答えは歌の中じゃなく、それぞれの心の中にある。
Nothing's Carved In Stone
取材/文:なかしまさおり
INTERVIEW

2023年に結成15周年を迎えたNothing’s Carved In Stone(以下、ナッシングス)。今年2月には、その締めくくりとして、自身2度目の日本武道館単独公演を実施。ファンリクエスト上位20曲を含む全32曲(!!)を見事完遂し、成功裏に収めたことは記憶に新しい。そんな彼らが5月にリリースした最新EP『BRIGHTNESS』。7曲入りながらフルアルバム並みの濃さと強靭さを備えた本作。キャリア15年を超えてなお、進化し続ける最強のバンドサウンドについて、村松 拓(Vo, Gt)に話を訊いた。
──しばしの充電期間を経て、迎えた昨年の“結成15周年イヤー”。久しぶりの対バンツアー“15th Anniversary Tour 〜Hand In Hand〜”を皮切りに、今年2月の日本武道館まで、かなり忙しい日々が続いたと思うのですが、制作はいつ頃からスタートさせていたんですか?
村松 拓(以下、村松):たしか、去年の11月頃からだったと思います。もちろん、その前から曲作りは各々していたんですけど、まとまってスタジオに入り始めたのが、多分その頃。…で、12月に3曲──『Dear Future』と『Freedom』、『SUNRISE』を録って、1月にまたプリプロ。2月に武道館。で、また3月に、それ以外の曲を録ったという感じです。
──今回はアレンジャーを立てた曲もあったそうで。ナッシングスとしては珍しいですよね。
村松:もともと「アレンジャーをどうしようか?」みたいな話は、自分たちでもしてたんです。というのも、これまでずっとセルフプロデュースでやってきて、(考え方や表現方法などが)年々、凝り固まっていくのは感じてたし。結局、“今いちばん研ぎ澄まされたもの”を作ろうとすると、『Isolation』とか『Out of Control』みたいになっていってしまう現象がどうしてもあって。そこをどうにか、もう一皮、剥きたいねと。それで、一度、外部から客観的な意見を聞いてみるのもいいんじゃない?ということで、最初は自分たちでプロデューサーやアレンジャーを探したんですけど、全然しっくり来なくって。最終的には、その過程でワーナー(ミュージック・ジャパン)とタッグを組むということになり、そこを通じて、akkinさんとNaoki Itaiさんを紹介してもらいました。
──それぞれ、どの曲を誰に、というチョイスはどのようにして?
村松:最終的に『Will』をakkinさん、『Dear Future』と『Freedom』をItaiさんにお願いしたんですけど、2人ともキャラクターが違うんですよね。例えば、akkinさんはストレートで壮大な感じ。とくに『Will』は、デモの段階から2年ぐらい寝かせていた曲で。このままだと、自分たちでは、オーソドックスなロックバラードに作り上げてしまいそうな予感があったので、まずはそのままの形をakkinさんに聴いてもらって、そこからアレンジを広げていった感じです。
──『Will』は奥行きがあって壮大な、いわゆるスタジアム・アンセム的な雰囲気を持った曲に仕上がっていますね。
村松:そうなんです。多分、そこがakkinさんの得意なところで。自分らだけだったら、あそこまで壮大に、ストレートに…はできなかったと思うんですよ。それを、ここまでやっていいの?ってところまで導いてもらって。本当にいい影響を受けたなと思います。あと、個人的にいいなと思ったのは、akkinさんがギターでアレンジをする人だったこと。やっぱり、うちの(バンドの)カラーの一つに、生形(真一)のギターの強さ、音色の深さや幅…があるとは思うので、そことのマッチング、親和性の高さがあったのも、すごく良かったんじゃないかなと。
──Itaiさんとの作業はいかがでしたか?
村松:Itaiさんといえばシンセ。もともと、うちのバンドって、めちゃくちゃシンセ(の音色)とかを入れるバンドではあるんですけど、そのエレクトロな部分と人力とをどう融合させるのか──その部分での“進化”のカタチも、ちゃんと見せることができているんじゃないのかなと思います。それこそ『Dear Future』とか『Freedom』とか、けっこう音を詰め込んでるし、ラウドではあるんですけど、すごく洗練された印象になってて、すごく勉強になりましたね。
──そういえば前回『ANSWER』リリース時のインタビューで、ウブ(生形)さん、拓さんだけでなく、ひなっち(日向秀和)さんも積極的に曲作りに参加されるようになったというお話を伺いました。それは今も同じですか?
村松:そうですね。今も、その延長線上にありますね。とくに今作では曲だけじゃなく、歌詞も──『SUNRISE』は、ひなっちが書いたものが元になっているし、『Challengers』のサビの後半とかも、ひなっちのアイディアで。俺は自分が歌えるように、ちょこっと直しただけで、ほぼそのまんま。というか、全然違和感がないんですよ。いわゆる、俺や生形が書きそうな歌詞でもあるし、よく見れば3人とも同じようなことを言っている。多分、もともと持ってる“うちのバンドのメッセージ”だとは思うんですけど、同じバンドを15年、ちゃんと本気でやってくると、こうなるんだなって。今のバンドのモード自体がそういうことなのかなって実感しています。
──今回はサウンド面での進化というか、アップデート感もハンパないですね。これだけ長く、いろんなナッシングスの曲を聴いてきて、それでもまだ“聴いたことのないナッシングスがいた!”という感じで。初っぱなの『Blaze of Color』からド肝を抜かれました。
村松:ですよね(笑)?そうなんですよ。うちはまず、リズム隊をガッツリ固めてから、アレンジの方向性が決まっていくんだけど、今回、オニィ(大喜多崇規)がこだわってたのはサウンド面でのプッシュだったり、フレージング以上に、音色を選んでる時間の方が長くて。もともとトリガーで生のドラムとハイブリッドにしてたのを、ここ5年ぐらいは生音にこだわってやってたっぽいんですけど、その価値観をもう1回、引っ張り出して、トリガーでカッコいい音作って…ということをやりたかったらしいんですよね。しかも、面白いことに、今回、オニィも実はデモを書いてきてて。ただ、これはもうちょっと時間をかけて作った方がよくなりそうだねということで、いまは一旦、寝かせてるんですけど、その辺りも含めて、メンバーそれぞれが“進化”していってるんだなぁと実感します。
村松:それこそ、事務所を独立する前は、みんなでレコーディングの環境に籠りきって、曲作りができていた。でも、この5年間は、それができなくなって、(各自)デモを書くようになって。そのデモに、どうバンドの色を足して、どう洗練させて、昇華させていくのか?みたいなことをずっと探してきたような気がするんですよね。でも、今回の作品で、そうしたことに一旦、答えが出せたんじゃないのかなって。みんなで1曲1曲、時間をかけて、アイディアを出し切って、納得のいく形で制作できた1枚になっているんじゃないかなと思います。
──『Bright Night』も興味深かったです。さっき「“今いちばん研ぎ澄まされたもの”を作ろうとすると、『Isolation』とか『Out of Control』みたいになっていってしまう現象がどうしてもあって」っておっしゃったんですが、そうなりそうでならないぞ!という“強い意志”が、アレンジとかからも、めちゃくちゃ感じられるし、『Challengers』のメロディとか、目まぐるしく変わるビートとか、かなりユニークで耳を惹きます。
村松:『Challengers』は確かに、忙しいっすよね(笑)。そういえば、これも2年間ぐらいかけてフィックスしてるんですよ。メロディとかアレンジが全然違うバージョンで、1回レコーディングまで終わったのに、あきらめかけてた曲で…。
──でも、歌詞がすごくいいですよね。もしかしたら15周年、武道館公演、そういう節目もあっての、この歌詞なのかなって。さっきの話じゃないですけど「そうしたことに一旦、答えが出せたんじゃないのかな」という意味合いも含めて、“バンド”というものを一回、捉え直しているのかなって。
村松:『Challengers』に関しては結構、難しかったですね。全部英語でもよくね?とか。日本語全部の方がいいのかもしんない。とか。自分の中でも新しすぎて、なかなか着地点が決まらなかった。だから、その着地点を探してる時間の方が長かったですね。…たぶん、5回くらい書き直してます(苦笑)。
──でも、結果的に、みんなでちゃんと歌える感じになっている。
村松:うん、そうなんですよね…(しみじみと)そう。だから、アンセム、作りたいんですよね、バンドの。
──いや、もうあるじゃないですか(笑)。
村松:いや、もっと、もっと欲しいんですよ。なんか5万人くらいが一緒に歌ってそうなアンセムが。多分、うちのメンバーはみんな思ってるんだろうなって。今回の制作中はとくに思ってたかもしれない。『Will』に関しても、『Challengers』とか『SUNRISE』とかに関してもそうなんですけど。ライヴにおけるその楽曲の作用というか、アプローチというか。こういう曲があったらよくない?っていうのを、みんな結構溜めてて。もちろん、ライヴでも時々(オーディエンスに)歌わせてみようよとか、試してはいるんですけど、なにぶん難しいのか、なかなかみんな歌えないんですよ(苦笑)。だから、予習とかしてくる以前に、その日しか、ライヴに来れない子もいるだろうし、もっと“瞬発的にみんなで共有できる”ような歌があればなと、みんな思ってたんだと思いますね。だから、今回、コーラスパートが意外と多い曲が多くて。
──その辺りの思いもバンドとしては一致していたんじゃないかと?
村松:ですね、俺はそう思ってます。そもそも、そういうパートが入ってくること自体、今までとは明確に違うし、サビの歌詞が書いてある部分で、俺が歌わないとかって、今までだったら考えらんないですからね(笑)。“それができる楽曲たち”ということなんだろうなとは思っています。あと、楽曲1曲1曲のアレンジにめちゃめちゃこだわって作ってたんで、 その瞬間はみんなライヴのことは忘れてるはずなんですけど、でも今、現状“めっちゃライヴ映えする”ってことは、作ってる段階で、その目線をみんな持ってたっていうことなのかなって、俺は解釈してます。それに俺、今回ギターほぼ弾いてないです。難しいから。
──難しい?
村松:そう。ライヴで歌えなくなるのは嫌だから、ギター絶対、弾かねぇぞと(笑)。そのぶん今回は、もう、めっちゃ歌。あ、でも『Dear Future』のアコギとか、『SUNRISE』のバッキングとか(一部、レコーディングで)弾いてって言われたところは弾きましたけど。でも、そんなもんですね。ただ、結局いまライヴでは弾いてるんですけどね(笑)。
──しかし、それにしても7曲入りながらフルアルバム並みの聴き応えがある1枚になりましたね。改めて、タイトル『BRIGHTNESS』に込めた想いがあれば、お聞かせください。
村松:ナッシングスって、結構、内面の歌が多いんですよね。でも、いわゆる“答え”は歌の中じゃなく、それぞれの心の中にあるっていうか、それぞれが自分の力で探し出していくしかなくて。そういう一連の“生きる作業”みたいなものを続けていくことで、増す“輝度(BRIGHTNESS)”というものも、あるんじゃないかなって。人は失敗もするけど、また変われるし、それによって強くなることもできる。それに、そうやって生きていくと、周りの人たちとも、人生のいい“支え合い”ができるようになってくると思うんですよ。自分のできること、できないことをちゃんと認めて、できないことは「じゃあお願いします」と(周囲に)言えるようになったり、失敗したら「ごめん」って言えるようになったり。なんか、そういう当たり前のことをやるために、自分の輝度を上げていく、自分の中で答えを出していくことが必要なんじゃないかなって。
──そういう意味合いを込めた“BRIGHTNESS”だと。
村松:うん。そういう意味では、“僕らがファンの人たちにできること”っていうのは、作品を作ることだし、ライヴをすること。そういう面での期待は裏切らないよう頑張っていこうとは思ってます。だって、どうやってもね、 みんなの人生の責任は取れないわけだし、音楽とか、それにまつわるもので楽しませて、ちゃんと期待に応えていきたいなと思ってます。
──そんな本作のリリース直後にスタートした全国ツアーも、残すところあと2公演のみとなりました。ただ、すでに発表されているように、8月31日には、5度目の野音(日比谷公園大音楽堂)公演が控えています。ツアーとは異なる“この日だけのスペシャルなセットリスト”が披露されるとの告知もありますが、どんなライヴになりそうですか?
村松:こんなことを言うと、ちょっと語弊があるかもしれないんですけど、いまツアーを通して演ってきて(『BRIGHTNESS』に収録されている)新曲がさらに良くなってきてるんです。だから、まだまだこれからも(曲が)練り上がっていくだろうし、(イベントも含めて)どのライヴに来ても、きっと楽しんでもらえるなとは思ってます。でも、だからといって(ナッシングスが出演するライヴに)「全部来い!」とは言わないですよ(笑)?!ただ、どこに来ても楽しませられる自信はあるし、それこそ野音は、セットリストも(ツアーとは)全然違う。つまり、ツアーの延長線上ではなく、「全くの別モノ」だと思って、楽しみにしていただけたらなと思ってます。
村松:それに僕ら、今度で5回目の野音ですけど、“夏の終わり”に演るのは初めてなんです。だから、そこもめちゃくちゃ楽しみにしてるし、野音では毎回、何かしらのドラマが──たとえば、めちゃくちゃ大雨が降って、物販の列の人がみんなずぶ濡れになって、本番、無理かな〜って思ってたけど、本番前に急に晴れて…みたいな(笑)。そういう“ドラマ”をくれたりする場所なので、そこも期待しつつ、楽しめたらいいなと思います。皆さん、お待ちしています!
──ありがとうございました。
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LIVE INFORMATION
PROFILE
Nothing's Carved In Stone
村松 拓(Vo,Gt)、生形真一(Gt)、日向秀和(Ba)、大喜多崇規(Dr)。2008年始動、2009年1st Album『PARALLEL LIVES』をリリース。以降、コンスタントに作品発表&ライヴ・ツアーを敢行。常に進化し続けるハイクオリティなロックサウンドと圧巻のライヴ・パフォーマンスで多くのファンから絶大な支持を得ている。2019年には自主レーベル「Silver Sun Records」を設立。2023年に結成15周年を迎え、今年2月には、その集大成として日本武道館での単独公演「15th Anniversary Live at BUDOKAN」を開催した。なお、8月31日には自身5度目の日比谷公園大音楽堂(野音)でのワンマン・ライヴ「Live at 野音 2024」の開催も決定。現在、敢行中の「BRIGHTNESS TOUR」とは異なる“この日だけのスペシャルなセットリスト”が披露されるとのことなので、期待して待とう!