洋楽と三味線、シマ唄の融合と、
新たに発見した「自分らしさ」を紡いで。

城 南海

取材/文:前田亜礼

洋楽と三味線、シマ唄の融合と、<br>新たに発見した「自分らしさ」を紡いで。

今年1月、10枚目となるオリジナル・アルバム『Reflections』をリリースした城 南海。今作では、自身が心惹かれる映画音楽を中心に、洋楽と三味線、奄美大島の歌唱法グインの融合に挑戦。また、ストリングスや二胡といった多彩な楽器と歌声との共演も作品の魅力を深めている。初レコーディングとなった洋楽カヴァー曲をはじめ、森山直太朗による書き下ろしの楽曲『産声』など、新たな表現力に魅了される全10曲を収録。彼女が愛してやまない音楽の世界を旅するように楽しんでほしい。


──アルバムのお話を伺う前に、故郷・奄美大島の世界自然遺産登録が7月にいよいよ認定されそうですね。


奄美で育った人間としては、奄美大島の素晴らしい自然が認められることはすごく嬉しいです。まだ決まってはいませんが、島の人も島に興味を持ってくださっている人の間でも、自然を守っていこうという意識が高まっていくのではないかと思いますし、美しい自然を遺していきたいと改めて感じています。この間、ラジオのレギュラー番組で世界自然遺産登録勧告ということで「みなさんが遺していきたい曲は何ですか」と募ったりして、いろんな曲を送っていただきました。私の歌では、デビュー曲の『アイツムギ』や、奄美の言葉で自然を歌っている『祈りうた〜トウトガナシ』が挙がって嬉しかったです。


──奄美の魅力が改めて注目される中、リリースされたニュー・アルバム『Reflections』は、10枚目のオリジナル・アルバムということで、テーマはどんな風に決めていったのでしょう。


オープニングの『リフレクション』という曲は、2020年、ディズニー実写映画『ムーラン』の日本版主題歌として歌唱と日本版の訳詞も含めて担当させていただいた楽曲なんですね。「自分らしさ」をテーマに、まず、奄美のこぶしを積極的に取り入れていきたいなと思ったんです。そこから、アルバム全体のテーマにつながって、グインが合いそうな映画音楽ということで、洋楽と邦楽を織り交ぜながら選曲していきました。それに加えて、オリジナル曲を3曲収録しているんですが、その中に、森山直太朗さんに書いていただいた『産声』という楽曲があるんですね。今回、直太朗さんが新しい歌い方というものを私から引き出してくださったんです。「自然体で力まずに歌う」というところから、アルバムの制作がスタートしていったので、そういう意味でも自分らしく、いろんな曲を奏でられたかなと思います。


──「自分らしさ」がテーマということで、『リフレクション』は、オリジナルからどうアレンジしていったんですか?


この曲は本国アメリカでは、クリスティーナ・アギレラが歌っているんですが、日本版だとワンシーンだけ日本語の歌詞が存在していたんです。水に映る自分を見て「こんな私だめだわ」みたいな歌詞なんですけど、今回ディズニーさんからお話をいただいた時に、作品全体を通しての歌詞にしてほしいと依頼をいただいたんです。


実写ということでアクションシーンも多く、ムーランは自分の父親を守るために自分を男性と偽って戦いに出て行くという物語なんですけど、ディズニー史上最強のヒロインと言われていて。私も奄美に父が住んでいますが、島から出てきて、東京で頑張っていこうと思った時のことを振り返りながら、自分と重なるところを見つけていきました。私自身も追い求めている「自分らしさ」というものをムーランと照らし合わせながら、ムーランの願いを描きたいと思って考えていたら「私を生きる」という言葉が出てきたんです。


そこに私らしさを出すために、月の情景を最初に描きました。私の曲には“月”がよく登場するんです。奄美というところはつらい歴史がある場所でもあるんですけど、沖縄が太陽なら、奄美は月と表現されることが多いんですね。私自身、月を見上げることが好きで、故郷を思ったりしています。もともと英語にはない歌詞なんですけど、ディズニーの方もいいねと言ってくださって。老若男女に愛されるディズニー映画なので、わかりやすくという点は意識して、原曲から離れすぎないように、同じ母音を使ったりしながら書き上げました。

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──続く『Change the World』は、映画『フェノミナン』の挿入歌であり、エリック・クラプトンの名曲として知られていますが、イントロから三味線が入って、洋楽との化学反応が新鮮でした!


この曲は、ギターが印象的な楽曲ですよね。選曲した段階から、三味線で弾いたら面白そうだなと思ったんです。アレンジをしていただいたギタリストの堤博明さんには、以前から何曲かアレンジしていただいていて。今回レコーディングの現場にも来てくださったので、「ここは押さえるのが難しい、ここはもっと自由に弾いてみてもいいですか」とか相談しながら、三味線とロックがうまく融合した、期待通りのサウンドができました。


──同じく堤さんアレンジの『カントリー・ロード』 は、三味線の音色がすっとなじんで、日本の原風景が浮かんでくるようなアレンジですね。


ジブリ作品がとても好きで、『耳をすませば』もそうですが、この曲は名曲じゃないですか。これまでにも英語と日本語を混ぜて歌ったりはしていたんですけど、三味線は入れたことがなかったんです。コロナ下での制作だったこともあって、私も含めて、なかなか地元に帰れない中、聴く人が故郷を思い出せるように、三味線の音色を積極的に取り入れた楽曲です。


──次に、映画『タイヨウのうた』の『Good-bye days』は、ピアニストの扇谷研人さんによるアレンジの楽曲ですが、同じく扇谷さんアレンジの『Over the Rainbow』とはジャンルもアプローチも違って、どちらも聴き応えがありました。


扇谷さんは前回のライヴでもバンマスを務めてくださって、この夏のライヴもご一緒していただくんですが、私をよく知ってくださっているんですね。『Good-bye days』はカヴァーした人がほぼいない曲で、打って変わって『Over the Rainbow』はたくさんの方が歌っているという、その両極端の曲をどんな風にアレンジしようかというところから始まりました。


『Good-bye days』は「THEカラオケ★バトル」で歌った思い出の曲でもあって、その時は採点がメインなので普段とは違う歌い方をしているんですね。でも今作では声をコントロールして歌うのでなく、力まず歌えるようなアレンジを希望しました。


『Over the Rainbow』は明るい未来が見えるようなアレンジにしていただきました。扇谷さんはドラマチックなアレンジが得意な方なので、ストリングスが映えるサウンドになっているし、他の方のカヴァーとはひと味違うテイストになったんじゃないかなって。


──そして、映画『グレイテスト・ショーマン』の『Never Enough』と、続く『蘇州夜曲』は、ピアニストの松浦晃久さんのアレンジですが、両曲ともに息を呑むような素晴らしいバラードを表現されていますね。


今回、カヴァー曲を7曲収録していますが、“バラード”や“三味線が入る曲”など、選曲ではジャンル分けを考えたんですね。その中で“歌い上げる曲”が『Never Enough』です。私自身、『グレイテスト・ショーマン』が大好きで、映画から勇気をもらったのもあって、ぜひ歌いたかったんです。


『Never Enough』は金原千恵子さんのストリングスで演奏していただいたんですけど、「この曲はこうしかアレンジできないじゃん」って、松浦さんがおっしゃってて、松浦さん自身が奏でるピアノのイントロで違いを出しているんです。それと、金原さんたちのレコーディングを見させていただいたんですが、間近で拝見して、その素晴らしさにめっちゃテンションが上がって(笑)、早く歌いたいという気持ちになりました。実は歌った後、ミックスの段階で、曲の中で微妙にテンポを変えていると松浦さんから知らされてびっくりして!みんなその微妙なテンポに惹き込まれていくんです。


『蘇州夜曲』はデビュー前に、私にどんな曲が合うか、どういう方向性でデビューさせたいかという話し合いがあったんですね。10曲ほど挙がった楽曲の中で、『蘇州夜曲』はすごく好きな曲だったので、いつか歌いたいと思っていました。


松浦さんには、これまで3曲ほどアレンジしていただいていますが、出来上がった曲がこういう風になるんだ!って思いもよらない、マジックにかかったようになって返ってくるんです。おそらく運指を知っていて、私が弾きやすいように考えてくださっているのもあって、三味線がものすごく生きる形にしてくださったり、いただいた段階でパーフェクトなんですよ。


──映画音楽の世界から、アルバムの後半3曲はオリジナルの楽曲へと違和感なく誘われていきます。『君だけのメロディー』はピアノとチェロの音色が優しく響く楽曲ですね。


この曲は去年の4月、緊急事態宣言が出ていた時に、ピアノの松本俊明さんと夏に配信ライヴをしようと話して作った曲で、そのライヴは子どもたちに向けて、セーブ・ザ・チルドレンに寄付する目的で行いました。


歌手になる前は、なりたい職業がピアノの先生か保育士だったんですね。保育の大学で児童心理学を学んでいましたが、1年生の時にデビューしたので、「じゃあ、私は音楽で子どもたちのためにできることを目指そう」と思ったんです。NHKのみんなのうたを歌わせていただいた時に、こういう風に子どもたちと関わっていけるんだとも思ったし、その思いは常に根底にあります。


この曲は、アフターコロナの時代の子どもたちを応援したい思いから作った曲で、俊明さんからいただいた優しいメロディーに導かれるように歌詞を書いていきました。「子どもたちに届くといいな」「いつか歌ってもらえたらいいな」と想像しながら、“平和”を思って作った曲です。


──NHK BSの番組「コズミック フロント」のナンバー『Encounter in Space “THE EARTH”』は、シンセやストリングスなどで紡がれていく、ダイナミックなサウンドが番組のテーマである究極の星空にぴったりですね。


「この番組といえば、このテーマ曲」ということで、いろんなバージョンがある中、音源を聴いたり番組を見させていただいて、宇宙の壮大さや面白さを感じながら、歌詞を付けていきました。間奏にアイルランドのケルトのリズムが入ってくるんですけど、奄美大島とケルトの音楽って近いところがあると感じていて、大学の卒業論文でもそれをテーマに書いたんです。なので、曲を聴いた瞬間、「ここでケルトの音楽入ってきた!」って共感して。間奏では、現場で英語やプロデューサーさんのフランス語を遊びで入れてみたり、もともとの曲の良さを新しい言葉や表現で引き出しながら、この曲のファンに楽しんでもらえる新たな楽曲ができたんじゃないかなと思います。


──奄美大島とケルトの音楽の類似性というのは、非常に興味深いです。どういうところが近いと感じられたのでしょうか。


上京した頃、Bunkamuraオーチャードホールに、ケルティック・ウーマンのライヴを観に行ったんですね。その時にすごく惹かれるものがあって、ずっと何でだろうと思ってたんです。それで、卒業論文のテーマを決める時に調べていったんですけど、音楽の背景にはその国の歴史や文化が関わってきますよね。歴史を調べていくと、奄美というところは薩摩藩や琉球王国、アメリカの支配下の時もあって。ずっと支配されていた歴史の中で、つらい時に島の人たちがブルースみたいに歌って紡いでいったのが、奄美のシマ唄なんですね。


アイルランドもつらい歴史の中で生まれてきた音楽やダンスがあって、そういう音楽の成り立ちがすごく似ていたんです。例えば、上半身は動かさずに足だけ動かすのは窓の外からバレないようにとか、そういうところが奄美と似ていて。そこから生まれてくる音色には哀愁が漂っていたり、明るさだけじゃない独特の響きがあって、“懐かしさ”というのがポイントではあったんです。というのも、奄美のシマ唄はもともと日本の本土にあったもので、なくなってしまったものが残っているんですね。奄美の方言は日本の古語であり、だから懐かしさを感じるとよく言われます。アイルランドも、アイルランドから移民が世界に出て行ったので、ケルト音楽に懐かしさを感じると言われてますね。ロックもその派生だと言われていて、それらをまとめてゼミで発表した時に、実際に両方の音楽を聴き比べてアンケートをとったんです。そうすると8割は似てるという反応がありました。やっぱり共通点があるんだなって。


──城さんの中に流れている奄美のDNAが共鳴したかのような出来事と素晴らしい考察ですね。ラストを飾る『産声』もまた、アカペラから入るイントロが子守唄のようで、子どもも大人も魂の部分で癒される楽曲だなと感じます。ご自身も「帰れる場所のような歌」と表現されていますが、どんなメッセージが込められていますか。


この曲は作詞・作曲が森山直太朗さんで、先にメロディーをいただいたんですけど、直太朗さんがラララーで歌っている後ろから、ポロんとピアノの音色と鳥の声も聞こえてきて。すごく温かい気持ちになる音源だったんです。大きな展開とかでなく、じわじわと優しさが沁み込んでくる、心が落ち着く曲。歌詞をその後にいただいてから、「この言葉とこの言葉だったらどっちがいい? 歌いに来れる?」とかコミュニケーションを取りつつ、実際にのせた声を聴きながら選んでいきました。歌詞は直太朗さんと交流のあるガラス作家さんの作品を見て浮かんできたらしくて、今の時代、悩んだりコロナで落ち込んでいたり、そんな時に光が射すような、みんなの心に沁み込んでいく曲だと改めて思いました。


「ラジオ深夜便」で毎日流れる曲として、その日の終わりに、始まりの人もいるかもしれないけれど、聴く人の日々、暮らしに寄り添う曲だと思ったので、お母さんのお腹の中にいるような感覚で、この曲を聴いて眠れるような構成にしました。これまでは歌のスイッチをオンにしないと歌えなかったんですけど、直太朗さんがアドバイスしてくださったおかげでチャレンジできたことでもあって。出会いだったり、これまでやってきたことが繋がってこのアルバムができたんだなって実感しています。

──思いの溢れるアルバムをリリースし、いよいよライヴ・ツアー「ウタアシビ 2021夏」が東京公演を皮切りに、九州は福岡・鹿児島で7月に予定されています。


久しぶりに九州で行うライヴです!新曲はもちろん、世界自然遺産登録が7月の予定ということで、奄美や沖縄の自然を楽しめるような楽曲、ワールドワイドに活動したい思いにのせて、世界のいろんな音楽を味わいながら夏を楽しめるような楽曲を選んでいます。ご存知の曲もあれば、知らないけど楽しい曲、もちろんシマ唄も。まだみんなで声を出したりはできない状況ですが、手拍子したり踊ったり、みんなで唄って遊ぶ「ウタアシビ」のステージにしたいです!

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LIVE INFORMATION

城 南海
ウタアシビ 2021夏

2021年7月10日(土)
福岡イムズホール
2021年7月11日(日)
鹿児島CAPARVOホール

PROFILE

城 南海

鹿児島県奄美大島生まれ。奄美民謡「シマ唄」をルーツに持つシンガー。2009年、シングル『アイツムギ』でデビュー。代表曲は、NHKみんなのうた『あさなゆうな』、『夢待列車』、NHKドラマ「八日目の蝉」の主題歌『童神~私の宝物~』ほか多数。デビュー10周年を迎えた2019年には“10周年記念ふるさとコンサート”を奄美で開催、ゲストに元ちとせ、サーモン&ガーリックを迎え、大盛況を収めた。また、初のベスト・アルバム『ウタツムギ』を発表。2021年1月には10thアルバム『Reflections』をリリース。森山直太朗作詞・作曲の『産声』がNHK「ラジオ深夜便」のうたに抜擢されるなど、懐かしさを帯びた澄んだ歌声で更なる注目を集める。