それぞれの“答え”を求めて、
この時代の中で、一生懸命頑張って
生きてる人たちへのメッセージ。

Nothing's Carved In Stone

取材/文:なかしまさおり

それぞれの“答え”を求めて、 <br>この時代の中で、一生懸命頑張って<br>生きてる人たちへのメッセージ。

前作『By Your Side』から約2年。常に“新たなロックの可能性”を追求し、進化し続けるNothing’s Carved In Stoneが12月1日、オリジナルとしては通算11枚目となるアルバム『ANSWER』をリリースした。歴代アルバムの中でも、ひと際目を引く強烈なデザイン。真っ赤な下地に、ドデかいフォントで黒々と印刷されたその文字自体が、すでにひとつの“答え”でもある。誰にとっても最適解など無いに等しかったこの1年半の日々。彼らはどのように世界を生き、その“答え”へと辿りついたのだろうか──村松拓(Vo,Gt)に話を訊いた。


──前作『By Your Side』のアルバム・ツアーを終えた後ぐらいからコロナの渦に巻き込まれることになったと思うんですけど、そんな中でもナッシングスはデジタル・シングル(『NEW HORIZON』『Dream in the Dark』)やセルフカヴァー・アルバム(『Futures』)のリリースをはじめ、スタジオ・ライヴ、無観客/有観客含めた完成度の高い配信ライヴを実施するなど、精力的に活動されていましたね。

『Dream in the Dark』MV

「最初はどうしても“自分たちにできること、自分たちがやりたいこと”(=ライヴ)が制限されてたので、思うようにはいかなかったですけど、それでもあきらめずに、とにかくスケジュールだけは立て続けて。少しずつやり方を変えながら、その時その時にできることをやって…という感じで進めてきました」


「もともと“デジタルで(シングルを)出そう”というのは、コロナ以前から決めていて。なおかつ、“2020年は新曲の制作はしつつも、旧作たちを録り直そう”ということまで(2019年の段階で)決めていたので、あのタイミングで出せたのは、本当に運が良かったなと思います」


──そういえば、2018年頃の取材だったと思うんですけど、“最近はBPM抑え気味の曲が増えていますね”という話の流れから、拓さんが“たぶん今、やってて一番気持ちのいいタイム感がそこなんでしょうね”といったニュアンスのことをおっしゃっていたんですけど、まさに去年『Futures』を聴いた時に感じたのが、まずそれで。原曲とは違うタイム感、“今”のナッシングスがやることによって生まれる大人のタイム感みたいなものが非常にカッコ良くて心地良かったんですよね。


「ありがとうございます。結局、(『Futures』に収録している曲は)ライヴでずっとやり続けている曲ばかりなので、そこで鍛えられた部分もあるとは思うんですよね。バンド自身の演奏力、グルーヴ感…もはやライヴでしかやってないアレンジの曲とかもあって。そういうのを一回、ちゃんとパッケージできたのは、すごく良かったなと思いますね」

『Rendaman』MV(Self-Cover)

──そもそも、しっかりとメロの立った歌ものバンドであるというのは大前提なんですが、ナッシングスの場合、そこに混在するサウンドのディープさとか、楽器群それぞれのアプローチの多彩さみたいなものに当初は比重をおいて、曲作りをされていた時期もあったわけじゃないですか。
それが、数年前からは取材でも“シンプルに”とか“ストレートに”というワードがたくさん出るようになって、より“歌”や、サウンドも含めた“曲そのものが放つメッセージ性”みたいなものに、バランスの比重がシフトしていってるのかなぁと。その『Futures』然り、今回の『ANSWER』然り、聴いて、強く思ったんですが。


「確かに。それは、あるかもしれないですね。言ってること、歌の中身は全然変わらないんですけど、そのメッセージ性…伝え方、見せ方みたいなものは、少しずつ変わってはきてますね」


──それこそ今回のアルバムはタイトルからして『ANSWER』。それだけで、何らかのメッセージが伝わってきますし、曲にしても日本語詞の割合がグッと増えて、その書き手も、もはや生形さんなのか拓さんなのか区別があんまりなくなってきた(笑)。ということは、よりバンドとしての方向性がわかりやすくなってきたのかなと感じます。

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「うん。それは今回のアルバムにもつながると思うんですけど、例えば……アメリカのハードコアから上がったバンドが、ちょっとエモっぽくなってミドル・テンポの曲が増える…みたいな(笑)。そういう変化って、ファンからすると、“え?”ってなると思うんだけど、実はそういう時に結構いい曲が生まれたりもしてて。もしかしたら、(ナッシングスも)今、そういう時期なのかなぁって」


「ただ、メッセージ性に関しては、みんなで結構ミーティングしたんですよね、今回。そういうの、今まであんまりなかったことなんですけど。大体1年ぐらい前かな?アルバム制作を始めた段階で…例えば『Pride』とか、『村雨の中で』とか、『Milestone』とか。あと『Shimmer Song』もそうかな。そういうメッセージ性の強い曲を挙げて、“それに近い方向性で、なおかつ、それを超えていくような作品を作ろうよ”っていう話をして」

『Milestone』MV

「もちろん、歌詞は僕と真一の二人で割り振ってるから、それぞれの“色”はあると思うんですけど、不思議なことに二人(別々に書いているのに)なぜか同じ言葉を使ったりもしていて。ま、それもずっとナッシングスでやってきてそうなった部分だとは思うんですけど、そういう意味では、最初から方向性としては明確だったなと思います」


「あと、音楽性についても、今までは“その瞬間のひらめき”みたいなものをバンドで共有して出来上がったような曲も多かったんですけど、それって結局、ノリだよねって話で。それはそれで、うちの魅力ではあるんだけど、今回は“そこじゃないもの”を伝えたいね、と。練って練って練り込んで、そこからそぎ落としていく方が強度があるんじゃないか、ストレートに刺さってくるものがあるんじゃないかというような話もしたので、そこはすごくバンドとして成長できた部分だとは思いますね」


──たしか『By Your Side』からスタジオを変えたんですよね?そのせいかはわかりませんが、より1つ1つの音が立って聴こえる気がします。


「うん、クリアですよね。それに、ものすごく広い。イヤホンで聴いたらわかるんですけど、左右の幅と奥行きがすごくあって、縦もデカくて。だから、その(音の空間の)どこに誰がいるっていうのがより明確にわかると思うんですよ。これはもうエンジニアさんの腕によるものなんですけど(笑)、僕らがイメージしてることをより明確に作ってくれているので、結果、曲としてのストーリー性もすごく際立ってきてるんじゃないかな」


──とくに今作では、アルバム全体を通して、ここは音を出す/出さないというメリハリの強さもすごく感じて。


「そこはすごく考えましたね。メンバー各々がいちばん時間をかけたところというか。ここは必要、ここは必要じゃないというのは、妥協せず納得するまで意見を出し合いました」


──『Deeper,Deeper』は、その顕著な例だと思うんですけど、この曲は構成とか、鳴ってる音とかもユニークですよね。


「そうそう(笑)。『Deeper,Deeper』はイントロが盛り上がる仕組みにはなってるんですけど、イントロ後のAメロも1回しか来ないし、その次のAメロも1回しか来ない。で、次にBのブリッジみたいなのものも1回しか来なくてサビがドカンと来たと思ったら、すぐ間奏で、またサビ…みたいなね。すごく潔い曲ではあるんですよね。大体、日本で聴いてほしいと思ったら、大正義な進行、わかりやすくてシンガロングしやすい進行で作るのが普通なんですけど、こういう仕組みの曲をつくると逆にオリジナリティが出て、サビが活きるという(笑)」


「あとプレイに関しては多分、ひなっちが変なんですよ(笑)。最近、シンセ(サイザー)で出すようなフレーズをよく弾くんですけど。これもベースが2本入ってて。1つはデン、デン、デルデデ…っていうフレーズが、実は後ろでずっと走ってて。それをギターが、あそこの部分だけ表に出す…みたいなね。そういうことをやっていたりしてますね」

『Deeper,Deeper』MV

──今作に関しては生形さんと、ひなっちさん、お二人で作られたデモを元に作られた曲が多いとお聞きしました。


「そうですね。たしか『Wonderer』辺りから二人でスタジオに入って、やっていたんじゃないかな。最初はどんなふうになるんだろうと思ってたんですけど、デモの段階から、各々の完成度がすごく高くて。ドラムも打ち込みが入っていて、ある程度の輪郭はできていたので、あとはそこにメンバーそれぞれの色とか、意見とかを乗せていくような形で進めました。だから、曲に関しては作曲者の意向がすごく強く出てると思います」

『Wonderer』MV

「ひなっちの曲でいうと今回、『Walk』なんかは相当手応えがあったみたいですね。僕もすごい好きなんですけど、“今までナッシングスで表現したかったけどできてなかったことが、ようやくできた!”というふうに言っていて。やっぱり、ナッシングスの持ってるイメージって、ちょっとメカニカルで冷たかったり、男らしかったり、やや都会的な感じがするバンドだとは思うんですよ。でも、そういうイメージの俺たちが『Walk』みたいな曲を表現できたら、すごく映えるんじゃないかと常々思ってたみたいで。それを多分(初デジタル・シングル)『NEW HORIZON』とか、『Wonderer』とかを作ってく中で少しずつ試したんだと思うんですよね。それが、ようやく実になったのが『Walk』なんじゃないかなと」

『Walk』MV

──目の前に広がる景色が広くて、歌詞も背中を押してくれるような懐の広さがあります。歌詞の路線でいうと『Recall』や『Beautiful Life』にも通じるものがありますよね。


「その辺は生形のセンスでしょうね。『Recall』のサビも、割とうちの定番だと思うんですけど、それをどこまで“新しく聴かせられるか”ということにこだわった。結果、ものすごい突き抜けてる曲ができて、(周囲の人に聴かせた中で)一番評判がいいんですよね」


「『Beautiful Life』はスタジオに入った段階で、だいぶアレンジが変わったはずなんですよ。最終的な方向性は確か、ひなっちの意見がデカかったと思うんですけど、メロディが引き立つテンポと歌で、ギターとドラムもわりとストレートな音作りをして。あと、真一がよくヴィンテージの機材を買ってくるんですけど、現行のものよりは音としての設定がだいぶ尖っているものが多くて。そういうものを使うとアナログ感が出るんですけど、弾き方で“古臭くならないように”というバランスは細かく調整してました」

『Beautiful Life』MV

──さっき、“みんなでミーティングした時に、自分たちの中でメッセージ性の強い曲を挙げて、それを超えていくような作品を作ることを目指した”とおっしゃってたんですけど、挙げてくださった曲の中で、訊きたいのはやっぱり『村雨の中で』(2013年『REVOLT』収録)で問いかけた<僕らにとって自由とはなんだ>という命題に対する答えですよね。それが今回『Flame』で描かれているんじゃないかと。それこそストレートに<完成形無い日々を自由の意味だと思えたら>と歌われているので。


「はいはいはい(笑)。まさにって感じですね、それは。やっぱり<僕らにとって自由とはなんだ>って書いたものの…(さて、その先どうする?)みたいなところが自分の中ではあったんですよね。でも、メンバーからすると“あの歌詞が書けたんだから、もっといいの書いてよ”みたいな期待があるみたいで(笑)。でも、俺としては、同じことは歌えないなっていうのがあるじゃないですか。だから、“次の答え”を出さなきゃいけないなっていうことで、結構悩みに悩んで、出てきた言葉ですね」

『Flame』Provided to YouTube by Space Shower FUGA

──でも、これはいい言葉ですよね。完成形が無いことの自由。イコール、答えがないことの自由というか、自分で決めて出す答えこそが自分にとっての正解になるっていう。何かを抱えてる人にとっては、また別の角度から背中を押してくれるような歌だと思います。


「うん、うん。あと<Please stay strong>って書いてるんですけど、あれは“強くいてよ”っていう話ではなくて、“若さを保て”っていう意味。だから、大人になりすぎるとブレーキがいっぱいあって、自分はこうだからとか、これはやりたくないとか、邪魔なプライドも出てきたりして。でも、元々は何もなかったよねってことを思い出すと楽になるよと、そういう想いも込めています」


──ちなみに『Flame』は曲もめちゃくちゃ魅力的で。いわゆる4人のルーツ的なものがいろいろ放り込まれた面白さと、さっきも言ってた“音のメリハリ”的な部分での気持ち良さ、コーラスの妙みたいな部分とか、いろんなフックがあって、ロックミュージカルの中で歌われても良さそうだなと思って聴いていました。


「あー、それめっちゃ的確ですね。実は自分たちとしても“そっち系”だと思ってるところがあって。ロックミュージカルじゃないけど、例えばアメリカの…マイ・ケミカル・ロマンスとか、パーティ・ロックをやるようなバンドが、すごく壮大な曲を書いた…みたいな。ま、“イメージ”だけの話なんですけど(笑)。でも、そういうドラマチックだったり、ロマンチックだったりする部分が、この曲にはあると思うので、言いたいことはすごくわかります」

My Chemical Romance『Welcome To The Black Parade』MV

──そんな『Flame』同様、拓さんならではの詞の乗せ方、言葉のチョイスや歌い方といった部分にグッときたのが『Bloom in the Rain』です。
なんといっても<限界を超えて二度咲くflower>という神フレーズ。曲の最後の最後、すべての楽器が同時に鳴り止む瞬間に放たれる“flower”の響きと、直後のわずかな余韻(空白)…が、めちゃくちゃヤバくて(笑)。結果、そのまま、また頭からリピート…ループに陥ってます(笑)。

『Bloom in the Rain』MV

「ありがとうございます(笑)!曲自体はリフがあって、疾走感があって、踊れるようなリズムの…いわゆるナッシングスのストレートな部分が出てると思うんですけど、やっぱり歌詞に関しては、コロナの影響があったかもしれないなと思っていて。ちょうど、自分だけじゃなく、周りの人がだんだん困っていくのが見受けられるような時期に書いていたので。もしかしたら、世の中にもそういう人が結構増えているのかもしれないなと。だったら、そういう友人に向けた曲みたいなものを書けば、いろんな人に伝わる歌詞になるのかなと思って書きました」


「それは、このアルバム全体にもつながっていると思うんですけど、この時代の中で、一生懸命に頑張って生きてる人たちに向けたメッセージがたくさん詰まったアルバムになったなと思うんですね。そんな中でやっぱり、自分たち自身が一皮向けた…自分たちなりの“答え”を出して先に進めたという思いもあるので、そういう意味を込めて(アルバム・タイトルを)『ANSWER』としたところもあるし、自分としてはもう一つ、そういう人たちが一人になった時とか、自分自身と対峙しなきゃいけないような時に、BGMとしてこのアルバムを聴いてくれたら嬉しいなと思ってて。みんなが何かの“答え”を出さなきゃいけないようなときに、ちょっと背中を押せるような作品にはなったんじゃないかなと思ってます」


──さて、そんなアルバムを携えた全国ツアーが12月からスタートしています。福岡は年明け1月16日(日)にDRUM LOGOSで予定されていますが、その日を心待ちにしているファンの方へ、メッセージをお願いします。


「とにかく今は、ツアーに早く行きたいです!行って、みんなでわいわいライヴして…っていう、そのためのアルバムでもあるので。みんなも(新型コロナウイルスの状況とか)いろいろ気になることも多いとは思うんですけど、僕らも準備は万全にしていきますし、せめて、ライヴの時間だけは(気持ちを)解放できるよう、みんなを楽しませたいなと思っているので、ぜひ遊びに来てください!」

11th Album『ANSWER』初回限定盤付属DVD「Studio Live “Futures”」トレーラー映像
LIVE DVD&Blu-ray『Live at 野音 2021』2021年12月下旬発売予定(通販&会場限定)
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LIVE INFORMATION

Nothing's Carved In Stone
"ANSWER TOUR 2021-22"

2022年1月16日(日)
福岡DRUM LOGOS

PROFILE

Nothing's Carved In Stone

村松拓(Vo,Gt)、生形真一(Gt)、日向秀和(Ba)、大喜多崇規(Dr)。2008年始動、2009年1st Album『PARALLEL LIVES』をリリース。以降、コンスタントに作品発表&ライヴ・ツアーを敢行。常に進化し続けるハイクオリティなロックサウンドと圧巻のライヴ・パフォーマンスで多くのファンから絶大な支持を得ている。2019年には自主レーベル「Silver Sun Records」を設立。今年12月下旬には、9月19日に日比谷野外大音楽堂にて開催された“Live at 野音 2021”の模様を収録したDVD&Blu-ray作品を通販&ライヴ会場限定でリリース予定。詳細は公式サイトをチェック!