矛盾の中にある美しさ、楽しさ、抗う気持ち。
a flood of circle
取材/文:なかしまさおり
INTERVIEW
オリジナル・アルバムとしては通算12枚目。2月15日に最新アルバム『花降る空に不滅の歌を』をリリースしたa flood of circle。本作には、前作『伝説の夜を君と』を掲げて廻ったツアーで初披露し、テレビ東京「隅田川花火大会 特別編2022」のOP曲としても起用された『花火を見に行こう』をはじめ、人気漫才師・金属バットが出演したMVも話題の『如何様師のバラード』や『くたばれマイダーリン』、『カメラソング』など、バラエティ豊かな全10曲が収録されている。今回は、そんなアルバムについて、ソロ弾き語りのライヴで来福していた佐々木亮介(Vo,Gt)をキャッチし、ツアーへの展望も含めて話を訊いた。
──今回のアルバム。タイトルだけを聴いた時は、前作(『伝説の夜を君と』)と地続きなところにあるのかな?とも思っていたんですが、聴いてみたら、前作以上に赤裸々な…ここまでさらけだすのかと思うような歌詞も多くて、ちょっと驚きでした。
うん。(アオキ)テツが(正式メンバーとして)入って5年、アルバム3枚(『CENTER OF THE EARTH』、『2020』、『伝説の夜を君と』)を作って、改めて気づいたことがあったんですよね。おそらく、この5年はメンバーが固まってきたがゆえに、もうメンバーチェンジはしたくないという怯えもどっかにあって。もちろん、自分ではそういうつもり全然なかったんだけど、実は、すごくメンバーに気を遣って、メンバーとの距離感を測りながら、やってたってところもあったんじゃないのかなって。とくに、姐さん(HISAYO)やナベちゃん(渡邊一丘)は古い付き合いだけど、テツが入ったことで変わった部分もあっただろうし、それぞれのプライベートでの変化とか、コロナ禍での“バンドとしての考え方”の揃え方とか、そういう部分も含めて、“このメンバーと、どういうふうにバンドをやるのか”を探りながら、そして、乗り越えながらやってきた5年だったと思うんですよね。
ただ、そんな不安も今はもう全然なくて。じゃあ、次にどんなアルバムを作るのか?と考えたら、もっと、ちゃんと自分を打ち出して、このメンバーに対しても失礼じゃないぐらいの詞と曲を作んなきゃなと思ったんです。もちろん、そこには“お前、本当に死ぬまでバンドやれんのか?!”ってことへの問いもあるし、そこも含めて、このアルバムでは徹底的に“自分”をさらけ出して曲を書こうと思ってました。それで、いちばん最初に書いたのが『花火を見に行こう』という曲でしたね。
──確か、前回のツアー(Tour 伝説の夜を君と)の岡山公演で初めて披露されて、福岡でもひと足先に聴くことができました。これはツアーの中で歌詞が書き換わったりして、公演ごとに成長している曲とも言われていましたね。
そうそう。ただ(こうしてアルバムの中で振り返ってみると)試行錯誤で作ってるっていうのもあって、まだ、そこまで(自分を)さらけ出しきれてなかったなと。ただ、そこから曲を作っていく中で、いま思ってること、困ってること、悩んでること。あと、弱かったり、ズルかったりする自分も全部、そのまんま書いちゃおうと思って。最終的には、そこ(『花火を見に行こう』)から、いちばん最後に書いた『月夜の道を俺が行く』までの“10曲を作る物語”が、そのまま、このアルバムになったのかなというふうにも感じてます。
──なるほど。それこそ、昨年のツアーで『花火を見に行こう』を聴いた時は、コロナ禍真っただ中というのもあって、“その先にある希望”みたいなものを歌ってくれたんだろうなと感じていたんです。例えば(『伝説の夜を君と』に収録されていた)『北極星のメロディー』みたいに、みんなが等しく見上げられるモノの象徴としての“花火”なのかなと。だから“地続きなのかな”と思っていたんですけど、実際の曲を全部聴いて、今の話を改めて聞くと、すごく合点がいきましたね。つまり、作った順番としては頭とラストが逆で、だからこそ『月夜の道を俺が行く』では、歌詞に“佐々木亮介”が登場したりもする、と(笑)。
うん。ただ、結局、このアルバムでは俺、力強く“乗り越えたぜ!”とは全然言ってなくて。“俺は行く!”って言いながらもずっと、困ったままであることには変わりないっていう。…ただ、そうやってギリギリ自分を“売り物”として保ててるうちは、まだ大丈夫なのかなと。それこそ今は対外的に見ても、アー写が絵の人とか、VTuber的な世界観とか、(実際の自分とは)違うアイデンティティを打ち出してる人がいっぱいいて、みんな上手くいってるなと思うんですよね。音楽的にも理論的にも、クオリティが高くてデスクトップで完結できるような、おもしろいものもいっぱいあるし。…であれば、むしろ“佐々木亮介が剥き身でいる”っていう状態、“困ってる俺を書く”っていうのも、音楽好きな俺がやることとしては、おもしろいのかなと。そういう意味では、さっき言ってた“このメンバーと何かやろうって時に、それしかないと思えた部分”と、そのどっちの必要にも駆られたってところは、あるかもしれない。
──ただ、そういう“バンドをやってるがゆえの自己矛盾”みたいなものまで、ちゃんとエンタメとして昇華してしまえるバランス感覚は、すごく面白いなと思いました。
ありがとうございます。それこそ電気で再生してるのに<なんの意味もない歌だ/電気の無駄だ>って、歌詞を聴かされたら結構、おもしろいんじゃないかなって(笑)。だって本気でSDGsとか言うんだったら、バンドの新しいTシャツとかグッズとか、そんなものはもう要らないはずなんですよ。でも、やっぱりまだ、どうにかこうにか生きて行くためには、作って売って…だから、どっちも“本音”ではあるんですよね。ただ、そういうロックとか音楽をやることに対しての“答えのなさ”も含めて、やっぱり最終的にはこうやって、歌って生きていくしかないのかなって。
──では、その2曲を繋ぐ過程というのは?
『花火を見に行こう』の次が『Party Monster Bop』ですね。この曲は代々木(公園野外音楽堂で)のフリーライヴのために作ったんですけど、その頃にはもう、この曲も含めて“次のアルバムではこういう10曲が欲しい”といった全体像のようなものを決めていました。
それこそテーマとしては“俺”の歌だし、1曲目は絶対、アカペラで始まる曲で、“俺”って言葉が入っている曲にしたい、とか。アルバムのタイトルには“歌”っていう言葉を入れたい、とか。でも、タイトルだけは、そのフリーライヴの日に発表する予定だったので、そこまでに一生懸命、考えて考えて、練りに練って、『花降る空に不滅の歌を』というタイトルを考えました。
──同名曲が7曲目に入っていますが、アルバムタイトルとして、というのが先なんですね。
そう。これがまた自己矛盾っぽい話になっちゃうんですけど(苦笑)。さっき、おっしゃってくれたような、北極星とか花火とか、何か遠いものを見てるっていうことにも繋がっていて。例えば、今朝の新聞の1面が袴田さんのニュース*だったんですよね。それを見た時に思ったのが、袴田さんかわいそうとかじゃなく、多分、自分も人を冤罪にする側なんだろうなっていうことだったんです。それこそ、この事件って、思い込みで勘違いしたり、間違ったり、そうやって犯人を決めた方が“楽だったから”こうなったってことでしょう?そう考えると、自分も楽な方、楽な方に流されて生きていて、そういうことが結局は地続きで、袴田さんを冤罪にしちゃったり、世界のあちこちで起きてるような戦争の話に繋がったりしていくんじゃないの?って。
でも、そうやって、もっとマシな世界はないのか?って言いながら、そのマシじゃない世界を作り出しているのも自分で、そういう自己矛盾の中で、また“世界平和”みたいなことを真面目に考えちゃうから、“頭がお花畑だね”って言われちゃうんですよね(苦笑)。だから、たぶん、花火とか北極星みたいなことを歌っちゃうのもそのせいで。でも、そういう矛盾の中にある“美しさ”とか“楽しさ”、あと“抗う気持ち”みたいなものを表そうとして、今回『花降る空に不滅の歌を』みたいなタイトルをつけたんだろうなと思います。
──でも、すごくいい言葉だなと思います。それこそディスクレビューの中では、武者小路実篤の言葉を引用したりもしたんですけど、人が見ていようが、いまいが関係なく、自分の命を全うして咲くだけだっていう、どこか“清々しい覚悟”のようなものも感じます。
確かに。いってみれば、これって逆ギレで。花火も星(の光)も“一瞬の瞬き”だし、“花降る空に”の“花”も、そこで“今”生きてることの象徴というか。今だったら花は桜?いずれにしても“散る”ってことが(その先に)決定しているわけで。だったら“美しい”とか言ってる場合じゃないぞ!って、そういうことだったりするんですよね。
──で、実は、このアルバム・タイトルと同タイトルの7曲目を聴いて、ふと思ったことがあって。この“花”っていうのは、実は戦地上空を飛び交うミサイルの暗喩で、危ないぞ、現実を見ろっていくら外の国の人から言われても、それが“日常”となってる場所に暮らして、そこで普通に遊んでる子どもたち(=ベイビー)にとっては、そんなのちっとも関係ないのかなって。それこそ、どんな環境であっても、“爆音で大好きな歌を聴いて”力強く前に進んでいこうって、そういう物語なのかなって。すごく想像力を掻き立てられました。
ありがとうございます。確かに。今、言われて思ったけど、そういうミサイル的なニュアンスも、もしかしたらあるかもしれない。それこそ“花降る空に”の部分は、むしろ“振り”で、何かに夢中になることとか、いま集中してることに夢中でいろよって。たとえズルい自分が出てきたとしても、もし“その考え方はお花畑だね”と笑われたとしても、そこが本当に、自分にとって目指すべき場所だとしたら、そこに夢中でいることが大事だよって、ことなのかもしれないですね。
しかも、それは誰かに向けて言ってるわけじゃなく、“自分に”いちばん思ってることなのかもしれないし。それこそ、もう“希望”とか“期待”とかも言ってらんなくて、“続けることがカッコいい”とか、そういうことを言う余裕もなくなって、正直“続ける以外、選択肢がない”ってところに今、自分はいると思うので、それをまんま書いたら、こうなった、ってことなのかもしれないです。
──あと今作では奈良美智*さんがジャケット・ワークを担当されています。かねてより交流があったとはいえ、やはりアルバムのために絵を描き下ろしてもらうというのは、感慨深いものがあったのでは?
もう感慨深すぎて!いまだに信じられないって感じですね。それこそ、さっきも別の取材で「奈良さんの絵をパクってんのかと思いましたよ」って言われたんですけど(笑)、交友関係を知らなきゃホント、そう思うよなって、自分でも思います。でも、そうやって頑張って生きていると、こういうご褒美が、人生には、たまに降って来るんだなって思うと、やっぱり音楽を…バンドを辞められない理由になるんですよね(笑)。
──さて、そんなアルバムを携えての全国ツアー。九州では5月に大分、鹿児島、福岡でのライヴが控えています。今回は、どんなライヴになりそうですか?
そうですね、今回は本当に自分が“困ってるな”って思うところをそのまま書いたアルバムなので、そこで、すごくみんなをエンパワメントして、勇気づけてやったりとかはできないのかなとは思っていて。もう“困ったまま”演ってやろうと思ってます(笑)。だから、もし、聴いてくれる人が俺と同じように、自分の弱さやズルさに困ってるなら、きっと、そこで何かが届けられるようなライヴにはなると思うし、是非みなさん、ライヴで一緒に“困りましょう”っていう感じですかね。
あと、福岡はCBで演るので、他と比べてちょっと“エモさ”が出ちゃうかも?とは思っていて。実は、いま考えても、なんて贅沢な!と思うんだけど、まだ俺が20歳ぐらいの時に取材で初めて“対談”したのが鮎川(誠)さん*だったんですよ。別にそこからずっと付き合いがあるとかでは全然ないんですけど、今年、鮎川さんが亡くなられて、自分なりに感じることも多くて。そんな鮎川さんのポスターが、壁じゅうに貼ってあるお店で演奏するのは、なんだかすごくエモいなと。いや、かなりエモさが出ちゃいそうだなと、今から心配しています(笑)。
もちろん、鮎川さん的な世界観の人たちから見たら、“お前ら、別にロックンロールじゃないよ”って言われるかもしれないんだけど、そういう福岡のロックの影響の末端に自分がいる…っていうと、おこがましいけど、やっぱり、何らかの影響は勝手に受けているので。それを頑張って、粘って、次(の世代)まで更新させていくっていうのをこれからも、やっていけるといいのかなって思ってます。
──きっと鮎川さんもどこかで見守ってくださってるかと。
うん。(会場のどこかに)きっといらっしゃるだろうなって。当日は、それを感じちゃうかもなって思いながら演ろうかと思ってますので、皆さんも楽しみにしていてください!
──ありがとうございました。
*袴田事件 1966年に静岡県の民家で起こった強盗殺人・放火事件の通称。死刑確定後に再審が認められ、現在も係争中の異例の事件。
*奈良美智 世界中にファンを持つ、日本を代表する現代美術家のひとり。音楽にも造詣が深く、ロックフェスなどではDJを務めることも。
*鮎川誠 1970年代から日本のロックシーンを先導してきたシーナ&ロケッツのギタリスト。今年1月29日逝去。
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LIVE INFORMATION
Tour 花降る空に不滅の歌を
- 2023年5月25日(木)
- 大分 club SPOT
- 2023年5月27日(土)
- 鹿児島 SR HALL
- 2023年5月28日(日)
- 福岡 LIVE HOUSE CB
PROFILE
a flood of circle
佐々木亮介(Vo,Gt)、渡邊一丘(Dr)、HISAYO(Ba)、アオキテツ(Gt)。2006年の結成以来、メンバー・チェンジやレーベル移籍といった“傷だらけの歴史”を繰り返しつつも、常に、不屈の精神で自らの進む未来を更新し続けているロックンロール・バンド。2022年7月にはLINE CUBE SHIBUYAにて初のホール・ワンマンライヴを開催。同年10月には代々木公園野外音楽堂にて、約4000人を動員する大規模なフリーライヴも成功させるなど、ますます注目を集めている。なお最新アルバム『花降る空に不滅の歌を』は現在、通常盤(CD)、初回限定盤(2CD)、テイチクオンラインショップ限定盤(2CD/DVD/グッズ)の3形態にてリリース中だが、これに加えて、4月5日にはアナログ盤(30cmLPサイズ)でのリリースも決定しているとのことなので、是非、この機会に入手して、最高の歌とサウンド、そしてジャケットワークを堪能してほしい。ちなみに佐々木はa flood of circle以外にも、ソロでの弾き語り、THE KEBABSとしての活動、他アーティストへの楽曲提供など、多方面で活躍中なので、そちらもチェックを。