『らんど』という【実録】が告げる現在地
ZAZEN BOYS、ここにきわまる。

ZAZEN BOYS

取材/文:SATOMI YAMASAKI

『らんど』という【実録】が告げる現在地<br>ZAZEN BOYS、ここにきわまる。

12年ぶりのアルバム『らんど』をリリースし現在全国ツアー敢行中のZAZEN BOYS。もはや説明不要だろうが、長いタームを感じさせないどころか世界の現在地を的確に射貫く尖鋭性に息を吞む。戦慄するのは、たとえば『永遠少女』に描かれる“しょうもない世の中”も“嘘だらけの世の中”も、全部自分の中にある、あるいは、それらが自分を孕んでいることを突きつけられるから。そして向井秀徳の呻きに、そこにいまだ当事者としての意識しかないことにあらためて驚く。本インタビュー後に行われた福岡DRUM LOGOS公演のライヴ写真とともに、向井秀徳の声をお届けする。

──新作についてはたくさん取材を受けられていて、いくつか目を通したんですが、各曲にモチーフとなる明確な情景があること、それを向井さんがけっこう覚えていらっしゃること、少し意外でした。

向井:あ、そう。まぁ確かにね、これはどういった意味合いだとか、この曲はどういったことを歌っているのかっていうのはね、説明するのが難しいわけですよ。だからその場の思いつきで適当に答えてますけどね。強引なる後付けですね。

──(笑)そういうものですか。それは音や曲から喚起されて?

向井:たとえば、取材で質問をいただいて。一緒に考えるわけだ、答えを。それで謎を解くんですね。そこで瞬間的に、ある程度の答えを出す。

──ある種の掘り起こし作業のような?

向井:そんな考え込むようなことではないですね。なぜなら思いつきですから。思いつきで私答えてますんで、あまり信用しないでください。勝手に考えてくださいというか、突き放すわけではないんですけども、創った自分自身がわからないんだから、あなたにもそう簡単にわかるわけはないだろうなと。でもみんな、別に答えを知りたいわけじゃないですからね。私は、ミステリー作家ではないし。ヒントを与えて、宝探しゲームをやってるとか、そういうことでもないですから。聴く人もそういう聴き方しないんじゃないですかね。なんとなく…“わかるかな、わかんねーだろうな”っていうのはね、常にテーマとしてあるね。“俺にもわからん!”みたいな。でも最終的にはなんかぼんやりと、納得する、みたいなね。ある意味曖昧なもののほうが、私は心地好いですね。

──向井さんについて考えるとき、いつも思うことがあって。今活躍する多くのバンドがNUMBER GIRLの影響を受けていて、そのことを公言する方も少なくないです。音楽的な影響力はもちろんですが、向井秀徳という人の求心力もとても大きい。PANICSMILEの吉田肇さんには以前、「一緒にステージに立った時に感じた、言葉にしがたい人間力が圧倒的である」というようなことを伺ったことがあるのですが、あらためて現在の向井さんの根源を知りたいと思って。

向井:私も、音楽のみならず、いろんな影響を受けているんですけども、それはやっぱり何かどこかすごく個性的なものに対してですね。もっと言えば、そういう人が創ったものであることが伝わると、影響されますね。その人が滲み出ているもの。個性、もっと言えばハートがね。その人のハートが見えるようなものに感動しますね。

──ありがとうございます。では『らんど』の話に戻ります。12年の軌跡、蓄積の中のある情景を鮮やかに目撃させてもらいながら、現在地を自ずと見いだすような尖鋭的な音像だと受け止めました。向井さんとしては12年かかったというかかけたというか、こうやって形になったことで感じることはありましたか。

向井:1週間でできようが、10年かかろうが、結果、結論は同じですね。同じようになるんです。もう、こうにしかならないっていうのは、やっぱり思いましたよね、今回、こうやってアルバムにしてみて。自分がやりたいことっていうのは、こういうことになるんだろうなっていうのは、思いましたけど。

──確かにZAZEN BOYSという表現のここにきわまる、その圧倒感は凄烈でした。あと、興味深かったのが、たとえば『DANBIRA』から『バラクーダ』へ、『乱土』から『胸焼けうどんの作り方』へ、その詩句を拾うように繰り返すことで途切れない情景と、同時に楽曲が成っていく様を目撃しているような感覚にもなったことです。

向井:まぁ、そういうドキュメンタリー要素はあるかもしれないですね、私自身の。“ディス・イズ・向井秀徳”の、実録があるかもしれないですね。うん、それはやっぱり、“実録・向井秀徳”ということですね。実録・ドキュメント、そこを楽しんでもらっていいんですよ。深く考え込む人も少なからずいらっしゃいますけども、それも結局、この曲は、この歌詞は、この言葉は、と、どういう意味があるのかと考えるのが楽しいということなんでしょう。

──その楽しみは非常に思い当たります。もうひとつ、今作で印象的だった刹那的な夕暮れのシーンの頻出について聞かせてください。“twilight years”とすると人生の黄昏時、いわゆる晩年の意にもなりますが、ご自身のことではなくともそういった人生の経過への意識もあったんでしょうか。

向井:夕暮れ時の時間帯というのはやっぱり、ハートを動かされる時間だなと私は思います。昼間から夜になる瞬間、そしてその時間帯の色合いとか、サイズ感とかは、季節季節で全然違うわけですね。こういった真冬の場合は特に、非常に短いわけですよ、夕暮れ時が。もう30分足らずで光がなくなっていく。それはある種の果無(はかな)さを感じたりもしますし、焦燥感に駆られることもある。

──やり残したことがあるような気分になったり。

向井:あるかもしれないねぇ。まぁでも、夜になったら夜になったで、夜に付き合うか!みたいなこともあるわけですけど。夜の男になろう、夜の女になろう、夜の女に会いに行こう、みたいなね。

──ちなみに、夜の似合う女はどんなイメージですか。

向井:桃井かおりさんじゃないですか。

──なるほど、わかりやすい。

向井:ただ実は桃井かおりさんは、朝方、夜明け頃も似合うね。夜からずーっと眠らずに朝を迎えるときの桃井かおりがいちばんグッとくるね。

──この『らんど』にもグッとくる瞬間はたくさんありますね。そして昂揚する瞬間もいくつも何度もありますし、バンド自体がその演奏や音に一触即発であることも伝わってきます。同時に、向井さんの呻きには、やはりいまだに苦痛というか打ちのめされてる感があって、そのリアリティにも揺さぶられます。向井さんの中では楽曲、音楽を創るという行為は、負荷の大きいもの、ずっと苦痛を伴うものでもあるんでしょうか。

向井:それは、大きくありますね。それは私だけじゃないと思いますよ。何か、いろいろな表現をする人においては。つまり、余裕で何かを生み出すことは不可能なんですね、私の場合は。それを余裕でできる人もいるんだろうけど、それは限られた天才とかですね。努力が必要だし、努力を怠ってはいけない…とは全っ然思っていないですよ。できれば努力したくないですよ。でも努力しないと、無理なんです。それは知ってるんだ。だから努力するんです。

──その過程で、打ちのめされることもある。

向井:辛いです、それはやっぱり。辛いものなんです。そんな辛くなって、負荷がかかるまでなんでやるかっつったら、なんかこう自分自身のモヤモヤッとしたものを、音楽という形で表すことができたときにね、少なからずの歓びがあるわけですよ。その歓びは余裕で生まれないですよ。それはもう、私はわかってますよね。

──その道程を越えて、アルバム『らんど』が完成に至るにあたって大きかったこと、ひとつ挙げるとしたら何でしょうか?

向井:やっぱりそれは、ニューメンバーとしてベーシストのMIYAが加入したっていうのは、ZAZEN BOYSにとって大きいことですね。加入してもう5年経つんですけど、MIYAが入ることで音も形も、また新たなものが見えてきた。自分も昂揚しましたしね。それが原動力となってやっと出来上がった、ということですね。

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LIVE INFORMATION

ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION 2024

2024年5月18日(土)
鹿児島 CAPARVOホール

CIRCLE '24 出演!

2024年5月19日(日)
福岡 海の中道海浜公園 野外劇場

PROFILE

ZAZEN BOYS

向井秀徳(Vocal,Guitar,Keyboard)、吉兼聡(Guitar)、MIYA(Bass)、松下敦(Drums)。2002年結成、2018年にMIYAが加入し現体制に。Matsuri Studioを拠点に独立独歩で精力的かつ創造的な活動を展開している。2024年1月24日に6枚目のアルバム『らんど』をリリース後、6月まで“ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION 2024”を敢行中。