虚構とリアルの境界線で、瞬く生死
天使になるとはどういうことか?
PK shampoo
取材/文:なかしまさおり
INTERVIEW
一度聴いたら忘れられない、怒涛のタイトル・リフレイン。加藤マニ氏によるMVも印象的なリードナンバー『天使になるかもしれない』をはじめ、結成当初からの人気曲『翼もください』のリテイクなど全4曲を収録した最新EP『輝くもの天より堕ち』を7月31日にリリースしたPK shampoo。それこそ、“天使”というキーワードで前回の取材記事を締めた筆者としては、いろんな意味にて、興味津々(そういえば、前作『再定義E.P』のジャケットワークもテーマは“天使”だったんじゃなかった?)。虚構とリアルの境界線で、瞬く生死を果敢に歌い続けるヤマトパンクス(Vo,Gt)に、話を訊いた。
──前作『再定義E.P』は“現時点からバンドの軌跡を再定義する”というコンセプトがあったかと思うのですが、今作は?
ヤマト:前回、“再定義”とか、カッコつけた言い方してましたけど、実は“メジャー行って変わったな”みたいな声に若干ビビってた部分もあったと思うんです。だから、その予防線としてのセルフオマージュ…言い訳がましく“初心忘れてないよ!”みたいなアピールをやってて(苦笑)。でも、今回はそういう衒いも無しに、純粋に、EPとしてのコンセプトを持って曲を書いてみました。
──ということは『翼もください』(2018年)以外は?
ヤマト:書き下ろしです。いつもは締切直前まで何もしないタイプ。コンセプトはむしろ最後に決める…というような作り方をしてきたんです。けど、今回は先に<天使になるかもしれない>っていうワードがあって、やりたいことが決まっていた。しかも、リリースが“夏”という場面設定まであったので、そこからなんとなく“天使と夏”みたいなイメージで(1曲目、2曲目を)書いていきました。3曲目『翼もください』は、イメージ的にも“翼”だし天使に近いと思ったのと、「そういえばバンドでちゃんと録音してなかったなぁ」と思って入れました。だから、最初はこの3曲で「シングルでええやないか!」とレーベルには言ったんですけど、「いや、4曲入れたいねん!!」と言われて(『ひとつの曲ができるまで』を)無理やり書かされました(笑)。
──そうなんですね(笑)。にしては、めちゃくちゃいい曲だなと思います。前回おっしゃっていたような「ふだんの日記のスーパーデラックス版」でありつつも、フロウや声色はめちゃくちゃ新鮮で。“こんな歌も歌うんだ?!”と驚きでした。
ヤマト:前回は“締切に間に合わんわ!”みたいな曲(『あきらめのすべて』)を書いたんですけど、今回は“作品を作るにあたっての自分”だったり、“それを取り巻く環境みたいなもの”をメタ(高次元)から見たような曲を書こうと思ってたので、かなり(PK shampooとしては)聴いたことないようなものになったかなと思ってます。
実は今、東京にいるのは僕だけで、他のメンバーは大阪と京都にいるんです。だから、あんまり一緒にスタジオには入れなくて。この曲は、メンバーにあらかじめ「ポエトリーリーディングみたいなコンセプトで多分やることになると思う」「こんなコードワークが多分、いいと思う」と大枠だけを伝えて、オケを作って貰っていたんです。ただ、最初にメンバーから上がってきたオケが(自分のイメージとは)全然違ってて。いわゆる3コードのまっすぐな骨太ロックみたいな感じ(苦笑)。いや、曲としては全然カッコいいんですよ?でも、そんな“夏だ!西海岸だ!”みたいな明るいサマーチューンを本当に俺らがやるの?って。それこそ、(福島)カイトが出してきた『天使になるかもしれない』のリードギターのフレーズなんかも同じで。それはPK shampooらしくないんじゃないの?ってことで、かなり細かく調整していきました。
──具体的には?
ヤマト:作品全体を通して、トーンをできるだけ抑えたかったというか。マイナー調というと、ちょっとニュアンスが変わりますけど、“苦みをちょっとだけ足す”とか、“影を少しだけ落とす”といった表現になるようには、意識しましたね。
──それは歌詞のムードにもあてはまりますか?『天使になるかもしれない』は曲もすごくキャッチーですし、“天使”という言葉のイメージもあってか、なんとなく明るい雰囲気で語られがちだと思うんですけど、そもそも“天使になる”ってどういうこと?どうやってなろうとしているの?って考えると「ちょっと待って!」と言いたくなる自分もいて。
ヤマト:うん。確かに、そういう含みはあるでしょうね。もともと(『天使になるかもしれない』の)歌詞自体は30分くらいでガーッと書いて、そこにメロディをつけてできた曲なんです。だから、作ったときは本当に、深くは考えてなかったんです。ただ、あとから自分が読み返したり、メロディをつけて歌ったりしてみて、なるほど!と。どうとでも(解釈が)取れる曲なんだなと気がつきました。
実はこの曲のMVは加藤マニ(※1)さんに撮ってもらっているんです。でも「すごく解釈の難しい曲だな」ということで、その時も綿密に打ち合わせをして。例えば、スイサイダルな感じ(※2)もあるけど、そっちを出しちゃっていいのか?とか。逆にコメディータッチになりすぎても、ちょっと違うだろうし…って。その“あいだ”をどう掬い取るか?という話は、けっこう緻密にやりました。ただ、曲に限らず、映画でも小説でも何でも、“解釈の余地があるもの”っていうのは多分、いいものだろうなと。自分もそういう作品がわりかし好きだし、だとしたら、この曲も(解釈としては)どうとってもらっても構わないかなと思ってます。
──先ほど『ひとつの曲ができるまで』は“メタから見たような”曲だとおっしゃっていました。でも(その構造を踏まえたとしても)クリエイターとしての苦悩や葛藤はヤマトさんの本音のようにも聴こえるし、その(リアルと虚構の)境界線ぎりぎりに置かれたライン(<何らかの刑事事件を起こす必要があるかも>)には、いろんな意味で、かなりドキドキしてしまいました。
ヤマト:結局、“いいのができた!”“いい一節、いいメロディーが浮かんだ!”と思っても、それはすでにあるものに似てたり、似てしまってたり。別に意識してパクってるわけじゃ無いし、偶然なんでしょうけど、クリエイションって、そういうものとの葛藤だと思うんですよ。できれば、それを克明に、できるだけごまかさずに歌えたらなと思うんですけど。それでも、そこにちょこっとだけのユーモア成分──それこそ“松村邦洋がやる(ビート)たけしのモノマネ”そのまんまのワードだったり、声色だったり──を入れておくというのは、意識しました。
ただ、日記みたいな“ドキュメンタリー”…って言うと偉そうですけど、そういうものにはやっぱり、どこか“はみ出した部分”“踏み越えた部分”が一つぐらいは必要だろうなとも思うんですよね。“どこに出しても恥ずかしくない言葉だけで構成する”んやったら意味がないというか。ましてや、僕みたいな人間の日記である必要もないし…。って部分では、もう二重に…ネタ的にもそういう歌詞を書く必要があるやろうし、そもそも、その歌詞を書いてる時点でほんまにそう思ってたりもする…っていうのは、あるでしょうね(苦笑)。
──そういえば、ヤマトさんの好きな(落語家の故・)立川談志(前回の記事を参照)も言ってましたね。“自我を突き詰めていくと狂気になる”って。たぶん、それと同じようなことなのかなと。
ヤマト:うん、そうだと思います。それに、もっと言えば「狂気まで行った者しか“自我”と捉えてもらえない」って側面もあるのかも。例えば“普通に働いて、普通に家庭を持って、普通に暮らして、普通に死にたい”──なかには、そう本気で思って生きてる人たちだって、いるはずなんですよね。でも、なぜか世の中は、そういう人たちのことを“好きなように生きた(人)”とは言わなくて。どちらかと言えば“好きなことだけをやって、人に迷惑をかけてばかりの人”を指して、そう言うじゃないですか。そういう意味では、(談志の言う)狂気じゃないけど、“(何かを)突き詰めてる感”だったり、“踏み越えた表現”だったりっていうのをどこかで自分にも期待されてるような空気をなんとなくですが、勝手に感じてたりして(苦笑)。…いや、被害妄想かもしれませんよ?でも…なんかもう、眠たいし、しんどいし、めんどくさいし、いっそのこと刑事事件でも起こして逮捕されてやろうかな…とかね(笑)。思ったりする部分も、少なからず僕の中には普通にあるし…。
──でも、そのためにヤマトさんには歌があったり、バンドやライヴがあったりするんじゃないでしょうか。
ヤマト:ええこと言うてくれますね(笑)。そうですよ、俺、この間もどっかのライヴで言ったような気がするんですけど、バンドとか音楽とか今、やってなかったら、マジで振◯込◯詐欺グループとかを結成してますから(笑)!
──そういう意味では『ひとつの曲ができるまで』は、ヤマトさんの本音とリスナーへのサービス精神が、うまい具合に混ざり合って爆発している新しいタイプの曲とも言えるでしょうね。ちなみに『翼もください』は原曲がソロ時代の曲で、バンドとしても一度、インディーズ時代に音源化はしてるんですよね?
ヤマト:はい。『奇跡』っていうシングルに入ってます。でも、その音源自体はサブスクにも出てないので、実質リリースしてないのと一緒なんです。だから僕としては今回が“初収録”という感じで捉えてます。それにPK shampooの曲って、まだギリ、トラッシュ(ノイズ)時代に作った曲の方が多いんですよね。でも、僕の記憶が正しければ、この『翼もください』が、PK shampooとして書いた最初の1曲目で。それもあって、僕の中では“この曲以前、この曲以降”でニュアンスがちょっと違うというか、明確に線引きができてるような気がします。
例えば『神崎川』とか『星』とかは、どこか絵本とか童話みたいな世界観だったと思うんです。もちろん、“それが好き”って人もいるでしょうけど、どこかぼんやりしたイメージの中で、“星がきれい”だとか、“君がいなくなってしまった”だとかを歌っていた。でも、この『翼もください』は僕が24、5歳ぐらいの時に書いた曲で、それまでは出てこなかった概念──“神への祈り的なもの”──が明らかに出てきてるんじゃないかと思うんです。もっと単純化して言えば、それまでの(トラッシュノイズ時代に作った)10何曲かは、“自分と自分の過去と空と海みたいな風景画”で、そこに“宗教観”とか“マリア的な何か”が加わったのが『翼もください』なんじゃないかと。そういう意味では、最新曲『天使になるかもしれない』まで続いてる(PK shampooとしての)もう1本のレールができたきっかけの曲でもあるのかなと思いますね。
──なるほど。前回、ヤマトさんの描く“視点の高さ”みたいな話も出たんですけど、その原点となる曲がこれだった、と。
ヤマト:そうですね。これ以降、明らかにレイヤーがもう一段、引き上がった感じはありますね。
──たとえばヤマトさんは、よく歌詞やタイトルの中で、さまざまなSF的作品へのオマージュを感じさせる表現をされています。今作ではEPタイトルからして同名のSF小説(※3)がありますし、個人的な所感で言えば『夏に思い出すことのすべて』には、SF群像劇的なアニメ『Sonny Boy』(※4)の世界観にも近いものを感じて、ぐーっと胸をつかまれました。
ヤマト:残念ながら『Sonny Boy』は見ていないんですけど、“SFちっく”という部分では当たらずとも遠からずな気はします。というのも、“ジャンルとしてのSF”は実は全編通して意識していて。とくに『夏に思い出すことのすべて』には『ひとつの曲ができるまで』も含めて、あるアニメ作品からのリファレンスが歌詞の中にもあるんです(※5)。それに、夏の曲を書こうと思った時でも、やっぱり僕の中では“日焼け止め塗って、水着に着替えて、今から海に行こうぜ!”みたいな“未来形の夏”はノーサンキュー(苦笑)。どちらかといえば昨日の海、10年、15年前の海を思い出す“過去形の夏”の方が自分にはしっくりくるし、ここで描いた夏についても、特定の夏…例えば“14歳の夏休み”みたいなことではなく、“今まで自分が見てきた夏、全部”をアニメのセル画みたいに重ねて1枚の絵にしているイメージなので。そういう夏の思い出をギュッと……“1つのZIPファイルにして、ギガファイル便で送りますよ”みたいなことなのかなって。
ただ、そこに“生き死に”の匂いがするというのは妥当性があって。例えば昨日、福岡に着いて、大砲ラーメンで高菜チャーハンを食べたとします。でも多分、来年そのことをわざわざ思い出さないとは思うんですよ。だって“生き死に”に関わっていないから。そう考えると、“わざわざ振り返るに値する過去”には、どうしても“命みたいなもの”が絡んでいて、自分の手には負えないような巨大な何か、両手に余る何かがあるんじゃないのかなと。
──ただ、最後に置かれた<もしも世界が君を変えて/生きることすらあきらめても/無かったことになりはしない/夏に思い出すことのすべて>が、大きな救いでもあります。
ヤマト:うん、そうですね。そういうのはやっぱり必要かなって、思って。実はこの曲、自分の中では、象徴的な光景とかシーンを列挙していくところが『神崎川』の作りに、ちょっと似ているなと思ってるんです。ただ『神崎川』は僕が曲を書き始めた、21歳ぐらい頃に書いた曲だし、いま聴くと、もっとこうすれば良かったなって部分もありつつ、いや、最初の頃にしか作れないシャウト感だったり、青臭さがあったり、それはそれで、もちろんいいとは思うんですけど。今年で僕、もう30歳になりまして(笑)。『神崎川』を作ってからは8年か9年、経ってるわけです。だとしたら、(シーンを)列挙して終わりじゃなく、ちゃんとオチをつけれるように、最後に包括できるようにしたいなと思って。このAIの時代に、人が歌う意味だとか、残せる何かがあってもいいのかなとか。作り手側の矜持、プライドの問題として、そういうことをつけ加えてみたくなったんですよね。いわゆる“説教おじさんムーブ”が若干出てきたなって(笑)。
──でも、そういうキャラクター的な部分も含めて、ヤマトさんの存在や歌が今、すごく求められているんじゃないでしょうか。
ヤマト:もうね「あいつ酒ばっか飲んでアホやで」って言われることも多々あるんで、そうであれば、ありがたいことです(笑)。
──9月からは、いよいよ本作を携えての全国ツアーが始まります。福岡公演は9月21日(土)ですが、どんなライヴになりそうですか?
ヤマト:そうですね。福岡はライヴへの反応が大きいイメージがあって、いつ来ても、ずっとあったかい場所だと感じています。というか、“人”がとにかく熱いんですよ。だから、ライヴがめっちゃ楽しいし、それは今回も楽しみなところです。あと、今作で言うと『天使になるかもしれない』が結構、アップテンポな曲なので、ライヴでやったらほんま楽しそうやなとは思ってます。しかも、今まで自分が書いた曲の中では“いちばん歌える曲”というか。今までも“歌メロが歌謡曲っぽい”とか、そういうことは言ってもらってたんですけど、この曲はBPM感とかも含めて、駆け抜ける感じがあって、すごくわかりやすい曲になってます。もちろん、どういうふうに受け入れられるかわかんないですけど、この曲がちゃんと、聴いてくれてる方のあいだに広まっていけば、ライヴで一緒にシンガロングできるかも?!とは思っているので、その辺りも楽しみです!
──ありがとうございました。
※1:MV界で引っ張りだこの映像作家。http://www.manifilms.net
※2:スイサイダル(suicidal)な=自殺願望的な、自滅的な
※3:『輝くもの天より堕ち』は、悲劇的な死を迎えたことでも知られるSF作家、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(別名義:ラクーナ・シェルドン)の最後の長編小説と同名であり、昨年6月にリリースした『Pencil Rocket Opera E.P』には長野まゆみの小説『宇宙百貨活劇 ペンシルロケット・オペラ』の響きを、前作にも収録された『第三接近遭遇』にはスピルバーグの映画『未知との遭遇』の原題『Close Encounters of the Third Kind』的な香りを感じる。もちろん他にも、いわずもがなの宮沢賢治『銀河鉄道の夜』(いや、どっちかっていうとGOING STEADY/銀杏BOYZの方かもしれない?)の景色はかなり多くの曲から想像できるし、“きらきら星”のフレーズ、そして、あれやこれ…深読みすれば、もっと他にも探せそう。ただし“解釈の余地がある曲=絶対的な正解はない”とも言えるので、一つの見方に固執せず、多面的に自由に想像して楽しむべし。
※4:世界的大ヒットアニメ「ワンパンマン」で知られる夏目真悟監督による青春SFサバイバル群像劇。キャラクター原案にはマンガ家&イラストレーターとして知られる江口寿史が、主題歌には銀杏BOYZが名前を連ねた2021年夏に誕生した不朽の名作。
※5:<宇宙船がこんなに揺れるなんて/あなたに信じられるかしら><ワープは本当に静かな海でしかできない>~庵野秀明監督によるSFロボットアニメ『トップをねらえ!』(1988-1989年)をリファレンス。もともと『トップをねらえ!』自体が往年のアニメや特撮、映画作品へのオマージュ、パロディ、引用の嵐で構成。オリジナルはOVA作品だが、根強いファンも多く、周年ごとに劇場上映も行われている模様。チャンスがあれば是非。
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LIVE INFORMATION
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New EP『輝くもの天より堕ち』Release One Man Tour "A Day to Remember"
- 2024年9月21日(土)
- 福岡 LIVE HOUSE CB
PROFILE
PK shampoo
ヤマトパンクス(Vo,Gt)、ニシオカケンタロウ(Ba)、福島カイト(Gt)、カズキ(Dr)。2018年、関西大学の同じ音楽サークル所属の4人で結成。ノイジーかつエモーショナルなバンドサウンドと、詩的でメロディアスな歌世界。加えて、フロントマンであるヤマトの人間味あふれるキャラクターが若い世代を中心に今、熱い支持を得ている。なお今年8月4日には自身主宰のサーキットフェス“PSYCHIC FES 2024”を大阪・心斎橋一帯のライヴハウスにて開催。昨年、東京・新宿エリアにて開催した第1回目の規模・動員をともに大きく上回る数字を残し、大きな話題となった。なお前回のインタビューでも触れた漫画家・魚豊の代表作『チ。―地球の運動について―』が今年10月にアニメ化されることに伴って、公式トリビュートブック「『チ。―地球の運動について―』 第Q集」が9月末に発売されるとのこと。漫画家、小説家、詩人、芸人、宇宙飛行士など、各界を代表する執筆陣の中にはヤマトパンクスの名前もあるので、是非、チェックしてみてほしい。