『あのみちから遠くはなれて』[DISC REVIEW]

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『あのみちから遠くはなれて』[DISC REVIEW]

GRAPEVINE史上の奇想を更新する快傑作
我がみちに挑むニューアルバム、ドロップ!

超ド級の感嘆歓喜をもって従来のファンのみならず多層のロックリスナーの胸を撃ち抜いた、異形ポップな楽曲群『どあほう』『天使ちゃん』『NINJA POP CITY』。それら先行配信曲を含むニューアルバム『あのみちから遠くはなれて』がいよいよリリースされた。

前作『Almost there』(2023)同様に高野勲(Key)がプロデュースを担い、GRAPEVINE史上の奇想を更新すると同時に、“alternative”としての矜持もロックの本領も忽せにしない無軌道なアジテーションを宿す一方で、永きにわたり紡いできた不変普遍のグッドメロディーも盛(さか)ってなおみずみずしく横溢する。

既発の3曲以外も、言わずもがなの大文豪を翻弄する不穏と狂乱のファンクチューン『ドスとF』、脈々と受け継がれるクラシカルなロックのスピリッツとグランジの血を滾らせる『my love, my guys』、妙音鳥が獰猛に啼き交わす『カラヴィンカ』、抒情的な旋律がすわサンバ即ち祭囃子のリズムへ、さらにサイケデリックからラーガへと展開する『猫行灯』等々、ラストの極上美メロの箱舟が航路を外れ未知の波に乗って遠く深く漕ぎ出していくような『追憶のビュイック』まで、一分の隙なき全10曲。

異形だの奇想だの結成から30年を超える偉業のバンドに対し寄贈する言葉ではないかもしれないが、最大級の賛辞である。何より異形でも奇想でも本作のポピュラリティーの高さ、揺るぎなさは明白。ジャンルの線引きを縦横に跨いで、現代社会のアンタッチャブルを容赦なく華麗に、輝かしく炙り出していく。海千山千の筆が乗りまくり、時代を貫くカリカチュアのようなリリックは諧謔に満ちいくつもの物語を孕んではいるものの、それを語り始めれば途端、野暮の極みに陥るか、あるいは“今を生きているだけ”と風の言葉とともに一笑に付されてしまいそう。そして本作の言葉の応酬に生まれる快楽は、思考や解釈以前の口調、語調、響きに由来するものであることが、いつにも増して痛快。

初回限定盤にはファン垂涎、初心者必見、umeda TRAD(旧バナナホール:かつてのGRAPEVINEホームグラウンド)でのメモリアルライヴから『覚醒』ほか昂揚しかないEN & W EN全6曲を収めたDVD『LIVE AT UMEDA TRAD 2024』まで付いて、6月よりスタートする全国ツアーへの期待値もすでに沸点。(山崎聡美)

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LIVE INFORMATION

GRAPEVINE TOUR 2025

2025年9月6日(土)
福岡 DRUM LOGOS
2025年9月7日(日)
鹿児島 CAPARVOホール

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