この夏、彼らが鳴らした熱狂の軌跡
PK shampoo
取材/文:なかしまさおり
ライヴ撮影:勝村祐紀
INTERVIEW

夏が終わる。いや、正確には、終わ“ろう”としている。それが僕らの推量なのか。それとも、夏の意志なのか。それは誰にもわからない。ラジオからは、あの曲が流れてくる。誰かが言う。「今年の夏は暑かったなぁ」(いや、去年も、おととしもそんなこと言うてましたけど?でも、確かに暑かったよね…)。別の誰かが言う。「こないだ夏になったばっかりだと思ってたのに、もう終わっちゃう。ほんと、あっと言う間だったよ」(それも毎年、言うてますがな。でも、ほんとに、それはそう。とくに、この夏は地球の自転速度が上がって、1日が24時間を切ったという日が何回もあったし…)。そんな、おなじみの光景を見聞きしながら──でも、今年はちょっと違ったんだよなぁ。と“2025年夏の日々”に思いを馳せる。インタビューとしては約1年ぶりの登場となるPK shampoo・ヤマトパンクス(Vo,Gt)。本稿では、その言葉を軸に、彼らが鳴らした最新作『PK shampoo.log』に関するエピソードを、8月10日(日)LIVE HOUSE CBで開催された“PK shampoo tour 2025 -Login to PK shampoo-”での景色を交えながらお届けする。

8月10日──その日はあいにくの土砂降りだった。雷鳴轟く夕暮れに、電車は止まり、飛行機は遅れ、高速道路も閉鎖された。おそらく、そのせいで“来たくても来れなかった人たち”がたくさんいたのだと思う。そんなファンへの気遣いを口にした後、おもむろに鳴らされたのは『断章』※1だった。彼らの最新作『PK shampoo.log』の中でも唯一、歌詞がすべて平仮名で書かれたナンバー。この曲では、ラストで<いのちはもうこれだけ>という言葉がリフレインされる。まずもって、これを1曲目に持ってきたというのも意外だったが、「アカン、こんなんじゃ!もっかいやります」と、曲が終わらぬ前から2巡目に突入。そのまま『奇跡』、『君が望む永遠』、『SSME』と一気に景色を押し広げ、気づけば『3D/Biela』でフロアは大合唱状態に。
MCでは、この日の土砂降りも「逆に、忘れられない思い出になるんじゃないか」と話したヤマト。その流れで“思い出”は幸せなことばかりじゃないという話から、ベースのニシケン(ニシオカケンタロウ)はとくに幸せな経験が少ないため、思い出フォルダの中でも“幸せフォルダ”が空きまくっているという話に。それを受けてヤマトが「今日はケンがいちばんいい思い出になるようにしよう」と提案。ファンからは大きな拍手が起こり「なんでもかんでも思い出にしていきましょう。悪いこともいいことも、思い出になってしまえば美しい」と、『夏に思い出すことのすべて』へと繋げた。

これしかなかった“必然の曲順”
彼らが6月18日にリリースした最新アルバム『PK shampoo.log』。これまでの楽曲にも、たびたび夏の景色は登場したが、今作ではグッとその解像度が高まり、より意識的に“歌いにいった”という印象がある。というか、まず“曲順が神!”。自分でも何度か並び替えてはみたが、どうあがいても、これに勝る並びはなく、むしろ“この曲順だからこそ感じられる物語性が、このアルバムの魅力なんだ”と結論づけた次第。それを告げるとヤマトは「アハハハ!神(笑)!」と爆笑していたが、彼らにとっても「これ以外には、ない」という並びになったのは確かなようだ。ただ「考え抜いた末にこうなったというよりかは、最初から“これしかなかった”という感じ。もともと曲順決めが本当にめんどくさくて、どんどん後回しにしてった結果、全部の曲が出揃ってからの作業になったんですけど。ただ、並べ始めてみたら、これがもう絶妙で。(曲順の)80%以上が(メンバー全員の)“意見一致”で決まったんです。そういう意味では“必然の曲順”。最初から決まってた絵のパズルを僕らは嵌めていっただけ」。じゃあ、夏についてはどうなのか。
<夏以外のすべての季節は/夏に跳ぶための助走にすぎない>※2
ヤマトいわく、自身が夏生まれであることにも関係するかもしれないが、もともとは夏が嫌いで、好きになったのは「大人になってから」だと言う。冬は「そもそも論外」で、秋と春は「過ごしやすいし、そらそうやろ、と。そんな季節を“いちばん”と言うヤツは舐めてます」と、にべもない。じゃあ、なぜ“夏”なのか。それは「(季節の中で)いちばん“今”な感じがするから」。言わば、季節ごとのイベントやセレモニーの多い秋や春は、自然とそこに繋がる景色も“郷愁”や“過去”の記憶と結びつく。「もちろん、夏にだって“過去の夏”を思い出したりすることはありますよ?でも、それ以上に“今”が、いちばん目の前にある。それが夏なんじゃないかな。正直、やってることなんて大したことない。水に入るとか、肉を焼くとか。でも、この“夏の暑さ”、“暑い”っていう臨場感。灼けつくアスファルトを歩いてるっていう臨場感に、“生きてる”ってことをすごく感じる」。ただ、今になって思うのは「“好き”も“嫌い”も結局は、自分自身の感受性の問題なんだということ」。おそらく、“感受性が尖りまくっていた10代の頃のヤマト”にとっては、嬉しいことも嫌なことも必要以上に増幅させてしまう、夏特有のライヴ感が、強すぎたというだけの話なのだ。「いやぁ、いいですねぇ、夏(ニコニコ)。やっぱり、“夏が好きだ!”と言える人生でありたいですねぇ(満面の笑み)」。なるほどヤマトは夏が大好きなのだ(ちなみに、季節の中で「“いちばん”好きなのは秋」とのこと……え?!)。
ステージでは、転調しながら続く長い長いアウトロが、終わりゆく夏の後ろ髪を延々と引っ張っていた。その余韻の中でポツリ「ちょっと珍しい曲、歌ってみます」と呟き、歌い始めたのは<西武新宿、死のうと思った>でお馴染みの『S区宗教音楽公論』。いわずもがなの大合唱だが、これがクライマックスではないことぐらい、誰もがわかっていた。文字通り、命の限りを尽くして歌い上げるような『旧世界紀行』のラスト・フレーズ。その響きを追いかけて鳴るギターの最後の一音に、かぶせるようにヤマトが言った。「オモんない、オモんない言うとってもしょうがないんで。みんな、この場所ぐらいでも楽しい場所にしていきましょう」。ヤマトの雄叫びから始まる『夜間通用口』。フロアから突き上がる拳の強さとOiコールのボリュームに、思わず鳥肌が立つと同時に瞳が潤む。「びっしょびしょになろうぜ!」と嬉しそうに叫ぶヤマト。この時、誰もが思ったに違いない。こんな幸せな夏、終わってほしくない!

<どこへ行っても旧世界紀行/つまんねー>
先述のように“必然の曲順”にて構成された『PK shampoo.log』だが、1曲目が『旧世界紀行』で、ラストが『ひとつのバンドができるまで』というのも最速で決まったようだ。「“何コレ?なんていうコード?”みたいな、ちょっと変わったアルペジオ・パターン」から始まるこの曲は、歌詞の世界観としては『ひとつの曲ができるまで』(2024年『輝くもの天より堕ち』収録)にも繋がる部分があり、“創作にまつわる苛立ちと葛藤”をより鮮明に描いているなと感じる。そもそもPK shampooには、『新世界望遠圧縮』(2020年『新世界望遠圧縮』/2023年『Pencil Rocket Opera E.P』収録)という曲があり、そこに対する“言葉としてのコントラスト効果”。また、ラストの“つまんねー”というフレーズの響かせ方が、非常に効いた名曲だと思う。
葛藤と悲哀の先にある希望
それこそ「今でも昔のアニメや昔の漫画、昔聴いてた音楽やゲーム、本とかばかりを繰り返している」ヤマト。Xでも8割方、アニメの話題はハルヒ※3のことだと言ってもいいが「さすがにそれじゃあダメだと思って、新しい映画やアニメもたまには見たりする」のだという(ちなみに去年オススメした『Sonny Boy』も、スマホにメモまでしてたくせに「まだ見てない」とのこと)。だが、結局「あ、コレ、あのパクリやん?とか、アレの焼き増しですやん!みたいなことばかりに目がいって(苦笑)」、どうやっても「自分が子どもの頃から蓄積してきた(心の中の)エンタメ・ライブラリーには叶わないな」と思ってしまうのだそう。「そういう意味では、まさに“オトナ帝国の逆襲”※4的なイメージでもあり、そういう想いを抱えて日々、“つまんねー、つまんねー”って、やり過ごしている人間たちの葛藤。というか悲哀?みたいなものがテーマになっているのかなって。もちろん、裏を返せばその言葉は、そのまま自分へと跳ね返ってくるんですけど。それでも、ほんの少し…1ミリでも、2ミリでも新しいことができて、それが連続していけば、いつかは…っていう希望。…うん、希望みたいなものも、同時に込めれたのかなと思ってます。それこそ(ハルヒでいうところの)“エンドレスエイト”※5もそうなわけで。どんなにめんどくさくても、みんなで宿題をやることによって、9月1日になるっていう。要はそういうことなんですよ。だから、最後は<どこへいっても旧世界紀行/つまんねー!>って、叫んで終わってやろうと思って」。
叶った夢の先の夢
「そう言えば、ちょっと話は長くなるんですけど」と前置きして、ヤマトが始めたのは、少し前にあった飲みの場での話だった。お笑い芸人を目指してるという大学生を、とある後輩が連れてきたらしいが「そいつがほんとに、こまっしゃくれた鬱陶しいヤツで。最初は話すのもちょっとシンドいなぁと思ってた」のだそう。だが酔いが進み、彼が発した“答えるのも恥ずかしいぐらいのストレートな問い”に「なんだか逆におもしろそうだぞ」と思い興味を持った。「ヤマトさんって、夢とかあるんスか?」そう聞かれたヤマト。一体、何と答えたのか?「『新世界望遠圧縮』の頃はまだ、がっつり音楽で生活できてたわけでもなかったですし、“東京”に対しても、どこか中指を立ててるようなところがあったと思うんです。でも、だからこそ、そこに乗り込んでってやるぜ!って気概もあって。ある意味、コントラストのくっきりした夢(目標)が描けてた。それが今となっては、東京にも住み、メジャーからは1stアルバムまで出させてもらって。考えてみたら全部、叶ってるんですよね。だとしたら、あとはそれをどう維持していくのかってことが大事なわけで。俺としては、このバンドが持ってる部室感、学生時代そのままの部室感を失わず、どこまで持っていけるのか──っていうのが、今いちばんの夢でもあるのかなって。もちろん、その時、そいつにはそんなこと口が裂けても言いませんでしたけどね(笑)」。
ログにおけるマイルストーン
その「今の時点で“(夢が)叶ってる”ということが、ある意味、今回のアルバムにおいては“肝”」でもあるとヤマトは言う。つまり、結成からここまでで、すでに6、7年が経過。普通の1stだったらあるような「ギラつき感とか、ナメられないよう尖んなきゃ!みたいなものは一切無く」、それどころか1stなのにタイトルが「“log(ログ=記録、履歴)”…っていうのも、逆に珍しくて、“俺たち、おもしろいんじゃないの?”とは思ってる(笑)」。そんなログの中にはメジャー直前のE.P『Pencil Rocket Opera E.P』(2023年)からの楽曲もいくつか収録されているが、なかでも『SSME』や『落空』には、曲が完成した当時から「そこまでの自分の限界を超えたな」という思いがあり、「自分の中でも、いくつかあるマイルストーン的ナンバー」だと言う。とくに『落空』は周囲からの評価も高く「これが一番すごいと言われる。“成立難易度が高い!”と。たしかに、それはそうだなと思っていて。8分の6拍子を使い、謎の転調を2回ぐらいし、それでいて変にJ-POPにもなりきってないし、どっか昭和歌謡っぽさを感じさせながら、ちゃんとオルタナティブなロックに落とし込めている。もし“1番好きな曲を上げてくれ”って言われたら、これになるかなってぐらいのポジションではありますね」。
爆上がりした編集能力
かたや今回のアルバムにおいてのマイルストーンは何か。おそらく、それはヤマトの答えを待つまでもなく『東京外環道心中未遂譚』では、なかろうか。ギターの福島カイトが“いちばん好きな曲”として上げているという『君が望む永遠』も含めて、フィクションとノンフィクションを“コラージュ”しつつ、ひとつの曲として仕上げていく際の「編集能力の爆上がり」感がこれでもか!と感じられる。でも「自分で言うのもなんだけど、リリースした時から今に至るまで、この曲のすごさが全然伝わってない」のが悔しいところ。でも、確かにここには、現時点でのヤマトパンクスの“ソングライティングのすべて”が注ぎ込まれている。特に歌詞。「『落空』では、<トンネル抜けたらスカイブルー>※6とか、1巻だけで終わっちゃった漫画を引用したり、ギミックとしては複雑なことを細かくやってるんですけど、ストーリーというよりはシーンを列序してるだけで、そこに論理的な繋がりなんかはなかったんです。でも、こっち(『東京外環道心中未遂譚』)に関しては、1本の道筋、なぜそうなるのかっていう理屈の組み方まで含めて、一つの脚本みたいになってなきゃいけないなと思って、結構時間がかかりましたね」。
品川か、曽根崎か
この曲は、いわゆる令和の“心中物”※7だ。といっても、あらかじめタイトルにあるように、実際には未遂に終わった話が描かれている。では、どうして未遂に終わったのだろう?そこにはヤマトなりの緻密なロジックがある。例えば、死にに行くなら何で行くのか?どこに住んでて、どこを通って、どこまで行くのか?天気は?周囲の状況は?“雨”、“衝突事故の渋滞”、そういうものを「一つ一つ組み込みながら」慎重に考えていったのだという。そもそも“心中”と聞いて筆者が思い浮かべたのは、古典落語の演目“品川心中”※8か、ヤマトの出身地・大阪が舞台となった近松門左衛門の“曽根崎心中”※9、この二つである。前者は、心中すると約束したのに未遂&失敗するユーモラスな人情噺で、後者は、実際に純愛と名誉をかけて心中した男女の話が元になっている。「(曲の中で)最後にこのまま死んじゃったら、『およげ!たいやきくん』※10が最後に食べられちゃうのと同じで、“じゃあ、この曲、誰が歌ってたんだ?”って話になる」。だから「心中には絶対、失敗しなきゃいけないし、だったら、どうやって未遂に終わらせるか?」が一つのカギだったと振り返る。そこで参考にしたのが“曽根崎心中”や“心中天網島”※11の近松作品。「その道行には、いろんな描写がされていて。例えば、“親不孝者にしか聴こえない声で鳴くカラス”とか、“一緒になれないのなら死ぬしかないわよ、みたいな歌が遊郭から聴こえてくる”とか。そういうのを聴いて覚悟を決めるというシーンがよくあって。そうか。じゃあ、この逆をやればいいんじゃないか?と」思って、描かれたのが、あのシーン。「今、まさに東京外環道にいて、雨の中、渋滞の中、死にに行こうとしてるときに“それではお聴きください。『東京外環道心中未遂譚』”とかって流れてきたら、ちょっとワロてまうなって(笑)。だから(未遂という意味では)エッセンスとしての“品川心中”も、もちろんあるし、いずれにしても、どっちかだけが生き残る話には、あんまりしたくなかった」。ヤマトお得意のメタフィクション。だが、その精度は格段に上がっている。
間違えるなら今しかない
え〜っと、もう少し、この曲の話がしたいが、大丈夫だろうか(笑)?実は個人的には、この曲最大の聴きどころは、件の未遂失敗直後のパートにあると思っている。<ふたつ願えばひとつ足らない/でも分け合えるなら半分でいい/間違えるなら今しかない/間違えていい何度でもいい>前段でヤマトは、緻密なロジックを詰めに詰めて、この曲の歌詞を書いたと言っていたが、本当に言いたかったのは、おそらくこの部分ではないだろうか。例えば、今の世の中、ほんのちょっとの失敗でさえ、一生許されないぞ!といった空気があるのも事実で。できるだけみんな、いろんなことを“間違えないように、間違えないように”ビクビクしながら生きている。もちろん、この曲の登場人物たちにとっての“間違い”は“心中すること”だったわけで、でも結局、それ自体を“間違えた”おかげで死ななかった。だから、間違うこともそんなに悪いことじゃないだろう?そう言っているようにも思えるのだ。「まぁ僕自身、日々間違えまくってますからね(笑)。それが常に眼前にあるのだということをあえてログの中で言っておくという、シニカルな態度です。それに、さっきの“夏の臨場感”じゃないけど、“間違えた”(過去)でも、“間違えそうだ”(これから)でもなく、“間違える”っていうのは、やっぱり“今”しかできないことなんじゃ、ないんですかね」。ちなみに歌詞、サウンドともに壮大なだけに、ライヴでのポジションには「本気で悩んでます」とのこと。見に行く人はその辺りもお楽しみに!

眠れない善人が言うには…
さて、そんなアルバムのラストに収められているのは『ひとつのバンドができるまで』。照れ隠しでもなんでもなく「ここに書いてあることがすべて。マジでこれ以上、付け足すことがない」とヤマトは笑う。「強いていうなら、ド頭からずっと2小節ずつぐらいの間隔で、BPMが2〜4ずつ上がってってるということぐらい。だから、最初と最後では速さが倍ぐらい違うんだけど、そういうギミックをDAW上でいじるんじゃなく、例えばカズキ(Dr)だったら、カズキの走り癖、もたり癖みたいな手癖があるので、そういうものに任せてやってく、というのはやりました」。ただ、(8/8取材時点では)まだライヴでやったことがなく、「正直、ギターもコードもすごくめんどくさいし、歌もキーが高くて、しんどいから、もう…一生やらんどこうかなって思ってます(苦笑)」。ちなみにカズキに関しては、こんなエピソードも。黒澤映画※12の真逆を言った『善人は眠れない』。普段から不眠の辛さを公言しているヤマトだけに「言ってることは単なる嫌味。グースカどこでも寝れるやつのことを心から軽蔑することで、なんとか(気持ちを)保ってます(笑)。とくに、うちのドラム、どこでもすぐ寝るんスよ。車とか、爆音が鳴ってるライヴハウスとか。それ見て、ホント、こいつバカだなー。本物のバカだ!と思ってるんですけど、ホントは、めちゃくちゃ羨ましいです。ああいうのを“才能”って言うんだろうなぁ」。(“善人”の発言です)

キャンセルされるのが怖い?!
というわけで、改めて、今回のアルバムを表現するなら?「今まで試してきたこと、やってきたことの進化形。だから、次(のアルバムで)は、本当に今までやったことのない“新しいことをやる”しかないとも思ってる。それが“ラップ”…とかって言ったら、やりすぎだけど(苦笑)。例えば、僕らにはマイナー調の曲が無いので、そういうものもやってみる…とか。おいおい考えていけたらなと思ってます。ただ、ちょっと変な言い方にはなるんですけど、正直、このアルバムが“不特定の大多数”にまで届いてほしいとは、あまり思ってなくて。正直、“僕のことを知らない人”には、あんまり聴いてほしくないんです。これは、決して悪い意味じゃなくて、ほんと……怖いっていうか(笑)。それこそ“こんなヤツだとは思わなかった!”とか、“アイツ、こんなことしてたぜ!”とかって、(自分が)キャンセルされるんじゃないかって。いや、もちろん、されても気にはしないですよ?しないけど…やっぱり“(キャンセル)されない”に越したことはないですから」。(「別にそんなひどいことは、なんもしてないですよ!」)とはいえ、この秋からは、オフィシャルプロモーションソングとしてPK shampooの『星』が起用されている舞台『チ。ー地球の運動についてー』※13が、全国5カ所で上演予定。それこそ“知らない人”にも曲や存在が届いてしまうわけだが、それはそれで、悪いことばかりでもないだろう。
本編ラストでは、恒例の(?)ビートたけしのモノマネから『天使になるかもしれない』へ入る流れで、フロアは爆発。「これは他人ごとではないんだ!君たちだって、おんなじ雨に打たれてるんじゃないの?おなじ太陽の下に生きてるんじゃね?だから、俺が天使になるかもしれないってことは、君たちひとりひとりが、もしかしたら、天使になるかもしれないってことで。君たちが天使になるかもしれないってことは、俺が天使になるかもしれないってことじゃないか!」。サビ直前で、そう叫んだヤマトの声に続いて、フルボリュームでの大合唱が巻き起これば、そこから先はもうメチャクチャだった。

アンコールは全部で3曲。歌い出しから大合唱の『天王寺減衰曲線』に続いて、流星のようなギターが煌めく『空のオルゴール』。<ふたり手を繋げば>の後、フロアへとマイクを向けたヤマトが、オーディエンスの<怖くないよ>という大きな歌声を受けて、再び<くだらないけど本当さ>と締めた時点で、残り48秒。ここぞとばかりに『あきらめのすべて』をブチ上げ、この日のライヴは終了した。<夏以外のすべての季節は/夏に跳ぶための助走にすぎない>今となっては、ヤマトが記した、この何気ない夏のつぶやきが、この先の“未来”を生きる僕らにとって重要なトリガーとなったということだけは、よくわかる。だって、なにより、この夏、彼らが鳴らした熱狂の軌跡を、僕らはその言葉ひとつで、いつどんな季節にあっても、思い出すことができるのだから。


※1)当初は仮タイトルとして付けていたが、自分も含めて、みんなの中で定着したため、変えるに変えられなくなったとのこと。
※2)2025年7月28日ヤマトパンクスXより引用
※3)アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年/2009年)、アニメ映画『涼宮ハルヒの消失』(2010年2月6日公開/配給・角川書店/配給協力・クロックワークス)。
※4)アニメ映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年4月21日公開/配給・東宝)。
※5)禁則事項です!(検索窓に「エンドレスエイト」と入力すれば、なんぼでも蘊蓄や考察が出てきます。というか、時間がある人は全話見よ!ちなみに“エンドレスエイト”は2009年版の方)
※6)マンガ『トンネルぬけたらスカイ☆ブルー』(しげの秀一/1992年/ヤンマガKCスペシャル)。
※7)江戸時代における人情浄瑠璃、歌舞伎、落語といったエンタメ作品における演目ジャンルの一つ。
※8)遊女と情夫の心中未遂譚。誰も死なず、ユーモラスな展開のまま迎えるオチも見事。
※9&11)どちらも実際の事件を題材とした近松の代表作。作品に影響された若者たちの間で当時、“心中ブーム”が起こったと言われている。
※10)1975年、フジテレビ『ひらけ!ポンキッキ』で発表され、空前のヒットを飛ばした童謡。歌・子門真人。
※12)映画『悪い奴ほどよく眠る』(1960年9月15日公開/配給・東宝/監督・黒澤明)
※13)舞台『チ。ー地球の運動についてー』。福岡公演は11月29日(土)~30日(日)J:COM北九州芸術劇場大ホールにて。ヤマトと『チ。』の関係については前々回のインタビュー記事を参照。

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LIVE INFORMATION
PK shampoo tour 2025
-Login to PK shampoo-
- 2025年8月31日(日)
- Zepp Shinjuku(TOKYO)
PK shampoo presents「PSYCHIC FES 2025」
- 2025年11月15日(土)
- Zepp Shinjuku(TOKYO) / 新宿LOFT / LOFT BAR / 新宿MARZ / 新宿marble ...
- 東京歌舞伎町5会場 ほか
PROFILE
PK shampoo
ヤマトパンクス(Vo,Gt)、ニシオカケンタロウ(Ba)、福島カイト(Gt)、カズキ(Dr)。2018年、関西大学の同じ音楽サークル所属の4人で結成。ノイジーかつエモーショナルなバンドサウンドと、詩的でメロディアスな歌世界。加えて、フロントマンであるヤマトの人間味あふれるキャラクターが若い世代を中心に熱い支持を得ている。もはや恒例となりつつあるヤマト主宰のサーキットフェス“PSYCHIC FES 2025”は東京・新宿歌舞伎町エリアで今年も開催。詳しくは公式サイトをチェックしてみてほしい。ちなみに(ジャクソン・)ポロックのようなアー写は“普通のペンキ”を使用。なぜか最後にメンバー同士でビールを掛け合うシーンも撮ったそうで。現場はペンキと酒の匂いとで悲惨なことになっていたとか。ただ、ヤマトいわく「動画も一応撮ったんで、そのうち編集して公開するかも?」とのことで、気長に待っていてほしい。