誰にも微かな光が射している。
新曲に込めた願いと
“未知なる体験”を構想するライヴへの思いを語る。

藤原さくら

取材/文:モリカワカズノリ

誰にも微かな光が射している。<br>新曲に込めた願いと<br>“未知なる体験”を構想するライヴへの思いを語る。

希望に満ちた旋律、そしてスモーキーな歌声が優しく心に染み渡る。藤原さくらが来年リリース予定の作品から先駆けて、10月25日にデジタルシングル『daybreak』をドロップした。日本テレビ系土曜ドラマ「ゼイチョー〜「払えない」にはワケがある〜」に向けて書き下ろされ、ドラマの世界観から紡ぎ出した藤原さくらの思いが詰まった楽曲となっている。日本が誇るジャズミュージシャン・石若駿によるサウンドプロデュースも流石だ。

シンガーソングライターや役者としても表現の場を広げる藤原さくらは、何を見つめ、本作を作ったのか。制作について、そして来年に控えたライヴについても語ってもらった。

──一聴しただけで、曲の優しさに包まれる感じがあって、本当に心地よい曲だと思いました。ドラマ「ゼイチョー」の挿入歌として書き下ろされたとのことですが、どんなことを意識して制作されたのでしょうか?

「しっとりとしたバラードを描こうと思って作り出した曲ではあるんですけど、後半の盛り上がりを石若駿さんに作っていただいたことによって、希望の光が射していくような曲に仕上がったと思います。歌詞の世界観もリンクして、広がりのある終わり方で締めくくれました」

──石若さんとは、2022年にリリースされた原田知世さんのオフィシャルカバーアルバム『ToMoYo covers〜原田知世オフィシャル・カバー・アルバム』にて、藤原さくらさんがカバーされた『早春物語』のサウンドプロデュースを石若さんが務めて以来のタッグですね。私も大好きなドラマーですが、プロデューサーとしての石若さんはどんな印象ですか?

「そうですね。石若さんはドラムのプレイヤーとして本当にいろんな作品に参加されていて、一日に何曲レコーディングしてるのってくらい精力的にやられているイメージです。他の楽器も演奏できるマルチプレイヤーなので、全体を俯瞰できるのも石若さんの魅力かなと思います」

──石若さんの音楽性にシンパシーを感じて、今回の曲のアレンジをご依頼されたそうですね。

「石若さんのソロの作品を聴く中で、自分と好きな音楽が近いんだろうなと思っていました。作品ごとに、そのアーティストの要望に対してすごく柔軟に対応して演奏される方でもあるので、今回の曲は石若さんと一緒に作りたいと思ってプロデュースをお願いしましたね」

──最初にアレンジメントされた曲を聴いた時の感想も教えてください。

「サビから、早く刻むようなリズムになるところでギュッと胸を鷲掴みされました。自分が想像していたイメージをいい意味で裏切られた仕上がりになっていたので、『このアレンジがいいです!』って感じで、すぐに決まりましたね。

実は、他にも何曲か「ゼイチョー」のために書いた曲があって、もしかしたらもっとゆったりしたテンポの曲が採用されるかもと思ったんですけど、最終的にはこの曲に決まりました。他の曲たちも次の作品に入れたいなーという話はしているので、楽しみにしていただければと思います」

──それは今からとても楽しみですね。もちろん今回の作品はドラマへの書き下ろしで作られていますが、どのようなメッセージが込められていますか?

「自分ばっかりなんでこんなにしんどいのとか、なんでこんな辛い思いをしなきゃいけないのって思っている人はすごく多い気がするんですよね。社会の制度とか世界情勢を見ても、どうしてこうなってしまうんだろうという事ばかりで。

一生懸命考えて良い案を出そうとしても何も変わらないもどかしさみたいなものを、きっと誰しも感じながら生活してるんじゃないかと感じました。でも、そんな中にもすごく微かだけど、これってもしかしたら糸口になるかもっていう、光が射す瞬間があるんですよね。だから、本当に塞ぎ込んじゃったらその光にも気付かないままですけど、少しだけ視野を広げて、その光をキャッチしてほしいという願いを込めました。

自分自身がまさにそういうことを思っていたタイミングでもあったので、その願いを「daybreak(夜明け)」という言葉に託して。ありがちですけど「明けない夜はない」というのは、コロナ禍も経てすごく感じることが多かったです」

──そういう意味では、コロナ禍で苦しんだ多くの方にも寄り添ってくれる一曲ですね。

「ありがとうございます。自分の悩みを一人でどうにかしようとして、苦しい思いをしてしまう人は多いと思うので、少しでも周りを頼ってSOSを出すこともすごく大事なことだなって感じました。私も、コロナ禍にライヴができないしんどさや曲を書いても聴いてもらう場所がない辛さを感じましたし、いくらSNSがあるとはいえ生(ライヴ)には敵わないんですよね。そんな思いも詰まった曲になったのかなと思います」

──今回はすべて英語詞になっていますね。藤原さくらさんのカタログには英語だけの曲も数曲ある中で、特に珍しいことではないのかもしれませんが、今回“英語詞オンリー”にした理由などはあるのでしょうか?

「ドラマの挿入歌などを作る時はいくつかオーダーがあるのですが、今回はそこまでの縛りはなくて、日本語の歌詞でも英語の歌詞でもどちらでもOKという感じでした。この曲は、メロディを作っていく中で、自然と英語のフレーズがどんどん出てきたので、それを素直にそのまま書いていきました。これがこの曲の自然な形なのかなと。あとはドラマで流れることを想像すると、英語の方がそっと包み込んでくれるような気がしたので」

──そして英語の監修はMichael Kanekoさんが担当されていますね。英語を添削してもらったり、発音を指導してもらったりという感じですか?

「そうですね。曲によってはガッツリ英語詞を書いていただいたこともあるんですけど。今回は私が書いた英語の歌詞を見ながらアドバイスをもらったのですが、あんまり直すところがなくてほぼOKをもらえました。「こっちの方がネイティブっぽいかも」という感じで直したくらいですね」

──“チーム藤原さくら”がとっても充実していますね。

「そうですね。特にここ数年は、ジャズ界隈の方とお仕事をさせていただく機会が多くて、その中で知り合ったジャズギタリストの井上銘くんが今回もギターを弾いてくれたり、「ムジカ・ピッコリーノ」のMarty Holoubekさんがベースを弾いてくれたりしていますね。あと、海野雅威さんとも交流する機会があって今作のピアノを担当していただいています。それぞれ一つ一つは単発のお仕事だったりするんですけど、それが地続きで繋がって、こうやって集大成みたいな曲に参加してもらえて本当によかったなと思います」

──そんなメンバーが集まってやるレコーディングはどんな雰囲気なのか気になります。やっぱりジャズっぽい作り方になっていたりするんですか?

「まさにそうですね。最初はクリックに合わせて録音してたんですけど、最終的にはクリック無しのセッションで一斉にレコーディングしたテイクが使われたんですよ。レコーディングというより、かなりライヴ感のある雰囲気の曲に仕上がっています」

──ライヴでのアレンジも楽しみですね。ライヴといえば来年にはツアーが控えています。どんなライヴになるのでしょうか?

「まずメンバーは今回の新曲を制作した方々を中心に構成していくと思います。演出についてはまだ構想段階ですが、ライヴに来てくれた方が未開の森に足を踏み入れたみたいな、不思議で神秘的な世界観を作りたいなと思っていますね。新しい音楽体験というか。来年のツアーでは、今までとは違う私を見せたいですね」

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LIVE INFORMATION

Sakura Fujiwara Tour 2024

2024年4月14日(日)
福岡 Zepp Fukuoka

PROFILE

藤原さくら

シンガーソングライター。福岡県出身。父の影響でギターを手にしたのが10歳。洋邦問わず多彩な音楽に触れ、高校進学後、オリジナル曲の制作を始める。そこから少しずつ音楽活動を始め、地元・福岡のカフェやレストランを中心としたライヴ活動で徐々に注目を集める。天性のスモーキーな歌声とジャンルレスな楽曲で世代を超えたリスナーの心を掴む。2023年5月には4作目のオリジナルアルバム『AIRPORT』、10月25日にはデジタルシングル『daybreak』をリリース。2024年には全国ツアーが発表された。