華麗なる進化は止まらない。
25枚目、まだまだ新しい景色へ。
クレイジーケンバンド
取材/文:荒木英喜
INTERVIEW

9月3日、クレイジーケンバンドの1年ぶりとなるニューアルバム『華麗』がリリースされた。これは彼らにとって通算25枚目となる記念すべき作品だ。前作『火星』に続き、今作は全15曲とクレイジーケンバンドにしては少なめな収録だが、その分、彼らの音楽性や新たな世界観が凝縮された1枚となっている。では、リーダー・横山剣の思いをどうぞ。
──今作は“若い!”という印象と“ライヴ感がある”という印象を持ちました。
横山:ライヴ感は欲しいと思っていました。以前は割と長くて5分くらいの曲が多かったのですが、今回はスカッと始まり、スカッと終わるような選曲をしましたね。レコーディングの後半で、新たな曲を2曲作り、2曲を外しました。1曲目の『Hi』と2曲目の『LOVE』は出来たばかりの曲です。ブラスロックっぽい『Hi』と、ビートは速いけどコードとメロディが綺麗な『LOVE』、「こういう感じがあったらいいな」と感じた曲を一番最初に入れました。
──『LOVE』の疾走感は気持ちいいです。それも含めて“若い!”という印象を受けたのだと思います。前作『火星』など近年の作品とは違う世界観がありますね。
横山:そうですね。これまではレコーディングとライヴを切り離して考えていましたが、今回はレコーディング=ライヴという感覚でした。スタジオがそんなに広くないのでホーンセクションが一緒に入るのは無理でしたが、リズム隊とは一緒にやって1発録りに近い感じで録音したものが多いです。ただ、『ふぁーすとくらす』だけは編集を重ねました。そういうのも好きなので。
──いつもは小野瀬雅生さんのインスト曲が中盤に入っていますが、今回は歌入りの『とまれみよ』が最後に収録されています。
横山:そう言えば『とまれみよ』は歌入りですね(笑)。のっさんの曲はお任せの放置プレイなので、いつも楽しみです(笑)。この曲を聴いた瞬間に「最後を飾るのはコレだ!」と思いました。米津玄師さんにも同名の曲があり、のっさんも知っていたのですが、のっさんは「食を求めて全国を行脚する中で、警報器も遮断器もない踏切に出会って、それがヒントになって出てきた曲」と話していました。そうした踏切には必ず「とまれみよ」と表記されているそうです。その踏切の先は“結界”になっているという印象を僕は受けました。のっさんはSFチックな世界を描くのが得意で、この曲はのっさんワールド全開ですね。
──『華麗』を作る前にイメージされていたことはありましたか?
横山:とにかくあまり説明のいらない“フレッシュなもの”にしたいという思いがありました。それで曲を作って並べた特に、“フレッシュじゃない”と思った曲はどんどん外していきました。以前は捨てずに曲数がどんどん増えていきましたが、今回はそれをやりたくなくて。そういう意味では頭の2曲ができなかったら、どうなっていたかわからないですね。でも、“絶対に出来る”と思っていたので。
──だからこそ、クレイジーケンバンドの世界観を強めるとともに、新しさも加わったんですね。
横山:これまでと全然違う芸風というよりも、まだ引き出しや伸び代があったのかな?という。その伸び代を引き出してくれるのが、パーク(gurasanpark)くんで、いつも助けられています。パークくんが仕込んだヒップホップのバックトラックやレゲエのリディム的なものに僕がメロディと歌詞とアレンジを乗せていったり、『LOVE』みたいに最初から僕の頭の中にある音をパークくんに伝えたりして、2人で形にしていきました。
──個人的に気になったのが『太陽の街』です。
横山:今年3月に亡くなってしまったんですが、元メンバーの廣石(惠一)さんは、僕が“バンドをやめよう”と思う度に引き止めてくれた恩人でもあります。僕は何も話してないのに、彼が『生きる。』って曲で叩いていたフレーズを(現ドラムの)白川玄大くんが入れてくれて。直接、白川くんには話していませんでしたが、歌詞のニュアンスを拾ってくれたみたいで、廣石さんを追悼してくれたんだと思います。
──歌詞ではっきりと示さないのも、剣さんの偲び方だと感じました。
横山:この歳になると、亡くなった仲間も多く、漠然と死が身近になっていることをだんだんと感じますね。なので、一日一日をおもしろおかしく、人生のカウントダウンをやっていきたいです。ただ、山下達郎さんや矢沢永吉さんなどの大先輩が頑張られているからこそ、そんなことも言っていられないですよね。でもね、廣石さんの翌日にCOOLSの(佐藤)秀光さんが亡くなり、2日連続で歴代ドラマーが逝くという。甲本ヒロトさんが鮎川誠さんとシーナさんに向けて「いなくなったことは大したことじゃない。“いた”ことがすごいんだ」って言われてたんです。生きていた時にどんな影響を与えたのか。そういう意味でも廣石の存在はすごく大きいですね。クレイジーケンバンドも彼が居なかったら始まらなかったと思います。
──『くらげ』の歌詞が刺さりました。無の境地というか。
横山:周りや人と比べたりするから落ち込むことがありますが、クラゲみたいな生き方がサバイブするひとつの知恵として学ぶところがあるんじゃないかなと。サラリーマン時代に本牧埠頭でクラゲを見て、「クラゲになりたい」と思っていました(笑)。そうしたクラゲに対する思いは20、30年前からありましたが、これまで曲にしたことはなかったですね。イントロにアナログシンセを使い、そこから歌メロが出てきて。それでクラゲだな!と。昔やっていた貿易検査の仕事中に、遅刻したり、車の中で寝ちゃったりした夢をいまだ見てぞっとすることなどを盛り込んでみました。僕は『Hi』の歌詞みたいな競争好きな一面もあり、矛盾もしているんですが、その矛盾を抱えているからこそ、人間は生きていけるのかなと。これまでも、そうした人間臭さを歌にしようとしたことはありますが、どこかでカッコつけたり、もうちょっと攻める姿を見せたりしていて。でも、今回はそうしたことはもういいやと思ってこの曲を作りました。
──そして、9月27日よりいつもの福生から『華麗なるツアー』がスタートします。今回はどんな内容になりそうですか?
横山:今作のジングル以外の曲は12曲、全部やりたいと思っています。でもこれから練習するので、もしかするとやらない曲もあるかも(笑)。『ふぁーすとくらす』は、ライヴになるとよりグルーヴ感が出てさらにカッコよくなりそうです。ザ・ルーツのクエストラヴ的なドラムとか、ミント・コンディションの打ち込みと思わせるようなすごい生演奏、そういう感じでヒップな演奏を心がけるので、よりワイルドに変わると思います。『Hi』ももっとテンポを上げてやりたいですね。
──「昭和歌謡コーナー」はどうなりますか?
横山:今回も1〜2曲はやりたいと思っています。あとは25枚のアルバムから掘り出して(笑)。ライヴで曲は育っていきますから、レコーディングではノーマル車だったものが、ライヴでレーシングカーに変わるというか。
──今年3月に横山剣として九州交響楽団とコラボもされましたが、その経験がライヴに反映されることはありますか?
横山:逆に気が済んだので(笑)、今回のクレイジーケンバンドでは削ぎ落とした感じがいいかなと。すでに11人もいるんで(笑)。スタイル・カウンシルはオーケストレーションでやれば綺麗な曲を、あえてシンプルな編成でやっていたでしょ。それもカッコいいなと。今はそういうところに気持ちが向いています。スカッと3分台で。
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LIVE INFORMATION
CRAZY KEN BAND 華麗なるツアー2025-2026 Presented by NISHIHARA SHOKAI
- 2025年11月23日(日・祝)
- 鹿児島CAPARVO HALL
- 2025年11月24日(月・休)
- 福岡国際会議場メインホール
PROFILE
クレイジーケンバンド
1997年、リーダーの横山剣を中心に結成される。翌年、アルバム『PUNCH!PUNCH!PUNCH!』でデビュー。ファンク、ジャズ、ロックなどの洋楽系だけでなく、歌謡曲や演歌なども取り込み、CKB流のサウンドへと昇華させる。それはまさに東洋一のサウンドマシーンと呼ぶにふさわしい。そのサウンドに喜怒哀楽や愛憎などをのせ、人間臭さにあふれる独特の世界観を生み出している。ライヴではその魅力がさらに爆発しグルーヴ感に満ちた世界を作り出す。アルバム『華麗』には、加齢やカレーの意味合いも込められている。