大海の2階層に突入。
メジャー・デビューで掴んだ幸福なひと光。

Deep Sea Diving Club

取材/文:モリカワカズノリ

大海の2階層に突入。<br>メジャー・デビューで掴んだ幸福なひと光。

一体、この海を何メートルまで潜るのか。

Deep Sea Diving Club(以下、DSDC)が、いよいよメジャー・デビューを果たした。2021年、フィーチャリング企画の『Just Dance feat. kiki vivi lily』リリースのタイミングでインタビューしたのが、遠い過去のように思えるのもそのはず。2022年3月に1stフルアルバム『Let’s Go! DSDC!』のリリース後、東京三部作(東京でレコーディングした作品群)と銘打った『フーリッシュサマー』『Left Alone feat.土岐麻子』『Miragesong』の3作品を立て続けにリリース。そして、2023年5月10日には、メジャー・デビューEP『Mix Wave』を発表したのだ。

そんな記念すべきEPは、東京三部作をはじめ、オープニングにふさわしく疾走感あふれる『bubbles』、クラップとホーンを織り混ぜて多幸感に満ちた『リユニオン』、緻密な音構成と鮮烈なリリックがリスナーを惹きつける『goodenough.』そして、EPを締めくくるリード曲の『ゴースト』という7曲構成だ。バンドを組んで3年半で辿り着いた今の彼らのこの集大成には、どのような思いが込められているのだろうか。メンバーの谷颯太(Vo)に時間が許す限り語ってもらった。

Major Debut EP 「Mix Wave」Official Teaser

──2023年5月10日、EPの『Mix Wave』で、TOY’S FACTORYからメジャー・デビューとなりました。本当におめでとうございます!1stフルアルバム『Let’s Go! DSDC!』をリリースしてから約1年でここまで辿り着きました。まずはこの1年を振り返っていかがですか?

ありがとうございます!でも、今言われて初めて「アルバムが出て1年経ったんだ」って思ったくらい、忙しくさせていただいた1年でしたね。曲をリリースしたら次の制作が始まってというように、制作の繰り返しだったので、EPはまさにその集大成といった感じですよね。

──では、そのEPについて。実に聴き応えのある全7曲ですね。どのようにして曲を組み合わせて、この1枚に落とし込んでいったのですか?

まず、EPを出そうっていう話をもらってから、どの曲を入れるかと考えた時に、既発の曲に加えて新曲を入れることでトラック数が増えるよねってところから、新曲の制作が始まったんですね。なので、特に明確なコンセプトがあるわけではないんです。でも、うちのバンドはメンバー4人とも曲が作れるので、みんな常にストックはあるというか。そこからどれを入れるかという感じで進めていきましたね。

──4人それぞれの個性で曲を作っていくわけですね。今回新曲が4曲入っていますが、1人1曲は必ず入れようと決めていたのですか?

1人1曲ずつ入っていますが、実はそれは全くの偶然なんです。まず、僕たちはコンペをしてリリース曲を決定するんですけど、今回はメジャー・デビューEPのリード曲を決めるコンペをするところからスタートしました。みんな2曲ずつくらい作って、相談しながら決めたんですけど、既発の3曲を含めバランスを見ながら曲を厳選していくと、結果的にメンバー全員の曲が1曲ずつ入ったという感じ。でも、その方がメンバーの色も出るしいいよねって。後付けですけどね(笑)。

つまり、その当時作りたい曲を一生懸命、自分の目標に向かって作っていくみたいな。そういうパワーの塊みたいなEPになったんじゃないかなって思っています。

──そのメンバーの思いが込められたEPについて、新曲を中心にお話を伺わせてください。1曲目は鳥飼悟志さん(Ba,Cho)作詞作曲の『bubbles』です。一聴して爽快な印象ですし、バンド名をイメージさせるような歌詞の世界観も聴いていて気持ちの良い曲です。

先ほど言ったように、リード曲の候補が4曲あって、結局自分が作った『ゴースト』がリード曲になったんですけど、僕はこの曲をリード曲として推してましたね。おっしゃっていただいたように、バンドのテーマ曲っぽいじゃないですか。だから、絶対にこの曲で始めたいなと思ったんですよね。

あと、この曲も含め、新曲は全部福岡で録ったんですよ。1stアルバムを一緒に作ったエンジニアさんと録ったので、懐かしい感じでした。特に『bubbles』は、ドラムだったり、ベースだったり、最後のギターソロは、初期によくやっていたような作り方で、セッションしながら作り上げていく感覚が強かったですね。でも当時と違うのは、東京三部作の経験です。東京の大きなスタジオで、初めてお会いするエンジニアさんやアレンジャーさんと作っていったので、アレンジなどの技術をたくさん学ぶことができました。それがうまく融合して出来上がった気がします。

──鳥飼さんの歌詞についても伺いたいのですが、鳥飼さんは元々ライターをされていたこともあるそうですね。作詞の才能にも長けているんだなと、改めて感心しました。バンドとしては、基本的に谷さんが詞を書かれるケースが多いと思いますが、そんな谷さんから見て、鳥飼さんが書く歌詞はどんな印象ですか?

鳥飼さんとは、昔から歌詞について話をすることが多いですね。本を読むのが好きなので、吉本ばななさんとか女流作家さんの影響を受けている印象です。『フーリッシュサマー』もそうですけど、キレイでロマンチックな言葉をそのまま歌詞にしているので、シンプルにカッコいいなと思います。でもメンバーからしたら、普段の鳥飼さんからはイメージできない言葉だったりするので、そこが愛おしいですね(笑)。

フーリッシュサマー

その分こだわりが強いっていうのもありますね。例えば、『bubbles』のある歌詞の歌い方で僕が引っかかるところがあると、大抵は僕の意見を聞いてくれるんですけど、鳥飼さんが特別こだわっている部分は譲ってくれないことがある。それって言い返すと、鳥飼さんらしさが現れているところだと思うんですよ。そつないメロディではなく、人に引っかかるように作られていて、それは彼のナチュラルな才能ですよね。

──鳥飼さんワールド全開の曲、改めて注目して聴いてみたいと思います。そして2曲目も鳥飼さん作詞作曲の『フーリッシュサマー』です。

そうなんですよ。改めて見てみると、作曲者の順番が、鳥飼、鳥飼、大井、大井、出原、出原、谷ってなってるんですよね。これは新しい発見でしたね。

Left Alone feat.土岐麻子

──今後の制作のヒントになるかもしれませんね。そして『Left Alone feat.土岐麻子』を挟み、4曲目は大井隆寛さん(Gt,Cho)作曲の『リユニオン』です。手拍子から始まりホーンも入って、とてもハッピーな曲です。大井さんなりのポップを感じるような気がします。

今思い返すと、東京三部作は自分たちなりのポップスを探していた作品でした。今までよりもフィールドが広くなって、東京で録ったりかなり知識を持った人と一緒に作ったりとか。その都度「やっぱりポップスを作らないと」っていう話になるんですけど、その中でも、大井がポップスに対しては一番手放しであるというか。「ポップスって何ですか?」と聞かれた時、大井は「独りよがりではなく、聴いている人も演っている人も楽しい音楽」ってよく言っているんですよね。なので、この曲は特に大井の思うポップスがよく出た曲だと思います。

──そんな曲に歌詞を付けているのが谷さんです。どういうイメージで書かれたんですか?

実は、最初は歌詞も大井が全部書いてたんですね。でもその歌詞を見た時に、ちょっとバンドの色に合わないなと思って、最終的には全部変える形で僕が歌詞を作りました。

──元はどんな内容の歌詞だったんですか?

最初は、簡単に言うとメンバーへ伝えたいことみたいな内容でしたね。メッセージ的には、すごいビシバシ伝わってくるからメンバー的には理解はできたけど、大井が目指すポップスとはかけ離れてるんですよ。だから僕は視点を大きくして、社会とか学校とかでぶつかってうまくいかない、みたいに捉えることにしました。それで音楽をテーマにして、誰でも感情移入できるような形にしたって感じですね。でも自分的には応援ソングっぽい曲って、まだ慣れない部分があるんです。改めて読んでみても暗いと思いますけど、そこは大井の作った曲調にすごく助けられています。

──大人数のコーラスも入って、歌っていて楽しい感じも伝わります。

合唱は、エンジニアさんにも入ってもらって6人分の声を4回重ねている部分ですね。エンジニアさんも楽しんで声を出してくれていたので、良いサビのアクセントになりました。

あと、この歌詞を書く前にディズニーランドに行ったんですよ。ディズニーとかめっちゃ好きなんで、合唱もディズニーっぽくしたいなと思って。レコーディング中も歌ってて楽しかったですね。俺もそういうチャンネルを入れれば結構ニコニコして歌えるんだなって(笑)。

──ライヴの最初でも中盤でもラストでも、どこで聴いても映える曲だと思いました。ライヴで聴くのが楽しみです。

Miragesong

──さて、後半です。ここからグッとテンションが切り替わっていきますね。『Miragesong』の次には、谷さんと出原昌平(Dr,Cho)さんが作詞、出原さんが作曲した『goodenough.』へと続きます。

この曲は、元々BPMが倍くらいあって最初からビートが乗ってたんですよ。僕はすごくその感じが好きだったんですけど、出原的には、曲を並べた時にバランス悪いなって思ったらしく。それで今のようなアレンジに仕上がりましたね。

今回、出原が「ナチュラル」って言葉にハマってて、そのイメージもかなり乗っかってますね。例えば、この曲のアウトロってめっちゃ長いじゃないですか。僕たちはそれを「中央フリーウェイエンド」って呼んでるんですけど(笑)。ユーミン(松任谷由美)さんの『中央フリーウェイ』もすごい終わり方するんですよね。出原とよく話をするのが、昭和の歌謡曲やシティポップって、「これ絶対リスナーが聴いたら笑うよね」とか、意外とそういうノリで作ってたんじゃないかって。後に評価されて、実はすごいことをやっていたというのを知るわけです。だから、このアウトロもそういうラフな感じで作りました。出原が適当にドラムを叩いて、メンバーそれぞれがそれに乗せていって、いいところでフェードアウトしていく。修正修正じゃなくて、そのまま終わらせることができたので、EPの中でも一番自然体な曲かもしれません。

──アウトロもそうですけど、2番から音数が増えていく展開も気分が盛り上がるし、何よりもメロディが美しいですね。メッセージ性のある歌詞も特徴的です。

元々は出原が歌詞を書いていたんですが、BPMを落としたことで歌詞が合わなくなったんですね。まず作り方として、谷が1番のAメロとBメロ、出原がサビ、2番は出原がAメロとBメロ、谷がサビみたいな感じで書いていきました。

──歌詞を分業するのはとても難しそうなイメージがありますが、苦労したことはありますか?

歌詞を一緒に作るのって楽しいですね。これまでいろんな方とコラボして曲を作ってきましたが、「この人がこう書くならこう書いた方が面白い」とか「この解釈をもっと広げられるだろうな」とか、色々な発想が出てきて楽しいですね。

メンバー同士もそうですね。例えば、今回この曲の歌詞が出原から送られてきた時、「死」って単語が気になったんですけど、出原に確認したら「使います」って即答されました(笑)。僕は、ある事柄を表現する時には直接的な表現はしないタイプなので、「死」を表現したいならそのワードを使わずに書いた方がいいんじゃないかと思うわけです。でも、出原としては必要な表現だということ。それに、出原が普段からよく言っているような話だったりするので、最初に歌詞を見た時に違和感もなかったし、うちのバンドが言ってそうなことだなと思ったんですよね。

──まさに出原さんのナチュラルな感性を享受できますね。そして7曲目、リード曲の『ゴースト』です。とても安心感のある曲だと感じました。こだわった部分について教えてください。

『ゴースト』は、自分のやりたいようにやってみようと思って作った曲です。メジャーのフィールドでやっていくって考えてリード曲を作るとなると、みんな(曲調が)早い曲を作ってくるんですよ。やっぱり、ポップスってご機嫌な曲や切ない曲が多いですし。でも僕が本当に好きなのは、もっと気持ち悪くて、グロくて、すごく人のパワーが詰まっている曲。クラブやライヴハウスで盛り上がる音楽も好きなんですけど、帰り道にイヤホンして一人で聴く曲が好きなんですよ。そんな自分が好きな曲を真正面から作ってコンペに出したら、意外とチームの反応が良かったんですね。

ゴースト

歌詞も、一文字一文字まで何回も見直して書いたので、こういう風に作品が作れていくと人として幸福なんかなと。それをどんどん強いレベルで更新していけたらと思います。

──切なくもあるし愛を感じる歌詞の内容ですね。

そうですね。この曲って、本当にその人によって、聴こえ方がめちゃめちゃ変わると思うんですよ。僕がいつも意識しているのは、「これ今俺のこと歌ってるな」って感じで、何気ない毎日に寄り添ってちょっと背中を押されるような感覚。この曲はそういう風に受け取ってもらえたらいいなと思います。

──そういった想いが詰まった曲がリード曲であることに大きな意味がありそうですね。

こういう曲がリード曲になるのって、バンド初期の感じを思い出します。今のレーベルの方が声をかけてくれたのも、イベンターさんが一緒にやろうって言ってくれたのも、曲のパワーがあったから。その人が本当にやりたい、いわゆる狂気に近い思いが、人を動かすんだろうなって。どの曲もとても思いのある楽曲ばかりですが、この曲をリードにしてもらえたのは、僕の中で本当に幸せなことなんです。これからもこういうことをやり続けていけるのは本当にうれしいですね。

──それぞれの曲の奥行きを知ることができましたし、これからのDSDCにも大いに期待を持ちました。7月のライヴもとても楽しみですね。ありがとうございました!

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LIVE INFORMATION

先行あり

Deep Sea Diving Club「Mix Wave Tour」

2023年7月7日(金)
福岡 OP's

PROFILE

Deep Sea Diving Club

2019年に福岡で結成。メンバーは、谷颯太(Vo)、出原昌平(Dr,Cho)、鳥飼悟志(Ba,Cho)、大井隆寛(Gt,Cho)。オルタナティブロック、R&B、ジャズなど、ジャンルに囚われない音楽を生み出す、メロウでフリーキーな4人組のバンド。
2021年5月26日に『フラッシュバック'82 feat. Rin音』、7月14日に『SUNSET CHEEKS feat. Michael Kaneko』、10月8日に『Just Dance feat. kiki vivi lily』という、フィーチャリングゲストを迎えた配信シングル3部作をリリース。その3作品も収録した1stアルバム『Let’s Go! DSDC!』を2022年3月にリリース。第15回CDショップ大賞2023 該当入賞作品に選出される。
そして、2023 年5月にはEP『Mix Wave』でTOY’S FACTORYよりメジャー・デビュー。7月には、最新EPを引っ提げて、ライブツアー“Mix Wave Tour”を行う。