40年目の覚悟と決断。
これからを生き抜くための、
“情熱”のリローデッド。

怒髪天

取材/文:なかしまさおり

40年目の覚悟と決断。<br>これからを生き抜くための、<br>“情熱”のリローデッド。

青天の霹靂──とは、まさにこのことだろう。結成40周年を記念したデジタル・シングル『ザ・リローデッド』を1月31日にリリース。その数日後には、豪華ゲストを招いての一大イベント“オールスター男呼唄 真冬の大感謝祭-愛されたくて…2/5世紀-”をお祭り騒ぎで2DAYS、演ったばかりの週末だった。怒髪天から届いた“大切なお知らせ”*1に、界隈一同、愕然としたのは言うまでもない。長年苦楽をともにしてきたベース・清水泰次の、“脱退”ではなく“解雇”という衝撃の展開。波乱万丈、紆余曲折──長い歴史のデコボコ道を、これまでも満身創痍で駆け抜けてきた、彼らであればこその“覚悟”と“決断”。すでに3月7日からは、新体制による初の全国ツアーもスタートしている。その奔流のなかで今、彼らは何を想うのか──ヴォーカル・増子直純に、話を訊いた。

──結成40周年、いろいろと波乱の幕開けになりましたね…。

増子:ホントだよ。こんだけ40周年のスケジュールが(たくさん)入ってるときに、何やってくれてんだ?!って話だよね(苦笑)。

──ただ、今回のことは、発表としては突然だったかもしれないけれど、バンドとしては“長年抱えてきた問題に決着をつけた”ということになるんですよね?

増子:そう。言ってみれば、長年の付き合いの中で溜まってったスタンプカードが何冊もあって。それが、いよいよ限界に来たって感じだったね。もちろん、俺たちとしては、これまでも、その都度話して、何回も注意してきてはいたんだけど、結局は…直せなかった。とくに今年は40周年だし、そこまでは何とかこの体制で…とも思ったんだけど。何より支えてくれてるみんなに嘘をつくのはダメだと思った。

──コメントにも書かれていましたね。<幾度もあった「酒をやめるか?バンドやめるか?」の選択の中で最終的にバンドを選んではくれませんでした>と。もちろん、私たちも詳しい経緯をすべて知っているわけではありません。でも、あのコメントを読む限り、相当な覚悟を持って決断されたことなんだろうなと思って、受け止めました。

増子:それこそ、ネットには“ロックバンドが酒のことで(メンバーを)クビにしたり、ロックも変わったな”とか、いろんなことが書かれてたよ。でも、それは完全にお門違いの意見でさ。マフィアやヤクザもそうだけど、(怒髪天にも)一般社会よりかは“強固な掟”ってもんがあるんだよね(笑)。要は、その掟を守れるか、守れないか…の話なわけで。(これが40周年の区切りじゃなくても)どこかで1回、ちゃんと、“人として”仕切り直す必要はあった。

ただ、少なくとも俺は“4人でやること”に美学やロマンを感じてたから。選択肢としては“解散”や“(活動)休止”もあるのかなとは思ってて。…でも、そういう考え方自体が周りに、多少なりとも我慢を強いていたんだなってことも分かったし。このまま続けて、バンド自体がなくなるよりかは、マシなんじゃないかって。そりゃあ、簡単には決められなかったよ?人の体で言ったら、生きるためとは言え、命にかかわる大手術をやることになるわけだし。

でもさ、嬉しかったのは(上原子)友康と坂(詰克彦)さんが、俺が想像する以上に、バンドに前向きでいてくれたこと。それが分かっただけでも、本当に良かったなって、今は思う。まぁ…(清水に対しても)メンバーじゃなくなったからって、縁を切ったわけでもないし、友だちではあるからね。俺らを支えてくれてる人たちへの“誠意”の結果として、下した“苦渋の決断”だったと思ってもらえたら、ありがたいかな。

ありがとな

──いやもう、それは痛いほどに伝わってきていますよ。

増子:もちろん、全員が納得して受け入れてくれたとは思ってないよ。でも、こういう自分たちの決断を“肯定”とまではいかないまでも、「しょうがないなぁ」と思って受け止めてくれた人がすごく多かったから。そこだけは、すごく誇りに思ってる。あぁ、今までやってきたことが間違いじゃなかったんだなって。

──それこそ1月31日にリリースされた新曲『ザ・リローデッド』。もともとは、そういう決断をする“前”にレコーディングされていたと思うんですが、図らずも今、こういう状況になって聴くと、また新たな意味が重なるというか…。

ザ・リローデッド

増子:不思議だよね。それこそ、もともとは結成40周年に向けて、来たるべき“人生のサビ”へ向けて──そう思って作った曲だったけど、あっという間に、残弾3発になっちゃって(笑)。なんだかなぁとは思うよね。ただ、これは俺らに限った話じゃなく、普通に暮らしていても、歳をとればとるだけ、何かに対する情熱だったり、モチベーションだったりっていうのは、(銃の)弾を打ち尽くすのと同じように、すり減っていってしまうわけじゃない?だったら、その撃ち尽くした弾の代わりに“何を自分の心に詰めて戦うのか?”ってことだと思うんだよ。

人によっては、それは“本当に小さな夢”なのかもしれないし、“誰かのために”っていう“気持ち”なのかもしれない。あるいは“愛情”とか、“思いやり”とか、若い頃には想像もつかなかったようなモノが自分の武器になるかも知れなくて。でも、そうやって形を変えながらでもいいから、自分の原動力となるものを常に心の中に詰め直して、現実を乗り越えていくってことが大事なんじゃないかなって。

──なるほど。それこそ、この曲って、例えば『俺達は明日を撃つ』とか『ドリーム・バイキング・ロック』みたいな世界観があると思うんですけど、ちゃんとそこからは歳を重ねてる感じがあるというか、歳相応の戦い方をしている曲なのかなとは思いました。

増子:そうそう。とくに今回は“40周年記念”っていうのもあって、今まで書いたいろんな曲の、ワードだったり、ニュアンスだったりっていうのを、なるべく(1曲の中に)入れたいなとは思ってた。いわば、“長年演ってきたあの歌の、その後”みたいなオマージュね(笑)。それが、たぶん何ヵ所かには、入ってるから、そういうのも探して聴くと面白いかも知れないよね。

俺達は明日を撃つ

──ちなみに、パッケージ盤『ザ・リローデッド』のカップリングには、これまでデモ・バージョンしか音源化されていなかった『ハナオコシ』が収録されています。

増子:うん。ここ数年、やっぱり昔の曲をちゃんと再録して、残しておきたいなと言うのがあって、いろいろやってたんだけど、なぜか、この曲だけ漏れて残ってたんだよね。まぁ、正確にはあと1曲残っているんだけど、そっちの方は誰もどんな曲だったかを覚えてなくて、録音も何も残っていないから、多分無理。でも、これはちゃんと演っといた方がいいんじゃない?ってことで、今回再録したわけだけど、結果的に“このタイミングだったか!”って感じになっちゃって…。さすがにもう“予言レベル”の出来事だなと自分でも思ったよ(笑)。

──はい。まるで今回の一件を見越していたかのようなタイミング。しかも、歌詞がめちゃくちゃ響いてきました。

増子:だよね。それこそ、これは(1996年の)活動休止前にメンバーと自分に向けて作った曲。もう一度、“バンド”ってものの“熱”を自分たちに取り戻そうとしてる曲でもあるんだよね。だから、内容としては『ザ・リローデッド』に近いところがあって、(カップリングとしては)いいんじゃない?とは思ってたんだけど。まさか“今の状況”のほうに(歌詞が)係ってくるとはね。ホント、バンドって、一筋縄ではいかないなぁって、改めて思ったよね。

──さて、そんな楽曲たちを携えた新体制での全国ツアー。すでに3月7日の千葉LOOKからスタートしているわけですが、その初日のベース・ポジションには、なんと亜無亜危異の寺岡(信芳)さんが立たれていたということで、大きな話題にもなっていました。まさに昨年の映画『GOLDFISH』*2で増子さんが演じた役が、寺岡さんをモデルにしたものだったので、このラインナップは、かなり胸熱でした。

映画『GOLDFISH』予告

増子:うん。それこそ、ツアーの前に初めてリハーサルに入った時、とにかく、すごかったんだよ!大体20曲ぐらい合わせたのかな?本人いわく「コードは読めるけど、楽譜は全然、読めないんだよ」なんて言ってたんだけど、ほぼ全曲、何も見ないで合わせ切ったからね!そもそも、うちの曲って、一聴しては、あんまり分からないかも知れないんだけど、演奏するってなると結構、難しくて。ある程度の腕がなけりゃ、全然弾けないんだよ。でも、そこは寺岡さん。めちゃくちゃ上手くて、マジですごいと思ったし、もともとシミが一番影響を受けてるベーシスト、いわばシミの原型でもあるわけだから、その原型がついにね(怒髪天で)弾いちゃうぞ!っていう。それこそ、中学生の頃の俺に教えてやりたい気分だったよね(笑)。

──ちなみに、今回のツアーは全部、寺岡さんが?

増子:基本は、寺岡さんにお願いするとは思うんだけど、スケジュールと場所によっては、それも、ちょっとずつ変わってくるとは思うから。そういう意味では、会場ごとに(事前発表なしで)「今日は誰が弾くのかな?」なんて楽しみがあっても、いいんじゃないかなとは思ってる。だから、そこも楽しみにして、来てくれたらいいんじゃないかな。

──場合によっては、増子さんがベースヴォーカルの3ピースで、ってパターンはないんでしょうか(笑)?

増子:いやー、無理でしょ(笑)!絶対に、無理っ!!あれ(映画)はホント、形だけだから。それこそ歌いながら弾くとか、難しすぎ、絶対にできない。まぁ…新しいことへのチャレンジという意味では、4人から3人になったことで、“この形になったからこそ、できること”っていうのもあるんじゃないかなと。サポート・ベースのこともそうだし、自分自身に対してもね、“こんな状況になった中で、俺は次にどんな曲を作るのかな?”とか、結構、楽しみだったりもするんだよね。だから、まずは今、楽しめること、やれることから、ひとつずつ、無理せずやっていけばいいのかなって。

ドリーム・バイキング・ロック

──それこそ、“新しいことへのチャレンジ”という意味では、この3月から5月にかけて、いくつかの話題イベントにも出演されます。まずは3月30日の“THE MODSを止めるな!〜Roulette Ball〜”*3。常々、ご自身の音楽的ルーツの一つに、THE MODSをはじめとする福岡のロックシーンを挙げてらっしゃる増子さんだけに、これは嬉しいオファーだったのではないでしょうか。

増子:そうなのよ。それこそ俺は(THE MODSの音楽に)めちゃくちゃ影響受けてるのにさ、(怒髪天を通すと)その影響がどこに反映されているのか、非常に分かりづらいじゃない(笑)?だから今回、“ホントに呼んでもらえたんだ?!”と思って、すげぇ嬉しかったし、絶対に演りたいなとは思ったね。ただ、森山(達也)さんて、すげえ歌が上手くてさ。その上で、あの歌声、あの絶妙な曲のニュアンスの出し方をしてるから、そこには全然敵わないんだけど、それでも俺は(THE MODSの曲だったら)ほぼ、なんだって歌えちゃうからさ(笑)。そりゃあもう今から、楽しみで仕方がないんだよ。

──そんな夢のようなイベントの翌日3月31日には、さいたまスーパーアリーナで、なんと!GLAYとの対バン*4が。

増子:(GLAYの)メンバーとはね、前からホントに仲が良くて。ライヴにも、ちょいちょい来てくれたりはしてるんだけど、果たして(GLAYの)お客さんがね、俺らのことを知ってくれてるか…つったら、わかんないから。ぜひ、その辺りの微妙な反応も含めてね(笑)、この日は楽しめたらなとは思ってるかな。

──5月11日には、横浜銀蝿トリビュートアルバムの発売記念イベント*5への出演も決まっています。

ツッパリHigh School Rock’n Roll(登校編)/仏恥義理 斗璃美勇徒 All Sta

増子:うん。THE MODSとかもそうだけど、ここへきて、自分が子どもの頃から好きだったもの、好きだった人たちと、いろんなコラボができたり、繋がりができたりしているってこと自体が、本当に嬉しい。どれもこれも、めったにないチャンスだし、悔いのないよう思いっきりやれたらなと思ってます。

──では、最後に3月22日,23日の福岡・熊本公演へ向けて。増子さんからメッセージがあれば、お願いします!

増子:それこそ、新体制になって、みんな「どんな顔して見に行けばいいの?」なんて思ってる人もいるかも知んない。もちろん、俺らとしては、そこで“かわいそう”とは思われたくないし、そんな目でも見られたくはない。でも…もしよ?もし、ちょっとでも、かわいそうだな、大変そうだなと思うんだったら、そんな俺らを「手伝いに来てよ!」と、俺は言いたい(笑)。それこそ、残弾3発になった今、サウンド的にはサポートの人が残りの穴を埋めてくれてる。でも、“心の穴”はさ…来てくれるお客さんたちで埋めてくれないと、俺らがすごく困るんだよ。…いや、本当だよ(笑)?!

欠けたパーツの唄

増子:だって、この先、この形で、演れて、あと何年?って。本気で考えたりもするわけ。おじいちゃんになったら、アコースティック?いやいやもう…そこまでいくと想像もつかないんだけど…ってさ(笑)。でも、だからこそ、これからどうなるのか、どうしていくのかは、“みんなで一緒に考えたい”と思ってる。だから…

「な?俺らと一緒に、なんか演ろうぜ!」

そう今は、みんなに言いたい。ライヴ会場で待ってるから!

はじまりのブーツ

*1 「怒髪天より大切なお知らせ」 http://dohatsuten.jp/20240209.html

*2 映画『GOLDFISH』 (2023年/監督:藤沼伸一、出演:永瀬正敏、北村有起哉、渋川清彦、増子直純ほか)昨年公開され話題を呼んだ、亜無亜危異(アナーキー)のギタリスト・藤沼伸一による自伝的初監督作品。なお、亜無亜危異は2024年3月24日、新宿LOFTでの“活動禁止GIG”をもって、無期限の活動禁止に入ることを発表している。 https://goldfish-movie.jp

*3 “THE MODSを止めるな!〜Roulette Ball〜” 2024年3月30日(土)@代官山UNiT(チケットはSOLD OUT)THE MODS・森山達也(Vo,Gt)の68歳の誕生日に合わせて開催される、THE MODSを愛する仲間たちによる一大イベント。増子単独での出演を予定。 https://themods.jp/2023/12/09/themods_wo_tomeruna/

*4 “箭内道彦60年記念企画『風とロック さいしょでさいごのスーパーアリーナ“FURUSATO”』” 2024年3月30日(土),31日(日)@さいたまスーパーアリーナ。 https://kazetorocksuperarena.com

*5 横浜銀蝿トリビュートアルバム『仏恥義理 斗璃美勇徒 Ginbae Family Tribute Album』 (2024年5月8日発売)を記念したイベント『横浜銀蝿 斗璃美勇徒 笛洲帝罵琉 全員集合!Ginbae Tribute Festival!』2024年5月10日(金),11日(土)@KT Zepp Yokohama。トリビュート盤には『羯徒毘璐薫’狼琉』で参加している。 https://ginbae.jp/information/4313/

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LIVE INFORMATION

ザ・リローデッド TOUR 2024

2024年3月22日(金)
福岡 LIVE HOUSE CB
2024年3月23日(土)
熊本 NAVARO

PROFILE

怒髪天

人間味あふれるキャラクターと魂を揺さぶる圧倒的なライヴ・パフォーマンスで、幅広い層のファンを魅了し続けている“JAPANESE R&E(リズム&演歌)”の雄。1984年札幌にて結成。1988年より、長らく不動のメンバーにて活動を続けるも、結成40年目を迎えた今年2月、清水泰次(Ba)の解雇とともに、増子直純(Vo)、上原子友康(Gt)、坂詰克彦(Dr)の3人体制へとシフトしたばかり。ちなみに近年、役者としても、ひっぱりだこの増子。昨年8月からはディズニープラスで先行配信中のドラマ「季節のない街」(脚本・宮藤官九郎 https://www.tv-tokyo.co.jp/kisetsu/)にも出演しているが、この度、その地上波放送が決定!テレビ東京/テレビ大阪/テレビ愛知/テレビせとうち/テレビ北海道/TVQ九州放送にて、2024年4月5日(金)24:42~からOAスタートとのことなので、忘れないようチェックしてほしい。