源流への遡上と心奥深くへの潜航。
現代のフォークスが奏で鳴らす普遍の音楽。

ROTH BART BARON

取材/文:山崎聡美

源流への遡上と心奥深くへの潜航。<br>現代のフォークスが奏で鳴らす普遍の音楽。

<<この記事は、BEA VOICE2020年1月号の記事の再掲です>>



 ’19年最初に観たライヴはロットで、生き物としてのバンドのすこやかな蠢きと歓びに満ち、果敢な音楽的トライに彩られたサウンドスケープの昂揚感はなおこの身に残り、1年を経た今、年間ベストライヴだったと断言できる。11月にリリースされたアルバム『けものたちの名前』では、その昂揚とともに、創意の鋒をフォークロックの源流への遡上と自らの心の深淵に向け、透徹した伝承歌のような普遍性をも獲得した。


「今回ライヴで培ったことは大きくて。その生きてる音楽感をもっと作品に落とし込めないかなとは思ってました。だから自然な形で、ライヴをやるように録音していった楽曲が前よりも格段に増えた。『HEX』でトライしたことを踏まえた目線で、自分たちのシンプルな演奏が別の角度でも見えるようになったと思います」(三船雅也/Vo,Gt 以下同)

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自分の奥底の、イノセントな部分にどこまで潜れるだろう

 今作では「’10年代の最後に、迫り来る’20年代に対して明確な不安が見える今この世界で、皆が生きるために、少しでも元気が出る…まぁ出なくてもいいんだけど、心にね、何か触れるものであって、押しつけがましくなく、もしかしたら僕のことかもしれないって誰かが入り込めるスペースのある、サウンドトラックになればいいなあっていうところ」を基準に、280曲という膨大なストックから楽曲をピックアップ。さらにめぐろパーシモンホール(※注1)での公演決定を受け『ウォーデンクリフのささやき』を書き下ろした。管・弦・打楽器が響き合う豊潤なアンサンブルに、三船のほか初めて4人の女声も加わった歌が融け合う。性別も年齢も感じさせない精霊のようなHANAという不詳の歌声に、蓮の花がゆっくりと咲き開く美しさをまず覚えるのが、冒頭の『けもののなまえ』だ。彼女と三船の深いハーモニーが誘う今作の世界観を、三船はこう表現する。


「『HEX』が、背伸びしたぐらいでは手の届かない、もっと星を掴むような気持ちで作った10曲だとしたら、今回は自分の奥底の、イノセントな部分にどこまで潜れるだろうっていう…息止めて素潜りしていくみたいな感覚は、作ってる時にありましたね。だからすごくパーソナルだと思います。ただ、本来なら外へ向かうエネルギーが内に深く潜っていくことで、逆に、多くの人たちと繋がれる何かがあるんじゃないかっていう確信が、自分でも不思議とあったんですよね」


自分一人が幸せになるより、自分の周りの百人を幸せにした方が楽しい

 創造を共有できるメンバーや同時代のミュージシャンに加え、ロットのファンが集うプラットホームの存在も、三船の確信を強固にしたと言う。彼らが今ロットの周りで起こしているアクションを含め、今作はフォークミュージックに元来の在り方や意義を取り戻すものでもあるのではないだろうか。


「フォークっていう伝統は皆のために音楽を奏でるものだし、“folk”は民衆、群衆の意だしね。大人も子供も何かで繋がって何かをしないと、世界がいい方向に転がらないっていうところを本能的に嗅ぎ取って、そうせざるをえなかったのかもしれない。自分一人が幸せになるより、自分の周りの百人を幸せにした方が楽しいんですよ。音楽ってそういう側面もあるから」



※注1…三船と中原の地元である東京・目黒のコンサートホール。生の音の豊かな響きを重視し日本初の吊り下げ式音響反射板を採用。オーケストラやオペラをはじめ多彩なプログラムを催している。

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LIVE INFORMATION

TOUR 2019-2020〜けものたちの名前〜

2020年2月7日(金)
福岡the voodoo lounge
2020年2月8日(土)
鹿児島SRホール
2020年2月9日(日)
熊本NAVARO

PROFILE

ROTH BART BARON

(ロット・バルト・バロン)

三船雅也(Vo,Gt)、中原鉄也(Dr)によるフォーク・ロック・バンド。共に'87年生まれ、東京出身。フォーク・ロックをルーツに、世界中の多様な音楽からインスピレーションを得ながら、独創的かつコンスタントな作品リリースと、国内外での精力的なライヴ活動を続ける。1st AL『ロットバルトバロンの氷河期』('14)、2nd AL『ATOM』('15)を経て、'18年に発表した3rd AL『HEX』では、既存のフォーマットを分解、現代的視点とデジタルの手段をもって伝統的なフォークロックを編み直し、多くの音楽メディアで年間ベストに挙げられるほどの創意を示した。同年、ROTH BART BARONコミュニティ【PALACE】を立ち上げ、無料/有料でインタラクティブに参加できるプラットホームを運営している。