音楽と台日愛で、心通い合うライヴに。

ゲシュタルト乙女

取材/文:前田亜礼

音楽と台日愛で、心通い合うライヴに。

ジャンルレスなサウンドと日本語で歌う独自世界を表現しながら、台湾と日本をつなぐ架け橋として活動する台湾出身バンド・ゲシュタルト乙女。その主軸である、Mikan Hayashi(Vo,Gt)が約1年ぶりに来福!今年3月に発表した『副都心』に続く、最新作『神様』のリリースと、6月から始まる日台8ヵ所での弾き語りツアー「門出燦々(かどでさんさん)」について、今の熱い気持ちを語ってくれた。

──昨年出演アーティストとして参加された音楽フェス「CIRCLE ’24」に足を運ばれたそうですね。1年ぶりの福岡の印象やフェスはいかがでしたか?

Mikan:CIRCLEでは今回、くるりの岸田さんに会えて、ちょっとお話して写真を撮りました。ちょうど去年のCIRCLEでインスタをフォローしてもらって、え!ってなってたので、まさかの1年後に会えるなんて。くるりさんのライヴって純粋に直球で感情を伝えられる技術がすごいですよね。ギター1本でここまでできるんだ、みたいな刺激を受けましたし、次の音づくりにその刺激をいかして、自分のものにしたいなって思いました。

──福岡では、海外から観光を兼ねて、CIRCLEなどのフェスを楽しみに来ている音楽ファンも年々増えているようです。

Mikan Hayashi(ゲシュタルト乙女)『空気』(Live at CIRCLE ’23)

Mikan:そうですね、新曲のキャンペーンで大名界隈を回ったんですけど、町を歩いてたら台湾の観光客から声をかけられたり、CIRCLEでも台湾のお客さんが見つけてくれて写真を撮ったり、一緒に同じ景色を楽しめる感じがいいなって思いました。CIRCLEって音楽のジャンル的には結構自分から探し出して、その良さがわかるアーティストたちばかりなので、台湾のみんながこの場所に集まれるということがすごくいいことだなって思います。

──福岡の街には台湾や韓国などからの旅行者も多いですが、自分が楽しめる出会いを見つけることに、感度が高いなと感じます。アジアという身近なところでもっとカジュアルに互いの国を行き来して、つながっていけたらいいですよね。ゲシュタルト乙女の活動にとってもプラスになる刺激を受けたかと思いますが、現在、メンバーは阿司(アース、Ba)さんと、サポートの2人を加えた4人体制とのこと。バンド体として、今どんな感じですか?

Mikan:「準備万端」みたいな気持ちです!アースは、4年ほど前に出会ってサポートとしてベースやアレンジをお願いしてたんですね。メンバーが脱退して1人になった時に、「この人とバンドがしたい」って思って誘ったんですよ。アースもJ-POPとかJ-ROCKとか多様なジャンルが好きな人で、ベーシストとしてアレンジの時にリズム体の一貫性を重視してアドバイスをくれるんです。尊敬できて、無理せずに自分が言いたいことを言い合える仲なんですよ。私が(くるりの)岸田(繁)さんだったら、アースは佐藤(征史)さんのような、そういう仲かなって(笑)。今は2人でバランスをとって活動していてすごくいい状況で、どんなステージでも乗り越えていけると思ってます。で、共通点と言ったら、ふたりともthe band apartが好きで、『副都心』もそれをきっかけに、荒井岳史(Vo,Gt)さんにアレンジをお願いすることになったんです。

──今年、3月にリリースされた『副都心』は、荒井さんのアレンジと台日のクリエイター陣が関わって生まれた楽曲とのことですが、すごく軽やかでアーバンな感じの楽曲に、甘く気だるげなヴォーカルが調和していますね。

ゲシュタルト乙女『副都心』

Mikan:すでに曲は完成している状態で、荒井さんに共同プロデュースとしてアレンジをしてもらったんです。曲が戻ってきた時には、自分が想像できない進行とかフレーズとか、すごく爽やかでバンアパ色になってました!レコーディングはバンアパのスタジオで行ったんですが、「こういう歌詞だから、メロディに合わせてポップに歌わなくてもいいよ」って、歌についてのアドバイスももらえて、自由に歌えました。

──5月にリリースされた最新曲『神様』は、『副都心』とはまた違った曲調で、サビや間奏部分でのフックもあって、テンションの上がるサウンドと突き刺さる歌詞が魅力的です。

Mikan:『神様』は、一層一層異なるレイアウトが重なっていくような構成と、うねりのあるサウンドになっていて、ライヴ向きの曲を意識して作りました。今、迷ってる人に聴いてほしい曲です。私は日本語の歌詞を書いてバンド活動をしてますが、 周りのみんなは中国語とか台湾華語で歌ってるのに、自分で難しい道を選んだわけで…、ときに自分に疑問を持ったり、迷いが出ることもあって。でもやっぱり、初心は日本の音楽が好き、こういう表現の仕方が好きなんですね。だから、真っすぐに誠実に自分の思いを伝えたいし、まわりの目を気にせずに、自分の好きなことをやっていけたら、というメッセージを込めています。

十字路の写真のジャケットにも意図があって、上から下への俯瞰で撮影しているんです。これは、「自分が自分の神様」だと意識してほしいなって思って。いちばん自分のことをわかってるのは自分だから、人に左右されないように、自分が自分の神様であってほしいなって思ってます。

──制作にあたって、台湾のシンガーソング・ライターであり音楽プロデューサーから技術・精神面での指導も受けたそうですね。

Mikan:はい、今回、林依霖(Elisa Lin)と甜約翰(Sweet John)の浚瑋(Vo)の2人から指導を受けました。林依霖(Elisa Lin)は、アースがサポートでベースを弾いていたつながりで歌唱指導していただいて。Maydayとかのアレンジを手掛けていて、プロデュース技術がすごい方なんです。レコーディングでは緊張感をやわらげる術を教わって、大草原を走るような抜けた感じというか、新しい一面を出せたと思います。

浚瑋(ジェイ)は台湾のインディーズ・シーンですごく大事なバンドのメンバーで、歌のレッスン教室をやっているくらい、歌が上手いんです。だから歌唱を強化したいなと思って、レッスンを受けに行ったんですね。そしたら、すぐにいい声を出せる方法を教えてくれて。今までライヴですごく緊張したり、うまく歌えない部分もあったんですけど、今は対応の仕方が分かったから、部屋で歌うように自然な感じで歌えるようになってきました。

ゲシュタルト乙女『Nice to 密 you.』(Live at 大港開唱 Megaport Festival 2024.3.30)

──ステージ上でさらに進化したMikanさんの表現力に期待が高まります。歌詞については、『副都心』でもそうですが、繰り返すフレーズ使いが印象的です。言葉のリフレインによって楽曲のテーマや届けたい思いというものが強く深まっていく感じを受けますが、そこはMikanさんが敢えて意識しているところですか?

Mikan:複雑にしすぎると逆にポイントがぼやけて見えるから、単純に簡単な表現で伝えたいなとは思ってるんですね。『副都心』は、都会で日々生き急いでる人に向けて、少しは息抜きが大事で、その自分の心の声を聞いてねっていうメッセージを入れています。今の社会って、みんな毎日忙しくて、心を休めることがあんまりできていない環境なので、もっと自分に優しくできたらなと思って。この曲を聴いて、少しでも心が穏やかになれたら…と思いながら歌詞を書きました。

──バンドとしての本格始動を前に、Mikanさんの弾き語りツアーが始まります。ツアー・タイトルの「門出燦々(かどでさんさん)」ですが、今のMikanさんの気持ちが伝わってくる、素敵な響きの言葉ですね。6月5日の福岡公演を皮切りに、日本と台湾全8ヵ所を巡るツアー(すでにソールド・アウトが出ているところもありますが)、セットリストは各地で違ってきそうですか?

Mikan:そうですね。ちょっと変化をつけたいなと思ってます。曲順だったり、カヴァー曲も入れたいなと思っていて、各地で違うアレンジをしたいですね。会場は、弾き語りに合うカフェ&バーといった場所を選んでいて、日本では以前からライヴしてみたかったところやスタッフがいい場所を見つけてくれました。台湾では自分たちでブッキングしていて、どこも日本的な雰囲気と台湾の個性が混じり合った素敵な場所で行います。

──今回のツアーでは、4月に台湾東部で起きた地震の復興支援として売り上げの一部を寄付するとのことですが、ステージと客席との距離が近いので、観客も同じ思いを通わせながら、Mikanさんの演奏やMCがダイレクトに届く特別なひとときになりそうです!

Mikan:寄付については、やっぱり音楽で人に力を与えることは自分たちにしかできないことなので、自国とか誰かが困ったときに助け合うことが大事だなと思って、スタッフに相談して決めました。

今回、福岡に来て、「福岡、好いとーよ」って方言を教わったんですね!ライヴでは、台湾華語教室みたいなこともしたいなって。いろんな場所へ行って、人やその土地の性格や魅力を感じられるのがライヴの良さでもあるので、私の生まれ育った台湾の環境や文化と、皆さんの暮らす地域のことや思いを交換できたら嬉しいなと思っています。

私は台湾の魂を持っていくので、九州の魂、持ってきてください。
「ライヴ会場で待っとうよ!」

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LIVE INFORMATION

ゲシュタルト乙女 弾き語りツアーライブ 「門出燦々」 

2024年6月5日(水)
福岡 como es

PROFILE

ゲシュタルト乙女

2016年1月に結成した台湾のロックバンド。実験的でジャンルレスなサウンドと日本語で描く独自の世界観を持つ歌詞が、台日の音楽ファンの心を掴む。初期の作品はマスロック、デジタルロックなどの要素が特徴的だったが、2019年以降の作品は空間系サウンドやシューゲイザーの要素でより広がりと深まりを見せている。代表作『生まれ変わったら』がSpotifyバイラルTOP50にて初登場7位を獲得、またJ-WAVE TOKIO HOTにて80位にランクイン。Spotify Japanでは最も注目すべきバンド「Early Noise2020」に選出され、同年4月には台北にて開催されたワンマン・ライヴで約700人の動員を記録。台湾、日本両地で活躍し、台湾の「メガポートフェスティバル」、「浪人祭」、「キャンプ・デ・アミーゴ」、日本の代々木公園で開催された「台湾フェスタ」、梅田阪神「食祭テラス」…など、数多くのライヴやフェス出演実績がある。ヴォーカルの Mikan Hayashi はソロの名義で活動もしており、長岡亮介、青葉市子なども出演する福岡の音楽フェス「CIRCLE ’23」に出演した。