“35年間、つづけてくださってありがとう”
万感胸に迫る、荒野の絶景。

eastern youth

文:SATOMI YAMASAKI
撮影:chiyori

“35年間、つづけてくださってありがとう”<br>万感胸に迫る、荒野の絶景。

eastern youth 35周年記念巡業~EMOの細道2023〜
2023年9月30日(土)福岡 DRUM Be-1


それは、アンコールの際に村岡ゆか(Ba)が贈ったことばだった。加入する以前は熱心なリスナー、オーディエンスのひとりとしてライヴを観ていた村岡だからこその思いの吐露。“その35年のうちの8年をあなたも担ってるんだよ!”──きっと会場中の誰もが心の中でそんなふうにツッコミながら、彼女の真っ直ぐな感謝のことばに深く深く頷いていたにちがいない。


「35年間、つづけてくださってありがとうございます」


同じ想いを強く抱くオーディエンスが集った福岡での一夜。爪弾くギターのイントロから、雪崩が起きる瞬間を思わせるほどの“ドゥンッ”という衝撃が心身を突き上げると同時に、歓呼して拳が上がる。ライヴのオープニングではお馴染みの光景でしょ?と思うなかれ。元よりeastern youthのそれは他とは一線を画すが、フロアから立ち上る低音の響きも、拳の上がる腕の角度も、ステージに注がれる眼差しの強さも、この夜は増して烈しかった。生きづらく息苦しくとも、いや、だからこそ<LIVE=生きる>を渇望する者同士の真正の呼応がここにある。

《35年分のエモーションをぶっ放します》──この35周年記念巡業に先立っての宣言どおり、序盤から新旧名曲が連なる。ひときわ大きな歓声とともに観客の血管のブチ切れる音が聞こえた(気がした)『夏の日の午後』や『青すぎる空』をはじめ、一分の隙もないセットリストと言ってもいい。


「おかえり~!」
「待っとったよ!」


親愛の声がフロアの彼方此方から掛かり、チューニングを確かめていた吉野寿(Vo, Gt)の口から「…ぉおお」という照れのようなくすぐったいような歓びを含んだ感嘆が漏れる。

「35年間、うだつの上がらぬまま此処まで来てしまいました」
「別に何か…偉くなりたいとかそういうつもりで始めたわけじゃないんで、いいんですよ、これで」

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笑いと歓声と拍手があふれ、互いへの信頼の念が会場を満たしていく。そして繰り広げられたのは、まさにエモを極め、バンドのダイナミズムを究めるものだった。斬鉄剣で斬り込みあうような吉野のギターの響きは峻烈にして息を呑むほどに美しく、村岡のベースはしなやかで寛やかでありつつダイナミクスを湛え、田森篤哉(Dr)のビートはeastern youthという生命の動脈として滾る。

ある曲では、吉野と村岡が会話のように阿吽のフレーズを交わし、田森の性急なビートが鼓舞して崖っぷちを駆け抜ける。「自分以外の何者かになれる人が、世界中に誰かひとりでもいるんですか」と問うて踏み込んだ歌には、雷雲の果てで光を見いだすような、凄烈な生の実感がこみ上げる。

ほんとうになんのギミックもないはずの3ピースのサウンドが、なぜ、会場を根こそぎ揺らすような強靭な風を起こせるのだろう。しかも激しく厳しいその風は、ここにいる全員の思いをまるごと受け止め且つ応えてくれるほどのやさしさにも満ちている。そのことを、わたしたちは頭ではなくて肌で分かっていて、今もひしひしと感じているのだ。咆哮する吉野の、実はとても丁寧な歌が屹立する怒涛のアンサンブルを浴びながら、その歓びのかけがえのなさをあらためて思う。

「真っ暗闇で、手探りで、一か八かで生きてきて、いまだにどこに辿り着くのか、一歩前に何があるのか、道は全然見通せません。この気持ち、わかるか!……わかる人だけに」

eastern youthは、奇跡的につづいたわけじゃなく、意志と覚悟によって継続されてきたバンドだ。《分入っても分入っても青い山》には険しい道しかないから、日和ってあるいは力尽きて、諦めればそこで終わり。時代はうねり世の中は大きく変わりつづけ、彼ら自身にもよんどころない変化は突きつけられつづけた。それでも、35年前に北の荒野にて生まれた唯ひとつのバンドの在り方、その壮絶なライヴは、全く変わらない。35年を経てなお、どこにも辿り着かず、何者でもないと謳う。目の前で敢然と鳴る音の核、伝わる歌の芯に、わたしはいつも初めて彼らを観たときと同じように胸を貫かれる。

eastern youthという魂がさらに躍動した終盤。「街の底で会おう」と最後の約束を交わして迎えたクライマックスの景色。ギターのネックを高く掲げた吉野が、天を仰ぐ。ギターアンプの上で、三人の演奏を見守るように咲いていた一輪のひまわりと重なったその姿は、頭を垂れることなく太陽に向かって咲きつづける生命の力そのものに見えた。熱狂も昂揚もとっくに頂点を超えていたけれど、それは、万感胸に迫る、想像だにしない荒野の絶景だった。


<NEXT LIVE>
eastern youth 35周年記念巡業~EMOの細道2023〜
10月21日(土)盛岡 CLUB CHANGE WAVE
10月22日(日)仙台 Rensa
10月28日(土)岡山 YEBISU YA PRO
11月3日(金・祝)新潟 CLUB RIVERST
11月19日(日)札幌 ペニーレーン24
11月25日(土)大阪 梅田クラブクアトロ
11月26日(日)名古屋クラブクアトロ
12月2日(土)東京 渋谷 Spotify O-EAST

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