたのが遅かったので間に合わなかったです(笑)。去年は結成25周年でしたけど何もしなかったので。文字を入れるくらいですかね(笑)。CKBとしては25年ですけど、30年以上一緒にやっているメンバーもいて、CKBが一番長くなりましたね。


──ライヴもコロナ前の状態に戻りますか?


横山:本来のスタイルに戻りつつ、加わった部分もあると思います。今回は『世界』から12曲ほど演奏する予定です。以前と違うのは、不人気曲にスポットを当てようかと(笑)。不人気曲をカスタマイズして価値観を変えようと。不人気バイクこそカスタマイズして爆発的人気になったりするので、そういうのを狙っています。それに『タイガー&ドラゴン』のような人気曲しか知らない人でも楽しめるようにします。リクエストコーナーもあります。すごくエネルギッシュに、新しいお客さんも気後れせず、長いファンも楽しいライヴになると思います。

クレイジーケンバンド / 観光(MUSIC VIDEO)
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LIVE INFORMATION

CRAZY KEN BAND World Tour 2023-2024
Presented by TATSUYA BUSSAN

2023年10月9日(月・祝)
福岡国際会議場メインホール

PROFILE

クレイジーケンバンド

1997年、リーダーの横山剣を中心に結成。翌年にアルバム『PUNCH! PUNCH! PUNCH!』でデビュー。ファンク、ジャズ、ロック、ボサノバ、さらには演歌など横山の琴線に触れた音楽をCKB流のサウンドへと昇華させて表現する。そのため人々は、彼を東洋一のサウンド・マシーンと呼ぶ。喜怒哀楽や愛情と憎悪、ちょっと情けない一面など人間性が染み出た歌詞は、独創性にあふれ聴く者の心に届く。ライヴバンドとしての実力も高く、新たなドラマー・白川玄大を加えて初となる今回のツアーは、これまで以上にファンキーで、エネルギッシュな内容になるだろう。