同時代を生きているという無上の歓び。
2年ぶりの全国ツアーで射した無二の光。

DYGL

Text:山崎聡美
Photo:勝村祐紀

同時代を生きているという無上の歓び。<br>2年ぶりの全国ツアーで射した無二の光。

A Daze In A Haze Tour
2021.10.9 sat FUKUOKA BEAT STATION

炎の青か、深海の青か。炎は青く見える部分がいちばん熱い。闇の底のような深海に射す光は水を青白く映す。この夜のステージの幕開けは、【ロックバンド】という音楽表現に対する情熱と本望を胸の奥に秘める彼ららしいサインだった。

独自の活動スタンスを貫きながら、ロックミュージックの正統性と時代の先鋭性とを有機的に昇華するバンド、DYGL。最新アルバム『A Daze In A Haze』のリリースツアー福岡公演が開催された。全国を廻るのは2019年以来、約2年ぶりだ。本ツアーでは、Dr.嘉本康平のギターへのスイッチおよびサポートDr.鈴木健人(never young beach)の参加という、今作再現のための編成変更がアナウンスされている。聞いたとき、バンドの在り方にこだわらない柔軟性に感心しつつ、実はわずかな不安も覚えた。バンドに不在の楽器についてサポートプレイヤーを迎えることはままあるとしても、今回のようなスイッチングはあまり聞かない。オリジナルの新作を携えたリリースツアーで、当該作品のメンバー4人での表現を自ら手放すことは、果たして有効なのだろうか、と。が、蓋を開けてみれば、そんなものは大きなお世話、全くの杞憂だった。結果としてこの夜のDYGLは、これまでのどの時点でのライヴよりもバンドとして立ち、強靭なアンサンブルを成していた。

『A Daze In A Haze』収録曲を軸に、1st『Say Goodbye to Memory Den』(2017)、2nd『Songs Of Innocence & Experience』(2019)の楽曲を絶妙に織り交ぜ、予想以上に彼らの過去から連なる時間を実感させられる構成。身体の深部へ潜るような内省的な響きをともなった『7624』、時代の変容、恐れや不安からの解放を謳う『Banger』等の新作からの楽曲が、バンドの現在を象徴的に映し出す。だが、新曲だけではない。リリース当時のギターロック然としたクールさよりもキレやワイルドさが立ち−−たとえばロンドンでパブのドアを開けてこんな音が鳴っていたら心臓を撃ち抜かれるに違いない−−圧倒的な色気さえまとった『Spit It Out』、オーソドックスな展開のなかで心身にあふれるエネルギーをこれまでになく伝えた『Happy Life』といった今に至る道程の楽曲たちもまた、現在というフィルターを通しさらに未来に向かって開かれている。

「ちょっと……あっついね(苦笑)。物販のパーカー、見せびらかそうと思ったんだけど、福岡、熱(暑)すぎました」と嬉しそうにこぼしながら、Vo./Gt. 秋山信樹がフロアを見渡す。マスク姿で定位置を保っているけれど、満員のオーディエンスの昂揚は歴然だ。

「なんか新鮮な光景だよね。だけど、こっちから見てても皆のエネルギーは伝わってる。最後まで楽しくやれたらなと思います」

ファズの歪みに痺れまくった『Stereo Song』、イントロへと繋ぐインタールードからGt.下中洋介のモノローグのような深淵な語り口をもって響き渡った『Bushes』等、DYGLが獲得してきた楽曲の豊かさ、濃密さもたっぷりと堪能。【ロックバンド】という表現の深みに嵌る愉悦が、会場中にじわじわと広がっていく。音楽の文脈や背景、歴史の多層さを受け継ぐDYGLだからこその創造性、その無二の光に照らされる。

5人のアンサンブルにあらためて耳を澄ませば、タイトで躍動を湛えた鈴木のドラムは揺るぎなく、楽曲の情景を明るくクリアにし、闊達な加地洋太朗のベースは扇の要のようにリズムとヴォーカルをしっかりと結びながらバンドを鼓舞していく。下中はじめ秋山、嘉本と3本のギターは各々の意志を強く感じさせるアジテイトな音作りが為され、3本のエレキ、あるいは2本のエレキとアコギで織りなす情景は極めて鮮やかで多彩である。それらの頼もしさのうえで、メロディのポピュラリティが冴え渡り、秋山のボーカルは微細なニュアンスを失うことなく、しなやかで強い。前述したように、このアンサンブルの強靭さはかつてなく、変化を恐れず進化/深化に踏み込む覚悟あってのものだろう。そして、そんなバンドのアティテュードがあってこそ生まれてくる瞬間も幾度となくあった。

「この状況下でいろいろ考えたからこそできた曲かなと思う。制限や制約の多い社会に置かれた今、ベッドに沈み込んでいくような感覚になったことがある人のために」−−真摯に言葉を選んで演奏された『Sink』は、同調ではなくエンパシーをもって、この時代を生き抜くひとりひとりの孤独を掬う逞しさを孕んでいた。そのエネルギーが『Half of Me』の爆発力へと繋がり、オーディエンスの拳を自ずと振り上げさせる。流麗なギターのフレーズも疾走感に満ちたビートも溢れるほどにみずみずしく、今思い出しても胸が熱くなってしまう。

終盤、彼らは一瞬一瞬に生まれ溢れてくるものを刻みつけて繋ぐように音を鳴らしていた。その様は刹那的であると同時にパーマネントな歓喜にも満ちていて、もっといえば瞬間ごとに刻まれていくDYGLというバンドの歴史を目の当たりにしているようでもあり、なぜだか私の脳裏では“Life Goes On”という言葉がぐるぐると螺旋を描いていた。

全19公演中のまだ7本目、まだこのツアーの意義を総括することはできないが、少なくともこの夜描かれたのは、音楽とバンドの循環。何より強く感じたのは、彼らが同時代を生き、模索し、共闘しているというリアリティだった。このご時世、何を求めてライヴに行くのか?と問われれば、狂騒でもコール&レスポンスでもなく、この時代を共に生きているという実感だと答える。内省と発露が表裏一体となった凄烈なライヴの美しさ、誠実さに、私は心底からの歓びを得た。ありがとう、DYGL。

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