『Thirst』[DISC REVIEW]
DYGL
COLUMN
内省と発露を究めた4thアルバム
渇きを窮める世界に響くファンファーレ
“この夜描かれたのは、音楽とバンドの循環。何より強く感じたのは、彼らが同時代を生き、模索し、共闘しているというリアリティだった。このご時世、何を求めてライヴに行くのか?と問われれば、狂騒でもコール&レスポンスでもなく、この時代を共に生きているという実感だと答える。内省と発露が一体となった凄烈なライヴの美しさ、誠実さに、私は心底からの歓びを得た。”
1年と少し前、前作『A Daze In A Haze』のリリースツアー福岡公演をレポートした。その拙稿を振り返ると、やはりあの夜、すでに本作の兆候はあったのだとつくづく思う。
セルフプロデュースによる4thアルバム『Thirst』。メンバー4人でスタジオに籠り、録音作業からミックスダウンまで自ら手がけるというインディペンデントな制作に回帰した。内省と発露を究めたその音像には、彼らが渇望する(=thirst)バンド本来の姿、よりワイルドな表現がありありと刻まれている。
青白い月光を孕んだようなやわらかなギターのアルペジオが導くオープニングの『Your Life』は象徴的な1曲だ。《It’s your life, time just slides》ーー“これは君の人生”と、この星の同胞に対峙し、突きつけるのではなくそれぞれの軌跡と存在そのものをまるごと肯定する。ネイキッドなアンサンブルが奥行きとドライヴ感をもって、それぞれが心に宿し続ける情景を映し出す。向ける眼差しはやさしく、深く澄んで真っ直ぐである。
続く2曲はともにアルバムのパイロットとして配信リリースされた楽曲。単曲で聴く以上に本作のソリッドな深化を物語り、ギター・ロックの最新型としてのオルタナティヴ性を際立たせる『Under My Skin』。そして冒頭『Your Life』の振動をより増幅し揺るぎない推進力を示す『I Wish I Could Feel』は、飛行機の離陸のような人工的な圧倒感でなく、もっと超自然的なものーー蝶や蜂の羽音の凄烈さを思わせる。アウトロで微かに耳に届く鳥のさえずりと雑踏の気配もまたニュートラルで好い。さらに『Road』では、深淵を覗き込んだかのような静かな混沌がとらえられ音に描写されていく。内省的でありながら仄かな明るさを伴う詩情ーーたとえば《If we’re falling in / And if we’re falling out》という希望と諦念のリフレインーーが心地よく、揺らぎの中から湧き上がる昂揚は実にリアルだ。また、『Sandalwood』の湖面に広がる波紋のように泰然とした音の広がり、そこから派生するなめらかな旋律は、DYGL節とでも呼びたくなるものであり、まさに昨秋のライヴの続きを観ている錯覚に心身を奪われる。シンプルな弾き語りのようなメロディの趣が、メンバーそれぞれの表情が見えるほどに至近の有機的なアンサンブルに立つ『Loaded Gun』も然り。対照的に、本作ほぼ唯一のハイテンポ&アグレッシヴな『Dazzling』は、内省が転化する合図のようであり暗闇の中で高速で明滅する警鐘光のようでもある。
終盤、印象的なアコースティックギターのリフそのものが終始テーマとして曲を牽引する『The Philosophy of the Earth』は、DYGL史上において斬新であり、個人的にはもっとも惹かれる楽曲だ。夜明けに光る朝露のような、音粒の躍動感とみずみずしさ、葉擦れの音まで聴こえてきそうな生命力に満ちている。そしてラストは、疾駆するサウンドのエモーショナル感をもって、ギター・ロックという柱を揺るぎなく立てた『Phosphorescent / Never Wait』。
概して、轟音の中に静寂が生まれ、凄烈な音像に癒やしが宿り、瞬間の情景が疾走感のなかでつながっていく全11曲。メンバー曰く「今までで一番DIYでインディ」なアルバムは、リスナーにとってもっとも親密で、忘れ得ぬ静かな昂揚に満ちた作品となるはずだ。
本作を携え、2023年1月20日より全12公演の日本ツアーがスタート。3月にはテキサス州オースティンでのSXSW出演を皮切りに約2週間の弾丸USツアーを敢行する。九州は日本ツアー後半にさしかかる1月28日に熊本NAVARO、そして翌29日に福岡BEAT STATIONにて。前回公演を凌駕する、何か凄まじい覚醒を目の当たりにする予感しかない。(山崎聡美)
- SHARE