さきの見えない真夜中から、
ひと筋の光がさしてくるまで。
心の声──その4年間の軌跡。

家入レオ

取材/文:なかしまさおり

さきの見えない真夜中から、<br>ひと筋の光がさしてくるまで。<br>心の声──その4年間の軌跡。

配信限定で昨年リリースした『レモンソーダ』『Pain』『かわいい人』をはじめ、WOWOWオリジナルアニメ「火狩りの王」のOPテーマ『嘘つき』など全12曲を収録した最新アルバム『Naked』。直訳すれば“裸”を意味するストレートなタイトルに、ドキリとした人も多いのではないだろうか。それこそ、昨年のインタビューでも語ってくれたここ数年間の彼女の軌跡。澱のように静かに溜まった自己矛盾との闘いのなかで、あるいは、人よりも早く訪れてしまった幸福の低迷期のなかで、傷つき、迷い、悩みながらも、しっかりとその手に掴んだ確かな光(=“本当の自分の心の声”)が包み隠さず──といっても、エンタメとしては最高のショウ・アップを施しながら──鳴らされている。そんな本作に込めた想いや制作にまつわるエピソード、さらに年内2回にわけて実施予定の全国ライヴハウス・ツアーについても話を訊いた。


──昨年の、デビュー10周年を記念した全国ツアー(『家入レオ 8th Live Tour 2022 〜THE BEST〜』)は、メドレー含むシングル全曲披露あり、アコースティックコーナーあり、新曲あり…と、まさにアニバーサリーならではのサプライズが盛りだくさんで、本当に感動しました。前回はツアー前のインタビューだったんですが、完走した今、改めて、どんなツアーになったと感じていますか?

「THE BEST ~8th Live Tour~」Digest Movie

やっぱり、私が新しいことにチャレンジしていけるのは、今までリリースしてきた曲があるからなんだなと再確認しました。これまでリリースしてきたシングル、アルバム、その1枚1枚が、 本当に大切な“自分の一部”になっていると分かったし、同時にそれが自分だけじゃなく“お客さんの一部”にもなっているというのが伝わってきたので。そういう“自分が作った曲が誰かの人生の1日を照らしている”という実感を持てたことは、今後、自分が歩いていく上でのエネルギーにもなりました。


──ツアーで拝見したレオさんの表情、本当に生き生きとされていて、心底、音楽を楽しんでらっしゃるんだなというのが伝わってきました。しかも、8月『レモンソーダ』、9月『Pain』、11月『かわいい人』とタイプの違う新曲を矢継ぎ早に配信されて。そのタイム感もレオさんにしては新しいなと思いましたが、そこからの本作『Naked』には、レオさんがたどられたであろう、この4年間の“軌跡”と“心の声”が、さまざまな形で曝け出されていて。本当に聴き応えのある1枚だと感じました。

『レモンソーダ』(Music Video)

──また、歌詞の中で使われているワードが結構、強いような曲でも、サウンドや歌い方といったバランスの中で、ちゃんとエンタメとして昇華されているものばかりで。その際どい攻め方も、すごくカッコ良かったです。何よりレオさんご自身が、これらの曲の制作過程をきっと楽しんでらっしゃるだろうなと思わせられるポイントもたくさんあったので、そこも非常に楽しかったです。


ありがとうございます。今回は4年ぶりのアルバムになるんですけど、制作期間もそのまま丸4年、かかっているんですよね。それこそ、10代でデビューさせていただいて、最初の3〜4年は、高校に通いながら、1年の間にシングルを3、4枚出して、アルバムを1枚出してっていうような…もうスペースシャトルにでも乗ってるんじゃないか?!ってぐらいの日々を送っていたんですけど、20代に入って、ちょっとずつ自分の時間が持てるようになったら、今度は“音楽は本当に好きだけど、自分には向いていないんじゃないか”というような思想の影が、日々の隙間から忍び寄ってきた感じがあって。いつのまにか“音楽”が“自分の気持ちと向き合う場所”から、“人の気持ちに応えなきゃいけない場所”へと、変わってきちゃってたんですよね。それで、昨年のインタビューでもお話ししたような話で。アルバム制作の前にまず“自分のメンタルと向き合う必要性”が出てきたんです。

『Pain』 Music Video

──コロナ禍に入るちょっと前ぐらいから人生の迷路に入ってしまって、何をやっても“悪循環”になる時期があった、とおっしゃってましたね。

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そうなんです。それで、まだコロナ禍に入る前だったんですけど、音楽以外にも目を向けた方がいいなと思って、ボランティアで保育園のお手伝いをさせていただいて。私は2歳児さんを担当させていただいたんですけど、ワークショップで寒天を握って、その感触を子どもたちに言葉にしてもらうという時間に、教室が汚れないよう私がブルーのビニールシートを敷いたんですよね。そしたら「わぁ!」って、子どもたちが騒ぎ出して。「どうしたん?」って聞いたら、「先生、海が広がってるね!」って言われたんです。


──なるほど。ブルーシートを“海”と!


そう!その言葉がスッと胸に入ってきて。私は“人より圧倒的に経験が少ないから歌詞が書けない”とか、 いろんなことを深く考えすぎてたけど、例えば、表現を生業にしている方、金融関係にお勤めの方、 飲食業をされてる方…それぞれに、人生のテーマは違えど、人としての“心”ってみんな一緒なんだなって、その子どもたちに気付かされたんです。誰だって、嬉しいこと言われたら幸せになるし、悲しいこと言われたら傷つくし、だったら、私は私の人生に起こったことを、誰かの視線を気にするとか、誰かと繋がりたいという気持ちよりも先に、(自分の心に)正直に書こうと思って。


そこから、やっとこの『Naked』の制作に向かうことができました。だから、当時からデモがあった『Winter』や『悩みたいだけ』なんかは、すごく暗いんですけど、そういう“先の見えない真夜中”から、“一筋の光が差してくるまで”の過程がここには全部で12曲、詰まっているんじゃないかなと思っています。

『Winter』(Music Video)

しかも、今回は詞先(しせん)でもメロ先(せん)でもなく、“想い先(おもいせん)”で作った部分が大きくて。まず、私が曲に対するプロットのような短編小説を書き、それを作曲家の方に読んでもらい、トラックをあげてもらって。今度は、そのトラックを元に、スタジオに入って一緒にメロディーを作って、さらに、その出来上がったメロディーに私がもう一回、短編小説を読みながら歌詞を書いていく…っていう、本当に地層のように細かい工程を一つ一つ踏んで作っていきました。中には(短編小説を)渡した後に、一緒に育ててくださった方もいらっしゃいましたし、それを共有してることによって、目指すべき方向が定まってくるので、あとはみんなで“どう面白く調理しようか?”というところに、力を注げたのは良かったです。

New Album『Naked』全曲トレイラー

そういう意味では、曲を作ること=自己セラピーだったところから、今は、純粋に“創作を楽しむ”ことができるようになっていて。例えば、自分に起こった出来事を元に書き始めたとして、もっとその主人公に辛脱な言葉を言わせたら、どうなるかな?もっと、こういうアクションを起こしてもらったらどうかな?と、まるで台本を書いているかのような気持ちで歌詞を書くことも多くなってきました。それはやっぱり(デビューから)10数年経った今だからこそ(できること)なのかなと思ってます。


──『I don’t like you』や『愛は鎖じゃない』などは、そのバランスがすごく上手いですよね。とくに『愛は鎖じゃない』は『Pain』に続く新井(弘毅/THE KEBABS)さんとのタッグ作で。男性目線の歌詞もユニークですし、とにかくカッコいい。

『愛は鎖じゃない』(Official Audio)

ありがとうございます。制作をしていると、トップ・チャートを聴く機会も自ずと増えて、気づいたんですよね。そこで支持されてるようなラブソングは、男性ヴォーカルが傷ついた女性のことを歌っていたり、愛に不誠実な男性に女の子が一方的に振り回されていたり…という構図があまりにも多くて、悔しくて。しかも、こういうのを聴いて、無意識に“恋愛ってこういうものなんだ”って、女の子たちが思っちゃったら、それはそれでちょっと怖いなとも思って(笑)。だったら逆に、私が、愛に不誠実な男性を歌うことがあってもいいんじゃないか?と思って、この曲を作りました。ただ、書いてるうちに(こういう男性を)彼氏にはしたくないけど、友だちだったら面白いかも?と魅力的に膨らませていきました。


──この曲はライヴ映えもしそうですよね。<女の子って なんでこんな 約束ばっか欲しがんの?>という部分は大きな声でコールしたいです(笑)。


実は、最後のセリフ(ガヤの部分)もそうなんですけど、私の方から“多重録音をしたい”という提案をして。“じゃあ、Bメロもこれを入れたら面白いんじゃない?”という感じで、スタジオでセッションする中で、作っていったんですよね。確か、みんな(その作業が)楽しすぎて、ずっと爆笑していた記憶があります。多分、みんなから私、“こいつ本当に大丈夫か?”って思われてたんじゃないかなぁ(笑)。


──今作では新井さんの他にも、石崎光さん(『嘘つき』)やMaika Loubté(マイカ・ルブテ)さん(『Hikari』)、下村亮介(the chef cooks me)さん(『かわいい人』)などと初タッグを組まれています。

『嘘つき』(Music Video)
『Hikari』(Official Audio)

──なかでも『かわいい人』は、これまでのレオさんの楽曲にはなかったようなタイプで。ホーンが入っていたり、クワイヤのようなコーラス部があったりして、こちらもどんなふうにライヴで表現されるのか、楽しみな曲になっています。


シモリョーさんは、私が持っていた“かわいいっていう言葉を使いたい”とか“ハッピーな曲にしたい”、“それをクリスマスに歌えたらいいな”というような大まかな想いを深い深い愛で、すごく大きな曲にしてくださいました。もちろん、R&Bが真ん中にある曲なので、私が育ってきたジャンルとはちょっと違うんですけど。だからこそ、そのDNAをできるだけ自分の中に入れようと思って、起きてる間はずっとシモリョーさんが歌った仮歌の音源を聴いていました。

『かわいい人』(Music Video)

ただ、今回ご一緒させていただいて、改めて大切にしようと思ったことがあるんですね。それは、シモリョーさんがやってこられた音楽にすごくリスペクトがあるからこそ、自分も、自分自身が歩いてきた道にちゃんとリスペクトを払うべきだなということ。それこそ、シモリョーさんに言われてハッとしたのが「家入さんが僕ら側の歌い方で歌うことは、すごく大事なことだけど、だったら“家入レオが歌う意味って何?”ってなるよね」って。だから私も、ちゃんと“家入レオが歌うもの”としてバランスよく昇華できるように頑張りました。


──そんなバラエティに富んだアルバムを引っ提げて、今年は2回も全国ツアーが予定されています。5月にスタートするのが「家入レオ TOUR 2023 ~NOT ALONE~」で、10月にスタートするのが「家入レオ TOUR 2023 ~NAKED~」ですが、それぞれ、どのような違いがありますか?


春のツアーは私のギターの弾き語りを中心に、仲道良(ircle)さんのギター、そしてフロアのお客さんというシンプルなトライアングルでお届けする予定です。おそらく、これまでで一番近い距離感で歌を届けられると思うので、ぜひ、そこを楽しんで頂ければと思います。秋のツアーはフルバンドでのライヴということで、会場のお客さん一人一人のエネルギーを集めてみんなでブチ上がろう!!という感じになると思います。2つともタイプが全然違うライヴになると思いますので、是非、両方来て、楽しんでいただけたら嬉しいです。これからも、もっともっと皆さんの心に届くような、心を震わせられるような楽曲を作っていきたいと思いますので、引き続き応援よろしくお願いします。


──ありがとうございました。

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LIVE INFORMATION

家入レオ TOUR 2023 ~NOT ALONE~

2023年6月17日(土)
福岡DRUM LOGOS

家入レオ TOUR 2023 ~NAKED~

2023年10月12日(木)
Zepp Fukuoka

FM FUKUOKA “今夜だけコラボレーション”ライブ 〜いつものサンパレスで!〜
supported by 福岡サンパレスホテル&ホール

2023年4月23日(日)
福岡サンパレスホテル&ホール
【出演者】
スターダスト☆レビュー
家入レオ
杉山清貴
PUFFY

PROFILE

家入レオ

1994年12月13日生まれ、福岡県出身。13歳で音楽塾ヴォイスの門を叩き、2012年2月15日にシングル『サブリナ』でメジャー・デビュー。以来、数多くのドラマ主題歌やCMソングなどを担当。老若男女問わず幅広い層のファンから支持を得続けている。また、3月29日には“家入レオ8th Live Tour 2022 ~THE BEST~”から、2022年11月18日東京・中野サンプラザホールでのツアー・ファイナル公演の映像を収録したLIVE Blu-ray / DVD『THE BEST ~8th Live Tour~』もリリース。特典映像として当日の舞台裏を収めたドキュメンタリーやライヴ写真満載の豪華フォト・ブックが付属する。詳しくは公式サイトをチェック!