黙ってられないオッサンたちの、
ユーモアあふれる大反撃。

怒髪天

取材/文:なかしまさおり

黙ってられないオッサンたちの、<br>ユーモアあふれる大反撃。

今年結成39年目を迎えた怒髪天が最新アルバム『more-AA-janaica』(モウ エエジャナイカ)をリリースした。そもそも「ロックバンドにコンプライアンスなんぞは不要!」と、ずっと前から言い続けてきた彼らであるが、本作では改めて、自らを“老いてなお害する者なり”と、覚悟をもって再定義。“右手に怒りを、背中に哀愁をたずさえて” ──忖度なしにブチまけた全6曲の本音について、ヴォーカル・増子直純に話を訊いた。

──今作はビジュアル面含め、いつも以上に“振り切った”アルバムになっていると思うのですが、まずはこのインパクトありまくりの“アーティスト写真”から…触れるべきですよね(笑)?!これはやはりFLATBACKER*に対するオマージュ…ということで。

そうだね(笑)。もともとは(初回生産限定盤に付属している)写真集(『DA・SO・KU』)の企画で、“収録曲それぞれのコンセプトに合わせたビジュアルを撮る”ってとこから始まったんだけど。その中で『OUT老GUYS』をイメージして撮ってもらったのが、このアー写。

──曲調然り、“ユーモア”と“怒り”を融合させた、怒髪天らしいビジュアルに仕上がりましたね。

うん。でも正直、ヅラかぶってるヤツいるし、フルメイクだし、パッと見、誰が誰だか全然、分かんないよね(笑)。元ネタは泉昌之さんのマンガ『ジジメタルジャケット』*。若い頃によく読んでて。俺ら笑ってたんだけど、気付けばいよいよ、その(マンガに出てくるジジイたちに近い)年齢になってきたぞ?!ってことで「もし、自分たちがメタルのバンドをずっと演っていたとして、(50代後半の)今だったら、どういう感じになるのかな?」って、想像しながら充ててみた。

OUT老GUYS(アウト・ロウ・ガイズ)

──対するジャケ写は非常にスタイリッシュなデザインで。メンバー4人の顔が『北斎漫画』*風のイラストで描かれています。“江戸”とか“カリカチュア”といったキーワードで眺めると、アルバム・タイトルの“ええじゃないか*”スピリットや『令和(狂)哀歌〜れいわくれいじぃ〜』の持つ音頭的“狂乱/騒乱”にもつながるムードを感じます。

令和(狂)哀歌〜れいわくれいじぃ〜

そうね。やっぱりこの2、3年はコロナ禍で我慢しなくちゃいけないことも結構あったし、政治云々の話じゃなくても、ふつうに、生活レベルの話でさ、日々こんなにアタマにきて暮らすことになるとは、思わなかったもんね。『令和(狂)哀歌〜れいわくれいじぃ〜』の歌詞じゃないけど、毎日イヤなニュースばかりで、ラブソングなんかは歌う気になれない。むしろ、怒りに震えるというかさ。でも、それをバンドでやるってなったらやっぱり、エンターテインメントでもあるし、いかにユーモアを交えて(曲として)昇華していくかってことが大事になってくるから、そこはすごく考えてるよね。

──確かに。大事なこと、辛辣なことを言うときほど“ユーモア”をもって──と、増子さん常々言われてますもんね。そして、それは『令和(狂)哀歌〜れいわくれいじぃ〜』のベースにもなってるクレイジーキャッツ*から、脈々と受け継がれているスピリットでもあるんでしょうね。

ハイそれまでョ(ハナ肇とクレージーキャッツ)

ホントそう!それこそがロックバンドの、というより、われわれ怒髪天のやるべきことだし、やりたいことでもあるからね。ただ、『ジャナイWORLD』でも歌ってるけど、今は“自分が子どもの頃に思っていた世界”でもないし、“大人になってから思った世界”でもない。本当に良くない方向に向かってるぞ!とは、思うわけ。

ジャナイWORLD

でも、周りを見たら、誰も怒ってなくて、“あれっ?俺だけ?”って(苦笑)。そういう意味では危機感がすごくあるし、楽曲にしても何にしても、俺らが演ってることって、思ったほど(世間に)届いてないんだなって実感することも多いから、そんなに聴いてねぇんだったら、もっと好きにやらせてもらうわ!って作ったのが、このアルバム。

普通に考えたら、今までやってきたことの一番延長線上にある『一択逆転ホームラン』がリード曲になると思うんだけど、今回に限っては、“そこ”じゃねぇなと。もちろん、今までも忖度したり遠慮したりはしてないんだけど、今回はとくにそういう想いが強かったかも。

一択逆転ホームラン

『Go自愛』とかもそうだよね。一昨年、親父が亡くなったことで、母ちゃんが“もう生きていたくない、早く死にたい”とまで言い出して…。そりゃそうだよね。常に隣にいて、自分の生活に組み込まれていた存在を亡くすって、すごく大きいことだと思うから。それに対する俺なりの“提案”。…決して“答え”なんかじゃないんだよ、あくまでも俺なりの提案をね、歌ってみたのがこの曲で。結局、いちばん重くて暗いテーマほど、なるべく短く、すぐ終わるような明るい曲に乗せて歌うのがいいかなと思って。

Go自愛

まぁ、コロナもそうだけど、何かマイナスのことが起きたら、それをプラスに転化しなきゃいけない。そうしていくのが人間としての正しい姿だ…みたいなことを現代の大人は、変に背負わされてる部分も多いじゃない?でも、本当はそんなことないんだよ。何もしたくないなら、しなくていいし。死ぬこと以外だったら多少、自暴自棄になってもいいと思う。なんでも前向きに捉えて、自分の糧にして生きていこうなんて…ホント、自分の心にもカラダにも、良くないことだと思うから。

──そういう意味では、この春、増子さんが役者として出演された映画『GOLDFISH』*にも同じようなテーマ性を感じました。年齢を重ね、それぞれに環境が変化していく中で、過去や今の自分をどう受け入れ、どう折り合いをつけて生きていくのか。その難しさ、大切さみたいなものを突きつけられているような気がして、めちゃくちゃ響きましたし、その上で、この『Go自愛』を聴くと、いっそう心に沁みるものがありました。

映画『GOLDFISH』予告

うん。とくにバンド界隈を含めて、エンターテインメントの世界には“ちゃんと年をとれない/とれなかった人”っていうのが、すごく多くて。自分の若い頃が自分のいちばんのピークだと思い込んじゃうんだろうね。でも、それこそ俺が高校生の頃、やりたかったのはTHE MODSとかTHE CLASHとか、ああいうバンドだったわけ。でも、やってるうちにだんだんと、こんな変な形に変わってきてさ(笑)。『たからもの』でも言ってるけれど、それでも俺的には断然、こっちの方が楽しいし、グッとくるし、やっぱりコレ(怒髪天)だよなぁって思うから。

たからもの

──それこそ来年は結成40周年ですもんね。

そうなんだよ、早いよね。

──しかも、3年後には増子さんの還暦も控えているということで。何かアニバーサリー的なことも計画されたりしてるんでしょうか?

いやー、それが35周年の時にさ(総勢220名参加の豪華な記念盤などをリリースして)、ちょっと大きくやりすぎたから(苦笑)。とりあえず40周年については、そこまで大きなことは考えてなくて。どっちかっていうと、還暦に向かってカウントダウンって感じかな。そこへ向けての準備は、今からちょっとずつしていきたいなとは思ってるけど。

オトナノススメ~35th 愛されSP~

──いまは日本にも、60歳、70歳越えで、現役バリバリな諸先輩方がいらっしゃいますしね。

うん。(そういう先輩たちに)ここら辺までは、まだ今のスタイルでも行けるんだなって見本をもう見せてもらってるからね。あとは“健康”にだけ、気をつけて。1日でも長く、この4人で演っていければ、十分かな。

──5月10日からは全国ツアーもスタートしています。福岡公演まで、もう間もなくという感じになってきましたが、声出しが解禁されたツアーということで、各所熱いライヴが繰り広げられているようですね。

そうだね。やっぱりみんなの声が聴こえるとグッとくるよね。とくに今回は、新しいアルバムからはもちろん、そこに派生する…いわゆる“曲の素”になったようなラインの曲もたくさん演る予定だし。それこそ、ここ2、3年で出した曲──例えば『SADAMETIC 20/20』(2020年/『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』収録)みたいに、完全に“みんな”で歌うことを想定して作ったのに、まだ1回もちゃんと歌えてないって曲がたくさんあるからね。そういった曲がやっと“今回のツアーで完成する”って感じはするから、そこはすごく楽しみだね。

SADAMETIC 20/20

それこそ、ずっと我慢してきたものを全部、俺らのライヴで吐き出しに来てくれたら嬉しいし、“みんなで声をあわせて歌う”っていう、最後の1ピース、その欠片をね、一人でも多くの人に塡めに来てもらえたらなと思ってるから。是非、みんなで一緒に完成させましょう!

──ありがとうございました。

WHAT IS DOHATSUTEN?

*FLATBACKER(フラットバッカー)、E・Z・O(イーズィーオー)
1982年札幌にて結成。1985年にメジャー・デビューし、翌年渡米。バンド名を“E・Z・O”へと改名し、全米デビューを果たした伝説的バンド。逆立てた髪と隈取りメイク、メタルとハードコアパンクを融合させた独自のサウンドで人気を博した。

*ジジメタルジャケット
1990年、泉昌之(泉晴紀×久住昌之による漫画家コンビ)による漫画作品。久住昌之は『孤独のグルメ』の原作者としても有名。

*北斎漫画
日本が誇る浮世絵師・葛飾北斎による絵の指導書。初版は1814年とされており江戸末期を代表するロングセラー作品。

*ええじゃないか
江戸時代末期に起こった熱狂的民衆騒動。奇抜な仮装をした集団が“ええじゃないか”と口々に歌い踊りながら練り歩いた。当時の不安定な社会情勢に対する世直り願望を反映したものとも言われている。

*ハナ肇とクレージーキャッツ
TV「シャボン玉ホリデー」などへの出演で大ブレイクしたジャズ・バンド。メンバーそれぞれが高い音楽的スキルを誇りつつも、エンターテインメント性に満ちたコミカルなステージで話題となり、音楽以外でも俳優、タレントなど晩年までマルチに活躍した。

*映画『GOLDFISH』(2023年/出演:永瀬正敏、北村有起哉、渋川清彦、増子直純ほか)
メンバーの逮捕や急逝による活動休止/再始動/再結成といった波乱万丈たるキャリアの中で、全員が還暦を迎えた今も熱量高きライヴでファンを魅了し続けるパンクバンド、亜無亜危異(アナーキー)のギタリスト・藤沼伸一による自伝的初監督作品。

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LIVE INFORMATION

more-AA-janaica TOUR 〜もうええじゃないか、もう〜

2023年6月3日(土)
北九州 小倉FUSE
2023年6月4日(日)
福岡 LIVE HOUSE CB

PROFILE

怒髪天

人間味あふれるキャラクターと魂を揺さぶる圧倒的なライヴ・パフォーマンスで、幅広い層のファンを魅了し続けている“JAPANESE R&E(リズム&演歌)”の雄。1984年札幌にて結成。1988年より現メンバーでの活動を本格的にスタート。1991年に上京し、アルバム『怒髪天』にてメジャー・デビュー。近年ではメンバーそれぞれの活動域も拡大し、他アーティストへの楽曲提供をはじめ、映像・舞台作品への役者としての出演、あるいは劇伴担当、番組MC担当などマルチに活躍中。増子直純(Vo)、上原子友康(Gt)、清水泰次(Ba)、坂詰克彦(Dr)。インタビューでも触れた写真集『DA・SO・KU』をご覧になりたい方は是非、初回生産限定盤(TECI-1802/¥6,050)をゲット!なお2023年8月18日(金)には横浜 F.A.D YOKOHAMAにて、怒髪天史上初となるフルメイクGIG"We Are OUT老GUYS"が開催される模様(驚!)。詳細は公式サイト参照。