どんな楽曲を作っても
僕が歌えば「神はサイコロを振らない」っていうバンドになる。

神はサイコロを振らない

取材/文:山崎聡美

どんな楽曲を作っても<br>僕が歌えば「神はサイコロを振らない」っていうバンドになる。

2020年7月、デジタル配信シングル『泡沫花火』をもってメジャーへ進出した福岡発の4ピース、【神はサイコロを振らない】(通称:神サイ)。構築的なサウンド、エモーショナルにもスピリチュアルにも表現される歌と詞世界のピュアネス。そこに具音化される静と動、刹那と永遠といった両極の情動は、多くの同世代や若年層リスナーを共振させた。そして、今年3月17日には初の4曲入りフィジカルシングル『エーテルの正体』をリリース。アインシュタインの言葉に則って名付けられたバンド名の特異性のように、現代の多様な音楽シーンにおいて特異の輝きを放ち、様々な制約が課されるこの状況下でも圧倒的な勢いを感じさせている。


待望の全国ツアー開催へ向けさらに昂りを増す神サイ。BEA VOICE初登場となる今回は、ヴォーカルであり全作詞作曲を手がける柳田周作へのロングインタビューをお届けする。「ギターを弾けるわけでもなく、開放弦でただただストロークしながら勝手な歌を歌っていた」という早熟の幼少期、国内外のハードコア、ヘヴィロック系のバンドのコピーに明け暮れた中高時代を経て、地元・宮崎から福岡へ進学後の活動で作られたというソングライティングの基盤。話はそこからスタートしよう。


──まず、神サイの楽曲は、非常にシンガーソングライター(SSW)的であるように感じます。それはなぜなのか、と。また逆に、そういった楽曲であるのに、実際に音楽を鳴らす形態としてバンドを選んだのは、どういう経緯があったんでしょうか。


柳田:高校卒業後、進学で福岡に出て、バンドやりたかったんですけど、すぐにメンバーが集まるわけもなく、自然と一人で弾き語りを始めました。それまで、単純に音がかっこいいかどうかで音楽聴いてたから、歌詞に耳を向けたことなくて、歌ってもなかったんですけど……二十歳の頃に秦基博さんの歌を聴いて。日本語の美しさというか……言葉の重みとか強さ、メロディの美しさを感じて、それをギター1本で伝えるってすげえなって思って、そこから弾き語りを始めたんです。ネット配信で夜な夜な、ほぼ毎日、ひどいときは夜の8時から朝の8時まで12時間ぐらいずっと喋りながら歌って、みたいなことをやってて。


──一気にそこまで。ちょっと狂気的ですね(笑)。


柳田:(笑)ホント、狂ってたんですよね。それまで真面目な大学生だったのに、弾き語り始めてから大学も行けなくなっちゃって(苦笑)。配信を通して仲良くなった弾き語り仲間と一緒に路上ライヴをしたり、東京とか大阪の小さなライヴハウスのライヴに出たり。今の百倍くらい、歌ってましたね。その活動が、自分の中でデカかったというか。たとえばコード進行も、ひたすら楽譜みてコピーしてっていうのを繰り返してたから、ココでこのコードにいったらオイシイだろうとかを、なんとなく感覚で勉強した感じです。ギターも、教則本みたいなのが全然ダメで。感覚で曲作りを身につけていったことが、今のソングライティングに結びついてると思います。


──なるほど。バンドの前に弾き語りの濃い活動があったんですね。


柳田:はい。そのSSW時代を経て、ドラムの黒川と出会って一緒にバンドやることになって、ギターの吉田が入って、ベースの桐木が入って。で、2015年6月9日、めっちゃベタなんですけど“ロックの日”に、【神はサイコロを振らない】を結成しました。


──弾き語りをしてる時も、他の楽器の音やフレーズ、バンドサウンドの全体像とかが聴こえてたりしたんですか。

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柳田:当時、どうだったんですかね~。ただ、わりと早い段階でDTMをやり始めたんで、打ち込み程度のドラムとかベースは当時からマウスで打ち込んでましたね。それは今でも変わってなくて、デモ作りなんかも同じやり方なんです。僕、ドラムのフレーズとかをかなりこだわって考えるんですよ。で、手が3本ないと無理みたいなフレーズも感覚で作っちゃう……これたぶん、作曲するヴォーカリストあるあるだと思うんですけど(笑)。それで、ドラムの黒川とぶつかったりもしますけど、それでも、頭にあるイメージは崩したくない。それを具現化することに命を燃やしてほしいと思ってるんで。手が3本ないと無理なフレーズも、無理矢理、叩かせます(笑)。


──スパルタですね(笑)。今作にもけっこう複雑なリズムがありましたよね。


柳田:『クロノグラフ彗星』とかけっこう苦戦したらしいです(笑)。けどまあ、それもいいだろうと。「普通、こんなドラムのフレーズないよ」って言われても、普通のドラムが叩かないんだったら、なおさら叩いたほうがいいじゃん!って思う。どんどん新しいとこを行けばいいし、型にはまるっていうのがすごいイヤで。だから、すごく自由度の高いところで曲は作ってきてますね。


──ちなみにバンドは当初、どういう音楽的ヴィジョンをもってたんですか。


柳田:当初はちょっとポストロック寄りというか、変拍子だったり、アルペジオを2本重ねたり、マスロック的なところから始まったんですけど……やっぱり、弾き語りの時期に自分に染み込んでたものはデカくて。どうしても、歌を尊重したくなっていって。楽器陣がテクニカルで難しいことやるのもカッコイイんですけど、結局、日本人の心の琴線に触れるのって歌、メロディだと思うんです。歌をどう、最優先に立たせていくか、そのためにドラムやベース、ギターはよりシンプルにしようと、いい意味で、年々削ぎ落としていってますね。


──今は、歌モノであることは譲れないとして、神サイというバンドの存在についてはどう在りたいと思われてますか?


柳田:んんん~……なんか、年々音楽性が変わっていく中で、やりたいことも日に日に増えていってて。今後、もっともっと、殻をぶち壊していきたいっていうか。今まで積み上げてきた神サイっていうイメージ像みたいなのを、どんどんぶち壊したいんですよね。今は僕が詞曲を書いてるけど、たとえば僕が詩を書いて、曲は別のアーティストとコラボ、共作みたいな感じで作ったりとか。ヴォーカルも、僕一人じゃなくゲストヴォーカルを迎えたり。弾き語りの頃に女性シンガーと一緒に歌ったことあるんですけど、(自分の声と女声との)相性がすごくよかったので、神サイでやっても楽しそうだな、とか。なんか、いろいろアイディアが浮かんでるんです。すごく、自由になってる。


──確かに今作も、1stシングルであるにも関わらず、振り幅の広さというか枠や線引きのなさを感じさせるものでした。伊澤一葉さんプロデュースの『プラトニック・ラブ』なんて、ほぼピアノがメインで。


柳田:『プラトニック・ラブ』は、伊澤さんと一緒にやりましょうってなった時、僕が伊澤さんに出したオーダーがあって。「ピアノで爆発してください!」って(笑)。そしたら「ピアノは爆発しないよ」って冷静に返された(笑)。でも見事にフレーズで、ピアノの良さ、伊澤さんワールドを存分に出してもらってて。主旋律の歌のメロディに対して三連符のピアノを入れてたり、常人はそんな入れ方せんだろうってところを、伊澤さんは感覚で入れてるらしくて。そういうのも、すごく面白かった。アーティストと対峙して曲を作るっていうのが新鮮で、楽しかったですね。

──ある意味ロックバンドのフォーマットから外れた部分を、1stシングルで提示することに躊躇はなかったですか。


柳田:いや、全然。神サイファンの皆さんも寛容に、受け入れてくれてるというか、ついてきてくれてるので。それって、わりと僕の理想形に近いんですよね。神サイの在るべき姿として、どんな楽曲を作っても僕が歌えば【神はサイコロを振らない】っていうバンドになる、それが当初からの夢ではあったので。それが今、形になりつつあるっていうか。これからもっと幅広い作品を出しても、「やっぱり何やっても神サイは神サイだね」って言われるようなバンドになりたいな、と。


──僕が歌えば、というところで歌詞のことをお訊きしたいんですが、柳田さんの歌詞は僕と君との世界での成り立ち、そこにある具体的な物事やシチュエーションというのがまずあって。そのうえで同世代、同時代を生きている人達を共振させるような物語を感じるのですが、そこで気を使っていることというか、歌詞として落とし込むうえでの柳田さんのやり方、拘りのようなものはありますか?


柳田:そうですね……仰るように、僕が詞を書くうえで、自分と相手との狭い世界での話というのはすごく多くて。で、それは……僕は、提示されると、肯きたくなくなっちゃうというか……誰かの楽曲を聴いて、その人の世界観に自発的に共感する形が、僕は美しいと思ってて。“こうだからこう思ってくださいね”っていう聴かせ方って、なんか違う気がするというか。だったら別に音楽である必要はないし、詞にする必要もないと思うんです。昔は、歌詞の内容をメンバーに絶対説明してたんですが、最近は敢えてしてなくて。特に今作は、歌詞だけをレコーディング前に渡して、各々が感じたままにプレイしてもらうというやり方をしました。あと、その楽曲で僕がどういうことを思ったかというのも、極力、言葉にしないようにしてて。インタビューとかで訊かれても、なるべくふんわり答えてるんです。そこは聴いた人の想像力に委ねるっていうか、その人の人生そのものに落とし込んでほしいな、って。たとえば“愛してます”って言葉でも、愛って百人いれば百通りの愛があると思うし……『夜永唄』でも、僕の中の愛を歌ってるけど、その愛はたくさんのひとりひとりにいろんな伝わり方をしてる。YouTubeのコメント欄とか見ても、面白いんです。リスナーの詩的だったりエッセイ的だったりの言葉があふれてて。そういう現象こそが、僕が理想とする音楽の在るべき姿というか。その人が感じたままに自分の人生と照らし合わせるっていうのが、見事に起きてくれてる。それぞれで聴いて、それぞれの解釈が生まれる、そういう受け渡し方がいいなと思います。


──メジャーデビューから今作の制作、現在に至って、パンデミックという異常事態、制限された状況での活動だからこそ、そういった自由度をより求めるところもあるんでしょうか。今だからこそ生まれたとポジティブに捉えられるようなことも、今作にまつわるところでありましたか?


柳田:あぁ……そうですね。1曲目の『未来永劫』には、周りにいる大切な人を、未来永劫、大切にしてほしいっていうメッセージも込められてるんですけど……ちょうど1年前ぐらいに、僕らもツアーができなくなって。で、ライヴができないってなったら、バンドとしてどう動くことが正しいのかわからなくなって。それは僕らに限らず、全てのミュージシャンが途方に暮れたと思うんですけど、そんな状況の中でメンバーだけで話し合ったんですよ。ライヴができないならどうバンドを盛り上げていくか……で、4人で映画を作ってみたり、肝試しに行く企画を撮ってみたり(笑)。


──肝試しの脈絡がよくわかりませんけど(笑)。


柳田:ははははっ。とにかくいろんな企画をやって、ライヴに来れないお客さんをなんとか楽しませたくて(笑)。そうやって音楽から離れたところでメンバーと向き合うことで、出会った頃の4人に戻れたというか……音楽=生きていくための手段、仕事になってる面もたくさんあったんで、友達として出会った頃の感覚を思い出して、あらためて絆を深められたというか。そういう状況で感じた仲間の大切さとか……人は、本当に一人じゃ生きていけないんだなぁって。弾き語りとかしてる時も思うんですけど、僕一人はホントにちっちゃい光で、それを増幅させてくれるのがメンバーもスタッフさんも含めた【チーム・神サイ】であったり、聴いてくれる人であったり……2020年はそういうことにも気づかされたんですよね。だからこそ、『未来永劫』のような希望的な歌を書いた、書けたのかなと思います。


──こういう時代にこそ、音楽で希望や喜びを共有したい、と。そこは今後のバンドの表現にとってもいちばん重要なところになってくるんでしょうか。


柳田:ん~、どうなんだろう……ただ、自分が音楽をやる最大の理由っていうのも、それこそ去年気づけたんですよ。そもそも男子がバンドを始める理由なんてモテたいからっていうのがほとんどで、僕らもそんなところから始まったのが、仕事として音楽をやれる状況になって。でもライヴができなくなって、ファンの皆さんもすごく悲しんでメッセージを寄せてくれたんですけど、その中に“明日生きることすらもしんどい、生きる理由が見いだせない。でも、神サイの音楽と出会って、柳田さんの歌に出会って、なんとか明日も歯を食いしばって生きてみようかなと思えました”というメッセージがあって。その言葉で、すごくしっくりきたというか、自分が音楽をやる意味、理由というか……使命感みたいものが芽生えて。音楽で、そういう人を救ってあげなきゃいけない、と。別に音楽が無くても大丈夫な人には、人生の+αぐらいになればいいかなと思うんだけど、そうじゃない人、全てではないと思いますけど、音楽に少なからず救われてる人もいるってことを実感したんですね。だから、これまで僕は希望的な歌を書いてこなかったけど、今回『未来永劫』みたいな曲も書いて。……なんかちょっとでも、僕の書く曲が誰かの生きる理由になってくれたらいいなと思いますね。

──その歌をもって、いよいよ5月からはツアーの開催が予定されています。


柳田:はい。僕らの音楽を必要としてくれてる人のために、ライヴを通して、できることを全てしたいなと思ってます。正直、今もまだ100%開催できますって言えない状況ですけど、そんな中でもイベンターさんやライヴハウスの方もやりましょうって言ってくれてるわけで。そこで僕たちがネガティブな気持ちになるってすごい失礼なことだと思うんで……あとはもうやれること、やるべきことをやるだけだって、むしろ2020年のおかげでネガティブな気持ちを振り切れたというか。やるしかない、前を向いて進み続けるしかない。僕ら、もうセットリストも考えてるんですよ。もちろん新曲も披露したいし、昨年のツアーが中止になったことで『理 – kotowari -』(2020年2月リリースのミニアルバム)の曲もライヴでは届けられてないので、やらなくちゃいけない曲がたんまりとある。どう並べてライヴで観せてやろうかって、すごい高まってますね。新しい神サイのライヴが絶対観れると思うし、ずっと応援してくれてる人はもちろん、今作で初めて聴いてくれた人にも、今の神サイをちゃんと知ってもらえるようなライヴを必ずやりに行きますので、待っていてください!

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LIVE INFORMATION

先行あり

Live Tour 2021「エーテルの正体」

2021年5月14日(金)
Zepp Fukuoka

PROFILE

神はサイコロを振らない

柳田周作(Vo)、吉田喜一(Gt)、桐木岳貢(Ba)、黒川亮介(Dr)による4ピース・ロック・バンド。2015年6月9日、福岡にて結成。ライヴハウスで経験値を積み上げながら、2019年5月に『ラムダに対する見解』、2020年2月に『理 - kotowari -』をリリース。Spotifyバイラルチャートでトップ5入りした『夜永唄』が起爆剤となり、注目度も一気に高まる。同年7月、デジタル配信シングル『泡沫花火』でメジャーデビューを果たし、その後も立て続けにデジタルシングルとデジタルEPをリリース。2021年3月17日、初のフィジカルシングルにして4曲中3曲がタイアップである注目作『エーテルの正体』を発表、同作を冠に、約2年ぶりとなる全国ツアーを結成の地・福岡を皮切りに開催予定。