“生き急ぎ”と“ジタバタ”の武道館
黒でも赤でも、大爆笑する!

a flood of circle

取材/文:なかしまさおり

“生き急ぎ”と“ジタバタ”の武道館<br>黒でも赤でも、大爆笑する!

11月9日東京・新宿歌舞伎町にて開催されたフリーライヴ。a flood of circleにとってはホームタウンとも言える、この街の中心地で、ついに“その日”は告げられた。<5月6日 武道館 目を開けて夢を見ている>──おそらく、この日のために作られたであろう新曲『夜空に架かる虹』。そのラストフレーズが、そのまま“約束の日”の発表につながるというサプライズに、会場のファンはもちろん、SNSのポストも大いに沸いた*1。それこそ<赤でも恥でもやんぞ>と吠えた『ゴールド・ディガーズ』から、早2年。<やりたいことやる人生>を貫いた先に見えるのは、どんな景色なのだろう?まずは、その道行きに掲げた全9曲入りの最新アルバム『夜空に架かる虹』の話から佐々木亮介(Vo,Gt)に訊いてみたいと思う。

──6月にリリースされた『KILLER KILLER』の衝撃もすごかったんですが、実は、あれで終わりじゃなかったんだなということが、今回のアルバムを聴いてよくわかりました。

佐々木:もともと歌詞のイメージとしては『SNAKE EYES BLUES』が『KILLER KILLER』になる予定で。音も一度、バンドで録ってはいたんです。でも、それが普通すぎてつまんなかった(苦笑)。それで、(メンバーには)ちょっと悪いけど、いったん(録った曲を)メチャクチャにしてもいいかな?って断って。そこから曲をバンバン切りまくったり、延々とループさせたりして、完成したのが『KILLER KILLER』。

『KILLER KILLER』

佐々木:それこそ人間の脳って、使ってるのは全体の約1割だけで、残りの9割はまだ全然使えてないって、よく言うじゃないですか?そのことを初めて実感したのも『KILLER KILLER』で。こっちにはまだ、こんなに使ってない領域が残ってたんだなぁって。こんなふうに(一度録ったものを)“壊す”、(そして再び曲として)“作り直す”っていう手法そのものの可能性。それがまだ無限にあるぞと思えたことは大きかったかな。もちろん、原型となった『SNAKE EYES BLUES』にも、オートチューンのヴォーカルを乗せたことで、結果的におもしろくなったと思うし、(1枚のアルバムの中で)同じリフが2回聴こえるっていうのも、ユニークでいいんじゃないのかなって。

『SNAKE EYES BLUES』

──他のメンバーは、よく了承してくれましたね。

佐々木:いや、ホントそうだなと思います(笑)。だって、みんなに演奏してもらったものを要は俺が“素材”として扱うわけだから、普通だったら気分悪いよなって。ただ、メンバーも、うっすら思ってはいると思うんですよ。──“ロック、つまんないでしょ?”って。とくに俺なんかは、ライヴのやり方、普段の言動、どこにいっても微妙に敵を増やすようなことばっかり、言ったり思ったりしてるわけだけど(苦笑)。きっとメンバーもどっかで、同じようなこと思ってるんじゃないのかなって。例えば、演る側の甘さだったり、(リスナーから)嫌われたくないよね?と思う自分だったり。でも本当は、尖った音楽を聴いてるリスナーとしての自分もいたりするわけで。そういうギャップに、もうちょっと踏み込んでいけたらいいのに、なかなか踏み込めずにいるっていう“つまんなさ”。そういうのをみんな、心のどっかで感じてるからこそ、今回(こういうアルバムを作ることを)許してくれたんだろうなと思ってます。

──それにしても、これだけのことを施しながらも、アルバムとして聴いたときには、ちゃんと“a flood of circleの音/a flood of circleの曲”になっているのがスゴいところで。そのギリギリのラインを攻める感じが、バンドのアイデンティティにもなっているんだろうなと感じます。

佐々木:そう!そうなんですよ!本当にその通りだと思います。だから、それはメチャクチャ嬉しい感想でもある一方で、そんなふうに“破壊するぞ!”と思ってやっても、意外と予想通りの箱に収まっちゃうもんだなっていう。そこが最大のジレンマなんですよね。もしかしたら、それって自分が天秤座だからなのかなぁ?とも思ったりして…最近じゃ、自分のことを(自戒の念も込めて)“天秤くん”って呼んだりしています(苦笑)。

『夜空に架かる虹』trailer

佐々木:ただ、言ってみれば、それって“テセウスの船”*2みたいなことだと思うんですよ。a flood of circleが船だとして、その(音の)パーツをどれだけ変えても、まだ“バンド”とか、自分が思う“ロック的なもの”でいられるのか?っていう究極の問い。そういう意味では“どこにもない自分たちだけの価値観”になるようなチャレンジがしたかったし、もし、これが成功したら──正直、今はまだ、どっちに着地したのかわかんないけど──たぶん、“世界のどこにもない音楽”にもなれるかもなって。そんな期待も込めて作りました。

──11月のフリーライヴでは、ひと足早くリード曲の『夜空に架かる虹』が披露されましたが、その歌詞の中で武道館の公演日が告知されるというサプライズは、大いにファンを沸かせました。

佐々木:自分たちとしては、もうちょい先(の日程)をイメージして動いていたので、“5月6日なら取れる。あと1時間で決めてくれ!”と言われたときは、正直、どうしよう?!と思いました。ただ、考えてみたら、俺らの武道館って、ヒットソングをお披露目します!ってものでもなければ、怒髪天みたいに30年を超えて尊敬されてるバンドでもない。はっきり言って“生き急ぎ”と“ジタバタ”の武道館だと思ってるんで、そうやって降ってきた話に乗ってみるのもa flood of circleっぽくて、おもしろいかもなと思って、決めました。

『夜空に架かる虹』

佐々木:でも同時に、いよいよ“戻れない展開”に入ったなっていうのも感じてます。最近よく例えるんですけど、“坂の上の乳母車を押したような気持ち”。だって、赤字は正直、“確定”してると思ってるんで(笑)。要は、それがいくらの赤字なのか?ってとこだけなんです。だから、開き直って、万が一、黒字になったら大爆笑。で、赤字でコケても、“あいつら、すげぇ借金だぜ!”って笑えるから、どっちも爆笑決定っていう。『ASHMAN』なんかは、まさにそれで。歌詞としては“もう終わってる人”の歌なんだけど、気持ち的には明るいっていう不思議な感じになってます。

『ASHMAN』

佐々木:ちなみに今回借りてたスタジオが、ちょっと子供部屋っぽい雰囲気で。未来のことを書くっていうより、自分のルーツってなんだろう?とか、(子供時代も含めた)“過去を振り返るモード”に自然となっていったような気がします。例えば昔、ベルギーに住んでたことがあるんですけど、ベルギーっぽい音楽ってまだ(曲作りのエッセンスとしては)入れたことがなかったなと思って。ジャンゴ・ラインハルト*3っていうベルギーのジプシージャズのアーティストのエッセンスを『ASHMAN』にはガッツリ詰め込みました。

ジャンゴ・ラインハルト『Minor Swing』

佐々木:だから(歌詞の)目線としても、自分よりも年下、あるいは過去に向けて書いたものが多くて。とくに『KILLER KILLER』や『マイ・モーターサイクル・ダイアリーズ』は後輩バンドマンとの交流を通して、出てきた部分も大きいし、40(歳)近くなった今だからこそ歌えることもあるのかなって。それこそ、若い頃は“未来が未定”と思って頑張って生きてきたんだけど、ここへきて、“過去だって未定じゃん?”ってことに気がついた。要は(人生がオセロ盤だとして、5月6日に)“武道館”って置いた時に、これまでのオセロが全部ひっくり返せるかも?と。そう考えると、“これまでやってきたことの意味”って、実は“価値がまだ確定してないだけ”で、これからいくらでも変えられるんだなって思えたんです。

──そうした“振り返りモード”の一つでしょうか。CDのブックレットに弥吉淳二さん*4のお名前がクレジットされているのを見つけて、胸が熱くなりました。

佐々木:まさしく、そこも振り返りモードの一つで。実は今回、弥吉さんのギターを借りてきて使ってる箇所があるんです。それこそ『ふつうの軽音部』*5の影響もあって、去年から、『理由なき反抗(The Rebel Age)』がたくさんの人に聴かれるようになったんですよね。曲としては2012年の曲なんだけど、当時、弥吉さんがプロデュースしてくれた曲でもあって。だから、そこに対する“ありがとう”の気持ちとか、あとはやっぱり、20周年の武道館を弥吉さんにも見てほしかったなっていう、ちょっとエモい気持ちも出てきちゃったんで。そこに向かうためのアルバム作りで、弥吉さんのテレキャスターを借りてきたら、弥吉さんと会話してる感じで作れるのかなと思ってお願いしました。

『理由なき反抗(The Rebel Age)』

──そんな、さまざまな想いが乗った最新アルバムを携えて、年明けからは、いよいよ“20周年記念ツアー 日本武道館への道”がスタートします。福岡は4月17日福岡ビートステーションにて、SIX LOUNGEと相まみえますが、そもそもの話、今回のアルバムを実際のライヴで演奏するためには、もう一回、バンドとして演奏し直す必要があるわけですよね?

佐々木:そうなんですよ(笑)。だから、めちゃくちゃ手間は、かかります。ただ、この対バンツアーが4月下旬まで続くことを考えると、“このアルバムのためのワンマンツアー”というのは多分、やれない。となると、対バンツアーの(セットリストの)中にアルバムの曲を散りばめていく感じになると思うので、今、どの曲をどんなふうにやるのか、絶賛、迷い中です。ただ、今、俺らの乳母車がある坂は結構、急な坂でもあるし、この坂を下った勢いのまま次の坂を登れば、登りやすいのかなと。まぁ、それが武道館なのか、その先の借金地獄なのか(笑)、それはまだ分からないけど、その後のことは、またその時考えればいいのかなと。なので、4月17日の福岡ビートステーション、それから5月6日の日本武道館。とくに日本武道館は早めの時間にやるんで是非、いろんな人を連れてお越しください。待ってます!

それはみごとな月夜だけ、暗闇にかかる微かな希望。
翼をくれたら飛べるのに。そこに色をつけるのに。
あきらめきれない世界のために、
歌い続ける歌はロックンロール?…かもしれない。
お気に召すまま、気の向くままに。
ともかく行こう、行けば、わかるさ、九段下。
2026年5月6日16時、東京・日本武道館。
a flood of circleと、大爆笑で会いましょう!

*1a flood of circleと関係の深い作家・住野よる氏。フリーライヴの直後に“ファンアート”として『11月9日の話(告白撃スピンオフ短編)』という短編小説を自身のnoteにアップ(https://note.com/yoruyoruyoru)。SNSを中心に話題となった。ちなみにその元ネタとなる小説『告白撃』(2024年/角川書店)には、冒頭からa flood of circleの『Honey Moon Song』が引用されている。
https://kadobun.jp/news/press-release/entry-90537.html

*2ローマ帝国時代にプルタルコス(哲学者/著述家)によって初めて書き残されたとされる哲学的問いの一つ。ある物体を構成するパーツをひとつ残らず新しいモノへと交換した場合、それは“前と同じ物体”と言えるのか?というパラドックス。同様のことはヒトにも言える。脳以外の細胞は10年ですべて入れ替わることがわかっているが、だとしたら10年前の自分と、今の自分は別人と言えるのか?永遠に“答えが出ない命題”は、佐々木亮介のロック考にもつながっている!?

*31910年生まれ。ベルギーのギター奏者。ロマ音楽とスウィング・ジャズを融合させたジプシー・スウィング創始者。事故で指を負傷するも、人差し指と中指だけの独得な運指で“ヨーロッパ初の偉大なジャズ・ミュージシャン”とも評された。

*41968年生まれ。福岡県出身のギタリスト。1988年にstereo criminalsを解散後、プロデュース業/サポートギタリストとして活躍。吉川晃司、aiko、椎名林檎、清木場俊介などの数多くのアーティストの仕事を彩った。2018年1月26日闘病の末、逝去。

*5クワハリ原作・出内テツオ作画による人気漫画作品。タイトルどおり“普通の軽音部”を舞台に、個性あふれる登場人物たちが“軽音あるある”な日常を繰り広げ<バンド×青春>を謳歌する。作中には実在(または過去に実在した)ロックバンドの曲も多数登場しており、毎回大きな話題を呼んでいる。

SHARE

LIVE INFORMATION

a flood of circle 20周年記念ツアー"日本武道館への道"

2026年4月17日(金)
福岡 BEAT STATION
w/ SIX LOUNGE

a flood of circle 20周年記念公演 LIVE AT 日本武道館

2026年5月6日(水・休)
東京 日本武道館

PROFILE

a flood of circle

佐々木亮介(Vo,Gt)、渡邊一丘(Dr)、HISAYO(Ba)、アオキテツ(Gt)。2006年の結成以降、さまざまな試練にブチ当たりながらも、自らの進む未来を不屈の精神で常に更新し続けているロックンロール・バンド。なお、以前よりスピッツ愛を公言している佐々木。今年11月10日には、そのスピッツのベーシスト・田村明浩に指名される形でステージ共演。スピッツの『俺の赤い星』『裸のままで』を熱演し話題となった。また、11月29・30日には、総合エネルギー商社「三愛オブリ」の企業CMにメンバー揃って出演。渡邊作詞・作曲による新曲(!?)『エンジン』もガッツリ流れるなど、こちらも大きな話題を呼んだ。ちなみに彼らの公式YouTube(https://www.youtube.com/@afoc_official)には、これまでのライヴ映像のほか、個性あふれるMVや撮って出しの臨場感あふれるLIVEショート動画、アルバム制作の裏側を垣間見せるドキュメンタリー映像など、多数の動画がストックされている。興味を持った方は是非、一度、覗いてみてほしい。なおBEA VOICE WEBの過去インタビューはページ下の「RELATED ARTICLE」から。そちらも、よければ是非!