未来に向かう《another sky》
物語は終わりじゃない

GRAPEVINE

Text:山崎聡美
Photo:勝村祐紀

未来に向かう《another sky》<br>物語は終わりじゃない

grapevine in a lifetime presents another sky
2022.7.23 sat DRUM LOGOS

GRAPEVINEによるアルバム・リビジット・ライヴシリーズ、“IN A LIFETIME”。2014年5月に2ndアルバム『Lifetime』の再現から始まった同企画は、2016年には同期デビューのTRICERATOPSを迎え、両者ともに名盤の誉れ高い1stアルバムの再現をツアー形式で敢行。『退屈の花』というストーリーをプログレッシヴに、かつ現在地でのエピローグ、さらに未来へのプロローグまでつけて表現しきったライヴパフォーマンスは、今も鮮やかなまま記憶に残っている。そして2022年夏、約6年ぶりに第3弾として挑んだのは、リリースから20周年を迎えた5枚目のフル・アルバム『another sky』だ。

そのリビジットツアーの幕開けの場・昭和女子大学人見記念講堂で行われたライヴの模様を完全収録した映像作品『in a lifetime presents another sky』が、12月21日にリリースされる。加えて、2023年2月~3月に東京、新潟、大阪での再追加公演の開催も発表された。新たな年に向かうバンドの始動を記念して、真夏の福岡公演を振り返る。

まず出色だったのが冒頭。本作品の構成上、その緊張感を予想はしていたが、いざはじまってみるとそれは、張り詰めるという類のものではなかった。海が凪いだ瞬間のような静寂の中へ、一切の口上どころかカウントもイントロもなく、零れる歌の雫。ギターの拍とシェイカーが少しずつ風を呼び戻し、やがて大きく吹き上がる。『マリーのサウンドトラック』ーー青さと儚さと、憧れと憎悪と、しなやかさとしたたかさとーーアンビバレントな世界に観客もろとも踏み込むようなオープニングだった。

圧倒的な演奏巧者となってなお貪欲にバンドが求めるのは、よりフィジカルな昂揚だ。ギターのカッティングが導く『ドリフト160(改)』では、鮮やかなシンセの浮遊感とリズム隊の攻撃性が旋律を推進、時空を歪ませながらポップチューンとしての強度を高め、会場も一気に熱を帯びる。盛大な拍手が湧くなか、さらに爆発的なポップ感に否応なく身体が滾る『BLUE BACK』へ。ギター・ロック世代の真骨頂、怒涛の弾きっぷり、焦燥と苛立ちが逃れられない人生のおかしみに昇華された2022年バージョンが、生々しい熱狂を喚起する。『マダカレークッテナイデショー』の身体に食い込みながらうねるグルーヴは恐ろしく狂暴で、言葉すらも瞬間ごとに破壊と構築を繰り返すようなヴォーカリゼーションは鬼気迫る。「さぁ福岡の皆さん、お待たせしました、オンベース・カネヤン!」という声を呼び水に、さらに重量感を増幅し、みるみるオーディエンスを呑み込んでいく。

縦横無尽のアンサンブルは無論、激烈なだけではない。アコースティックギターの朴訥としたイントロにスライドギターのモチーフが重なり、滑らかな筆使いで描く水彩画のようなやわらかな音像を広げた『それでも』。極彩色の白昼夢の揺蕩いがポストロック的なサウンドスケープに具音化され、ワルツのリズムのリフレイン、叙情あふれるメロディによって、想像をはるかに凌ぐ歌の背景が発露した『Colors』。アルバム後半においては、『Tinydogs』から『LET ME IN』にわたりいや増すグランジ感のハードでアジテイトな風が吹き荒び、続く『ナツノヒカリ』では一転、メロディやコーラスワークに煌めくばかりのみずみずしさを湛えるとともにルーツミュージックからの発展を再確認するダイナミズムに満ち、実に心地よい。その光が収束し月の光が満ちていくような刹那的な情景を、より疾走感に満ちたプレイで現在とつないだ『Sundown and hightide』。繊細にも凶悪にも舵を切れるバンド表現の豊かさ、芳醇さ、懐の深さを噛み締めるばかりだ。

そして、クライマックスはやはり『退屈の花』再現時と同じく、本シリーズが過去作を懐古的に振り返るものでなく、現時点あるいは未来への視点をもって臨んだ挑戦であることをいよいよ感じさせるものだった。グルーヴ感を極めるとともにメロディアスの絶頂に邁進していく『アナザーワールド』から、壮大な叙情性とアヴァンギャルドなサウンド構築で深層へと潜っていく『ふたり』へ、さらに深間へ沈み茫漠を漂流するような混沌を『マリーのサウンドトラック』のリプライズをもって最後に示し、第1部の再現パートは幕を下ろした。

第2部では、アルバムの曲順通りというひとつの制約から解き放たれ、3rd『Here』と最新作『新しい果実』からの楽曲を中心に、よりライヴに即したセットリストをメロディックかつグルーヴィー、なおパッショネイトに繰り広げた。20年以上の隔たりがありながら連続性を宿しメロディの深い沼底に引きずり込んだ『想うということ』『さみだれ』。現在の尖鋭的なバンド感をヴィヴィッドに映した『Gifted』『ねずみ浄土』を、多分に風刺的な『コーヒー付』で受けた上での『CORE』から『R&Rニアラズ』に至る4曲の完璧な、しかもセッション感にあふれる一触即発の鋭利なプレイ、ラストソング『風の歌』のすがすがしく澱みないアンサンブル。それは、25年の道程でGRAPEVINEが打ち立てた“anotherあるいはalternative”サイドのロック・ミュージックーーポピュラリティーと危うさがギリギリで拮抗し、豊かな情感と野性味が同衾し、思考を果てしない想像に向かわせるーーを凝縮した、あまりに濃密な時間だった。

シリーズ名に今回から冠された“リビジット(revisit)”は、本来《再訪する》ことを意味する。2002年当時に彼らが見つめた世界、受け止め描いた情景に今一度踏み込んだあと、オーラスのアンコールは『Arma』。過去と現在をつなぎその目を未来に定着させる象徴的な楽曲は圧巻というほかなかった。この先も物語の続きを描き続ける決意と勝手に受け取り、今は新たな一編を心待ちにするのみである。

【SET LIST】
<第1部>
M1. マリーのサウンドトラック
M2. ドリフト160(改)
M3. BLUE BACK
M4. マダカレークッテナイデショー
M5. それでも
M6. Colors
M7. Tinydogs
M8. LET ME IN~おれがおれが~
M9. ナツノヒカリ
M10. Sundown and hightide
M11. アナザーワールド
M12. ふたり

<第2部>
M13. 想うということ
M14. さみだれ
M15. Gifted
M16. ねずみ浄土
M17. コーヒー付
M18. CORE
M19. STUDY
M20. Scare
M21. R&Rニアラズ
M22. 風の歌

En. Arma

【NEXT LIVE】
grapevine in a lifetime presents another sky
・2023年2月23日(木)東京 中野サンプラザホール
・2023年3月5日(日)新潟 LOTS
・2023年3月10日(金)大阪 Zepp Namba
https://www.grapevineonline.jp/in-a-lifetime23/

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