声にはできなくても聴こえているから大丈夫。
胸の中のシンガロングが響き合った《Home》福岡の一夜。

神はサイコロを振らない

文:山崎聡美
写真:勝村祐紀

声にはできなくても聴こえているから大丈夫。<br>胸の中のシンガロングが響き合った《Home》福岡の一夜。

神はサイコロを振らない Live Tour 2021「エーテルの正体」
2021年5月14日(金)Zepp Fukuoka


“新曲も披露したいし、昨年のツアーが中止になったことで『理 – kotowari -』の曲もライヴでは届けられてないので、やらなくちゃいけない曲がたんまりとある。どう並べてライヴで観せてやろうかって、すごい高まってますね。新しい神サイのライヴが絶対観れると思うし、ずっと応援してくれてる人はもちろん、今作で初めて聴いてくれた人にも、今の神サイをちゃんと知ってもらえるようなライヴを必ずやりに行きます”。


最新作EP『エーテルの正体』のリリース時、ヴォーカル柳田周作が当Webインタビューで語ってくれた言葉だ。“やらなくちゃいけない”とは、単なるライヴでの披露にとどまらず、楽曲を介して生まれたであろうリスナーそれぞれの思いとバンドの思いを初めて確かめ合うという意味に他ならない。バンド結成の地で迎えた【神はサイコロを振らない】にとって特別なツアーの特別な初日をレポートする。


ツアー敢行の思いをストレートに反映したオープニングチューンは、本ツアーの冠である『エーテルの正体』から『クロノグラフ彗星』。夜空を切って流れる彗星を思わせるライティングも手伝って、まさに相応しい幕開けだった。オーディエンスが拳と手拍子でビートに応える。声に出せない歯がゆさ、もどかしさを受け止めるように、柳田が「心の中で!」と投げかける。“みんなの声はちゃんと聴こえているよ”と、あたかもそんな呼びかけだった。


「どうか今日を楽しんでいってください!」と願いを込めて叫び、『揺らめいて候』へ。吉田喜一のテクニカルなギターと桐木岳貢&黒川亮介の躍動感あるリズム隊が成す重低音の利いたアグレッシブなアンサンブルが、キャッチーなサビに向かって流れるように一気に駆け上っていく。エモーショナルなメロディーとリンクするように赤色に染まった場内で、オーディエンスが身体の熱を高めていくのが感じられる。さらに『遺言状』を畳み掛けたあとは一転、ピアノのイントロが静かに次の曲を導いた。


「こんな大変な時に来てくれてありがとう。最高の夜にしましょう」。

READ MORE


そう告げて歌いだされたのは『泡沫花火』。語りかけるように心を込めて、抱きしめるようにやさしく、丁寧に歌を紡いでいく。恋情の景色ではあるが、募る思いを交わすという意味においては現状にピシャリとハマる。バンドとファンをつなぐ絆の強さを感じさせる、印象深いシーンだった。続く『胡蝶蘭』ではステージの鼻先に座った柳田が、吉田と向き合って歌う一幕も。切ない世界観は、部屋でひとり噛み締めるのもいいが、皆で分かち合って昇華するのもいい。


「ありがとうございます!感無量です。今日ここに来たくても来られなかった人のためにも、いいライヴにしたい。みんなも声出せない分ももうひと暴れしようぜ!そのためにドラムの黒川が最高にカッコイイ何かをやってくれます!(笑)」


振られた黒川の豪腕なドラミングが会場を揺らすごとく始まったのは、グランジーな『解放宣言』。柳田だけでなく桐木、吉田それぞれに広いステージを巡りながら、楽しげに挑みかかるような表情で客席を煽り昂らせる。このご時世においてもっとも望まれているだろう《解放》のスピリッツは、音楽を介して伝えられる大事のひとつだ。続けてハイテンポの『パーフェクト・ルーキーズ』でスリリングなギターリフはじめエッジィなアンサンブルを堪能し、メロディックさ際立つ『ジュブナイルに捧ぐ』では海原を進むような力強く荒々しく、スケールの大きなバンド感に酔いしれる。


そして、鍵盤によるインタールードを挟んで、《静》の観(魅)せどころとなった『夜永唄』。聴く者の胸中にそれぞれの喪失と再生を立ち上げるこの曲は、この広いライヴ空間においても求心力を落とすどころかさらに豊かな情緒を伝えながら沁み入っていき、『エーテルの正体』に収録された新たなバラード『プラトニック・ラブ』へとつなげる。柳田の歌への願いと、神サイというバンドを牽引する歌に対する自負、そのコアを共に築き鼓舞する吉田、桐木、黒川の真摯で雄弁な演奏。神サイの在るべき姿に向かって邁進する彼らの姿はとても清々しいものだった。


「宮崎、山口、島根、北九州というそれぞれの地元から福岡に来て、九産大軽音サークルで出会った僕らは福岡で【神はサイコロを振らない】を結成しました。Queblickっていうホーム、家族のようなライヴハウスで修行させてもらって、去年ライヴは全然できなかったけど、今こうやってたくさんの人達に僕らの音楽を届けられていることがうれしいです。大変な時はいつか明けるから、みんなのために音楽をつくるので、この時代を共に生き抜いていきましょう」


MCでもまっすぐな言葉を伝えて迎えた終盤。桐木のシンセサウンドで一気に弾けた『1on1』、情熱と躍動感を湛えて未来を照らした『未来永劫』、最後は「いいね!まだいける、いけるよ!」と全てのオーディエンスを高みへ連れていく意志を漲らせ、煌めきに満ちた新曲『巡る巡る』へ。Zeppという広いステージにおいても、馴れ親しんだライヴハウスと変わらぬ距離感をもってパフォーマンスを構築し、会場を一体とした。ラストで臨んだ“始まりの唄”は、まだ見ぬ景色へ向かうこと、誰一人置き去りにしないこと、そんな未来への約束だったのだろう。


「出会えてよかった!これからもどうぞよろしく!」


終演後、さまざまな制約や約束事を守って集まったオーディエンスの、マスク越しにも伝わる歓びに満ちた笑顔があった。《Live》という音楽とエネルギーの循環にはいつだって無尽の生命力を感じてきたが、それは今こそ必要で有効であることも実感した一夜だった。

【SET LIST】
M1. クロノグラフ彗星
M2. 揺らめいて候
M3. 遺言状
M4. 泡沫花火
M5. 胡蝶蘭
M6. 解放宣言
M7. パーフェクト・ルーキーズ
M8. ジュブナイルに捧ぐ
M9. 夜永唄
M10. プラトニック・ラブ
M11. 1on1
M12. 未来永劫
M13. 巡る巡る


【神はサイコロを振らない Live Tour 2021「エーテルの正体」 at Zepp Tokyoオンライン配信】
アーカイブ期間:〜2021年6月30日(水)23:59
視聴チケット:2,500円
詳しくは下記をご確認ください。

【LIVESHIP】https://liveship.tokyo/kamisai/
【LIVEWIRE】https://livewire.jp/p/kamisai210626

SHARE

PROFILE

神はサイコロを振らない