レーベル設立後初のフルアルバムリリース!
より深く、よりアグレッシヴに、
ジャンル定義不毛の新章《DEEPER》へ。
fox capture plan
取材/文:山崎聡美
INTERVIEW

fox capture plan──ジャズやロックのヘヴィリスナーならずとも、その名前には見(聞き)覚えがあるだろう。あるいは名を知らずともその音楽が耳に馴染んでいる人は多いはずだ。ドラマ、映画、CM、アニメ、ゲームと彼らが音楽を提供した作品は枚挙にいとまがない。ピアノトリオとしては異端のフィールドの広さ、そしてジャズロックを切り口に、ヒップホップやエレクトロ、ポストロック等々多彩なジャンルを咀嚼しながら、インストの可能性を切り拓くと同時にポップスとしての求心力の高さまで獲得してきた貪欲さ。柔軟な発想力と高い技量を以て臨まれた彼らの作品にはいつも驚かされるのだが、昨年12月にリリースされた3年ぶりのフルアルバムはそんな驚きを軽々と超えるアジテーションを宿している。主宰レーベル設立の第1弾を飾る新作『DEEPER』について、来福したカワイヒデヒロ(Double Bass)に訊いた。
──今作、まずその獰猛ぶりに驚きました。
カワイ:ハハハ、確かに獰猛、激しいですよね。
──10周年を超え、去年、新レーベル設立を経ての新作というところで、メンバー間で何かテーマを掲げたり共有したりというようなことはあったのでしょうか。
カワイ:前作から3年ほど時間を空けてのアルバムなので、「どうする?」という(構想についての)話はしましたね。で、とりあえず出来た曲を並べていって、どういうアルバムにするか考えようと。
──その時点で新曲もあったんですか?
カワイ:そうですね。ちょいちょいアルバム用の曲は作っていましたし、録りだめていた曲もあったので。2024年春から”TRICOLOR”というツアーがあったんですが、そのツアー前のタイミングで岸本(亮・Piano)が『Deep Inside』を作ってきて。「この曲が今回のアルバムのリード曲かな?」と思ったら、そういうつもりでもないらしくて。
──リードっぽい、インパクトのある曲ですもんね。
カワイ:そうなんですよ、でもその時はそんな話にはならずにツアーが終わった後、すぐにレコーディング合宿に入ったんですが、いざレコーディングを始めるとどれもリードになっていいような主張の強い曲になっていって。だったらクセの強いアルバムというか、1曲1曲でメンバーそれぞれのパーソナリティーとかこれまで培ってきたものとかを深掘りして、それをコンパイルしたら面白いんじゃないか、そんな話にもなったんです。それで、『Vortex』なんかはブラストビートを取り入れたり。
──その『Vortex』、凄まじすぎて笑ってしまいました。
カワイ:当初は、ノリのいい、ロックっぽいライヴ映えする曲を作ろうと思ってたんですけど、レコーディングの最中に「アレ?これもしかしてブラストビートがハマるんじゃないか?」みたいな感じで思いついちゃって。で、試しにやってみてもらって。
──え?いきなり?
カワイ:そうですね、井上(司・Drums)に「このセクション、ブラストビートやってみて!」ってその場で叩いてもらいました。で、やってみたら「いいじゃん!めっちゃいいじゃん!!」と盛り上がって。レコーディング合宿の後半戦で録っていたので、それまでの疲れによるナチュラルハイというかテンションもおかしくなってたんで、どんどんどんどん激しくなっていって。僕のエレキベースもドラムでかき消されてるんですよね(笑)。
──ベーシストの曲なのにベース聴こえん!という事態になるほどに激しく発展した(笑)。
カワイ:この曲のベース、初めてピック弾きで録ったんですけどね。指は攣りそうだな、無理だなと思って。スタジオにあったピックを使って弾いてみました。
──その場でいろいろ起こってしまうのが、セッション的ですね。
カワイ:そうですね。いつもはしっかりデモを作って、8割、9割完成形にした曲をレコーディングでメンバーの演奏に差し替えるというやり方なんですけど、今回はわりとざっくりしたものを作って、それをスタジオで3人で“せーの”で合わせてリズム変えてみたりとか煮詰めていくっていう感じでした。というのも今回はレコーディング合宿で、じっくり時間をかけて作れた、曲を深掘りしていくことができた、というのが大きいかなと思います。譜面があってほぼ完成形のデモがあってそれ通りに演奏して録るというのがいつもの方法で、それはそれでいいんですけど、今回はそうではなく、何度も3人で合わせてみることでちょっとずつ曲に対する理解度を高めていって、それをレコーディングして作品にするっていう。今までやってそうでやってなかったことだったので、そういうトライも面白かったですね。
──そのトライが、聴き手には非常に好戦的というか、アジテイトな姿勢として伝わっているのではないかと思います。
カワイ:(笑)確かに、まだ攻めるのか?みたいなことを言われましたね。今回、「この曲のジャンルは何だろう?」みたいな曲が多いと思うんですよ。アシッドジャズっぽいのもあるしロックっぽいのもある、でも“ぽい”だけでジャンルの定義をさせないというか──まぁジャンルの定義自体がよくわからないんですけど──ジャンル定義ができないぐらいまで攻めていった楽曲が多いんですよね。ただ、ポップさというのも常に心掛けているところではあります。インストだから、やっぱりテクニックとか曲の構成の複雑さとかそういう部分に注力しちゃいがちなんですけど、曲としての聴きやすさ、メロディーを立たせつつ、裏ではプレイでのテクニックも発揮させているというほうが僕は好みなので。なるべく曲のテーマが聴けるようにはしたいと思ってます。(歌詞がなくても)メロディーを口ずさめる曲ってあるじゃないですか。そういうのがfox capture plan(以下fcp)にとって大事なんじゃないかなと思ってるんです。……まぁ、そういうキャッチーさがないと、自分たちが曲を覚えられないから、というのもありますが(笑)。
──(笑)一発で身体に馴染む、入るような。
カワイ:あぁ、そうですそうです(笑)。
──ジャンルレスであると同時にオールジャンルでもあるというか、音楽的な間口の広さも今作の強さかなと。
カワイ:長いこといろいろやってきましたからね。劇伴で培った、いろんなジャンルを演奏できるスキルみたいなものも、アルバムに還元できている気はします。ただそれは、僕らがいろんなジャンルをやりたいというよりも、いろんなジャンルの要素を詰め込んだら、聴く人がそれぞれの音楽を知るきっかけになるかなと思っていて。いろいろな音楽への入門、入り口ぐらいに僕らは居て、その奥にはたくさんのバックボーンがある。そこに興味を持って深掘りしてもらうためのきっかけになったらいいなという思いでやっているところもあります。…そういう深掘りをさせるための“DEEPER”なのかなとかちょっと思ったり。タイトルは岸本がつけたので真意はわからないんですけど(笑)。
──あ、そういうことか……このタイトルに関しては、対外的なものというより内在的なもの、自身を深く掘り下げるという意味かと思っていました。
カワイ:あ、そういう意味でもあると思いますよ。ブラストビートなんかでも、「ブラストビートやって」って言われてすぐにやれるドラマーなんて、そうそう居ないんですよ。だからこそ、以前ブラストビートをやっていた井上が、以前組んでいたバンドで演奏していたことを現在に呼び戻してやったら面白いんじゃないかとか、そういうアイデアが生かせるのはこの3人ならではだと思うし、プレイヤーとしての深掘りもできたと思います。今までfcpがやってきたことを焼き直しみたいな感じでやったって、ファンの方であっても新しい曲が出たぐらいの認識で終わってしまう。そうはなりたくないので。できれば、常に何か変なことやってるな、ピアノトリオでこんなことやってんの僕らだけだろうなという感じで作品を出して、いろいろなリアクションをもらいたいですね。
──今作でも、1曲目の『Deep Inside』でインパクト充分なのに、聴いていくとそれがまだ序の口だったことが分かるという。
カワイ:けっこうイカれた曲が多いと、自分でも思います(笑)。
──カワイさんの手がけられた曲だと、さっきお話に出たアシッドジャズ風味の『GOLD&TURQUOISE』なんかも今のリスナーには新鮮に響くような気がします。
カワイ:今までやってこなかった曲調なので、こういう曲もあっていいよね、という感じで作りました。ジャミロクワイとかもすごい好きなんで、オマージュも含めて。タイトルも『Space Cowboy』の歌詞からのインスパイアですね。なぜゴールドとターコイズかと言えば、“キンミヤ焼酎”が目の前にあったから(笑)。飲み屋でタイトル考えてたら、ふとキンミヤ焼酎のラベル(ターコイズブルーの地に金文字の“宮”)が目に留まって。なので僕らはこの曲を“キンミヤ”と呼んでいます(笑)。
──まさかの甲類焼酎……こんなにアーバンなのに(笑)。
カワイ:でもお酒とアーバンさって、すごい合うと思って。東京で飲んでるとけっこう多いんですよ、キンミヤ焼酎が並んでるお店。それに……こういうふうにタイトルをつけるとインタビューのネタになるなと思って名づけました、ハッハッハ。
──恰好のネタ、聞けてよかった(笑)。最後に、あらためて聞かせてください。今作はfcpにとってどういう存在になると思いますか?
カワイ:……めちゃくちゃ新しいことをやってるわけではないけど、いろいろなアイデアを機転を利かせて使ったというか、昔からあるものの組み合わせの妙というか、そういう意味で巧くできた作品だと思うんです。これを若いリスナーが聴いて、「何だコレ?」で終わるのか、「何だコレ?なんでこんなことやったんだ?生で聴いてみないとわかんねー!」ってライヴに来てくれるのか……来てくれたらうれしいですし、20年後、30年後に発掘されて深掘りされたら面白いだろうなと思います。
──未来で深掘りされる『DEEPER』、楽しみです。ちなみに4月のリリースツアーでは『Vortex』も演奏されます?
カワイ:あ、やりますよ!あのビートをぜひ至近距離で聴いて、観てください。
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LIVE INFORMATION
PROFILE
fox capture plan
岸本亮(Piano)、カワイヒデヒロ(Bass)、井上司(Drums)によるピアノトリオ。2011年結成。2013年リリースの2ndアルバム『BRIDGE』でJAZZ JAPANアワードとCDショップ大賞JAZZ部門賞を獲得したことを契機に、ジャンルに囚われない尖鋭的な音楽性が国内外の耳目を集める。『カルテット』(2017年)や『コンフィデンスマンJP』(2018年)などの劇伴でも注目され、以降多くのドラマや映画等の音楽を担当。2023年の『ブラッシュアップライフ』、2024年の『アンメット ある脳外科医の日記』『【推しの子】』といった話題作に続き、2025年1月期の注目作『ホットスポット』(バカリズム脚本×市川実日子主演)も手がけている。ライヴやツアーも精力的に敢行し、東京JAZZフェスをはじめ国内外の大型フェスにも出演。また、2023 年大晦日には『第74回NHK紅白歌合戦』グランドオープニングの音楽を担当するなど、多岐にわたる活動を展開中。2024年7月に主宰レーベル“CapturisM.”を設立、12月18日には3年ぶり、11作目となるオリジナル・フルアルバム『DEEPER』をリリースした。