躍動するフィジカル
解き放つソウル
昂揚を超える恍惚を生んだ饗宴
LET IT BEA <06.28>
文:山崎聡美
撮影:勝村祐紀
LIVE REPORT

「LET IT BEA」
D.A.N. / OGRE YOU ASSHOLE
2026年6月28日(日)FUKUOKA BEAT STATION
《LET IT BEA》第3弾のDay2は、D.A.N.×OGRE YOU ASSHOLE。独立独歩の求道者と革新者。互いへのリスペクトに根差したライヴイベントを共催し、これまで幾度となく顔を合わせてきた2組が地方都市で果たす競演は、両バンドの熱心なオーディエンスでなくとも音の好事家ならそそられる饗宴である。昂揚を超える恍惚を生んだDay2の模様を。

まずステージに上がったのは、昨夏、待ち望まれたライヴ活動を再開したD.A.N.。福岡ではこの5月にCIRCLE ’26に出演、青空の下でオーディエンスを白昼夢に酔わせたことが記憶に新しい。この日は逆光の中で登場、ステージ上には3人のシルエットが浮かび上がり、その幻想的な情景から徐に、まるで自然現象のように音が立ち上っていく。多様な民族楽器が呼応する調べに、シンバルが刻むリズムと祈祷にも似たエキゾチックな女声コーラスが交じり合う。音像の中にしじまを宿す、実に神秘的なイントロダクションからのオープニングチューンは『Tempest』。市川仁也(Ba.)が奏でる官能的なエレキチェロと、川上輝(Dr.)の躍動を秘めたミニマルなビートから生まれるファンタジアは格別。加えて、シンセサイザーを操りながら櫻木大悟(Gt.Vo.Syn.)が紡ぐ旋律は、努めて情動が抑制され、それゆえにオーロラが輝くような美しさと壮大さを湛えて空間を染めていく。



脳内に浸透して覚醒させるようなインタールードから、アジテイトに歪んだベースをアクセルに、本公演の数日前に配信リリースされたばかりの『The Unknown』へ。急転してなだれ込むアグレッシヴな展開に会場のボルテージも一気に高まる。切迫感をとらえたドラム、エッジの立ったギターも極めて獰猛で、《Take me into the heart of the unknown》というリリックも含めてD.A.N.の新機軸を思わせた。轟音の中で内省を極めながらその内なる祈りを解放していくような、バンドの中で核分裂を繰り返しているような、ある種破壊的なエナジーの高まりがめざましい。無論、オーディエンスからのレスポンスも驚喜に満ちている。
「D.A.N.です。今日はよろしくお願いします」(櫻木)


短い挨拶を挟んで続いたのは、代表曲でありライヴアンセムの一つともいえる、メロウな旋律が際立った『SSWB』。流麗なアンサンブルと、甘やかな、浮遊感に満ちた櫻木の歌にフロア全体が揺蕩う。そして、その余韻をもって、まるで短編映画のように差し込まれたのが、昨年12月に発表された『Daydreaming』である。再始動後のライヴでいち早く披露され大きな話題を呼んだという同曲のダイナミクスを、私はこの日初めて目の当たりにした。時空間すら感じさせないシンフォニックな展開と夢幻のサウンドスケープは、一大叙事詩を思わせる壮大なナラティヴを喚起する。超深海への潜水、大地との邂逅、ディストピアとの対峙、宇宙への飛躍――まさに“daydreaming”の具音化だ。さらに、この『Daydreaming』を受けた次曲『Ghana』が、よりプリミティヴな音像とより土着的なサイケデリアを示して、一層の深いうねりを伴ったグルーヴに昇華されていったことも驚きで、新旧の楽曲を敢えて交互に構成したこのセットこそD.A.N.の最たる企みだったのかもしれないと思う。


ラストは、たおやかなファルセットから水紋が広がるように始まった『Purple Sunshine』。静から動へ、内省から激情へ、まどろみから目醒めへと、曲の前後半での変容は美しく、そして示唆的だ。櫻木のギターが加わったバンドサウンドの清冽な昂りをもってオーディエンスを陶酔に導き、全6曲1時間のステージの幕を下ろした。

「D.A.N.でした、ありがとうございました。次はOGRE YOU ASSHOLE!楽しんで!」
さて、そのOYAは、ここ10年の来福は数えるほどしかない。7thアルバム『ハンドルを放す前に』のリリースツアー公演(2017年1月)、同年晩秋に開催されたYOGEE NEW WAVESとの2マン企画(2017年11月)、翌年の海の中道での野外フェス『GOLD SOUNDZ』出演(2018年9月)、そして昨年末の20周年記念ライヴである。いずれも記憶の中で残響し続ける無比のライヴだったが、特に昨年末の福岡公演での深化は驚異的だった。長野を拠点とし2024年からは八ヶ岳でイベント『DELAY』を主催(初回の競演は坂本慎太郎とジム・オルーク!)、ストイックな音作りでイマジネーションとリアル、不穏さや緊張感が同衾する楽曲を継続的に世に送り出し続け、国内外の進歩的なミュージシャン・アーティストとのシンパシーを生み出す彼らの活動には、バンドとしての矜持と音楽家としての貪欲さが一貫している。今回の『LET IT BEA』でのパフォーマンスでは、その強靭さにあらためて目を見張るとともに、思考や観念では到達できない場所、圧倒的なまでに肉体が音楽に感応するという原始的な歓びに浸らせてもらった。
「どうも。OGRE YOU ASSHOLEです。よろしくお願いします」(出戸学/Vo.Gt.)
明滅する光を伴ったエフェクティヴなサウンドスケープに、律動的に刻まれるリズム、不穏かつ好戦的なベースのリフが螺旋を描くように重なり、サイケデリックなギターがまるで霞がたなびくように響き合う。深いリヴァーブのかかったヴォーカルが幽玄的にアンサンブルの一部として融け合う。

《時間はどこまでも続く/僕らはいつか終わる/空間はどこまでも続く/人がいなくたってこのままただ続く》
霧中から聴こえる獣の咆哮のように馬渕啓(Gt.)のプレイと音が昂り、音像が一気に弾けて散らばって、さらに大きく歪む。

《みんな偶然生まれて/いつかまた消えていく/今一瞬ついたが/大半は消えている》
呼吸をするのを忘れさせるほどにシネマティックな音像が次々と立ち現れ、構築されていった『偶然生まれた』が、1曲目ではあるが完全にオーディエンスをノックアウトしたのは言うまでもない。アウトロの最後の一音に至るまで恍惚とさせ、そのままファンク・フレイヴァーなギターのリフが導く『なくした』へ。ソウルの芳醇さを醸し出すアンサンブルが独特の揺らぎをもってフロアを包み込むのと同時に、茫洋としたメロディーが出戸の澄んで鋭意なヴォーカリゼイションで紡がれていく。酩酊したように揺らめくオーディエンスがどんどん形をなくしていく。深く没入していく中、クラウトロックなイントロにフロアからほとんど反射的な歓声が上がり、突入したのは『待ち時間』。大胆に取り入れられたシンセサイザーの得体の知れなさ、果ての無さ、それらとの融和が、なお一層バンドの生々しい蠢きを際立たせる。メディテーションとインプロビゼーション、緊張と弛緩をごたまぜにして煮詰めたような濃密かつスペイシーなサウンドトリップにたっぷりと揺蕩い、天と地、此岸と彼岸の境い目を見失う頃、曲は『家の外』へと展開していた。
《いつから待ってるんだっけ/誰をまってるんだっけ/まだ来ない》


勝浦隆嗣(Dr.)と清水隆史(Ba.)によるミニマルなビートが終盤に向かって激しく変容して、有機体としてのバンドの鼓動と肉体性を増幅させていく様が凄まじい。グルーヴが野生の獣のように襲いかかってきて、オーディエンスもろとも未知の景色の深淵に引きずり込む。そして、胎動にも似たプリミティヴさが渦巻くクライマックスから『朝』への流れは圧巻としか言いようがなかった。個の音が研ぎ澄まされていくのと比例して、バンドという宇宙はどんどん膨張していく。気圧されて仰け反るほどに、バンドそのものがとてつもなく大きく感じられる。今こうやって書いている最中にも鳥肌が立ちまくった感覚が甦ってくるのだ。野性を体現するような猛烈なドラミング、天にも地にも響き渡って全体を震わせる警鐘にも似た弦の音像、その音空間の広大無辺の広がりに呼応して感嘆を孕んだ歓喜の風が沸き起こり、フロアには心身を解放し躍動させる光景が広がった。そのまま息つく間もなく到達したラストは、原曲をはるかに凌駕するオルタナティヴ感とファンクネスに満ちた『見えないルール』。ダンサブルでフィジカルなアンサンブルが天を衝くような果敢かつ爽快なグルーヴを生み、さらに豪胆なギターリフによってオーディエンスを熱狂の頂へ導く、文字通り爆発的なフィニッシュだった。

「今日は、呼んでくれたBEAの皆さん、ありがとうございました。競演してくれたD.A.N.の皆さん、どうもありがとうございました。じゃあ、最後に1曲やって終わりにします」

熱に浮かされたような「One more!」の声、アンコールを求めるハンドクラップに応えて再びステージに上がり、感謝の言葉とともに演奏されたのは2009年リリースの名盤『フォグランプ』のラストチューン『ワイパー』。現在のOYAへと至る道程を振り返って見つける光跡のような1曲に、再び昂揚を超える恍惚が訪れる。D.A.N.、OYAともに1曲10分前後の長尺アレンジ(10分を優に超える超長尺ヴァージョンを披露することもあるのでデフォルトともいえるが)のライヴセットで各々の現在地を映し出した《LET IT BEA》Day2終演の景色は、途方もなく美しかった。


【SET LIST】
<D.A.N.>
M1.Tempest
M2.The Unknown
M3.SSWB
M4.Daydreaming
M5.Ghana
M6.Purple Sunshine
<OGRE YOU ASSHOLE>
M1.偶然生まれた
M2.なくした
M3.待ち時間
M4.家の外
M5.朝
M6.見えないルール
EN.ワイパー
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